ホームタウンの
主張と構築
ローレン・ホールジーが語る、サウス セントラルLAの黒人美学とコミュニティ
- インタビュー: Essence Harden
- 写真: Heather Sten

LAアーティストのローレン・ホールジー(Lauren Halsey)は、着実に仕事を進めている。彼女の「仕事」とは、帝国、反黒人主義戦略、世界規模での不公平、破壊として現れた植民地主義の広範で根深い作用を理解することだ。同時に、喜び、自由、サステナビリティを基盤とした世界を明示することでもある。その仕事にはゴールがなく、活動は無限に継続する。そして、ホールジーと目標への取り組みは、「今ここ」こそが輝かしい創意工夫の源であることを私たちに気づかせる。たとえ恐怖と混沌に満ちた「今ここ」であっても。多様な媒体を駆使するファンキーなマルチメディア アーティストのホールジーは、すでに10年以上、建築的な作品、象形文字のようなエッチング、アーカイブされたオブジェ、コラージュを制作して、黒人が自分たちの場所と呼べる空間の展望を主張し続けてきた。ファウンド オブジェや手作りの品を使う創作は、サイト スペシフィックなインスタレーション、多様なオブジェ、コミュニティの企画として結実し、人々に迫っている緊迫した状況に観客の目を開かせる。何代か前からホールジーの家族が暮らし、現在ホールジーの生活の場でもあるロサンゼルスのサウス セントラルは、そんな世界の構築を目指す基盤であり、未来を描く場所として、黒人自身が作り出した視覚イメージ、ゆったりとしたリズム、ファンクの視点を提示する。

Lauren Halsey 着用アイテム:シャツ(Comme des Garçons Homme Plus)、トラウザーズ(Dries Van Noten) 冒頭の画像 着用アイテム:シャツ(Comme des Garçons Homme Plus)、トラウザーズ(Dries Van Noten)
ホールジーの輝かしい履歴には、世界各地での展示、受賞、評価が連なっている。作品が展示されたのは、ロサンゼルス現代美術館、ルイ・ヴィトン財団美術館、ジャック シェインマン ギャラリー、ロサンゼルスのジェフリー・ダイチ、ハマー美術館、デヴィッド・コーダンスキー ギャラリー。アンダーグラウンド ミュージアムとサーペンタイン ギャラリーでは、近日、プロジェクトの発表が予定されている。有名なハーレム・スタジオ美術館でアーティスト イン レジデンスを修了し、2018年の「Made in LA」に出展した才気溢れる「The Crenshaw District Hieroglyph Project」はモーン賞を受賞した。ホールジーは、友人や家族、パートナーのモニク・マクウィリアムズ(Monique McWilliams)と一緒に、コミュニティの、そしてコミュニティのための作品を作る。SNSのハンドルネームを名前にしたSummaeverythang コミュニティ センターは、家族を作り、家庭を守ろうとする気持ちの結晶だ。最初は黒人の若者たちの活動の場にするつもりだったが、その後食生活へ方向転換し、現在は、地元の農業を支援し、有機生産物を無料で配給する場所になった。
ホールジーは私たちのお手本だ。横滑りするガラガラヘビみたいに、上手に逃げる。当たり前に思っていることを大きく膨らませた場所から、最高に大胆な展望が生まれることを教えてくれる。私たちみんなが近未来に思いを馳せるなか、ホールジーとの対話を通じて、今という時が常に役立つことを思い起こしてほしい。
エッセンス・ハーデン(Essence Harden)
ローレン・ホールジー(Lauren Halsey)
エッセンス・ハーデン:あなたのSNSのハンドルネームを付けたコミュニティ センター Summaeverythangは、食料を配給する場所になったのね。建築的構造を模索するアート活動と食料や食生活の関係を、どう考えてる?
ローレン・ホールジー:作品を制作して、彫刻の構造的なコンセプトを表現するだけでは、アートと食生活の両面でコミュニティに奉仕できない。それは、ずっとわかってたんだ。どうにかして、私のアートを、現実へ連れ戻す必要があるのよ。そうしたいとずっと思ってたし、だんだん目標に近付きつつある気がしてる。黒人や中南米系のみんなの力で動き出して、いろんな役目を果たす仕組みとか彫刻とか機会とか、そういうものを作るのは超楽しい。
要は、私が空想するサウス セントラルを現実に変えられるファンキーな枠組みを見つけて、そういう空間に可能な新しい働きを考え出すことなんだ。彫刻でやりたいことも同じ。色んな条件の中で「生きてる」ものになって欲しいのよ。ただ見て、通り過ぎて、批評されて、撤去されるだけじゃなくて。

左:ローレン・ホールジー『The Black History Wall Of Respect』(2020年)木材にビニール、アクリル、鏡 304.8x246.4x124.5cm。中央:ローレン・ホールジー『they got lil bit』(2013年)ミクストメディア 121.9x243.8cm。右:ローレン・ホールジー『WAZ UP』(2020年)アクリル、ビニール、アルミニウム被覆スチール管、LED、電源 365.8x122.6x76.8cm 2AP-3 Edition

ローレン・ホールジー『we still here, there』2018年3月4日から9月3日までロサンゼルス現代美術館で展示 写真:Zak Kelley
Summaeverythangに関するダグラス・カーニー(Douglas Kearney)のインタビューで、トニ・モリスン(Toni Morrison)の言葉を引用してたね。「黒人がメディアや政府に依存することは絶望的であり、愚かしい行為であり、未熟であり、侮辱である…私たちは許可が与えられるのを待つ必要はなかった」。モリスンは最高にファンキーだったし、あなたの創作の強力な基盤になってるみたい。モリスンの言葉は、どういう点で、創作を支える理念になってるの?
とにかく私の頭の中にはいつも彼女の声があるのよ。モリスンはすごくたくさんの講演やエッセイで「頭の中から白人の視点を追い払ってしまえば、世界が大きく広がる」ってことを繰り返し言ってるし、私はすごく早い時期から、何をやる場合も、そうするのが習慣になってるんだ。あれやこれやのお荷物は、私のリズムにも私の表現にも影響させない。そこでファンクの出番よ。ファンクは、誰でもない、自分で自分に与えるご褒美だからね。グダグダ言わずに、やってしまえってこと。
ファンクには自由や可能性がある。本来の自分を表現できて、自分の中に眠ってるファンクの可能性を見つけることができる。自分のリズムになる。それプラス、トニ・モリスンの言葉、ローリン・ヒル(Lauryn Hill)、私が尊敬するアート界の先輩たち。自分が思うように、とにかく実行に移した先輩たち。そういうのが私の基盤。
ファンクをひとつの黒人存在論と考えた場合、混沌の1年だった今年は、その基盤が具体的にどんな意味を持った?
シャットダウンになったとき、「ああ、大変なことになる」ってわかった。特にイースト サイドは、コロナが来る前の時点でもう食料が危機的な状況だったからね。それでなくても生活が貧しくて、問題が山積して、それでも官僚的な行政は何もしなかった。
そこで、食料の流通チェーンを省いたらどうだろうと考えたわけ。州内でいちばんの産直市場へ行って、地元で農業をやってる人たちにコネをつけて、最高にビューティフルでゴージャスで栄養豊富な農産物を、近所の人たちに無料で提供したらどうだろう、ってね。
最初の2週間はかなりメチャクチャ。やり方が全然わかってなかったから、大混乱よ。そのとき頭の中で意識して「トニ・モリスンはやり続けろと言った」と考えてたかどうかはわからないけど、もう骨身に沁みついてるからね。その通りだと思うし、トニ・モリスンを信じてるし、成果も見てきたから、仲間と一緒にずっとやり続けてきた。そろそろ規模を大きくするつもりだけど、みんなが消耗しないように、あくまで段階的にやってくつもり。すごくいい感じになってきてるよ。
あなたに会ってみたら、同時に、あなたの仲間、家族、パートナーにも出会うことになったわ。あなたの作品は友情や身内との関係がとても大きなテーマになってるし、それも25年来の友人とか人生のパートナーなのよね。ファミリーの中へ飛び込んでいく。そういう人との関係が、どういうふうに、作品を作ったりコミュニティ センターを運営するうえでの財産になってきたの?
もし私が画家か写真家だったら、話は違うだろうね。だけど私は意図して大きなスケールのインスタレーションを作るから、人手が要るのよ。大分前にキング(Martin Luther King)牧師記念日のパレードに参加するフロートを作ったんだけど、友達が手伝ってくれると色んなことがものすごくスムーズに運ぶって、そのときからわかった。ラッパーとかハスラーとか、それまでそんなことには興味がなかった友達ばっかりだったし、ひとりなんかトラックの運転手だったけど、私に人手が必要なのを見て、友情から「手伝ってやろうか?」と申し出てくれたんだ。
それがいちばん良いやり方だったし、いちばんハートを感じられる方法だったね。友達や家族が参加すると、サウス セントラルの目線、サウス セントラルの歴史、それぞれが生きてきた時代が持ち込まれる。好きな色使いなんかもね。私の好みと違うこともあるし同じこともあるけど、そういう全部のエネルギーをひとつにまとめると、素晴らしい作品に仕上がる。
ある場所を、結論付けないで、ありのままを包括的に描写したり表現するには、そういうやり方がものすごく大切だと思う。30年代と40年代にセントラル アベニューに住んでた私のおばあちゃんや、8歳のいとことや、サウス セントラルで暮らしている黒人の友達の手が加わると、作品は私たちみんなのものになる。それが私には大切なのよ。アートのノウハウを持っていてもいなくても、みんなが参加する創造的なスタジオでは連帯感が生まれる。
あなたが構築したり実行することって、ずっと前から私たちの日常に溢れてるものが、もっと濃く集まってるみたいな気がする。
私はここで生まれて、ここで作品を作るから、そうしやすいんだと思うよ。スタジオもコミュニティ センターも、育った場所から通りを3本渡ったところにあるし、両親もまだ同じ場所に住んでる。自分のホームグラウンドで仕事をするのは、すごくやりやすくて安心なんだ。あ、仕事自体は簡単じゃないよ。仕事はすごく大変だし、骨が折れる。けど、楽しい。
黒人の系譜、黒人にとっての場所という意味で、カリフォルニアはどんな意味を持ってる?
母方も父方も、黒人が南部の人種差別から逃げて北へ大移動したときにカリフォルニアへ来たの。だから、言い伝えも歴史も、イメージや考え方、プライド、文学、過去の出来事なんかも、引き継ぐ伝統と言えるものが殆どなくて、腰を落ち着けたダウンタウン サウス セントラルへ貢献することだけがすべて。
おばあちゃんはね、私がカリフォルニア芸大へ通うとき、ガレージに下宿させてくれたんだ。あそこが、いわば私の出発点よ。ロサンゼルス現代美術館の展示も、おばあちゃんちの裏庭で作ったんだから。1.5km位しか離れてないところにワッツ タワーズ アート センターの塔が聳えてて、記念碑的な価値とか無限の可能性とかを考えながら、どんどん作品を高く大きくしていくのはトリップみたいだった。そういうのを応援してくれたのがおばあちゃん。とにかく、あの頃はいつも頭がトリップ状態で、リズムがあった。

左:ローレン・ホールジー『My Hope』(2020年)フォームと木材にアクリル、エナメル、CD 294.6x256.5x91.4cm

右:ローレン・ホールジー『latasha』(2020年)ホイル被覆フォームと木材にミクストメディア 121.9x121.9x121.9cm

ローレン・ホールジー展 David Kordansky Gallery(ロサンゼルス) 2020年1月25日から3月14日まで開催 インスタレーションの光景 写真:Jeff McLane
デヴィッド コーダンスキー ギャラリーでインスタレーションをやることにしたのは、どうして?
労働者階級の生まれだもん。家族との生活はすごく幸せだったけど、両親やおばあちゃんや叔父さん叔母さんに、「材料を買いに行くから、20ドルくれる?」ってお金の無心を続けるわけにはいかないよ。そう思ってからは、あっという間に進展した感じ。自分がやりたい規模の作品を作るには、それを仕事にする何らかの骨組みが必要だってわかったんだよね。ただ作品を作って、ベッドの下に突っ込んどくんじゃなくてさ。自立できて、自分に正直で、ちゃんと安眠できるやり方で、創作をお金に変えなきゃいけない。それを資金にして、コミュニティ センターを作って、友達と一緒に運営管理する。それ以外に、どうしようもなかった。
コーダンスキー ギャラリーの展示は、父方のおばあちゃんに捧げたオマージュ。私が何かをしたり、どこかへ行くときのバス代に、なけなしの12ドルをはたいてくれたひとりだったのに、私がカリフォルニア芸大に入学したときに亡くなってね。一度も展示を見るチャンスがなかったから、おばあちゃんが大好きだったロサンゼルスでの暮らしに捧げたんだ。
ジューン・ジョーダン(June Jordan)が構想した「Skyrise for Harlem」を思い出すな。黒人建築家が構想する、景観の美化による可能性への展望。アート、そして、食生活と色々なリソースの保証が不可欠だという考え方。あなたのアートとあなたが黒人のための空間を作り出す方法を考えると、活動が食料の供給へ広がったのは、それが育成と配慮と安らぎを大きな規模で提供する直接的な行動だったからだね。思いつきじゃなくて、あなた自身とコミュニティを守りたいという気持ちから生まれたもの。
いつか土地信託みたいな方法を始めて、すごくきれいで長閑なコミュニティを作るのが夢よ。斬新な設計のシェルターを建築して、そこで暮らせる。すばらしい彫刻を作って、彫刻庭園にする。豪華な岩屋を作って、その中にアーカイブを保存する。もちろん、花壇や菜園も、レクレーションの場所や、自分たちの教育の場所もあって、体にも心にも栄養を与える場所。
Essence Hardenは独立系キュレーター。カリフォルニア大学バークレー校で博士号を取得予定。ロサンゼルス在住
- インタビュー: Essence Harden
- 写真: Heather Sten
- 画像提供: David Kordansky Gallery、the Museum of Contemporary Art, Los Angeles
- 翻訳: Yoriko Inoue
- Date: January 22, 2021