ベイビーマザーは肝っ玉ラッパー
チャタヌーガ出身のアーティストが、自分のスタイルを作るヒント、自己受容、ブサ可愛い男を語る
- 文: Ruth Gebreyesus
- 写真: Rebecca Storm

ベイビーマザー(bbymutha)に電話した土曜日の午後、29歳のラッパーはベッドの中。「キャンディー齧りながら、リラックスしてんの」とクスクス笑う。2日前、ナッシュビルで開かれたレッド ブル主催のコンサート「ザ マザー ランド」で、クリエイティブ ディレクターとトリを務めた疲れを癒しているところだ。過去4年、テネシー州チャタヌーガ出身のベイビーマザーは、途切れることなくシングル、ミックステープ、EPをリリースし続け、年を経るごとにその数も質も上昇している。昨年は、Twitterを上手に操って、ミニマルなベースのリズムに乗って男の扱いを手ほどきする「Rules」のビデオを、バイラルに仕立てた。
ベイビーマザーは、オリジナリティを重視する南部ラップの系図に続く。東海岸や西海岸のトレンドに迎合することを拒み、地元の流儀で自己を表現する。2組の双子、合計4人の子供たちの母は、未婚の母への軽蔑を匂わせる「ベイビー マザー」をあえてステージ ネームに選び、性的な欲望、過去の体験、将来の野望を包み隠さずリアルにラップする。シャープな歌詞をビートに乗せてのほほんと唄うのは、インターネットでも実験的でエレクトロニックな領域、ジャンルより中身で選別される領域に特有のスタイルだ。そうして、チャタヌーガのスローなテンポで語る、完全に彼女だけのサウンドが生まれる。制作にはLSDXOXOやMy Friend Meeshaといったミュージシャンが加わり、先鋭的で斜に構えた仕上がりだ。EP『Free Brittnee』の中で傑出している「Translucent」では、「Sorry I ain’t perfect/I ain’t workin on it either(完璧じゃなくて悪かったね/完璧になるつもりもないし)」の歌詞がある。自信に満ちた口調は、カリスマを感じさせる彼女の歌詞の中で、ひと際耳に残るマントラのひとつだろう。今月は、初のスタジオ アルバム『Christine』のリリースが予定されている。ミドルネームをタイトルにしたこのアルバムは、悪魔に恋した女がテーマのコンセプト アルバムだ。実は、最近知った先祖の話が土台になっている。「家系に連続殺人者がいたのがわかってさ」と、ベイビーマザーは言う。「付き合ってる男が虐待したり裏切ったりすると、殺してたんだ」。ベイビーマザーは、不運を神話に変え、思いがけないところからインスピレーションを汲み出して、独自の音楽とスタイルを作り出すことができるのだ。1時間におよぶインタビューで、気になる男のタイプ、自分のスタイルを作るヒント、アレサ・フランクリン(Aretha Franklin)からテレタビーズまで、ベイビーマザーの話を聞いた。

bbymutha 着用アイテム:ドレス(Molly Goddard)、スニーカー(Nike)、ピアス(Y/Project) 冒頭の画像のアイテム:タートルネック(Charlotte Knowles)、オーバーオール(Chen Peng)、ヘアクリップ(Ashley Williams)
ルース・ゲブレイサス(Ruth Gebreyesus)
ベイビーマザー(bbymutha)
ルース・ゲブレイサス:まず、生い立ちから。
ベイビーマザー:全然違うふたつの環境で育ったんだ。ウィークデーのほとんどはママの家で、1週おきの週末と夏休みはパパのところ。片方はキリスト教、もう一方はイスラム教でね、ママの家にいるときは毎週水曜と日曜に教会へ行って、朝起きたら聖書の詩編と箴言を読んでから登校って生活。パパの方は、厳しかったけど、ママほど宗教に凝ってなくて、コンピュータも使わせてくれたし、好きな音楽を聴けた。テレビアニメもOKだった。
小さい頃からオンラインに親しんでいたの?
最初にパパがコンピュータを買ってくれたのは、アタシが8歳のときだから、MySpaceができる前から、Yahooの子供用のYahooligansへ行ってたよ。それからずっと、ソーシャル メディア ベイビーなんだ。MySpaceもずっと使ってた。簡単なコーディングで、ページを可愛く変えたり、歌を入れたり。その後Facebookができてからよ、ソーシャル メディアの体験が本当に台無しになったのは。インターネットで楽しむっていうより、他の人との競争になった。アタシも、ちょっとの間、Facebookで有名だったことがあるんだ。ビデオブログを作ったりしてたから、まだYouTubeに残ってるのがあるかも。ハイスクールを出て、おとなになる時期だったから、多分、無茶苦茶ですごく問題があるんじゃない。18、19、20の頃は、子持ちで、自分は何でも知ってると思ってた。自分のスタイルができたのも、そのおかげだけど。
どういう意味で?
どういうわけか、アタシという人間にはずっと、ソーシャル メディアが大きく関わってきてるんだよね。学校が合わなかったからかもしれない。ソーシャル メディアだと、アタシという人間を違う視点から見てもらえたり、逆に自分で自分の見せ方を決められるじゃない? 一文無しだって、そうは見えないかもしれない。見てる人は、ただクリエイティブなだけだって思うかもしれない。
ハイスクール時代、あなたのスタイルは目立ってた?
皆より目立つ、っていうのとは違ったね。ほかのみんなが持ってるものでも、アタシは買えなかったから、クリエイティブになるしかなかったわけよ。あの当時はConverseのチャックテイラーが20~30ドルで、アタシはいつもそれ。いろんなカラーがあるから、毎回違うカラーを買ってた。ヘアも、自分でいろいろスタイルを試したな。Melissaって、靴のブランド覚えてる? あそこは、靴紐が2種類ついてくるんだよね。赤い靴を買うと、赤のほかに白の靴紐が入ってるから、そっちはポニーテールに使ったりとか。バタフライ クリップを買うお金がないもんだから、代わりに靴紐。そういう知恵はすごく働くんだ、アタシ。みんなには変わり者だと思われてたけど。
あなたのスタイルは、テレビの子供番組の影響もある? きっとたくさん、子供番組を見ると思うけど。
うん、見る見る。でも『テレタビーズ』は、子供が生まれる前からずっと好きなんだ。本当に、大々好き。特に、緑色のディプシー。ディプシーは黒人にするべきだったね。黒人じゃないなんて、ありえない。ウシの模様の帽子といい、すごくクールなんだもん。もう最高。次に最高なのはポーだな。その次が、赤いバッグを持ってるウィンキー。赤が紫とよく似合うんだ。ディプシーの緑とウシ柄の帽子もぴったし。アタシが色を選ぶときはいつも反対色なのよ、変だけど。青と緑には黄色を混ぜるとか。
そのほかに、スタイルのヒントになるのは?
ダークなものが好き。昔、Hot Topicって、人気の小売りチェーンがすごく人気だったじゃない?あそこ、すごくセクシーなゴシックのビスチェがあったんだよね。キュートなビスチェをよく買ったもんよ。ちょっとアタシ好みのゴスだけど、セクシーでなきゃダメなんだ。チャタヌーガでそういうのを着てクラブへ行くと、「それ一体何?」ってみんなに尋かれる。ママがものすごく宗教的だったから、アタシは反抗路線。お構いなく、アタシは悪魔だから、って感じ。ママに意地悪するわけじゃないよ。ただキリスト教をおちょくってるだけ。反対に、カラーやレインボーも大好き。ジミ・ヘンドリックス(Jimi Hendrix)のスタイルはすごくインスピレーションが湧くし、ケリス(Kelis)もそう。このまえ、ブラック エンタテイメントのBETテレビがニベア(Nivea)の特集をやったんだけど、彼女の影響があんなに大きいとは知らなかった。ビデオを見ると、いっつもヘアがカラフルでね、前髪をおかっぱにしたり、すごく斬新なスタイルで、可愛いのよ。おんなじ世代じゃなくて、モデルにしたことがなくても、昔を振り返るのはいいことだと思うんだ。10代の頃はよく知らなかったけど、ドナ・サマー(Donna Summer)にはすごくインスパイアされる。アレサ・フランクリンもそう。アレサって、垂れたデカパイなのに、全然気にしないとこがいいの。あれこそファッションだと思うね。そのままのオッパイでロックする。あれこれ、違った風に見せようとしない。そいで、着たいものを着る。アタシもオッパイが垂れてるから、アレサを見習うんだ。
アレサはその上、ノーブラで細いストラップのトップスを着て、それでものすごく素敵だったよね。
そう、ノーブラ! 断然、カッコよかった。アタシのお腹も同じ。子供を産んでるからね、今みたいなたるんじゃったお腹は、なかなか好きになれなかった。そうしようと思ったら手術でどうにかできたけど、みんながアタシと同じようなお腹をしてるわけじゃない、つまり、それもファッション ステートメントなんだ。コブもそう。アタシ、額に脂肪のコブがあるんだけど、みんなが額にコブを持ってるわけじゃない。だから、コブもアタシのファッション ステートメント。つまり、アタシだけにあって、ほかの人は持ってないもの。アタシはアタシだけのステートメントを磨いて、自分の役に立てなきゃね。
あなたのそういうアティチュード、好きだわ。「地のままでいいのよ」って言いながら、100%本心じゃない人もいるから。
わざと作った欠陥みたいなもんよ。アタシ、そういうのがたまらなく嫌なんだ。この前、Tumblrで話してたんだけど、スタイルがあるのはクールでも、ほどほどでなきゃダメなんだよね。本当のありのままが好きな人はいない。怖がるの。薄めないと、社会には受け容れてもらえないんだから。ありのままの姿で、っていうボディ ポジティブ ムーブメントだってそう。アタシと同じようなお腹をした女の子が出てることないもん。黒人らしい黒い肌の子も見たことない。社会に認められる程度にダークな肌、って外見がちゃんとある。
今年あなたがツイートしてた「アグリーでキュートな男」について、話してくれる?
ひとつひとつの造りがキュートな黒人の男って、いると思うんだよね。だけど、全体としては、まとまってない。アタシは、パッケージ全体よりそれぞれの造作を見るから、唇が素敵だったら、斜視でも構わない。黒人でも、個性のある顔が好き。肌の色が薄くて、髪を今流行のお団子にしてる男なんて、どいつも同じに見えて、真っ平ごめんよ。ハンサムじゃないと自覚してたら、個性を伸ばすしかない。でないと、まともに扱ってもらえないからね。アタシは自分をファニーフェイスだと思ってる。あちこち、おかしなところがあるし。だから、こういうキャラクターやパーソナリティを作らなきゃいけなかった。
クリスティーンについて教えて。『True Laurels』のインタビューによると、テーマは悪魔に恋する女性だそうね。
そう、悪魔に恋してる女。悪魔が彼女の男、彼女の本命。なんだけど、ちょっと飽きもきてる。「ずっとこの男と一緒。たまには、外の様子も試してみようかしら」ってね。そいで、いろいろな男と関係してみるんだけど、どうも思うように事は運ばない。成り行きにすごく傷ついた挙句、男を捨てる代わりに、最後は殺しちゃうの。映画をみたいだけど、抽象的な部分もあって、すごくエキサイティングなテーマなんだ。
「クリスティーン」のライブで、そういう重い歌を唄うのはどんな感じ?
ライブでは、「ヘイ、アタシ、この男とヤってみたい」みたいな軽いものと、殺しの歌しかやってない。その中間はやってないんだ。「だから、このニガーはアタシを傷つける」みたいなのは、自分で平静に聴いてられないのよ。胸がちょっと締めつけられるから、パフォーマンスにするのは難しいと思う。唄うときがあったら、多分ステージの上で泣き出して、自己卑下しちゃうんじゃないかな。ステージで泣くぶんには、可愛いだろうけど。
歌がすごく密接に関わってくるから…。23の男と寝てた16のアタシに戻る。アタシを欲しいから寝るんだと思ってたのに、妊娠したらそれっきり。同じような体験を味わった女の子がいるのは、わかってるんだ。きっといいアルバムになるよ。すごく楽しみだし、満足してる。
あなたひとりじゃないはずよ。きっと聴衆も泣き出すから。
クラブでみんなで泣いたら、すごいよね!
Ruth Gebreyesusは、カリフォルニアを拠点に活動するフリーランス ライター兼エディターであり、サンフランシスコ近代美術館の『Open Space』や『The Fader』にも寄稿している
- 文: Ruth Gebreyesus
- 写真: Rebecca Storm
- スタイリング: Romany Williams
- 撮影アシスタント: Raymond Adriano
- ヘア&メイクアップ: Carole Méthot
- 制作: Alexandra Zbikowski
- 制作アシスタント: Erika Robichaud-Martel