天秤座の女帝、
エンプレス・オブ
エレクトロポップの歌姫が明かす自分に正直な生き方のすすめ
- インタビュー: Khalila Douze
- 写真: Julian Burgueno

子どもの頃のロレリー・ロドリゲス(Lorely Rodriguez)は、母親の暮らすパサデナと、父親の暮らすバンナイズを行き来して過ごし、伝統的なサルサ、メレンゲ、クンビア、そしてセレーナ(Selena)のあらゆる曲など、ホンジュラス人の両親の選りすぐりの音楽を聴いて育った。

Empress Of 着用アイテム:フーディ(Balenciaga) 冒頭の画像のアイテム:ブレザー(6397)、タートルネック(MISBHV)、トラウザーズ(6397)
エンプレス・オブ(Empress Of)として知られている彼女は、自分の根幹にある音楽に対する執念は、父親の影響だと話す。「家では常に音楽があった。大きなピアノがあって、私はそれを弾こうとしてた」と言う。移民の両親を持つ大多数の子どもと同じく、彼女はポップ ミュージックのラジオを聴き、MTVや『VH1 Divas』を観ながら、同時にカルチャーに深く切り込んでいく第六感を発達させていた。そして、学校にはリュックに着替えを入れて行くような子どもだった。
午前10時。私たちはロサンゼルスの中心街でブランチを約束していた。ほんの数時間前、東海岸から西海岸まで移動してきたにも関わらず、ロレリーは目を輝かせ、さっぱりとした顔でやってきた。彼女の第一印象は、優雅な自信に溢れていた。チェックのスカート、Terrible Recordsの黒のフーディ、頭には手描きのバケットハット、足元はパープルとオレンジのNikeエア ヴェイパーマックスのスニーカー。ロレリーは細かく注文をつけて卵をオーダーする。コーヒーは持ち帰り用のカップに入れてくれるよう頼み、ウェイターにグルテン フリーのパンを付け忘れている、と言うのも忘れない。だが彼女の態度は、決して冷たくない。むしろ信頼の表れに見え、そこには謙虚さがある。自分のアルバムを聴いたか私に尋ねるときもそうだったが、私がすでに聴いていることを前提として話を進めるのは気が進まないようだった。占星術オタクの私としては、彼女の冷静な自己感覚や他人への気遣い、自己言及的なところ、矛盾することを言う傾向は、上昇宮が獅子座、太陽が天秤座、月が双子座の配置のせいだと考えたい。彼女は細かい所にこだわっていたようにも思う。とはいえ、これは彼女の人となりのほんの表面をかすったに過ぎないのだが。

着用アイテム:ジャケット(Prada)

着用アイテム:セーター(Versace)
3年前にデビュー アルバムの『Me』を発表した頃に比べると、アルバム『Us』を制作したエンプレス・オブは、いろんな意味で別人だ。アルバム発売直後、ロレリーはニューヨークから、ロサンゼルスに再び戻ってきた。ハイランド パークにある家は、母親の家から車でわずか15分。故郷で再び暮らし始めることは、食べ物や音楽、自分を育ててくれた人たちなど、おのずと自分のルーツに再び向かい合うことを意味していた。「家族が同じ街に住んでいないときは、世代という大きな流れの中ではなく、もっと今この瞬間に存在している感じ」と彼女は説明する。そして、「家族の自分とは違う世代の人たちを見ていると、長期的な視点というのがどれほど重要か見えてくる」と続ける。『Me』の発表後3年間で特に変わったのが、それまでの孤独を探求するような、独自の詩世界を追求した、エキセントリックで内省的なエレクトロ ポップから離れ、コラボレーションを行い、コミュニティの物語に触れ、洗練された、万人受けするポップ サウンドに近づいている点だ。ファースト アルバムでは何かを証明しなければならないと感じていた、とロレリーは言う。では、今は? 「今の私は、人生の中でも特に受容的な姿勢になっていて、開かれた場所にいる。ロサンゼルスにいるし、インスピレーションを与えてくれる新しい最高の友だちもたくさんできた。だから、アルバムのタイトルを『Us』とするのは、私にはとても自然なことだった」。このアルバムには、彼女と親しいブラッド・オレンジ(Blood Orange)のデヴ・ハインズ(Dev Hynes)やプロデューサーのDJDS、スペイン人のエレクトロ ミュージシャンのピオナル(Pional) が参加した。さらに最近では、尊敬する他のアーティストのプロジェクトの中でも自らの才能を披露しており、カリード(Khalid)の『Suncity』やムー(MØ)の『Forever Neverland』、ラッパーのトミー・ジェネシス(Tommy Genesis)の同名のデビュー アルバムに参加している。
10代の頃は、ネットで音源を違法ダウンロードしては、ビョーク(Björk)やイモージェン・ヒープ(Imogen Heap)など、斬新なミュージシャンの音楽を発見したものだった。こうしたアーティストの存在のおかげで、自分のやりたいようにどんな音楽を作ることも可能だと気づき、自分に正直にやってみようという気になったのだと言う。「自分のWindowsの中に曲を録音できるソフトがあったのよ」。数年後、彼女はボストンのバークリー音楽大学にいた。最先端の設備やスタジオを使える環境の中で、すべての時間をビートの作り方を学ぶのに費やした。ロレリーにとっては、朝の8時頃か、深夜になってからがいちばん良い歌詞が書ける時間だ。1日の中でもこの時間帯は、頭は朦朧として半分だけ冴えた状態にあり、ある意味、最も自分自身が表に出るときだからだ。

着用アイテム:フーディ(Balenciaga)

着用アイテム:セーター(Versace)
食事中、私たちはお互いの不安について話した。彼女は『ピッチフォーク 』に掲載された自分のアルバムを酷評したレビューに触れながら、いくつかの適切なアドバイスをくれた。これを聞いて、彼女がどのように仕事を続けてきたかがよくわかった。「5年後も悩むようなことじゃないなら、今この時点で悩む必要なんてある?」と彼女は問う。「5年後の、たとえばイタリアにいたり、牧場でリャマを撫でたりしているときには、カメラの前で何かバカなことを言ってしまったことなんて考えなくなってるでしょ?」。辛辣な批判に関しても、彼女は他人の意見に左右されなくなった。「ああいう批判を見たら傷つくけど、誰にだって自分の意見を言う資格はある。ただ、私にとっては、ラフ・トレード・レコードに行ったときに、皆が私のところに来て、どれだけこのアルバムが大切かを話してくれることの方が重要だわ」
ロレリーの新たな友情関係は、ただ受容して開かれた状態にあるだけでなく、彼女に新たな経験をもたらしている。「自分のアイデンティティはホンジュラス人だと感じているけど、普段は、ホンジュラス人のアーティストとたくさん会うわけじゃないのよね」と説明する。だが、最近ある友人から、Kids of Immigrantsというロサンゼルスを拠点にするホンジュラスの服飾デザイナーについて教えられた。「それから急に一緒にお茶することになって、『ルックブックのために撮影してもいい?』みたいに言われたの」。ロレリーにとって、こうした友情は自己表現にも関わることで、他の人々の中に自らを見出すことでもある。そしてこれは、かつての彼女にはできなかったことでもある。「子どもの頃は、音楽をやりたい子なんて周りを見ても私しかいなかったから」
今年、ロレリーは初めてパリのファッション ウィークで、Chloéのショーにゲストとして参加した。ちなみに、彼女は2018年の秋冬コレクションでブランドに楽曲を提供している。ファッションは、ロレリーが新たに獲得したもうひとつの創作領域であり、自己イメージを受け入れる過程として掘り下げている世界だ。彼女には親しい友人のスタイリストがついており、より自分らしいスタイルを見つけている。母親の着こなしにヒントを得たり、Dickiesにジョーダンなどロサンゼルス生まれである自身のルーツと重なるブランドを身につけることで、インスピレーションを得ることもある。最近は前よりも自分の身体に自身を持ち、自由になったという話にも触れつつ、「身体は皆それぞれに違う。そしてそれぞれの人となりが、服を通すと違った形で現れる」と言う。

着用アイテム:ジャケット(Prada)、スカート(Alexander McQueen)、コルセット(Off-White)、帽子(Pleats Please Issey Miyake)、スニーカー(Maison Margiela)
4人きょうだいの末っ子で、一人娘だったロレリーは、母親をとても尊敬している。シングルマザーであり、移民でもある母親に育てられ、経済的にも支えられてきた。子どもの頃は、常にストレスを抱えた母親や、欲しいものが買えないこと、どうしても行きたいコンサートにも連れて行ってもらえないことなどに、苛立ちを感じたものだった。「子どもの頃は、そういうバカみたいなものが手に入れられないせいで、親に辛い思いをさせてしまうものよね。大人になって気づいたんだけど、私はお母さんから一生懸命働くことを学んだ。彼女のやる気や、絶対に諦めないところとか、とても影響を受けてる」。いろんな意味で、ロレリーには親譲りの母性的な面がある。彼女には生来の癒しの才能がある。友だちが話をしたいと思っているときは、チキンや野菜を焼いて家に招待するなど、周囲の人間の面倒を見てまわるような人間だ。「食べ物には癒しの効果があるの。皆と一緒にご飯を食べるのって、昔からの伝統でしょ。生存に関わる原始的なことよ。多分、それが私を育んでいるのね」。この本質にある母性は、そもそも彼女がどのようにしてエンプレス・オブになったのかというエピソードを思い出させる。当時を思い出して、「友だちがタロットで私を占っていて、最初に引いたカードが[女帝(エンプレス)]だったの」と言うロレリー。従来、このカードが象徴するのは、母、創造者、養育者だ。
最後に、ロレリーは「保養休暇」のためのメキシコシティ旅行について話してくれる。今週末に、自分が世界でいちばん好きな街に行く計画を立てていると言う。「誕生日がバタバタしていて誕生日っていう気分にすらならなかったの。そしたら、パートナーがメキシコシティにいい場所を見つけてくれたの。『嘘でしょ? ほんと、めちゃくちゃな人ね!』って感じ」と、目を輝かせながら話す。最近、様々なことを成し遂げた充実感で気分が高揚しているものの、彼女は4日間の旅行中はネットから離れ、携帯の電源も切っておくつもりなのだと言う。「ファンとつながるのは大好きよ…でも今そこにある時間を楽しみたいから」
Khalila Douzeは、ロサンゼルスを拠点とするフリーランス ライターであり、タロット カードの熱心な信奉者である。『The FADER』、『Pitchfork』、『The Outline』など、多数に執筆している
- インタビュー: Khalila Douze
- 写真: Julian Burgueno
- 写真アシスタント: Dylan Gordon
- スタイリング: Turner
- スタイリング アシスタント: Megan King
- ヘア&メイクアップ: Matisse Andrews
- 制作: Rebecca Hearn
- 制作アシスタント: Jessica Druey