ブロックハンプトンが築いた夢のファクトリー
広告代理店的集団を目指す14人のボーイ バンド
- 文: Jordan Sowunmi
- 写真: Brent Goldsmith

ブロックハンプトンは大所帯だ。「Love Your Parents」ツアー中の彼らをトロントに訪ねたとき、写真撮影のために借りたトロント東端のスタジオへ現われたのは総勢17人。14人のメンバー全員に加えて、スタイリスト兼クリエイティブ アシスタントのニック・レンジーニ(Nick Lenzini)、ラッパーでありブロックバンドの生みの親でもあるケヴィン・アブストラクト(Kevin Abstract)のボーイフレンド、そしてボディガードという顔ぶれだ。スタジオの中に入ると、皆それぞれに散らばって、コーヒーを淹れたり、ノーム・チョムスキー(Noam Chomsky)の本を読み始めたり、ノートパソコンを開いてビートを作業したり…。明らかに、ブロックハンプトンのクルーは、総体でありながら個である技を習得している。つまり、家族のようだ。
メンバーに見られる民族、社会経済的な背景、性的指向の多様性は、デジタル時代の友情を象徴していると思う。多くは人気の高いカニエ・ウエスト(Kanye West)のファン サイト「KanyeToThe」で知り合った。そして、カニエがいつも一流の顔ぶれを揃えてコラボレーションするのと同じく、ブロックハンプトンの人数と構成も、音楽の世界に制限されない志の高さに通じている。ブロックハンプトンは、自分たちを広告代理店と考え始めている。

「それが俺の見方だ」。シカゴのショップ「RSVP Gallery」とのコラボ グッズをデザインしていたクリエイティブ ディレクターのヘノック・HK・シレシが、仕事の手を休めて語る。「俺たちは、みんなが一緒に仕事をしたがるような大組織になることを目指してるんだ。ケロッグやディズニーみたいにね。色んな部門があって、尊敬されて親しまれる組織…そういう風になりたい。ある意味で、自分たちが実験台だ。ブロックハンプトンは俺たちの最初のクライアントさ」

だから、HK、フォトグラファー兼撮影監督のアシュラン・グレイ(Ashlan Gray)、マネジャーのジョン・ニューンズ(Jon Nunes)といったメンバーも、舞台に上るメンバーと同じくバンドの一員とみなされるし、ブロックハンプトンの音楽、ビデオ、ステージ ショー、グッズはすべて、まとまったひとつの表現の異なる側面として扱われる。パッケージは個別の製品と同じ程度に重要であり、両者を別個の存在と考えることは的外れでさえあるかもしれない。カニエが、自身の崇拝する人物としてスティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)を引き合いに出す時代にキッズが成長すると、ブロックハンプトンのようなグループが生まれる。一昔前であれば、自ら広告主の立場を任じるミュージシャンは、さぞかし周囲の反発をかったことだろう。だが、音楽界の経済が分断され、労働市場が断片化された現在、20歳前後の若者が集団で企業化を図るのは抜け目のない防衛のメカニズムであり、自分たちが生きていかざるをえない世界に対する直観的な理解を体現しているのではないだろうか。第一、20代前半という若さで、気の合う友人たちとツアーに出る理由を欲しがらないやつがいるだろうか。
ブロックハンプトンは、昨年、さまざまな分野で膨大な量の仕事をやってのけ、マイナーなアングラ的活動からトレンドの中心へと飛躍して、ティーンエイジャーを中心とする熱烈なファン層を獲得した。生活と仕事の本拠地としてメンバー全員が共有するノース ハリウッドのスタジオ「ブロックハンプトン ファクトリー」からは、『SATURATION』三部作と名付けられたフル アルバム、12本のミュージック ビデオ、22分の短編フィルム、アルバムの制作過程を撮った2時間半のドキュメンタリー、ケーブル チャンネル「VICELAND」のシリーズ番組『アメリカン ボーイバンド』が誕生した。その他に、グッズ、ウェブサイト、アルバム アート、ツアー ポスターなどのデザインまで、自分たちの手でこなす。

Henock ‘HK’ Sileshi、クリエイティブ ディレクター

Romil Hemnani、プロデューサー
メンバーのスタイルの多様性、集団としての志向、10代を中心とした人気から、ブロックハンプトンはオッド フューチャー(Odd Future)と比較されることが多い。2010年頃ロサンゼルスのラップ集団として人気が爆発したオッド フューチャーは、タイラー・ザ・クリエイター(Tyler, the Creator)、アール・スウェットシャツ(Earl Sweatshirt)、シド(Syd)、フランク・オーシャン(Frank Ocean)らのメンバーを輩出した。両者の比較から浮かび上がる明確な相違は、多くを教えてくれる。オッド フューチャーは、汚い言葉を使うアナーキーな攻撃性で聴衆を揺さぶろうとした。「Kill People, Burn Shit, Fuck School - やつらを殺せ、戯言を燃やしちまえ、学校なんぞクソ食らえ」の世界である。一方、ロックハンプトンは、 もっと穏やかな、そこから何かが生まれる可能性を秘めた反逆を表現する。彼らのRedditページでは非常に活発な交流が展開しているが、最多を誇る投稿メッセージのひとつは、興奮した観客がモッシュを始めるフロアで安全を維持する方法に終始する。「STAR」で「ドレッド ヘアのヒース・レジャー、俺のブロー ジョブ」とラップするアブストラクトは、挑発しているかもしれないが、喧嘩を吹っかけているわけではない。同性どうしの関係をラップすることが、なぜいまだに過激な行為に感じられるのか…観客をその理由に向き合わせる。それがアブストラクトのやっていることだし、特にジェンダーと性的指向に関して、寛容と包含へ向かいつつある文化の変化を映している。オッド フューチャーの初期の作品に散在したホモを嫌悪する中傷や暴力的な女性蔑視は、ブロックハンプトンの支持基盤とは相容れない。

Merlyn Wood、ラッパー
とは言え、オッド フューチャーによって、ブロックハンプトンの成功が可能になったことは否めないし、両者には表面的な類似以上のものがある。クリスチャン・クランシー(Christian Clancy)とケリー・クランシー(Kelly Clancy)が経営するマネジメント会社「4 Strikes」は、かつてオッド フューチャーのマネジメントを手掛けたし、現在はブロックハンプトンのキャリア開発を助けている。アブストラクトは躊躇することなくタイラー・ザ・クリエイターを友人兼良き先輩として挙げるし、インスピレーションの源はオッド フューチャーだと認める。

Kevin Abstract、ラッパー

「オッド フューチャーはすごく自発的で、すごく計算されてた」。アブストラクトは言う。「自分たちがやりたいと思うことをやった。だからうまくいくんだ。俺たちはやりたいことをやる。 そうしてれば、そのうちみんな気がついて、気に入ってくれる。周囲がやらせようとすることじゃなくて、自分たちがやりたいことをやっていく。そうやってここまで来たんだ」
同じくブロックハンプトンのやり方でもある、ある種の計算された自発性は、共に過ごした長い長い時間の賜物だ。メンバーの大多数は、もう何年も生活を共にしている。先ず最初はテキサスのサン マルコスで、次はロサンゼルスのサウス セントラルで、そして今はノース ハリウッドで…。『SATURATION』は、ある晩、グループに方向性がないことを話し合ったファクトリーでの対話から生まれた。その夜、アブストラクトは、「Brockhampton」と『SATURATION』と翌月のリリース日だけを書いたポスターを作るアイデアを出した。そうやって期限を課すことで、やらざるをえない行動へとグループを駆り立てたのだ。
14もの異なる視点、しかも平等に評価される視点を内包したグループが、どうしてそんな上手く機能するのだろうか? そんな疑問に答えてくれたのはラッパーのドム・マクレノン(Dom McLennon)だ。「基本には、いちばん最初から、俺たち全員でリスクを引き受けたことがある。そういうグループとしてのリスクの中で、グループとしての信頼が育った。グループとしての信頼から絶対の信念が生まれる。『俺たちの目標は必ず実現する』みたいな信念だ。『1ヶ月でアルバム? ノー プロブレム』」

Ameer Vann、ラッパー
ブロックハンプトンの信念は、熱烈なファン層としても実現している。写真撮影の後、完売しているトロントのショー会場「REBEL」へ行ってみると、グッズを買い求める行列には、ドリンクの列よりはるかに多くのファンが群がっていた。同じ週、トロントの前にショーをやったモントリオールのコロナ シアターでも同じことだった。ウェアには、音楽でおなじみの茶化したフレーズがデザインされている。「DONATE YOUR TIME AND MONEY - 時間とカネを寄付してくれよ」と書かれた Tシャツ。ストリーミング時代に成長したファンにとって、限定数の「how do you sell a million records - ミリオン セラー レコードの売り方」Tシャツは、グループへの忠誠を具体的に表明する。

Dom McLennon、ラッパー
揃いのオレンジ色のジャンプスーツでステージに上ったブロックハンプトンは、ラップのショーには珍しく、統制のとれた熱気で観衆の心をつかむ。ツアーのオープニングは『SATURATION III』からリリースされた最初のシングル「BOOGIE」。甲高い警笛と物悲しいサイレンが止まると、出演メンバー7名が叫び歌いながら姿を現して、熱狂する聴衆に負けるとも劣らない激しさでダンスを繰り広げる。客席の中央はたちまち興奮の坩堝と化し、強烈だが愛情あるモッシュが始まる。
激しく肉体を酷使するショーは、明らかに影響を及ぼす。写真撮影のあいだ、シンガーとプロデューサーとエンジニアを務めるラッセル・ジョバ・ボアリング(Russell “Joba” Boring)は、台所でコーヒーをすすっている。疲労困憊の様子だ。「今度こそはやり過ぎないようにしよう。いつもそう自分に言い聞かせるのに、結局エキサイトしてしまうんだな、これが」と言う。

Matt Champion、ラッパー
ラッパーのマット・チャンピオン(Matt Champion)が口をはさむ。「なんでだ?」
「会場のファン、ステージの仲間、アドレナリン」と、ジョバが答える。「音楽を楽しむ人間を、俺はいつも頭の中で祝福してるんだ。観客が楽しんでないときや、楽しそうにみえないときは、ほんと、がっかりするよな。だけど嬉しいことに、今回のツアーは本当に祭りみたいだ。だから、会場に来てるファンの目をしっかり見るんだ。俺たちのステージを見てハッピーになってるから、きっちり目をみるんだ」
従来、ファンであることは一方通行だった。しかしブロックハンプトンは、単に彼らの音楽だけでなく、彼らがグループとして育んだ創造を刺激するライフスタイルに賛同する若者たちと、深く直接的な繋がりに基づく新たなパラダイムを作り出している。ブロックハンプトンにとって、それは自然なことだ。VICELANDで放映されたように、かれらは各地にいる長年のファンと定期的に顔を合わせ、それぞれのメンバーはInstagramのダイレクト メッセージを使う。


「良くも悪くも、俺たちは、なんでも見えてしまうソーシャル メディアの時代に成長した。だから、ソーシャル メディアの世界から離れたことはないと思う」。プロデューサー兼ツアーDJのロミル・ヘムナニ(Romil Hemnani)は言う。「俺たちがどうしてるか、みんな知ってる。俺たちの生活をのぞける窓があるから、本当に俺たちと繋がってると感じられるんだ」
「ブロックハンプトンのファンはいくつもチャットのコミュニティを作ってて、いつも俺たちに参加させてくれるんだ」。ヘムナニは続ける。「ブロックハンプトンという共通の関心から出発して、色々なことを話すうちに、親友になっていく。それって、すごくいいと思う。俺たちメンバーだって、そうやって知り合ったんだから。『私が君くらいの年の頃は、友達と一緒に暮らして何かを作るなんて、考えたこともなかった』って、しょっちゅう言われるけど、俺にしてみたら『どうしてそうしないんだ? 最高だぜ』って感じ」

Jordan Sowunmiはトロント出身のライターであり、DJでもある。『The FADER』『VICE』『Complex』その他の雑誌でも記事を執筆している
- 文: Jordan Sowunmi
- 写真: Brent Goldsmith
- 写真アシスタント: Will Jivcoff
- スタイリング: Juliana Schiavinatto
- ヘア&メイクアップ: Ali Harcourt