ケリー・フォーとタトゥーを彫りに

大胆不敵、自由奔放なLAのミュージシャンと過ごす長い1日

  • 文: Erika Houle
  • 写真: Kanya Iwana

ケリー・フォー(Kari Faux)は今、生涯の夢をついに叶えて絶好調だ。イースト ハリウッドのタトゥー ショップで、閉店時間が迫る中、フォーはMTVのバットヘッドに安住の地を与えたところだ。左のお尻の盛り上がったところに彫られたバッドヘッドは、いかにも90年代っぽい笑みを浮かべており、その周りにはハート形の縁飾りが彫られている。

私もまた、入れたばかりのタトゥーを披露する。ラッパー兼シンガー ソングライター兼プロデューサーの28歳。彼女が、私のデザインをタトゥー フラッシュのシートから選んだ。そして今、私の二の腕にある有刺鉄線のラインの上に、血走った目玉の花開いたタトゥーが鎮座している。この手の経験を経ると、速攻で信頼関係が深まる。現に、私たちは8時間前に出会ったばかりだった。本名をケリー・ローズ・ジョンソン(Kari Rose Johnson)というフォーは、彼女のミドル ネームにちなんで私のタトゥーを選んだ。だがそれ以上に重要なのは、これで、目玉は何でもすべてを明らかにするという、彼女の信念がはっきりしたことだ。「しっかりと見開かれた目は嘘を見抜く」のだ。

数多くの楽曲の中でも、初めてフォーにスポットライトが当たるようになったのは、ヒット曲「Lie 2 My Face」がきっかけだ。これが、イッサ・レイ(Issa Rae)の人気テレビ シリーズ、『インセキュア』のサウンド トラックに起用されたのだ。その2年後、ドナルド・グローヴァー(Donald Glover)の目に止まり、そこから彼女の有名なトラップ ボップの楽曲「No Small Talk」のリミックスをコラボレーションして発表した。フォーのサウンドは音楽シーンの流れを変えた。この流れは、まもなくメインストリームの音楽にも見られるようになるはずだ。昨今、アーティストの多くが彼女の独特なスタイルの波に乗ろうとしている中、フォー自身はまた別のことを企んでいる。「他のアーティスト、特に女性としょっちゅう比べられる」と彼女は言う。「でもそれは別に気にならない。それが私を私たらしめてるのだとわかってるから。この世界は広くて誰にでも開かれてるし、皆が共存できると思ってる」。彼女の最新ミニアルバム『CRY 4 HELP』では、ジャズ風のシンセとクラシックなR&Bのリフに、彼女の内面に迫る会話風のラップが重なり、予想外なジャンルの音楽同士を実験的に融合するフォーの才能が存分に発揮されている。隔離や流産、うまくいかなかった恋愛や悪い友人のために無駄に費やした時間に対するフラストレーションなど、尽きることのない彼女の内省を聴いて、人は彼女と同じように自分と向かい合うようになる。

アーカンソー州リトルロックで育ったフォーの話し方には、若干南部の訛りがあるが、彼女には小さな町での体験に辟易しているようなところがない。自分のルーツと、その生い立ちが自分をどう人間的に成長させたかを振り返りながら、彼女は言う。「田舎で育ったおかげで私はとても謙虚になった。それに、人をもてなすのが得意。人に居心地よく感じてもらうのが好きなの」。彼女のスタイリングやヘアメイクを担当している、高校からの友人からなるチームの面々と笑い合い、会話を交わす姿を見れば、彼女のこの温もりはすぐに伝わってくる。メイクアップのコツや商品の好みについて話しながら、セットのトレーラーの中をGrandma’sのクッキーやプリングルズの缶が回ってくる。ちなみにメイクに関しては、当然、何よりもまずFenty Beautyという暗黙の了解がある。フォーのマネージャーが、テキーラのボトルを持って立ち寄る。気分を高めるために、フォーが好んで飲む酒だ。そして、プロフェッショナル然とした雰囲気を放ちながら、彼女はマジックアワーの光で輝き始める。瞳を閉じて、後ろに首を傾ける。写真を撮られるストレスを感じながらも、決して平静さを失わない。

音楽の中では、自分を皮肉屋で無頓着に見せているフォーだが、実際に見る彼女は、おっちょこちょいで、間違いなく、一度決めたら曲げない性格だ。その日の雰囲気を決めるのに、誰かが彼女の曲を流そうと提案すると、フォーが目を剥く。自信にあふれ、自意識も高い彼女は、自分の作品が好きでたまらない、というタイプのアーティストではない。エイミー・ワインハウス(Amy Winehouse)が、お気に入りのミュージシャンのひとりだ。そこで、自分の曲ではなく、2003年の『Frank』を最初から最後まで全曲流すようリクエストする。曲がランダムに流れると「これシャッフルになってない?」と尋ねる。「だって、これはアルバムの順番とは違うもの」。フォーはこの業界の偉大なミュージシャンたちのことを熟知している。髪が風に吹かれて顔にかかり、彼女が「ビヨンセ(Beyoncé)風のエフェクトは頼んでないんだけど」と言うと、チームの面々が「エフェクトの方があなたを選んだのよ」と、たしなめた。

「私の考えでは、私は『オシャレな女の子』には程遠いわ」とフォーは言う。彼女の着こなしは、トムボーイ ファッションに超フェミニンなスタイルを組み合わせたものが多い。これを見れば、本人の言葉と裏腹に、彼女がオシャレなのは明白だ。現に、フォーは、Pyer Mossのケルビー・ジャン・レイモンド(Kerby Jean-Raymond)に指名され、このニューヨークを拠点とするブランドがReebokと共同で行なった、2018年秋冬コレクションのランウェイを歩いている。「新しいシーズンのコレクションを積極的に追うわけでもなし、多くのブランドは読み方すらわからない」と彼女は言う。「私はもっと自分自身のスタイルを重視してる。モノの値段なんてどうでもいい。重要なのは、どうその服を着れば面白くなるかが自分でわかるかどうかよ」。自然体で踊りながら、ガラスの収納ケースに映った自分にうっとりする彼女は、現実の世界に飛び出した手の込んだバービー人形のようだ。そんな中、彼女はスタイリストに、彼が用意したアイテムの中ではエアフォース1を履くのがいちばん楽しみだと話している。だが、彼女が内なるトキメキを感じるのは、Gucciのフェイクファーのコートに、Off-Whiteの鮮やかなピンクのランジェリーを合わせた時だ。この組み合わせには、わずかな躊躇もなく、進んでリスクを冒そうという、彼女の気持ちが表れている。

「ケリーは、多くの黒人の女の子たちが、感情を思いきり表現し、変人となって、その上で理解されたと感じられるような扉を開いたと思う」と、フォーの親友のひとりで写真家のキル・レモンズ(Quil Lemons)は言う。ふたりは普段から、お互いを支持するコメントをオンラインに投稿している。「姐さん、やるなー。これはマジいいわ!」、「あんたのこと一生大好きだよ。たとえ、私のものを使って元の場所に戻さないとしてもね」、「彼女は他人の言いなりにはならない。彼女のそういうときが好きなんだ」というように。「彼女はあんなアルバム カバーまで出しちゃって」というのは、レモンズ自身が撮影した、フォーがスカートを捲り、赤の網タイツでお尻を出して中指を立てている写真のアルバムについてだ。「それがこんなにも注目を集めたんだ…彼女の方が僕よりずっと根性が座ってるよ」。ステージ上のフォーの貫禄が、レモンの説を裏付ける。ツアーの舞台設計、ゆったりしたソックスとTシャツといった衣装から、契約条件に入れられたWelch’sのフルーツ グミ (ただし青色に限る) に、チェダー チーズ味のGoldfishクラッカーまで、フォーは無頓着さと自己の確かさを同時に振りまいている。

Co-StarやThe Pattern星占いのアプリにはまっているフォーは、「一列に並んだ」状態を表す「aligned」という言葉がお気に入りだ。もちろん、これは会社でよく使われるマーケティング用語の「アラインメント」ではなく、星々のオーラの話だ。フォーが、昔の恋人の新しい彼女から、型にはまった生き方をするなと言われる夢の話をしてくれる。一見、どんなことにも動じないようで、フォーは、物事のより深い意味までじっくりと考え、常に真実を探している。中でも、目については、特別な考えが彼女にはある。創造性に関わる脳の位置から、人は嘘をつくとき上目になり、それから左に視線をそらすという心理学の理論だ。フォー自ら選んだ目玉のデザインのタトゥーを入れた私は、彼女が私自身の目には何を見ているのか尋ねてみた。それに対して、彼女は真顔でこう答える。「私たちって、気が合うわね」。そして声を上げて笑うと、「私のこと、ずーっと覚えているでしょう」と続けた。彼女の言う通りだ。

Erika Houleはモントリオール在住のSSENSEのエディターである

  • 文: Erika Houle
  • 写真: Kanya Iwana
  • スタイリング: Jake Sammis
  • ヘア: Ashuna Starks
  • メイクアップ: Anthony Walker
  • 写真アシスタント: Shaina Santos
  • 翻訳: Kanako Noda