次世代のヒーロー、
トリー・レーンズ
トロントから世界へ羽ばたくジャンルを超えたラッパーが恐怖の克服から眠りながらの音楽制作まで語る
- 写真: Bryan Rodner Carr
- インタビュー: Stephanie Smith-Strickland

初めてトリー・レーンズ(Tory Lanez)と話したのは電話越しだった。多くの仕事をこなす中で制作していた、2018年のセカンド アルバム『Memories Don’t Die』についてすべて話してもらうべく、私は色々と質問した。だが今回は、実際に彼に会って話を聞くのだ。それはハグで始まり、それから彼は申し訳なさそうに、インタビューの間『クラッシュ・バンディクー』をプレイしてもいいか聞いてきた。指でボタンを触りながら、「申し訳ないけど、このゲームをやりながらの方が、頭がよく回るんだ」と説明する。この26歳のラッパーの運動エネルギーについては知っていたので、40分後、彼の操るキャラクターがまだ無傷で生き残っているのを見ても、私は驚かなかった。

Tory Lanez 着用アイテム:ジャケット(Lanvin)、ブレザー(Stella McCartney)、トラウザーズ(Stella McCartney) 冒頭の画像のアイテム:ジャケット(AFFIX)
トリー・レーンズことデイスター・ピーターソン(Daystar Peterson)は、カナダのトロントで生まれた。トロントのカリビアン コミュニティには活気があり、それはそのまま彼の両親、バルバドス出身の父親とキュラソー島出身の今は亡き母親にも当てはまった。子どもの頃から、トリーのクリエイティブな才能は明らかだった。2009年、フロリダに住んでいたときに、初のミックステープ『T.L 2 T.O』を発表、そのプロジェクトに合わせて、いくつもの自主制作ビデオを作った。今もすべてのミュージック ビデオを自分で監督していると、はにかみつつも誇らしげにトリーは話す。2014年までには12本弱のミックステープをリリースしていたが、その翌年、同じくトロント出身のドレイク(Drake)との確執が深まる中、初めてシングル「Say It」がヒットした。ピーク時にはビルボードのHot 100にもランクインし、トリーはこの曲で、アングラ シーンで評判のアーティストから、ヒットチャートに乗るアーティストになった。2016年にはエイサップ・ファーグ(A$AP Ferg)のツアーへの参加を公表し、さらに、新人の誰もが憧れる『XXL』の「今年のフレッシュマン」のひとりに選ばれたが、彼はこれを辞退した。
デビューアルバム『I Told You』のリリースに向け準備をしていた当時の思い出を語る中、「皆、ありのままの俺が好きなんだろうって、ずっと思ってた」とトリーは言う。誰もフィーチャリングしない、内省的なプロジェクトは、トリーの内向きな性格に合っている。自分は孤独が好きなタイプだと彼は言う。その純然たる決心によって、これまで自分を軽視する同業者のことなど意に介さず、競争の激しい世界でキャリアを築き上げてきた。だが、先月リリースされた3枚目のスタジオ アルバム『Love Me Now』には、彼は同時に、ずっとコラボレーションを切望していたことがよく表れている。アルバムには2チェインズ(2 Chainz)、リッチ・ザ・キッド(Rich the Kid)、リル・ベイビー(Lil Baby)をはじめ、多数のアーティストが登場する。その日、朝早いロサンセルズで、私はトリート、そのアルバムを作るきっかけとなった出来事や、ソーシャルメディアにおける言論の自由、架空のスーパーヒーローになる可能性について話した。
ステファニー・スミス=ストリックランド(Stephanie Smith-Strickland)
トリー・レーンズ(Tory Lanez)
ステファニー・スミス=ストリックランド:最近はどんなことを?
トリー・レーンズ:ずっと新しいプロジェクトをやってる。俺のファンが大好きなアーティストや、いろんなスタイルのレコードが詰まってる。これは、死にかけた体験から生まれたんだ。それがアルバム全体のインスピレーションになった。
ちょっと待って、今なんて…。
プライベート ジェットに乗ってたら、飛行機が墜落しかけたんだよ。1分半くらいの間に、3万9000フィートから1万1000フィートまで高度が下がってさ。皆死ぬところだったけど、幸運にも高度1万1000フィートで機体が持ち直した。あと5分遅かったら、飛行機は本当に墜落してた。
あなたには小さい子どもがいるよね。そういう瞬間って、どんなことが頭をよぎるの?
正直に言えば、実際にその瞬間に頭の中をよぎったのは、「くそ…息子だ、俺はもう一度息子に会わなきゃならないのに」ってことだけだった。でも飛行機を降りたとき、自分がこれまでにやってきたことを本当に考えさせられた。一緒にやりたいと思っていた全員と仕事をしてきたか? 他のラッパーの作品に自分も参加できるよう最大限努力をしてきたか? もし俺が死んだら、そのアーティストは、俺と一緒に仕事をするのは素晴らしい経験だったと言ってくれるか? そういう人間関係のために、十分努力してなかったような気がした。だからこそ、こう思ったんだ。「もしそれが本当なら、俺は多くのことを変える必要がある。そして俺のレガシーとして、人から認められ、高く評価されるものが必要だ」って。どうせやるなら、「トリーは誰ともコラボレーションしなかった時期もあるけど、俺のためにこれを引き受けてくれたのは、アーティストあるいはサポーターとしての俺が好きだからだ。今回、トリーは他のアーティスと共演してるけど、それが嬉しいし楽しみだ」と思ってもらえるようにしたかった。

Tory Lanez 着用アイテム:ネックウォーマー(Gucci)、パンツ(Gucci)、シューズ(Maison Margiela)
以前は、コラボレーションに対して少し慎重だったのには何か理由が?
有名になりかけのころ、たくさんの人に裏切られた。もしかすると、俺がただ何もかもに被害者意識を持ってるだけかもしれないけど。とにかく、そのせいで「俺は自分のやり方でやっていくだけ」という見方をするようになった。でもこれって、人生においてはあまり賢い姿勢だとはいえない。わかるだろ? 文字通りの意味ではないにしろ、自己中心的だ。世界に対して復讐することはできない。それを俺は学んだ。
人気が出始めのアーティストでいるのって、実際はどんな感じ? ゲートキーパー的な役割の人たちは、進んで他人とコラボレーションする感じではなかった?
皆忙しくて、自分のやってることがいちばん大事だから、多くの人が、他人の夢なんてどうでもいいって態度で接してくる。自分がアーティストで、誰かとコラボをやろうとしているときに相手にしてもらえなかったら、今度自分が人からコラボしたいと思われる立場になったときには、「お前らのことなんか知らねーよ。2年前に一緒にやってくれって頼んだだろ」ってなるよ。その人たちの責任ではない場合もあるけどさ。ただ気分が乗らないときもあるし。
アイデンティティとして多文化的な背景を持っていることは、自分の強みになっていると思う?
音楽面では、多くのことをやるのに役立ってる。発音の仕方もそうだし、俺だから可能だったり、オーセンティックになったりするものはある。俺がカリビアンで、それが俺自身のカルチャーだからだ。他の人だとそうはいかない。無理やり何かをやろうとしちゃダメだ。俺は決して無理強いしない。
キャリアにおけるソーシャルメディアの影響を心配したことはある? 全身全霊、自分自身でいられると思う?
言論の自由の核心は、自由な発言を認めることにある。中にはただ攻撃的なだけのものもあるけど、他人のことも考えないとダメだ。ソーシャルメディアのせいで、言論の自由がより可視化されて、皆が「ぶっ殺してやる」みたいなことを言っていいように見える。それで気づいたんだけど、「俺には関係ない」っていう態度を人々が良しとするのには、それなりの理由がある。多くの人は、自分に正直でいることをすごく怖がってる。「俺には関係ない」ってことの意味は、たとえ仲間に好かれなくても、何を言われても、自分の言うことを理解してもらなくても平気ってことだ。
自分の音楽に対しても同じ考え方?
すごくしっくりくる考え方のひとつ。例えば、もし寝ながら音楽を作る方法があったら、俺はそうやって音楽を作ってもいい。
インスピレーションが尽きてしまったことは?
ない。日々の生活からインスピレーションが得られるから。Netflixをつけて、そこで書くことが見つかることだってある。俺には映画の存在が大きいね。いい音を出して、最高の音楽を作る大部分は、何かを感じさせてくれるものをどれだけ観るかにかかってる。
映画もやってみたい?
すごくやってみたい。実際、自分のミュージックビデオはすべて自分で監督してる。
最近観た、良かった映画は?
先日『ヴェノム』を観たけど、かなり良かった。
Marvel派? それともDC派?
Marvelのヒーローの方が面白い。バットマンなんて、スーパーパワーも持ってない、過去に色々あったってだけの、ただの金持ちだ。
これはMarvel映画に出演するしかないね!
だといいな。
Stephanie Smith-StricklandはL.A.を拠点に活躍するライターであり、『Billboard』、『Complex』やウェブサイト「Highsnobiety」など多数に執筆している
- 写真: Bryan Rodner Carr
- インタビュー: Stephanie Smith-Strickland
- スタイリング: Rita
- 写真アシスタント: Pat Martin
- スタイリング アシスタント: Anastasya Kolomytseva
- ヘア: Vego
- 制作: Becky Bunz
- 制作アシスタント: Lauren Rothery