エングズエングズ:クラブの中の自由
ロサンゼルスを拠点とするミュージシャン2人組が、ポップミュージックのミニマリズムと終末的政治について対話する
- インタビュー: Zoma Crum-Tesfa
- 写真: Cameron McCool

アスマ・ マルーフ(Asma Maroof)とダニエル・ピニーダ(Daniel Pineda)がデュオとして共同プロデュースするエングズエングズ(Nguzunguzu)は、工場、牢獄、ダンジョンといったディストピアな場所を連想させる音風景を展開し、ダンス ミュージックのミックスに新ジャンルを切り拓いた。過剰なナショナリズムが隆盛する世界の中で、彼らの美学は新たな様相を帯びる。Fade to Mindの一環として長年ロサンゼルスでパーティを開いてきたマルーフとピニーダは、クラブは独自のラディカルなコミュニティを創造できると主張する。
ゾーマ・クルム-テスファ(Zoma Crum-Tesfa)が、ロサンゼルスでデュオと対話した。

ゾーマ・クルム-テスファ(Zoma Crum-Tesfa)
ダニエル・ピニーダ(Daniel Pineda)、アスマ・ マルーフ(Asma Maroof)
ゾーマ・クルム-テスファ:何かのインタビューで、Top 40ヒップホップが大好きだと話してましたね。具体的には、DJ Mustardのことでしたが。
(笑)
いえ、とてもいい発言だと思ったんです。
ダニエル・ピニーダ(以下、D):ある意味、ムダがなくてシンプルで、盛り上がる曲を作るにはもってこいの公式なんだよ。ゆったりした緩いハイフィーとかジャーキンのスタイルのラップを再表現する、西海岸サウンドの延長でもあるよね。
アスマ・ マルーフ(以下、A):シンプルなものって、どこかクールなのよ。とても大衆的。すごくシンプルだから、いっしょに歌えるし、誰でも入っていける。洗練されたやり方でそれができるの。
その点、DJ Mustardは複雑でもありますよね? 私には、日本の軍隊の音楽のように聞こえるんです。ドラムだけのテンポで、時々全く音がない部分があって、そこに感情が移入するような感じがします。
D:何か孤立したものがあって、それが強烈なものだったら、ミニマリズムでそれを明確に示せることが多いんだ。例えばひとつの音。場合によっては、その音の上にパーカッションが乗ってるかもしれない。たくさん混ざったものを聞いたり解読しようするより、はるかに明瞭なんだ。
A:とくにボーカルがあるとき。プロデューサーにとっては、デッサンみたいに、その何もない空間がとても重要なのよ。シンガーが乗れる場所を見つける必要がある。ところで、ドイツのTop 40はどんな感じ?
ラジオは全然聴かないので、全く分かりません。たぶん、あのショーン・ポール(Sean Paul)の曲じゃないでしょうか。
A:シア(Sia)との曲? 私はあの曲、わりと好きだったわ。もともとSiaが好みだから。
音楽的な才能があるというのは、とてつもない特権だと思います。何かを価値のあるものに変える方法を見つけられるんですからね。自分たちの音楽作りのサンプルを選ぶ方法は、昔とは変わって来ましたか?
A:進化してるわ。常時進行形よ。何かが耳に入って、気になったら、すぐに書き留めるの。そこから、ちょっとした旅が始まる。「エッ! 何これ?」でスタートして、それが何なのか分かったら「ああ!この曲だったんだ」。最終的にはそのレコードを買って、アカペラを手に入れることになるの。全く新しい音をサンプリングしてると、全然思いもかけなかった場所へ辿りつくわ。
意図的に、何かを探すことはありますか?
D:僕はオープンでありたいと思ってる。僕の場合、サンプリングは、耳に入ってきた何かに、自分の耳が反応するところから始まるんだ。その次に、技術的な要素が出てくる。さっきのミニマリズムの話に戻るけど、まわりにいろんな音が付いているものより、孤立した音の方がサンプリングしやすいんだ。孤立していたら、付け足すことも操作もできる。

あなたたちはFade to Mindの最初のリリースとされていますが、Fade to Mindはレーベルになる前はパーティでしたよね? いつ始まったんですか?
D:いや、Fade to Mindはレーベルとして始まったんだけど、みんなで集まっていろんな名前でパーティしてたんだ。でも、そう、2011年の僕らの「Timesup」というEPがレーベルとしての最初のリリース。時々「どうやってFade to Mindと接触したんですか?」なんて聞かれるよ。みんな、Fade to Mindは企業かなんかだって思ってるらしい。そういうときは、「友達の集まり!」って答えてる。
A:ずっと前からみんなでいろんな話をして、音楽やアイデアを交換したり、DJしたり、いっしょにパーティしたりしてたのよ。要するに、友達同士でやるようなこと。エズラ(Ezra)とウィル(Will)がレーベルに付ける名前の候補を書き付けたメモは、今でも覚えてるわ。
その前は、Wildnessというパーティでしたね。
A:そう。ダニエルと私、そしてTotal Freedom、あとウー・ツァン(Wu Tsang)が、マッカーサー パークの「シルバー プラター」でWildnessを開いたの。あのパーティのおかげで、あのエリアにはシーンができてた。だから、Fade to Mindがパーティを始めたときは、少し新しい方向へシフトしたけど、それでもいつもの顔ぶれが集まったわ。そういうのってロサンゼルスでいつも起こることじゃないから、すごくいい気分だったわ。ロサンゼルスって言えば、ハリウッド風のクラブになっても不思議じゃないんだもの。
あなたたちの音楽は、私が「アナーキストのセックス ダンジョン ミュージック」と呼ぶカテゴリーに入ると思っています。
D:何それ。スゴくいいね。僕は本当に「ダンジョン」って曲を作ったことがあるんだ。発表はしなかったけど。でも、気味悪い場所とか、不吉な建築とか、牢獄とか工場とか、そういうものについての曲なんだ。
クラブという場所やそういう終末的な音楽は、世界が突入しつつある過剰なナショナリズムの時代に向けて、私たちを準備しているのでしょうか?
D:残念ながら、そんなことはないよ(笑)。良い考えだけど、最近の出来事はスゴい現実だよね。僕は、自分がこの終末的な音にどれほど集中してきたか、それが終末的な現実に向けての準備なのかどうか、ずっと考えてるんだ。でも、音と実際の体験を同一視するのは、ちょっと無理があると思う。互いに繋りはあるかもしれないけど、クラブの中で体験する放縦や快楽と現実は違うからね。終末的な音を聞くときは、人といっしょにいたい。踊って、体を動かすんだ。
音楽、少なくともクラブ ミュージックの作用はとてもロマンティックで、政治的な領域には入れないということですか
D:クラブ ミュージックは、いろんな方法で作用できる。例えば、2人の男がいっしょにダンスをすることさえ法律で禁じられた時や場所にいるとする。そこで、ストーンウォールの反乱が起こる。その現場では、本物の反抗の感覚が発生したんだ。
もしくは、その後、1980年代のボールルーム カルチャーですね。ドキュメンタリー映画の「パリ、夜は眠らない」に描かれていたような。
A:私にとって、あれは、本当にユニークでパワフルなダンスやクラブ カルチャーを教えてくれる、とても重要な実例よ。完全に自分自身になれる空間…自由! コミュニティの中に堅固な足場を据えるほど、私たちは強く大きくなれるのよ。
D:音楽は、愛を感じることでもあるし、怒りを感じることでもあるし、様々な感情で結び付くことだ。そのシーンがどれだけひとつの場所、ひとつのコミュニティとして機能しているか、そのことが大切なんだ。


果たして、人々は今もクラブにいるべきなんでしょうか? クラブの中でも、世界で起きていることに対する意識を話題にすることはできますが、あの空間で長い時間過ごして、社会に貢献できているのかと、私自身よく疑問に思うんです。
A:パーティだけじゃなくて、やらなきゃいけないことは確かにもっとあるわ。でも、踊って心の痛みを忘れることも大切よ。ロサンゼルスに限らず、大都市はみんなそうだけど、私たちは小さく閉じた世界で生活することができる。自分と同じように多様性や多文化主義を信じる人たちがいて、一緒にデモにも行ける。それは素晴らしことだわ。だけど、世界中、どこでも同じなんだっていう印象を持ってしまう。アメリカ中西部にあるクラブを想像してみてよ。オクラホマ州のゲイクラブとかね。今、それがとっても大切なはずよ。
D:クラブについて考えてみると、クラブにはいろんなレベルがある。クラブは、いちばん行くべきでない場所でもありえる。極端に資本主義的なクラブかもしれない。でも、それとは全く反対に、同じような考えの人たちが集まって、タブーを破って、帰属感があって、いろんなことに反抗するクラブに参加することだってできる。
現在の状況が、次のレコードの制作に反映されると思いますか?
D:それは分からない。誰かが「少なくとも、アートはすごく良くなるだろう」なんてうっとうしい意見を投稿してたよ。面白いね。
A:A Tribe Called Questのアルバムは、ほんとに爽快だったけどね。みんな、「トランプ後」のジャンルって呼んでるわ。明らかに、あの人たちはそういう話題について意見を主張して、トランプが選ばれる前に曲を作ったのよ。つまり、ああいう問題は、トランプが大統領になることとは無関係に存在してた証拠よ。
D:みんな、自分が作るアートや音楽に対して、もっと誠実になる必要がある。ポップミュージックには一定レベルの消費がある。それと、どうしようもない女性蔑視。例えば、誰かが金についてラップしているのを、本当に聞きたいかい? いつも金のことだけ話すなんて、ドナルド・トランプがやることだ。ソーシャルメディアで、金まみれの姿だけをポストしてる人がいるよね。ソウルジャ・ボーイ(Soulja Boy) とか。別にソウルジャ・ボーイが嫌いなわけじゃないけど、僕は今、そんなことに全く興味がないね。
今作っている新しい作品は、どんな雰囲気ですか?
A:次に発表するのは、私のソロEPよ。どんな音かというと…どんな音だろう?
D:ソファの音楽だよ。くつろいだ感じ。
A:そう、くつろいだ感じ。今までよりハッピーなメロディーがあるわ。Awful Recordsのすごく素晴らしい、情熱的で表現力豊かなシンガー、アレキサンドリア(Alexandria)が参加してる。でも、どうかしら、私がハッピーでポップだと思うサウンドって、誰もそう思わないのよ。
D:ジャズっぽくもあるよね。
A:そうね。私のEPはちょっと変わったんだと思うわ。ダニエルが「ジャズっぽい」と言っても、私は「え! ジャズっぽく聞こえる?」って感じだから。もっと可愛らしくて、ゆるくて、音に酔いしれてる感じだと、私自身は思ってる。
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- 写真: Cameron McCool