オフセット、
始動
カーディ・Bとの破局前、ラッパーが率直に語った家庭生活と新アルバム
- インタビュー: Judnick Mayard
- 写真: Stefan Kohli

昨年末、ラッパーのカーディ・B(Cardi B)が、夫であるオフセット(Offset)と離婚することを発表した。その1週間後、今度はオフセットが妻の許しを請う動画をアップロードした。どうか考え直してくれ、それがオレが願うクリスマス プレゼントだ…。ファンは復縁を応援する #TakeOffsetBack キャンペーンを始めた。そして、誕生日でありソロ アルバムのリリース予定日でもあった12月15日の翌日、直に懇願すべく、オフセットは妻のステージに乱入するという軽挙をやらかした。白いバラの背景に赤いバラで「Take Me Back Cardi – 戻ってくれ、カーディ」と綴ったアレンジメントを登場させて、「Rolling Loud」フェスティバル初の女性ヘッドライナーとして出演したカーディのパフォーマンスを中断させたのである。明らかに間違った選択だった。
大衆の面前で夫婦の修羅場が演じられる前、近く発表されるソロ アルバム第1作について話を聞くため、私はロサンゼルスにオフセットを訪ねた。ソロ アルバムの制作は順調だったらしいが、すべてが秘密裏に進められ、シングル カットどころか、アルバムのタイトルすら発表されていない。だが数少ない情報をつなぎ合わせると、どうやら家族としての新しい生活と愛がテーマらしかった。
朝の空気はすがすがしくて肌寒い。セット代わりに使っている家の管理人は室内の喫煙を厳しく禁止しているので、オフセットは寒くてしょうがない。チームと一緒に外へ出たり中へ入ったりを繰り返した挙句、オフセットは厳格な管理人を脇へ呼んで、プールの傍でお喋りを始める。どうやらお目こぼしが認められたようだ。オフセットが携帯に表示した写真を指差して、女性管理人が「まあ、可愛い」と感嘆の声を挙げたのが聞こえる。その当時、オフセットとカーディがまだ写真を公表していなかった6か月の愛娘、カルチャー(Kulture)の写真を見せているのだろうか。
実のところ、私たちは、腰を下ろして話せたわけではない。オフセットは、スタイリストと話を続けながら、私に質問をせかした。きちんと考えた率直な答えはもらえたが、あくまで手短で、寸断される場合もあった。
だが、インタビューには緊迫した一瞬もあった。10年もラップをやってきて、ラッパーとしては年を取りすぎたんじゃないか、と暗に私がほのめかしたときだ。オフセットは気色ばんで答えた。「何年やってようが、まだ若いことには変わらないさ」。年を重ねるということは、時の流れとともに自分自身を理解することに他ならない。私たちは、多くの場合、追い詰められて初めて、やむなく自分を振り返る。残念ながら、その時、すでに過ちは犯された後であることがあまりに多い。目前にぶら下がった正式な離婚に混乱し、アルバムのリリースも延期され続ける中、オフセットは「どうしたらいいか、まだ考えてる」最中だ。

ジュドニック・メイヤード(Judnick Mayard)
オフセット(Offset)
ジュドニック・メイヤード:では、先ずアルバムについて話して。細切れの情報は多少あるけど、先行発売のシングル カットもないし、どんなアルバムになるのかほとんど予想がつかないんだけど、そういうやり方を選んだのはどうして?
オフセット:あらかじめ1曲か2曲をシングル カットして、あちこちでかけまくるのが今のやり方だよな。最低。オレはそういうやり方はしてこなかった。なんせミックステープの世代だからな、自分のやってることがどういう出来上がりになるか、最初からわかってるわけじゃない。それでも結局、最後にはちゃんとわかるんだ。ファンがその答えを教えてくれる。
つまり、ファンにヒントすら与えたくない、ファンの直接的な反応を知りたいってこと?
悪いが、そういうこと。ファンに選んでほしいんだ。アルバムの中でどれが一番か、ファンが教えてくれるさ。どれか1曲を、至るところで耳にするようになる。その曲を選ぶのはファンだ。オレの言ってること、わかるだろ?
どんなサウンドのアルバムなの? これまでで最高のラップ?
もちろん、最高だし、新しい。もっと深いところ、ハートから出てきたラップだ。それに、色んなフローを入れてる。ただし、オレがやるのはあくまでラップ。最近は自分のフローがなくて、オートマチックにはめてるアーティストが多いだろ。すごく多い。ああいうのは、全然やる気ないね。オレたちは這い上がってきたんだ。だから、みんなが聴きたがってるのもそれだ。それがみんなが毎日生きてる現実だからな。ロールスロイス レイスを乗り回してるやつなんかいないぜ。今の黒人カルチャーは – 世界全体もだけど – 貧乏人のほうが金持ちよりよっぽどパワーがあるんだ。だから、そういう現実の生活を歌わなきゃダメだ。みんなが毎日目にする本当のことだけ。そういう原点へ戻るんだ。


ラッパーっていう仕事はかなりハードだし、関わってる時間も長いよね。その点ではラッパーのライフスタイルも同じ、しょっちゅうツアーに出てる。そういう生活で、仕事以外のことと、どうやって繋がっていられるの?
オレは今でも仲間と顔を合わせるし、地元からかかってきた電話に出る。話を聞くし、オレのことも話す。そうやって、みんながどういう暮らしをしてるかちゃんと知ってる。5万ドルが一生を左右する生活だ。だから最近は、ジュエリーを買うのを少なくして、投資を始めた。価値が下がるものじゃなくて、価値が上がるものを買うんだ。例えば、電気代やらなんやらを払うのに300ドル用立ててくれって頼まれるだろ? そしたら、オレは1000ドル送る。みんな、電話で泣くほど感激するんだ。
オレが今ほどビッグなアーティストになる前は、みんな、オレという人間をよく知らなかったと思う。オレも教科書通りのやり方はしてこなかったけど、結果は出した。遅すぎるってことは絶対ない。オレは今でも一線のつもりだし、ずっとその心構えでいるつもりだ。そうやって、最大限踏ん張るんだ。プレッシャーはあるさ。オレがやり通せることを証明しなきゃいけないし、実際、やり続けてる。メディアはあれこれネガティブなことを書きたてるが、本当のことじゃない。オレには子供が4人いる。だから、子供のこと、家族のこと、一家の主であることをラップするんだ。
現実の生活ね。グループじゃなくて、自分個人の生活。
ソロ アルバムを出すってのはまったく違う感覚だけど、オレの用意はできてる。
この2年は激動だったね。子供は4人になったし、今年は結婚もしたし。結婚は初めてでしょ。
グレートな2年、ビッグな2年、まさしくマッチョマンの2年。本気で、オレの人生の大きな前進だと思う。

どういう具合に? 家庭人になるために、どう妥協する?
神はすべてをお見通しさ。結婚したら、自分だけのことを考えるわけにはいかないんだ。ふたりのことを考える必要がある。何かを決めるときも、ふたりで話し合わなきゃいけない。隠し事もダメだ。なにもかもひとつにする。結局、そういうことだな。
結婚とグループとしての活動には、似てるところがある? それとも、違いのほうが多い?
全然、別物。結婚は神の御業だ。グループも神の御業ではあるけど、一緒にはできないさ。愛情を注ぐのは同じでも、まったく違う。
私は別に、どんな種類の答えも予測してるわけじゃないんだ。ただ、最初に話したアルバムとどう関わるのか、そこを聞きたいの。
つまり…グループの場合、メンバーにはそれぞれ帰る家があるし、それぞれの生活がある。オレとワイフの生活は、一緒の家で暮らすし、請求書を払うのも一緒だし、何もかもふたり一緒。初めてのことだけど、はるかにいいことなのは絶対確かさ。ファミリーとグループで、オレの愛情が違うわけじゃない。とにかく、グループと結婚は違う。結婚は、ふたりもその他のことも全部ひとつにするんだ。
あなたは4人の子持ちだけど、カーディにとっては1人目よね。どんな関係になってる?
ああ、カーディはよくパニクるから、リラックスしろって言うんだ。子供の扱いは、オレ、もう全部わかってるつもり。どうやったらカルチャーが泣き止めて静かになるか、とか。だけど、カーディは覚えるのが速い。色んなことをどんどん覚える。まだ小さい赤ん坊は、欲しがってるものを即与えなきゃダメなんだ。赤ん坊の要求を満たしてやることだ。
さっき「一家の主」って言葉が出たけど、「一家の主」になると、今までと違うやり方をしたり、物の見方を変えなきゃいけないみたいね。
オレの弟は今カレッジに通ってるんだ。その血を分けた弟が、ちょっとまずいことがあって、「ガス欠なんだけど、ガソリン入れる金がないから30ドル融通してくれないか」って言ってきたんだ。それも大真面目だぜ、たったの30ドルのことで…。オレ、泣きそうになったね。オレはそういうところから這い上がってきたんだ。これまで色々あったけど、とにかく、ここまでやってきた。


例の自動車事故も、色々あったことのひとつ?
そのとおり。あれは生死の分かれ目だったからな。車の壊れ方からして、80%の確率で、ドライバーがフロントガラスから飛び出して、木に激突して死んでても不思議はなかったんだ。オレは、目の周りの骨とほかのところを骨折したけど、フロントガラスからは飛び出さなかった。歩いて家まで帰ったんだ。10分くらいの距離だけど、明け方の4時だったから、誰もいなくてさ。1人、車を止めて、助けてくれたやつがいた。それから、家に歩いて帰る途中だった奴も。ふたりの子持ちでな、仕事から帰る途中だったって言うんだ。わざわざオレを助けてくれた礼に、車をプレゼントした。
事故のとき、どんなことを考えてた?
今でも時々きな臭い匂いを思い出すけど、あのときは、「まだ死ねない」、とにかくそればかり考えてたな。こんな事故で死ぬわけにいくか、絶対嫌だ。オレを頼りにしてる人間がたくさんいるんだ。大声で喚きながら、家に向かって歩いた。「クソ、こんなことで死ねるかよ」って怒鳴りながら、自分で自分を励ました。今でも覚えてるさ。絶対忘れないね。
家族の反応はどうだった?
オレはわりかしすぐ正気に戻ったけど、自分の身に起こったことが信じられなかったな。オレが血まみれで辿りついたとき、家にはカーディがいたんだ。それも妊娠中だぜ。だから「病院へ行く」って言いながらさっさと2階へ駆けあがったけど、カーディは泣いたり叫んだりだ。でも、その次の日に退院したから、みんなびっくりしてた。医者も驚いてた。病院を出て、レコーディングしたんだ。病院から出た足でそのままレコーディングへ行って、それを撮影したちょっとドキュメンタリー風の動画もアップした。
どうして、レコーディングがそれほど大事だったの?
自分に起きたことを言葉にする必要があったから。気分は最低だったし、オレの人生も何もかも、最悪な気分だった。だから、とにかく病院から出て、ラップしたかったんだ。
もっと深いところ、ハートから出てきた、新しいラップだ

あなたの話を聞いてると、新しい経験を求める段階に来たみたいね。必ずしも、自分個人としてではなく、世代全体として…。色んなことをひとつに集約して、あなたのレガシーを作ろうとしてるみたい。
オレは金を稼がなきゃいけないんだ。音楽で稼ぐだけじゃない。音楽で稼ぐのはもうできる。もう何百万ドルも稼いだ。だから、今度はほかのことで何百万も稼ぐんだ。40になるまでに1億ドル。それだけあれば家族が一生困らない。子供たちも不自由しない。黒人が成功できないのは、実現するだけの資本がないからだ。オレは誰とでも組みたいね。そのほうが面白いしな。誰かとネットワークを作ったら、それがどこまで広がっていくか、想像もつかないぜ。競争じゃない。みんなで何かを始めて、それを最高にビッグなものにしていくんだ。今ヒップ ホップが一番ビッグなのは、ありとあらゆるキッズが入れ込んでるからだ。キッズ全部だ。ひとりじゃなくて、キッズ全体。そうやって、ヒップ ホップは音楽で最大のジャンルになったんだ。
確かに、最大のメインストリームではあるわね。
だから、年くったラッパー連中がグダグダ言うのを聞くと、いいから黙れよ、って思うんだ。オレたち若いラッパーに敬意を払ってほしいよな。確かに今のようになるまでの露払いはしてくれたけど、結局、今ほどビッグにはできなかった。そうだろ?
ずっとヒット チャートのトップを占めるほどには、できなかった。
そうさ。オレが自分たちの若い頃と似てないからって、腹を立ててもしょうがないんだ。今ほどラップをビッグにできなかったってことは、若い頃のスタイルとやらがその程度だったってことだ。オレは若いやつらとは組むけど、そういう年をくったやつらとはほとんど関わらない。誰が有名なのかも、よく知らないし。
フレッシュな感覚がない、今という状況に合わないと感じるのね。
オレのタイプじゃないね。オレには合わない。第一、新しいラップを作ったからこそ、オレやミーゴスは一線にいられるんだ。黒人のラッパーはみんな自分の手柄みたいに言ってるが、本当はそうじゃない。ちょっと考えてみろよ。ミーゴスがいなかったら、今頃、ラッパーはいなかったはずだぜ。今ほどの数のラッパーはいなかったはずだ。断言する。それ以上言うことはない。その昔トレンディーだったラッパーでも、今の時代だったら、それほど人気はないだろうな。


ミーゴスが一番大きく変えたのは何だと思う?
フローとサウンドだな。服のスタイルなんてどうでもいい。ラッパーは誰だって自分のスタイルがあるもんだ。Gucciがどうだの、みんな好き勝手なことは言えるさ。だがフローに関する限り、黒人ラッパー全員に「ミーゴスをコピーしました」と認めてほしいね。はっきり言うけど、ラッパーひとり残らずだ。Twitterの「全員、オレに感謝しろよ」みたいな、ほのめかしのハッシュタグを見てみろよ。黒人連中が、自分の手柄でもないことを自慢してるから。でもオレは、誰かさんの音楽を2013年からずっと演奏し続けるなんて気長なことは御免だな。
じゃ、今フローを変えるとしたら、どういう感じ?
フローを変えるというより、発展だな。ほかのやつらがどうやったらいいかわからないことをやる。最初にやったやつと全く同じに真似することは、絶対できないんだ。
トレードマークと同じ。
そのとおり。

Judnick Mayardはロサンゼルス在住のシナリオライター兼プロデューサー
- インタビュー: Judnick Mayard
- 写真: Stefan Kohli
- スタイリング: Zoe Costello
- ヘア: Nate Grizzy、Lady Lockz
- 制作: Emily Hillgren
- 制作アシスタント: Stephanie Bayan
- 映像監督: Michael Mauro
- カメラワーク: Nate Hosseini
- 動画編集: Orlando Urbina
- カラーコレクション: JT West
- 音楽: “Elephants” by Quickly, Quickly