西海岸の申し子
サウィーティー

現代のマリリン・モンローを生きるベイエリアの新進ラッパー

  • 文: Molly Lambert
  • 写真: Aidan Cullen

ロサンゼルスのウェストサイドにある50年代に建設された共同住宅で、サウィーティー(Saweetie)ことディアモンテ・ハーパー(Diamonté Harper)は、カリフォルニア出身の金髪美女に変身するところだ。今日のテーマは「氷のように冷たいマリリン・モンロー(Marilyn Monroe)」。チームは、誰もが知るハリウッド女優のグラマーなスタイルに、彼女を着飾っている。スウェットシャツで到着した彼女は非の打ち所がなく、マルチタスクをこなす姿はいかにもプロで、ヘアスタイリストとメイクアップ アーティストが作業している間も、次から次へとラジオのインタビューに答えている。50年代のマリリン・モンローのように、サウィーティーも自力でのし上がってきた、天賦の才能により人気上昇中の新進気鋭のラッパーだ。2016年、彼女はキア(Khia)の「My Neck My Back」のビートに乗せて、自分がラップをしている姿をInstagramに動画で投稿した。これが後に、彼女の最初のヒット曲「Icy Grl」になった。

カリフォルニア州ヘイワード生まれのサウィーティーは、ベイエリアとサクラメントで育ち、その後、南カリフォルニア大学に進学するためにロサンゼルスへ行った。卒業後もロサンゼルスに残り、そこからミュージシャンとしてのキャリアを積むため活動してきた。現代のマリリン・モンローという、セックス シンボルとしての彼女は、野心的でありながら、謙虚でもある。彼女のステージネームが示唆するように、彼女にはカリフォルニア出身の少女特有の、どんなときもすべてをカジュアルかつキュートにこなす能力が備わっている。ドレスアップしようが、ドレスダウンしようが、彼女はいつも寛いで見える。それは、Instagramに投稿した「High Maintenance」のティーザーのように、キッチンでアスリージャーに身を包みラップをするときも、写真撮影のため着飾っているときも変わらない。サウィーティーは、何をするときでも常に、完璧主義なまでの労働意欲で臨む。彼女にとって「手間がかかる(high maintenance)」というのは、つまりは高い水準が要求されることを意味する。

「Icy Grl」が広く一般に知られ、成功を収めた理由について、彼女はこう話す。「口コミの結果だと思う。それほど自然な盛り上がりだったから。実際、勝手に人気が出ちゃった感じ。これほど事が大きくなるとは予想もしてなかった」。ネットでブレイクする新たなラッパー世代のひとりとして、彼女は「ソーシャルメディアは新たなストリート」と力説する。「街角に立ってミックステープを配ってまわる代わりに、ネットに投稿するのよ。そうやってファンに曲を聴いてもらうの」。サウィーティーは、つい最近まで、ただ自分でネット上で曲を発表し、セルフ プロモーションを行っていたときのことを振り返る。「前はSoundcloudを毎日チェックして、ストリーミング回数がどうなっているかよく見ていたけど、今じゃ、見もしないわ」。そこで一旦言葉を切り、続ける前に笑顔を見せる。「クレイジーよね」。彼女は自分のことをSoundcloudラッパーだとは考えてはいない。現に、昨今の「Soundcloudラッパー」という言葉から連想される、フェイス タトゥーやエモラップと、彼女の音楽を聞き間違えることはありえないだろう。だがSoundcloudからのし上がってきたのは事実で、彼女が忠実なファン層を築くことができたのは、そこで生まれた消費者との直接的な関係のおかげだ。そこでは、「どんなものがうまく行って、どんなものがうまく行かないかを試すことができる」のだ。

フェスでの演奏やミュージック ビデオの撮影、ゼイトーヴェン(Zaytoven)やデュア・リパ(Dua Lipa) らの楽曲にゲスト出演したレコーディングの合間に、サウィーティーは、クエヴォ(Quavo)のソロ デビューアルバム『Quavo Huncho』に、彼女が言うところの「ちょっとしたカメオ出演」を果たしている。サウィーティーはクエヴォとの交際の噂についてはずっと明らかにしようとしていなかったが、実生活では、どちらかのファンからふたりでいるところを定期的に目撃されていた。クエヴォは自分のInstagramにふたりの写った、うっとりするような逆光の写真を投稿した。また、その前夜には、彼女はアルバム『Quavo Huncho』のリリース記念の豪華なパーティーに出席していた。とはいえ、彼女の安眠が妨げられているわけではない。そのパーティーの話になると、彼女の顔がパッと明るくなり、「すばらしいパーティーだったわ」と言う。「とても演劇的で、会場全体にいろんなステージやセットがあって、アルバムの曲が進むにつれ、セットがひとつずつ現れては、幕が降りるようになっていたの。すごい体験だった」

着用アイテム:セーター(Gucci)

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ラッパーの別名にはアーティストの性格の別の側面が出ることがあるが、サウィーティーは、彼女にとっての「Icy Grl」は「まさに自分自身そのものという気がする。私は見たままの人間だから」と言う。土臭さがきらびやかさと対立することなく共存している様は、とてもベイエリア的だ。サウィーティーも同意する。「どういうわけか、ベイエリアに行くと違いがわかるのよね。本当にたくさんの独特な個性がある。すごく特別な場所よ。ベイエリア出身であることが、自分のあり方に影響を与えていると思う。もうひとりの自分なんて必要ないって気がするもの。ただ自分があるだけよ」。ケラーニ(Kehlani)など「Icy Grl」のリミックスにゲストとして登場した他の女性アーティストと同じく、サウィーティーは、カリフォルニアのラップを前面に押し出し、あえてチープな音で思い切り盛り上がるスタイルを貫くことで、ハイフィーをリスペクトするベイエリア出身のアーティストたちのひとりだ。「私はあのベイエリアのサウンドを組み込もうとしてきた。だって、ハイフィーは本当に独特だから。そして本当にキャッチーで、ベース音がいつもすごいの」

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彼女が有名人となった今、人々は彼女を他の女性ラッパーに対抗させようとし始めている。「すでにそれは起きているわ。でも、それはそういうものとして、私は構わないようにしてる。構う理由もないから」。ソーシャルメディアでヘイターたちによる荒らし行為にあうことについて尋ねると、彼女はこう答える。「1日の終わりにやることがこんなことなんて、あの人たちは皆、よっぽど惨めに違いないわね」。そしてこう加える。「正直に言うと、ソーシャルメディアは大好き。でもソーシャルメディアを見ていると、中には本当に変な人がいるってことがわかるわ」。そして、新しいプロジェクトが控えていることもあり、近頃の彼女はソーシャルメディアを中断することなどできないのだ。

サウィーティーの音楽には、ロサンゼルスからベイエリアに至る西海岸的なものが核になっている。だからガンガン大音量で鳴らして聴きたくなる。彼女の音楽は、まっすぐに長く伸びた通りを運転しながら車の中で聴くと最高にいい。「私、運転はすごくうまいのよ」とサウィーティーは笑顔で言う。「逃走車のドライバーだってできるかも」。 撮影のために外に駐車してあったビンテージ カーを運転できるかもしれないと聞いて、大喜びだ。トゥー・ショート(Too Short)のビートに乗せてラップをしていたが、彼女のラップには常に、アグレッシブでありながら、なおも最高の西海岸のラップに特有のゆったりとした雰囲気がある。すべてのカリフォルニアの女の子たちと同じく、彼女にも強い自尊心があるので、トゥー・ショートに合わせて「ビッチ」と叫ぶのを楽しむことにも、なんら矛盾を感じない。サウィーティーは、男性ラッパーのマッチョな自惚れに対する女性版の結果と言えるかもしれない。だが同時に、彼女は、自分にふさわしくない男などさっさと捨て、代わりとなるふさわしい男を探そうと呼びかけて、自分の音楽の中で弱さを出すことも厭わないのだ。

Molly Lambertはロサンゼルス在住のライターである

  • 文: Molly Lambert
  • 写真: Aidan Cullen
  • スタイリング: Mikiel Benyamin
  • メイクアップ: Sydnee Horn
  • ヘア: JStayReady
  • 制作: Emily Hillgren