インスタ−リアリズム

オンラインのフィードを描画するジョージア・ベイリスが、Off-Whiteとコラボレーション

  • インタビュー: Rebecca Storm
  • 写真: Rebecca Storm

Off-Whiteのヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)から依頼されて、彼の最新コレクションの制作に貢献した人々のポートレートを描くジョージア・ベイリス(Georgia Bayliss)は、ルネサンス期のドイツ人肖像画家ハンス・ホルバイン(Holbein the Younger)の現代版である。彼女が描く細密な鉛筆画は、技術が才能を測る物差しだった時代を思い出させる。現代のビジュアル アートと言えば、コンセプトに頼って斬新と平凡を区別している作品があまりにも多い。そういう作品に出くわすと、何が何なのか誰も理解できなくても、とにかく馬鹿だと思われないように「良い作品だ」と言ってしまうかもしれない。あまりにもコンセプチュアルな作品だと、混乱することのほうが多いから、批評するのも躊躇われる。ますますイメージに溢れて抽象化する世界の中で、過負荷に押しつぶされそうな私たちの精神が渇望するのは、まさにきめ細やかな手仕事ではないだろうか。ベイリスは、コンセプトとはほぼ無縁に描く。その一途にテクニカルな作品の簡潔さは新鮮だ。

Rebecca Storm

Georgia Bayliss

レベッカ・ストーム:あなたの人生で、描画はいつも大きな部分を占めていたのですか? 始めたのはいつですか?

ジョージア・ベイリス:本格的に始めたのは、ほんの2年前。でも、グラフィック デザインを勉強するために学校へ行って、そこで私は手描きがいけそうだって分かったの。画像を合法的に自分のデザインに使えるように、鉛筆で描き直すプロジェクトが何度かあってね。けっこう上手にイメージを再現できると分かったのは、その時が最初。最終学年でクラスをとって、少し自信がついてきたわ。

では、ほとんど独学ですか?

そう言えるかもね。学校時代はあまり手描きに打ち込まないままで終わったの。本気になったのは、もっと最近。私の生い立ちに興味があるかどうか分からないけど、私がアートのクラスをとるのに躊躇して結局デザインを専攻したのは、私の生まれ育った環境の影響が大きいのよ。

なぜ躊躇したんですか?

私が子供の頃、母は女優だったの。それで私は、フリーランスのアーティストだった母の苦労を見て育った。不安定で金銭的にも苦労して。それが間違いなく私に影響したわ。母のおかげで私にもアーティストの感性のようなものがあったし、そういう意味では母の存在は常に励みになったわ。でも、苦労を知ってたから、フリーランスのクリエイティブな仕事は選ばないと決めてたの。だからデザインの道に進んだのよ。自分にやれそうで、いちばん安定した仕事に思えたから。

現在のようにデジタルな画像や写真が溢れている環境で、フォトリアリズム的な手描きのどこに面白さを感じますか? 非常に簡単にデジタルで画像を作ったりデジタル作品をキュレーションできる時代ですが、あなたにとって手描きはどれほど重要で、どのように現代と関連するのでしょうか? より有機的な手法への愛着ですか?

それでなくてもイメージが溢れてる世界にもっとイメージを付け足そうなんて、思ったことないわ。そういう世界は、私たちが私たち自身のために作り出した環境だと思うの。人間って視覚的な存在だから。私がフォトリアリズムを実践するのは、もっぱら自分のためよ。上手くできたときは、すごく満足するから。写真のレタッチもするんだけど、私にとっては同じようなプロセスよ。単調で、細かくイメージを構築していく作業だけど、とっても楽しくて、退屈なんて思わない。私はもともと辛抱強い性格じゃないんだけど、描くときはいくらでも忍耐強くなれるの。こういう作品を作るのは、私の本能だわね。私はファッション業界で働いて、ファッション イメージに集中して、ファッション イメージに囲まれてきた。だから、ファッション イメージからのインスピレーションと、ビジュアル アートへの興味の両方が組み合わさった結果が私の作品だと思うわ。

つまり、作品のコンセプト作りに長い時間を費やすより、制作する過程のほうが重要なんですね?

そう。それは間違いないわ。学校にいたときは、いつもそこに歯痒さを感じてたの。作品の根底に立派な主張を持たせる代わりに、プロセスや技術に集中してしまう自分に、いつも引け目を感じてた。そういう気持ちを無理やり押しのけてたような感じ。あの頃はテクニックに集中するしかなかったんだと思うわ。今は、自分の仕事を客観的に見始めて、自分が制作するものに対してもっとコンセプチャルに考えるようになったと思う。

描くときは、そのための時間を確保するんですか? 日課のようなものはありますか?

それがまさに現実逃避的なプロセスなのよ。私の場合、「はい、座って仕事を始めましょう」ができないの。そういうふうに仕事をして、締め切りを守ろうとしてはみたんだけどね。出先で描いたり、細切れの時間で仕事をするのが、どうも難しいのよ。理想は、何の予定もない日に、自然に目が覚めたときに起きて、それから描き始めて、何時間も何時間も描き続けること。ある意味で瞑想的なの。何であれ、その流れを壊すようなことはお断り。そういうふうに描き続けられる1日がいいわね。

最初はセルフポートレートを基にして描くんですか?

主に、ソーシャルメディアやTumblrから持ってきた画像を参考にしてるの。今は、自分の参考資料を作り始めてるわ。そのほうが私自身にとって意味があるから。でも、オンライン上のイメージはそれ自体で面白いのよ。結局Off-Whiteとのコラボレーションが始まったきっかけも、それだったし。

プロセスや技術に集中してしまう自分に、いつも引け目を感じてた。

そのようですね。どうやってコラボレーションの話になったんですか?

去年、友人のザック(Zach)とアリックス(Alix)を通して、ヴァージルに会ったの。ヴァージルがモントリオールのÉcole PrivéeでDJをする前に、紹介されたの。その時、彼のコレクションが何からインスパイアされたかという話になって、若いリアム・ギャラガー(Liam Gallagher)と当時の彼のガールフレンドだったパッツィ・ケンジット(Patsy Kensit)がインスピレーションの代表だって話だったわ。次の日、インスタグラムで私の絵を見て、コレクションのためにリアムとパッツィのイラストを描いて欲しいって依頼されたの。そういう経緯よ。

ふたりのポートレートを描くだけの依頼だったんですか?

そう。ポートレートを描いたわ。ヴァージルは私が主に人の顔を描いてるのを知って、その時のコレクションが人物からインスピレーションを受けていたから、共感したんだと思うわ。今はオブジェクト中心の別のプロジェクトに取り組んでるところだけど、これについてはどの程度話していいか分からない。ヴァージルが、私とのコラボレーションに対してすごくオープンで嬉しかったわ。基本的に彼は若い新進のアーティストとの繋がりがあって、それが彼のブランドをとても魅力的なものにして理由のひとつだと思う。彼が現代の文化をきちんと理解していることが、デザインに表れてるわ。

Off-Whiteはハイ ファッションとストリートウェアの架け橋を自認していますが、あなたの作品はハイ ファッションの世界とストリートウェアの世界のどちらに向かっていると感じますか?あるいは、中間のどこかでしょうか?

私の作品は彼のブランドにすごく似ていると思うわ。Off-Whiteと私の作品には強い類似がある。ストリートとは何か、ハイ エンドとは何か、という白と黒のあいだのグレー ゾーンにOff-Whiteは挑戦してる。私が描く絵もそれに近いわ。相性が良いのよ。

デザインを勉強したことを考えると、あなたがイラストレーションへ方向転換をして、一周回って洋服のデザインへ戻ったのも頷けますね。例えばインスタグラムで見つけたものを描いているとき、描くことでその画像の意味を変えているような気がしますか?

誰かのインスタグラムの写真をとてつもなく細かく手描きする過程には、面白い要素があるのよ。私は、Tumblrに掲載された画像の海からひとつのイメージを抜き取って、それに新しい重要性を与える。明らかにiPhoneで撮影したセルフィーを描くことで、意味は少し先へと進む。手書きの作品は文化を表現するのよ。

それでなくてもイメージが溢れてる世界にもっとイメージを付け足そうなんて、思ったことないわ。そういう世界は、私たちが私たち自身のために作り出した環境だと思うの。 人間って視覚的な存在だから。
  • インタビュー: Rebecca Storm
  • 写真: Rebecca Storm
  • スタイリング: Sasha Wells
  • ヘア&メイクアップ: Andrew Ly / Teamm Management