ディアナ・ロハスの最新スニーカー登場
セラミック アーティストが陶芸で語るトレンドの熱狂
- インタビュー: Rebecca Storm

履いて歩けない靴なんてどうするの?
「誰にもそんなこと聞かれたことない」と、アーティストのディアナ・ロハス(Diana Rojas)は笑う。 ここは、ニューヨークのベッドフォード=スタイベサント地区、通称ベッドスタイにある彼女のアトリエだ。「でも私の答えはこうよ。履いてるふりをする」。この答えは、彼女の陶芸に対するアプローチにも当てはまる。このセラミック アーティストは、適応していくことで、ほとんど独学で陶芸を習得したと言う。顔を見ただけでは、彼女が誰なのかわからないかもしれないが、ディアナが手がけた作品はひと目見てそれとわかる。Margielaのタビから、Pradaのクラウドバスト、adidasのスタンスミスまで、モチーフは多岐に渡る。ちなみに彼女の作品を、スタン・スミス(Stan Smith)本人も履いている。そしてBalenciagaのトリプル S。彼女の作品は今、Instagram中で話題だ。ペトラ・コリンズ(Petra Collins)は彼女の作品の熱心なコレクターであり、またファンだ。そして『The Cut and Office Magazine』誌のような出版社は、彼女に別注デザインのスニーカーの制作を依頼している。バブルガム ピンクのBalenciagaのクロックスは、『The Cut and Office Magazine』の第8号の表紙を飾った。
双子の姉マーズ(Mars)と共有しているアトリエには、カナリー イエローのクロックスがあり、彼女はそれを私の方に向けると、これらすべての靴がどのように作られているのか見せてくれる。手びねりでヒモを重ねていき、徐々になめらかに形を整えていく。こうして穴の空いたマスト シューズが作られる。ディアナは、大量生産されるラグジュアリー商品を陶芸で再現することで探求する、トレンドをテーマにした陶芸家と言えるだろう。だが当該のラグジュアリーアイテムと違い、この世俗的な作品の面白みは、その微妙な欠陥にある。陶芸から滲み出る手作り感があぶり出す、デザインにおける矛盾によって、作品はさらに面白いものになっている。文字通りの意味でも、歴史的な意味でも「重みのある」陶芸という伝統的手法は、トレンドのように、現れては消え、多くの場合あっという間に精彩を失う世界とどのように交わるのか。彼女の作品はそんな疑問を提起している。


レベッカ・ ストーム(Rebecca Storm)
ディアナ・ロハス(Diana Rojas)
レベッカ・ ストーム:再現する靴を選ぶ基準について教えて。
ディアナ・ロハス:私はBalenciagaのトリプル Sにすごく惹かれるの。あまりにもダサいから。こんな不格好な靴、長らく見たことなかった。高校のときは、皆がEtniesを履いてたから、もしかすると、それが私の思い出に触れるのかも。私が作品を作り上げる方法はいつもバラバラよ。いつだって、これはどうやれば作れるだろう? 造形的にはどうすれば本物に似せられるだろう? っていう挑戦。特にヒールは本当に作るのが難しい。かかと部分がとてもデリケートなのに、その上にくるものはとても重いから。
これらの作品が、はき心地の良さを映し出しているのは興味深いわ。
ええ、今はまさに「快適なスニーカーの時代」だから。世界で起きている、あらゆること言えると思うけど、今は誰もが、どんな方法でもいいから、もう少し心地よくありたいと望んでいるのよ。
作品を通して靴のあり方を変えようとしているの? それとも、新たな可能性を探求しているだけ?
多分、その両方。誰もが靴の機能については知ってると思うけど、だからこそ、従来の文脈から離れたところで靴を見るのは面白い。靴は部分的であれ、それを履く人の物語を語る。工事現場で働いているのか、ハイ ファッションの世界で働いているのか。別のモノに似せて作られたモノを見て、ブランドとかお気に入りの靴とか、それが表現するもののせいで、それにも惹かれ、飾りたいと思うのは、興味深いことよ。


作品の大部分は既存の靴を元に作られているけれど、新しい靴を作り出そうと思ったことは?
最近はそういう作品も作ってるというか、既存の靴に変更を加えているわ。Balenciagaのトリプル Sを、カウボーイ ブーツと組み合わせたり、Margielaのタビ ブーツに変形したりした作品があるの。これはもっと大きい一連の作品として展開したいと思ってる。それか、いつか靴をデザインしてみたい。
最近の靴の多くは、まったく異なるスタイルや既存の靴のデザイン要素を融合させたものだから、このトリプル S ブーツがssense.comで売られてても、まったく違和感がなさそう。しかも冬にぴったり! ちょっとバカげて見えるものが、実は、かなり実用的だったりするから、おかしいのよね。
私もそう思ったのよ!私が考えているのも、そういう実用的に見えるものよ。
トレンドは本当にはかなくて、物事はものすごいスピードで変わってしまう。どうして、それを陶芸のような、根本的に不変のものにしようと思うの? 時を止めようとしてるとか?
私はカニエ・ウェスト(Kanye West)が小さすぎるスリッパを履いている写真から、そのYeezyのスリッパを作ったんだけど、そのあと、カニエとトランプの件があって、これを自分の作品に加えるのは間違ってると感じた。それはもうアトリエに残ってないけれど、作ったこと自体は良かったと思ってる。
それは、あなたの作るものは何でも、ある種の信頼に足る文化的な「足場」が必要だということの表れなんでしょうね。
そうね。すべてのプロセスにおいて、妥当だと感じられないとダメ。通常、制作を始めてから終わるまで約1週間かかる。造形にかかるのは、靴自体のディテールにもよるけど、たいてい4時間くらいで、それからしばらく乾燥させる必要があるの。乾燥に2〜3日かかって、そのあと釉薬をかけて窯入れする。そこでさらに24時間。だから時には、その1週間で状況がだいぶ変化することだってある。


最初に作った靴は?
Nikeのエアフォース1で、アトリエにいるときにずっと履いていたものを元に作ったの。あるとき、ふと足元を見たら、靴が粘土まみれで、そのすり減った様子がなんとなく陶芸みたいで、そこから作品のアイデアを思いついた。
その靴は今も手元に?
姉にあげたから、最初に作った作品は彼女が持ってる。今作ってる他の作品と見比べると、面白いことに、それはここにあるのよりもずっと大切なものに感じられるの。
自分でスニーカーマニアだと思う?
以前はそんなことないと思ってだけど、今は思ってるかも。私はいつも靴を細かく見てるし、スニーカーのシルエットは本当に面白いと思う。ソールも素材も含めて。たとえばスタンスミスみたいに、本来はストライプがあった場所に、穴を開けようと決めた人がいるわけ。こんなにシンプルなことなのに、この穴のおかげでワンランク上のおしゃれな靴になった。ストライプはそこにあると同時にそこにはない。こういうちょっとしたディテールにワクワクしてる自分は、スニーカーマニアだなと感じるわ。しかも、その形を再現するときは、もっとワクワクするんだから。



作品とハイプ カルチャーの相互の影響については、どう思う?
Instagram上では、私は誰もが欲しがるこれらのアイテムを履いてるふりをするの。当然、誰もがそれは陶芸品だとわかってるけど、それでも、そこにはある種の熱狂につながるものがあるというか、それをネタにしてるというか。おちょくる感じ。人々が高い関心をもっている靴を作品にしようと思うことが多いのはそのせいね。靴のミームを作ってるようなものだから。
陶芸は今でも女性的のものという暗黙の了解があると感じる?
歴史的な観点からいえば、明らかにそう。でも、それは変わりつつあると思う。私の作品を見ても、すぐには誰がそれを作ったのかわからないだろうし。
確かに、あなたがストリートウェアという、従来、男性の領域のものと考えられてきたものを扱っているのは興味深いわ。他にどんなアイテムを再現してみたい?
そういうこと!でも、今はJacquemusのマイクロ バッグを作ってるところ。サイズはこれで大丈夫だと思うけど、確実なことは決してわからないの。火に入れるとこの赤色がもう少し暗めの赤になって、それから内側に手を入れて、ゴールドに塗る。ドキドキするわ。ちゃんと手に持てるようなものになったらいいけど。それにいくつかアクセサリーも作り始めてる。Gucciのジュエリーとか。

独学の中で学んだいちばん大切なことは、何だと思う?
私はとても心配性なのだけど、何かが自分の思い通りにならないときは、それに任せるしかないっていうことを学んだわ。陶芸を作るプロセスでもそうだけど、私は形を好きに変えることはできるし、どういう見た目になるか頭に思い描いてはいるけれど、窯に入れてしまえば、それ以上、私にはどうすることもできない。思い通りにならないことに関しても、それがわかったのは、私にとってプラスだった。
双子の姉妹でアトリエをシェアするのはどんな感じ?
すごくいい。ある意味、私の持ち合わせていない言葉を、彼女は文章という形で持ってるんだと思う。この場所に越してくるまで、私はかなり自分にプレッシャーをかけていたの。他の人に見られている感じが嫌で、他のアトリエでは全然作業する気になれなかったし、腰を据えて何かに取り組むのが本当に難しかった。でもそれが自分のチャンスの妨げになっているんじゃないかと思うようになった。ここに来て良かったのは、この場所が、今私がこれをやっているのは、他の誰かのためではなく、自分がやりたいからだということを思い出させてくれること。このアトリエを共有することで、マーズも私を支えてくれているし。今では何もかもがずっと簡単よ。
自分たちの関係が1足の靴みたいだと考えたことは?
今の今まで考えたことなかったけど、面白い! さっそく彼女に伝えなきゃ。
Rebecca StormはSSENSEのフォトグラファー兼エディター。『Editorial Magazine』のエディターも務める
- インタビュー: Rebecca Storm
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