チャニ・ニコラスは星の夢を見る

話題の占星術家が語るヒーリングと天文学、来るべき終末

  • インタビュー: Sanam Sindhi
  • 写真: Angella Choe

今週は「壮大なるアウトドア」に注目し、私たちと「外」の世界の相互作用をテーマにしたストーリーを連載します

私が初めて占星術家のチャニ・ニコラス(Chani Nicholas)のリーディングを受けたのは2017年のこと。当時、一般的な知名度はまだまだだったものの、クィアの占星術オタクたちの間では、チャニは知る人ぞ知る存在だった。社会正義やセルフケアを天体の動きに重ねて語る、独特のスタイルがウケていたのだ。人の役に立ちたい。人生と仕事の基礎にあって彼女を突き動かしているのは、この強い想いだ。チャニ自身は自分の話をしたがらない。だが、綿密に計算しながら話を進めなければ、心の内を明かしてくれないような相手というわけでもない。何時間にもわたり話を聞いて、お腹いっぱいでクラクラしながら帰途についたのに、後になって、まだ彼女のことはほとんどわかっていないことに気づく。そんなタイプの人物だ。インタビューで気づいたのは、私に質問に対して彼女から返ってくるのは、聞き手である私自身のさまざまな実存的危機に対する意味深な答えばかり、ということだった。チャニは特にシャイではないし、妙によそよそしかったり、秘密主義だったりするわけでもない。現に、彼女は嬉々として自分の弱さをさらけ出す。こんなこと、多くの人はセラピストを前にしても無理だろう。そしてその傍で、チャニは言う。「何を聞いてくれてもかまわないわ。それって実のところ、私ではなくあなたがどんな人間なのかを浮き彫りにするから。私はね、あなたの話がしたいのよ」

ヒーリングの観点から占う占星術というのは、それほど目新しいものではない。だがチャニには、この手法を最大限に活かして、人々の共感を呼ぶ言葉で語りかける力がある。こうして彼女は絶大な影響力を持つようになった。秘訣はたったそれだけだ。チャニの言葉はあっという間に拡散される。ここ数年間の活躍ぶりは、まさに大躍進と言えるものだ。一人ひとりの体験に迫り、わかりやすくて、どんな社会層にも通じる星読み術により、今や自身のウェブサイトの月間購読者数は100万人を超える。そして、Spotifyとの長期契約も実現。トークの仕事で世界中を飛び回り、テレビ司会者で慈善家でもあるオプラ・ウィンフリー(Oprah Winfrey)が主宰する雑誌『O, The Oprah Magazine』に連載を持ち、2020年1月にはハーパーコリンズから初の著作『You Were Born For This: Astrology For Radical Self-Acceptance』を出版する予定だ。近々開催される出版記念のブックツアーについて、「私は私。自分のことなんて話したくないのよ。だから、それぞれ訪れた街で、私が人に話を聞くつもりなの。そして、その人たちのチャートや働きについてや、占星術的になぜそれが重要か、なんてことを話そうと思ってる」と、チャニは言う。

チャニはウエスト ロサンゼルス地区にある家で、妻でありビジネス パートナーでもあるソーニャ・パッシ(Sonya Passi)と暮らしている。この家は、ソーニャが代表を務め、ジェンダーに基づく暴力や経済的正義といった問題に取り組む、非営利組織「Freefrom」の本部でもある。南国の植物が生い茂る庭に囲まれ、全面ガラス張りで、開放的でありながら閑静。内にいながら同時に外にいるような、まるで彼女自身を具現化したような家だ。チャニは自分自身の秘密については口を閉ざしがちだ。その反面、彼女と同じくらい捉えどころのないもの、私たちを待ち受ける未来については、熱心に明らかにしていく。今回、自宅で行ったインタビューで、チャニは、占星術の癒しのパワーについて、新たな10年を迎えるため、この10年をしかと終わらせることの重要性について、率直に語ってくれた。

サナム・シンディ(Sanam Sindhi)

チャニ・ニコラス(Chani Nicholas)

サナム・シンディ:世の中には何かとてつもなく強いエネルギーが宿る場所がある気がします。言葉にするのは難しいのですが、感じるのです。私にとってロサンゼルスはそういう意味で特別に思えるのですが、ここに移ってから人生が変わったと思いますか?

チャニ・ニコラス:もちろん、1000%変わったわ。ロサンゼルスは多くのものを与えてくれた。引っ越してきたとき、まさにトロントの暗くて寒い冬の世界から、明るい太陽のもとにやってきた、という気がしたものよ。サターンリターン (土星回帰) もここで迎えたし、この地が人生の再出発の軸になっていると思う。でもその一方で、孤独感はやっぱりあるの。だからコミュニティを築くことにも一生懸命だけど、そんなのはささいなこと。クリエイティビティという点から言えば、ここには頂点なんてない。やりたいことがあったら、やってみるだけ。遮るものは何もない。助けてくれる人がいようがいまいが、うまくいけば、それで世界を席巻することだって可能なのよ。

ここでの最初の1年はどんな感じでした?

カオスね。ハイウェイの運転の仕方も、まったくわからなかったし。5つのレストランで仕事を掛け持ちしながら、演劇のクラスを受講していた。がんセンターでレイキの施術をボランティアもやっていたのだけど、そのおかげで足元を掬われずにすんだ。この街は、人を消耗させるから。あらゆることに手をつけて、仕事も遊びも一生懸命だった。でもエンターテイメント業界に対しては、早々に嫌気がさしてしまったの。だから、もっと意味のあることを探し始めた。実際に、集中して祈りを捧げて、救いを求めたのよ。そのときに、「ヨガの先生になりなさい」っていう声を聞いたの。「冗談でしょ、どうして私が?」って思った。ヒーリングの仕組みについて学びなおす必要があったから勉強したのだけど、こういう機会があって本当に良かったと思ってる。それ以来、ヨガは私のヒーリングの軸の一部になっているわ。それに、ヨガは妻に出会ったきっかけでもあるから、何もかもヨガのおかげね。

色々試した末に、どのようにして占星術に行き着いたのですか?

人生を通して、どんなに絶望の淵に追い詰められていても、占星術はいつも私に考えるきっかけを与えてくれた。「アイデアを思いついた。考えてみよう」っていう感じ。世の中で起きていることについて書きたいと思ったの。別にちゃんとした計画があったわけではなくて、ただ人間や、世の中の仕組みや、生きる意味、生き方に関心があっただけ。それに、社会にはびこる不平等や、平等であること、それはどういったものなのか、そして癒しについても語る必要があると思ったのよ。文章化することは、自分自身の落ち込みを俯瞰して、辛さの原因を理解するのにも役に立ったわ。「どうして自分だけこんなに辛いの? 他の人が自分より強く見えるのはなぜだろう? 皆はどんな風に生きているんだろう?」と思い悩んでいたから、そういうことに関心があったのね。占星術のおかげで、それを知る方法をつかんだというか。

どんなプロセスで、ホロスコープを書くのでしょうか? 特に注目している点は?

リズムと、その月のチャート、その時点で惑星が及ぼす影響を見ているわ。

天文学のように?

天文学よ。ただし、そこから意味を読み取るのが占星術。かつては天文学と占星術は同じものだったのよ。あらゆるものが同じシステムの中にあった。人類史上、時間を知るのに、太陽の位置を頼りにしていない共同体など存在しないし、月の満ち欠けに気づき、そこに意味を見出さなかった共同体も存在しない。そこから、私たちは季節を把握し、どうやって食べるのか、いつ食べるのか、そしてどこへ向かうのかを学んだの。常に同じ方角に輝く恒星から、どこへ向かって歩いていくべきか、どうやってたどり着くのかわかった。

Chani Nicholas 着用アイテム:ロング ドレス(Kenzo)

Chani Nicholas 着用アイテム:ドレス(Nanushka)

北や南といった方向を示す?

そのとおり。それに元の場所に戻ってくる方法も。私たちの祖先が狩猟採集の生活を送っていた時代、星座を見ることで進むべき方向や、あちこち移動する方法を知ることができた。毎度、次の新月までにはこれだけの日数がある、ということから、人は数えることを学んだ。女性の月経も同様ね。人類の歴史における最初期の彫刻物は、大抵が、ふくよかな腹部と腰まわりが特徴的な女性像や、月や、28か29個の印が刻まれたもので、世界中のいたるところで見つかっているわ。つまり私たちの生活は、いつの時代も月や星座の動きに意味を見出し、それを頼りにしてきたのよ。異なる場所であっても、新月や満月、太陽の周期、収穫の時期に祈りを捧げる伝統は共通。現代社会においては、それが慣習の一部になっていて、人々を結びつけ、文化を築く礎になっているのね。

過去に、占星術家になるつもりはなかったという趣旨の発言をしていますよね?

私は太平洋岸北西部で育ったの。他のエリアから孤立した、カウンターカルチャーが根付いたコミュニティ。本当に小さくて、ルールみたいなものが一切なかったし、ちゃんとした職に就いている人も皆無。私が見た限り、有意義なかたちで世界の役に経とうとしている人なんて誰もいなかった。当時は私もいわゆる普通の暮らしがどういうものなのか知らなかったから、オフィスで働くことを、なんとなく夢見ていたの。私は規律や組織を求めていた。そして、社会の一員として生産性の高い仕事をしたかった。でも、どうすればいいのか見当もつかなかったのよね。占星術は12歳の頃から学んでいたけれど、ちょっと特殊な仕事のような気がしていたから、「ちゃんとした資格のあるセラピストになろう」って思ったの。

それで、実際に、ある意味ではセラピストになったわけですね?

私はセラピストではないわ。でも、相談者と一緒にセラピーの実践のようなことはしているわね。それに同じような守秘義務もあるし。人のチャートを見るのはとても光栄なことよ。人々が私にじっくりと自分のチャートを見せてくれるとき、いつもとても感動的する。

これまでに担当した全員のチャートを覚えているのだとか?

あなたのも含めてね。一度読むと、頭の中ですべて目録化されちゃうの。その人との関係性を示す目印が残るのね。

1月に発売される著書は、どんな内容になるのですか?

自分の人生の目的を理解できるよう、チャートの読み方について書いたの。読者が自ら選択肢を選んでいけるスタイルで、とてもわかりやすく説明した本よ。自分のチャートを私のウェブサイトで照らし合わせると、自分が読むべきページやセクションの一覧が出てくるようになってるの。私がどのようにリーディングを行っているのか、いちばんベーシックなレベルから段階的に説明しているわ。どこに注目すべきか、とかね。

2年にわたって執筆をしていたわけですが、その過程はどんな感じでしたか?

ものすごく大変で、悪夢のようだった。誰だって自信の喪失とか、自己嫌悪とか、そんなものについて語りたくないでしょ? でも自分個人にとってとても重要なものを作り上げる過程では、今まで味わったことがないような自分に対するネガティブな感情が、一気にやってくるものよ。だから本を書き終えた今の自分は、以前とは完全に別の人間。こういう経験ができて本当に良かったと思ってる。

Chani Nicholas 着用アイテム:ドレス(Nanushka)

私たち人類について教えてください? 来年に希望はあるのでしょうか? 2020年は、占星術的に見るとどのような年になりますか?

人類は今、とても重要な時を迎えているの。ひとつの時代の終わりとも言えるわ。そして、私たちがどのように新たなフェーズをスタートさせるかによって、今後世界が進む方向性が変わってくるの。

なんだか表情が硬いですが。

来るべき2020年について、いかに人々を勇気づけるように伝えるか。すべての占星術家たちが、今いちばん頭を悩ませていると思うわ。落ち込ませるのではなく、「このクソみたいな時代はちゃんと終わる。そうじゃないと、新しいステージに進めないんだから」って、背中を押してあげるものでなくちゃいけない。

どんなことが起こるんですか?

どんな風に変化の時が始まるのかは、重要ではないのよ。大事なのは、その道を受け入れ、選ぶこと。2020年がどのように展開するかは、私たちが現在置かれている状況を映し出す鏡でもある。最良の姿勢で望みたいじゃない。10年サイクルの区切りで言うと終わりの年であると同時に、大きな惑星の周期の終わりであり、始まりでもあるのだから。

惑星の周期というのは?

土星が山羊座から水瓶座に入り、年の終わりにかけて木星と重なる。惑星のライフサイクルに関わる大きなイベントよ。火星の逆行は怒りを噴出させる傾向にあって、暴力や抑制された男性性を浮き彫りにするの。さらに金星の逆行により、人間関係のトラブルや、女性や従来の性差の概念から性自認が外れたジェンダーノンコンフォーミングの人たちが直面する問題が浮かび上がってくる。年の初めに起こる土星と冥王星のコンジャンクション(合)が意味するのは、旧来の家父長制の終焉。これはとても喜ばしいことね。

なかなか難しい年になりそうですね。

たしかに色々大変な1年になりそうに見える。だからといって実りの少ない年というわけではないの。ただ、それには高いリスクも伴うと思う。でも、こんなこと占星術がなくてもわかるでしょ。大変なことになるのは本当よ。おそらく、人類の歴史が始まって以来の、大きな困難になるでしょうね。

世界の終末のようなものだと思いますか?

今まで人類が繰り返し築き上げてきた世界は、終わりに向かっていると思う。でも、新しい世界が始まる可能性はあるし、始めなければならないのよ。私たちが世界の終焉を選ぶというのなら、思うにそれは、自分たちは世界の再生における不可欠な要素なのに、その責任を否定しているということ。それが終末的であると感じるなら、それは旧来の社会の仕組みが、持続可能なものではないと明らかになりつつあるからよ。私たちはそこから逃れようと奮闘してきたけど、同時に、生き延びるためにこの仕組みに頼ってもいた。私たちが必要としているのは、深い癒しと回復よ。

でも、今おっしゃっているのは、つまり、社会の仕組みを変えてより持続的なものにする道もあるということですよね。

私たちが恐怖や災難、憎しみといったものにまみれて生き続ける限り、そのステージには辿り着けないの。必要なのは喜びと、他者との結びつき。それなしには、お互いに対する責任感は生まれてこない。コミュニティは、解決策を見つけ出すためのもっとも重要なカギのひとつね。誠実さを忘れず、自分自身や自分がやろうとしている仕事に対する責任を自覚すること。そして、できる限り最高の仕事をすること。それを心がければ、日々のささいな瞬間にも、大きな喜びを感じることができるようになる。だから、どうか喜びの灯を、心に灯し続けて。決して喜びの灯を見失ってはダメ。それこそが新たな時代を生き抜く術なのだから。

  • インタビュー: Sanam Sindhi
  • 写真: Angella Choe
  • ヘア&メイクアップ: Sydney Costley
  • Date: December 12, 2019