無限を追いかける究極のフラフーパー
世界記録保持者のマラワ・ザ・アメージングが見つけた中心軸
- インタビュー: Erika Houle
- 写真: Paley Fairman

マラワのことを知ったのは、私自身があちこちをクルクルと旋回運動した結果だ。言い替えるなら、YouTube ウォッチング。突然、リップカラーも鮮やかに、ぴったり密着する伸縮素材で全身を包んだ彼女が画面に登場した。火のついたフラフープを持ち、空中から舞い降り、ゆうに15センチはあろうかというハイヒールで、手でも足でもフラフープを回しながらステージを縦横に動き回る。最後にディスコ ミュージックが止まって花火が上がると、辛口批評で悪名高いサイモン・コーウェル(Simon Cowell)は言った。「君は確かに明るい気分にしてくれたよ!」
人間が実現しうる可能性を認定するギネス世界記録は、ほかの何よりも私たちを驚かせ、希望を持たせてくれるものだ。極限の妙技が列挙されたその聖域に足跡を刻むのは、どんな気持ちだろうか? 「最高よ」と答えるマラワ・イブラヒム(Marawa Ibrahim)は、サーカス学校を卒業して、現在はフラフープで12のギネス世界記録を保持するチャンピオンだ。例えば、ハイヒールのついたローラー スケートで滑りながら3本のフラフープを回し続ける最長時間、フラフープを回しながら1マイル走する最短時間、そしておそらくいちばん印象的な、同時に回すフラフープの最多本数。正確には200本だ。膝から首まで積み上げたテクノカラーのフラフープが回転しながらうねる様子は、コイルばねのオモチャ「スリンキー」さながら。「人間って、すごくいろんなことができるのよ」とマラワは言う。「だけどよりによって、こんなおかしなことに一生懸命になった驚きの人たちがいるんだものね!」
目もあやなパフォーマンスと演出を披露してくれるマラワを、ファンは「マラワ・ザ・アメージング」と呼ぶ。だが決して、名声の一人歩きではない。束の間でも、というより彼女の場合は無限ループの、喜びと勝利を人々に感じてほしいと願う意欲は、アメージングの名にふさわしい。世界が危機に直面した現在、日々の生活から幸せな気分を呼び起こすことは不可能だ。Instagramライブでいかにたくさんの絵文字を連ねようと、そんなものとは比べものにならないほど厳しい現実であることは、マラワも認める。だがそんな現状で、人々を励まし、自分の肉体の限界を押し広げることに打ち込むのは、彼女自身の癒しでもある。ミッシー・エリオット(Missy Elliot)の昔のミュージック ビデオに没頭してインスピレーションを貰い、オンラインでフラフープを使ったストレッチを指導し、スナックを使って手なずけようとしているリスの動画をシェアする。「ささやかなプロジェクトだけを考えるの。家にいてもできること。それで私にもやることができるし、みんなも観られるものがある」とマラワは言う。「みんなと顔を合わせて繋がることがこれほど大切だと思ったこと、今までなかったわ」

Marawa 着用アイテム:ブラウス(Issey Miyake)、クルーネック(Noir Kei Ninomiya)、ショート ドレス(Issey Miyake) 冒頭の画像 Marawa 着用アイテム:ジャンプスーツ(Marine Serre)
フラフープという比較的先駆者の少ないアートの最先端に立つマラワは、仲間づくりに長けている。これまでの経歴を見ても、ニューヨークのショー「DéSIR」で6か月間ジョセフィン・ベーカー(Josephine Baker)を演じ、世界各国で放映されている『ゴット タレント』シリーズのうち、ふたつで準決勝へ進み、ひとつで第三位を獲得している。去年は、自ら結成したサーカス団「Quality Novelty」の第1回公演を行なった。イギリスを拠点とし、ロンドン オリンピックでパフォーマンスしたフラフープ グループ「The Majorettes」の設立者でもある。毎月開催するローラー ディスコ パーティには、初心者からアッシャー(Usher)まで、あらゆる人が集まる。それから、それらのすべてで実証された能力を『The Girl Guide』という本にまとめ、2018年に出版した。テーマは、彼女が青春時代にもっと知っておきたかったと思うことばかり。例えば、スキンケア、瞑想、股ずれ、生理の失敗。だが、数えきれないほどの目標や計画を達成したにもかかわらず、マラワはいまだに10代のような決まり悪さを捨て切れない。「『フラフーパーです』って自己紹介するのは、すごくバツが悪くて、言いにくい。みんな、『バーニング マン』みたいなものを連想するらしいの。ふさふさのレッグ ウォーマーをはいて、トランス ミュージックに合わせて踊るんじゃないかって…」

着用アイテム:ジャンプスーツ(Marine Serre)
私は、3月の初旬、ロサンゼルスのダウンタウンにあるスタジオでマラワに会った。オーバーサイズなブラックのジャンプスーツで現場へ到着した彼女は、若々しく、健康そうで、とてもリラックスしていた。シャーデー(Sade)の往年のヒット曲のプレイリストが流れ始めると、部屋の空気が和らぎ、ビジュアルの方向性が定まる。やがて8の字を描くように旋回するマラワがフープを球形にまとめると、居合わせた一同から「うわぁ」や「まぁ」といった感嘆の声が上がる。出し物から発展したアートだが、何かもっとスピリチュアルなものを見ている気がする。オーストラリア生まれのマラワは、子どもの頃から自分の身体と周囲の環境の両面で、動きの可能性に触れ合ってきた。「とても遊牧的」と形容する家庭で成長し、幼い頃は、ローラースケートを使った冒険のチャンスを探していたという。90年代と言えば、ティーンエージャーたちは、ほぼ例外なくポップ マガジンを購読し、出来の悪いリアリティ番組を視聴したものだが、マラワは夢中で「穿頭術」について調べたのを覚えている。「穿頭術」は古代に行われた外科処置で、頭蓋骨に開けた穴から子供時代の想像力を解放できると信じられた。サウナスーツを着てスピニングで体を絞ることも、「少なくとも3本多く」フープを回すためにアクリル製の付け爪をすることも、身体の限界を打破し、ひいては精神の拡大を目指すマラワの意志の証だ。

着用アイテム:ボディスーツ(Y/Project)、ブラウス(Comme des Garçons Comme des Garçons)、レギンス(Comme des Garçons Comme des Garçons)
スタイリストが選んでラックに並べておいた服を見ながら、マラワはすぐに、シグネチャのイエロー ムーンがプリントされたMarine Serreのキャットスーツに興味を示す。国立サーカス芸術学院で学士号を取得する前は、もちろん、新体操をやっていた。ファッションに関するいちばん古い記憶を尋ねると、母の手作りの洋服だという。そのなかには前面に「radical」と書かれた赤いトラックスーツがあって、「毎日」それを着続けた。明らかに、これと同じファッションの直感がパフォーマンス ウェアにも及んでいる。結婚式は、Charlotte Olympiaの特注ローラー スケートを履いたほどだ。「もう大昔の話だけど、彼女があのフルーツサラダの靴を作ったときにファンレターを送ってたの。ローラー ディスコ ウェディングのずっと前に、『どうぞお願いだから、結婚式に履くローラー スケートを作ってくれませんか?』って」

着用アイテム:コート(Moncler Genius)、ブラウス(Comme des Garçons Comme des Garçons)、スカート(Comme des Garçons Comme des Garçons)
マラワは何回か技を実演してくれたが、ブラックのバレー シューズに履き替え、いとも気軽に15本のフープを両腕で抱えたところで、テクニックを説明してくれた。「足はできるだけ広く開いて、フープを回転させる準備。そこで息を止める」。笑い出して、訂正する。「嘘よ、呼吸を止めちゃダメ。呼吸しなきゃダメ」。彼女は、実践のあらゆる側面を解説できるエキスパートであり、個々の動きの関わり合いを学び続ける研究者でもある。先ず何よりも姿勢に留意する重要性を強調してから、最近、大好きなバレエの先生から習ったアドバイスを教えてくれた。「肩甲骨のあいだをできるだけ開くの。肩甲骨のあいだで呼吸できるのよ」

着用アイテム:ショート ドレス(Noir Kei Ninomiya)、ブラ(Mowalola)、スカート(Comme des Garçons Comme des Garçons)、フラット(Jil Sander)
Erika HouleはSSENSEのエディターである。モントリオール在住
- インタビュー: Erika Houle
- 写真: Paley Fairman
- スタイリング: Karolyn Pho
- 写真アシスタント: Gilles O’Kane、Rob Holland
- ヘア: Tiago Goya
- メイクアップ: Sara Tagaloa
- 翻訳: Yoriko Inoue
- Date: April 17, 2020