ウィロ・ペロンが描く別次元の世界 (そしてドレイクの空飛ぶフェラーリ)

DIYからワールド ツアーまで、ロサンゼルスの夢想家が語るサクセス ストーリー

  • 文: Molly Lambert
  • 写真: Sam Muller

この記事は、クリエイティブ ディレクター特集の一環として書かれたものです。

シルバーレイクにあるオフィスでウィロ・ペロン(Willo Perron)に会ったとき、彼は建設現場から戻ったところだった。モントリオール出身のこのクリエイティブ ディレクターは、ここ10年間で、デザイン界におけるいくつかの重要な仕事をひっそりと成し遂げてきた。彼はAmerican Apparelのショップをデザインし、空飛ぶ車をドレイク(Drake)のファンの上に配し、フローレンス・アンド・ザ・マシーン(Florence + The Machine)のために、開放的で自然界を彷彿とさせるセットを考えた。直近では、ペロンは、セイント・ヴィンセント(St. Vincent)のアルバム『Masseducation』を手がけ、グラミー賞を受賞している。ジェイ・Z(Jay-Z)やリアーナ(Rihanna)のツアーのための舞台監督や舞台デザインから、Stüssyの店舗デザイン、PornHubのクリエイティブ ディレクションまで、彼の顧客リストは、彼の役割の奥深さと同じくらいさまざまで、壮観である。「このオフィスは俺の興味の延長だ」と豪語するペロン。「あとここにキッチンがあったら、完璧なんだけどな」。現在、彼は20以上にわたるプロジェクトを指揮している。マルチタスクの達人なのだ。プロジェクトには、「演劇、ライブ コンサート、2〜3の小売店舗」が含まれる。彼の事務所には、「スペース」と呼ばれる部署があり、彼はこれを「インテリア兼建築兼家具部門」なのだと言う。他にも、印刷物やアルバム ジャケット、ライブ コンサートの部署がある。「家具が大好きで、建築も大好き、音楽も大好きだ。グラフィック デザインも、タイポグラフィーも大好き」と彼は言う。ペロンはモントリオールのDIYシーン出身で、当初はフライヤーを作ったり、地元のライブハウスでコンサートのプロモーションをしたりしていた。そして、そのうちに洋服とレコードのショップをオープンした。自分のデザインに対する興味は常に「多岐にわたる」とペロンは考えてきた。「フライヤーが地面に落ちてるのは見たことあるだろ」と言う。そして、そのフライヤーのデザインの儚さが、彼を「棚に並べてもらいやすい」アルバムのデザインへと向かわせたのだと話す。

Aubrey & the Three Migos Tour、2018年

「バックパック ラップと呼ばれていたもの」のファンだったペロンは、小さなカナダのレーベルを運営しており、レコードショップも持っていた。2001年、アングラなラップ レーベル、Rawkus Recordsのためのビデオを制作し、それがさらなるプロジェクトへとつながった。彼はスノーボードやスケードボードの会社のためのデザインも行った。だがペロンが大ブレークしたのは、2000年代初め、American Apparelのショップのために、あの象徴的なミニマルなスタイルをデザインし、American Apparelの急成長の一翼を担い、最盛期を通して「1週間に1軒」のペースで世界中に店舗を建設、オープンしていったときだ。会社の清算前は、店舗数は280以上あり、売り上げは6億ドル以上にのぼっていた。ペロンはそれまで、これほど大規模なプロジェクトは行ったことがなかったが、この難題を大いに楽しんだ。「店舗のデザインには2つの要素がある。1つ目の要素は、実際にいろんな都市や国に行っても大丈夫で、ディスプレイ用の壁材が見つかることを知っているような、完全に実用面の問題だ」。薄い木材とメタルの壁掛けラックで作られる店舗の立地については「キャナル ストリートみたいな場所は、ほとんど選択肢にも入らない。現実的になろうとすると、こうなる」とペロンは話す。2つ目の要素は、1980年代のイタリアのデザインだ。ペロンは言う。「イタリアのポストモダンの動向を扱った『High Tech』という本に出会ったんだ。彼らは工業製品を使っていた。俺たちは皆、その本にすっかりはまって、その本はある意味、バイブルになったんだ。この本を見てからAmerican Apparelの店舗を見れば、きっと『ああ、なるほど』ってなるよ」。

私はドレイクのコンサートの空飛ぶ車に感じたイタロ・ディスコ(Italo Disco)的感性に言及しつつ、80年代のイタリアのデザインこそ、ペロンの感性が最終的に拠り所とするものなのか尋ねてみた。ペロンはしばし考え込んでから、こう答える。「難しい質問だ。何もかも好きなんだ。超古典的なものが好きなんだ。俺の中の一部は、この先もずっと、その実用性ゆえに、実利的なモダニズムは好きだろう。それはとにかく変わらないし、素晴らしいことだ」。そう言うと彼は笑って、また続ける。「でも見ての通り、今座ってるのは、どれもイタリアの家具なんだ…」と言い、オフィスの中央に置いてある、茶色の革張りの大きなイタリア製カウチの方を指す。私は彼に、American Apparelの店舗が、今ではそれ自体でデザインの大型本のようになっているのが面白いと言ってみる。それから、人々が古いスタイルにノスタルジーを感じるようになるまで、どれほどの時間が必要かを考えても、その点は興味深いと思うと伝えた。

Florence + The Machine、High As Hope Tour、2018年

ペロンの肩書きからして、彼は、何もかも自分で統制したいタイプではなく、むしろコラボーレションすることに強い関心を持った人という印象だ。「それを何と呼んでもいいんだけど、俺の仕事のプロセスの大部分は、たくさんの優秀な人間を集めて、すごい仕事ができるようにすることなんだ」。以前はもっと、人が入れ替わり立ち替わりする「ウィロのライブ」のようだったと言う。でも、そのようなやり方では彼はほとんど楽しめなかった。「俺は失敗が好きだ。人の意見も好きだ。人と議論するのも好きだ。人に意見を言わせなきゃダメなんだよ。そして、自分の意見を持って反論してくるような人を周りに置く必要がある。そういうフィルターがあるんだ。ここで働いてる人間は、俺にはまったく理解できないやつらばかりだよ」。ペロンにとって、絶えず異なる視点に触れていることは、非常に重要なことなのだ。彼の父親はジャズ ピアニストで、彼が育った家庭環境には「競争しているとは誰も決して認めないような、知的な競争関係」というものがあった。彼と兄はこうした関係を、一緒に仕事をする際も続けている。「彼がうまくやっているのを見るとすごくモチベーションが上がるし、逆も同じだよ」。

オフィスの2階には、アリーナの舞台セットのミニチュアがある。「遊び心があるだろ。模型は、子どものものなんだ。パリの建築事務所の前を通りかかると、窓にずらっと建物の模型が置いてあるんだ。あれは最高だね。こういう小さなレプリカは、一日中でも見てられる」。アリーナのための仕事の説明をしつつ、それらの仕事をウィロ・ペロンの作品たらしめるような、共通の美学があるのかどうかについて、彼はこう話す。「俺の美学をそれほど詳しく知りたいと言うなら、おそらく本当に俺にしかないようなものを見つけることは可能だと思う。本当に俺の美学を理解するな、ザ・エックス・エックス(The xx)のツアーから見ていくのがいいだろう。これは、すごく純粋な、たったひとつのアイデアとして作られたものだから。それからフローレンスまで辿っていく。彼女のツアーについては、大きくて爆発的なデザインにした。しかも火を放つようなことはしなかった。ビデオや彼女っぽくないものを使ってごまかしはしなかったから。それから、ドレイク。彼は現代の贅沢そのものだ。一切の制限なしに仕事できる壮大さといったらない」。ペロンの仕事の核心にあるのは、私にはサイケデリックにさえ感じられるような、あの空間とのつながりだ。実際、彼は常に完全没入型の体験を目指している。ペロンは、ここまで自身のキャリアを築くには長い時間がかかったという点を強調し、最近の人々は「一晩でスターになれると考えているが、それだとがっかりするはずだ」と心配する。そして、キャリアを築く過程で、同じタイプの仕事ばかりしなくて済んだのはラッキーだった、と彼は考えている。なぜなら、彼が言う通り「あらゆるものに美は存在する」のだから。

Molly Lambertはロサンゼルス在住のライターである

  • 文: Molly Lambert
  • 写真: Sam Muller
  • 翻訳: Kanako Noda