南海岸が生んだ
ル・コルビュジェ、
ドージー・カヌー
24歳の新進家具デザイナーに
注目する
- インタビュー: Joshua Aronson
- 写真: Joshua Aronson

トラビス・スコット(Travis Scott)やマシュー・ウィリアムズ(Matthew Williams)とも親しいドージー・カヌー(Dozie Kanu)は24歳。ストリートウェアから家具の世界へ進出して頭角を現しつつある現在の自分をとりまく環境に、思わず笑みがこぼれる。ヒューストン出身のカヌーは、デザイン、ヒップホップ、ファッションという多様な小宇宙を苦もなく浮遊する。Tumblr以後のデザイン界にまったく痛痒を感じることなく、規範の打破を好み、貪欲な創作への欲求を抱え、ストリート カルチャーとデザイン感覚の融合を愛して、カヌーは突き進む。
カヌーがデザインする家具は彫刻的でありながら実用的だ。彼の手にかかると、黒い大理石の立方体が工業用キャスターに乗ったテーブルになる。発泡スチロールとメタルが混ぜ合わさって、グランジでグラマラスな椅子になる。2016年制作の「Chair [ i ]」では、典型的なダイニング チェアをクライン ブルーと艶出しスチールでリミックスした。目下のところ主に試作品に取り組んでいるカヌーは、自分に利用できるリソースを活用しながら、間違いなく刺激的な未来に目を向けている。
ロンドンへ出発する間際、カヌーは東京で写真家ジョシュア・アロンソン(Joshua Aronson)のレンズの前に立った。そして撮影は、後日、マンハッタンで続行された。映画、アメリカ黒人を固定する概念の拒絶、生活を変えうる現代デザインの可能性ついて、ふたりは太平洋を跨いで対話した。


ジョシュア・アロンソン(Joshua Aronson)
ドージー・カヌー(Dozie Kanu)
ジョシュア・アロンソン:アーティストそしてデザイナーとして、あなたのバックグラウンドを教えてください。
ドージー・カヌー:両親は、僕を法律か医学へ進ませようとしてた。だから当然、僕はそれとは正反対の道を選んだんだ。高校を卒業した後は、ニューヨークへ引っ越して、スクール オブ ヴィジュアル アーツで映画を勉強した。興味があったのはプロダクション デザイン。ちょっと人とは変わった興味だったけど。
どんな学生生活でしたか?
そうだな、いつも生徒から映画セットの仕事に誘われてたよ。その後、フリーランスになって、ニューヨーク周辺の仕事を受けるようになった。ランウェイ ショーをプロデュースするビュロー ベタック(Bureau Betak)って会社、次にキャロル・イーガン(Carol Egan)っていうデザイナーと仕事をしたよ。最後はマター・メイド(Matter-Made)って製作スタジオのインターン。
あなたのビジョンやデザイン思考に影響を与えたフィルムメーカーは?
僕は映像作家がすごく好きなんだ。ポール・トーマス・アンダーソン(Paul Thomas Anderson)、スタンリー・キューブリック(Stanley Kubrick)、スティーブ・マックイーン(Steve McQueen)。それからもちろん、プロダクション デザインの天才ウェス・アンダーソン(Wes Anderson)。とにかくみんな、僕の尊敬の的。ほとんどビジョン全体を、自分で創り出す人たちだ。ある意味、デザイナーと同じだよね。アイデアを練って、表現方法を考えて、実際に形にする。
いつ、家具のデザインを始めたんですか? 最初の作品は?
デザインの業界で何年か働いた後、そのときのリソースとコネを使って自分の作品を作り始めたんだ。2015年の始め頃。最初の作品は、ブルックリンで作った椅子のセットだったな。

その他に、あなたが刺激を受けるものは?
僕はずっと、ヒップホップの熱狂的なファンなんだ。最近気が付いたのは、人との対話がすごく良いインスピレーションになるってこと。だから、経験豊富で成功した人たちと付き合って、知恵を授けて貰うようにしてる。
好きな話し相手は?
そうだな、Alyxのデザイナーで僕の友達のマシュー・ウィリアムズはインスピレーションだ。クリエイターとして豊富な経験があるし、音楽界の大物アーティストとも仕事をしてる。今は、自分のコレクションで素晴らしい仕事をしてるよね。それから、幼なじみのトラビス・スコット(Travis Scott)。トラビスは、僕ほど突っ込んだアートの話はしないけど、色んなプレッシャーに対処する方法とか、自分のやることに集中を保つ方法とか。あとは、ママともよく話すよ。
トラビス・スコットとは、どうやって出会ったんですか? 彼の作品に関わっていますか? ステージのデザインとか、グッズとか、コラボレーションとか...。
僕たち、ふたりとも、ヒューストンの郊外の出身なんだ。ミズーリ シティっていう所。トラビスのことは知ってたけど、高校1年で同じクラスになるまで友達じゃなかった。トラビスがやっていることを僕の手柄にするつもりはないよ。キャリアを築いたのは、何と言っても彼自身だ。トラビスとは、文字通り何でも、意見を交換するんだ。
家具とアート作品に違いはありますか? あなたはどの領域にいるのですか?
たまには彫刻も作るけど、今は作っているほとんどは、機能的な作品。彫刻ほど厳密じゃないもの。作品に意味を詰め込まなくちゃいけない、みたいなプレッシャーを感じることがあるんだ。それとか、作品に本当の機能性がないときは、何か認識しうる機能を作ろうとする。ちゃんと目的を果たすように、存在する価値があるように。それは時には身を削るような作業だ。もっとありのままに、自分の内面から自然と湧き出るようでないとならないと思うんだけどね。家具の場合は、機能することが目的だから、その意味では家具もアートだ。アートと同じ敬意に値するけど、使えるということが、そのまま存在を正当化するんだ。

アートとデザイン「アフリカ系アメリカ人男性」という既成概念を打ち壊せる。それがあなたの考えですね。もっと詳しく説明してもらえますか?
アメリカ文化が無意識に黒人の少年たちに刷り込んでるのは、「成功したかったら、スポーツ選手か、音楽か、肉体労働がいちばんの方法」ってことだ。それ以外のことをしたら、新しい貧困世代という犠牲者になるだけだ、って教えてる。この世界には道や手段がたくさんあるんだ。僕はそれを黒人の少年たちに見せたい。僕の心が開かれたように、少年たちの心を開きたい。コンテンポラリー アートやデザインをもっと、男性だけじゃなくて、若い黒人全体の意識に持ち込むことで、僕たちに対する他のアメリカ人たちの見方も変わると思うんだ。この意識を、なんとか黒人文化のDNAに浸透させたい。今はまだ、アートもデザインもエリートのものだけど、黒人が考え方を変えて、自分たちの状況をコントロールできるように、挑戦を後押ししたいんだ。アートやデザインにはそれを実現するだけの力があると思うよ。
今までに、それを成し遂げた黒人のコンテンポラリー アーティストはいますか?
ナサニエル・メアリー・クイン(Nathaniel Mary Quinn)は素晴らしいよ。トーリ・ソーントン(Torey Thornton)の絵も大好きだね。本当に刺激を受ける若い黒人のアーティストは、たくさんいる。世界が黒人アーティストにあてはめる型を打破してる、良い代表だ。僕は、黒人アーティストであることに興味はないよ。南部出身のアーティストであることにも、興味ない。ナイジェリア出身のアーティストであることにも興味ない。僕はそういう、ある意味での烙印をなくしたいと思ってる。黒人であることから生まれるものに興味はあるけど、自分に黒人アーティストのレッテルを張ることに興味はないんだよ。分かるかな?
「黒人アーティスト」というレッテルは制約だということですね?
その通り。「黒人アーティスト」っていうカテゴリーで、ひとまとめにされる。ただのひとりのアーティストとして、同じ敬意を払ってもらえないのか?って感じだよ。アートの世界で、人種がそれほどまでの大きな論点になるべきじゃないと思うよ。けど、確実にそうなんだ。アメリカの成り立ちを見たら、アートはエリートのためにある。教養があって、自由な時間がある人たちのものだ。一方で、黒人にそんな祖先は存在しなかった。後押ししてくれるような血統がないんだ。
では、あなたの作品に通じるデザインの指針は?
今は、始めたばかりだから、それほどリソースがあるわけじゃない。だから、実際に何かを作るときは、コストの問題が関わってくる。僕は、手持ちの材料を作品に組み込むんだ。まったくのゼロから作るのは、ちょっと高くつくからね。
そうした制約は、今のあなたにとって有益だと思いますか? それとも、ただ苛立たしいことですか?
まあ、ある意味で楽しいよ。謎解きみたいなもんだから。自分が好きなものは見れば分かる。じゃあ、自分の手元にあるもので何ができるだろう、ってね。デザイン界の成功者が持っている自由が僕にはない状態で、どうすれば自分の表現を磨いていけるだろう? 僕はほんとにガラクタで創作してたんだ。何の価値もないようなものを使って。それが今の作品の大きな特徴になってるんだ。シンボリズムもよく使うけど、今日はその話はなしにしよう。

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