速報 バブルの中で暮らす少女
不可解な疾患が環境に敏感な少女を苦しめる
- 文: Torso
- 制作: Torso
17歳のセレナ・マーティンは、同世代の例外的な代弁者である。2年前、セレナは不可解な症状に悩まされ始めた。彼女によれば、それは地球の気候変動の影響だ。バブルの中に閉じ込められた状態の現在、セレナは少しずつ語り始めようとしている。一体、セレナ・マーティンに何が起こったのか?
専門家は、気候変動との明確な関連に加えて、政治不安に対する重篤な情動反応、そして真実と現実における昨今の劣化が作用しているのではないかと疑っている。しかし、まだ意見の一致は見られない。セレナは世界アレルギーを発症しているのか? 非常に共感的なために、世界のストレスを背負い込んでいるのか? あるいは、自分が作り出したエコーチェンバー現象に陥っているのか?
専門家は、気候変動との明確な関連に加えて、政治不安に対する重篤な情動反応、そして真実と現実における昨今の劣化が作用しているのではないかと疑っている
世界アレルギー!2014年10月12日、深刻なアレルギー反応と思える症状を示したセレナは、ニューヨークのマウントサイナイ病院へ運び込まれた。だが、不明確なアレルギーの原因を精確に診断することはできなかった。大気中の毒性に対する反応や汚染に誘発される症状と関連付ける専門家もいたが、意見は一致しなかった。皮肉にも、アメリカ人がフィルター バブルを打ち破ろうと悪戦苦闘していた同じ時期に、突如として、セレナはバブルの中で暮らすことを余儀なくされた。
セレナは確信している。「私は、今の世界の空気の中では生きられない。私の病気は完全に人間が作り出したものだし、人間が環境に及ぼした影響のせいで、文字通り私は病気になった。それは確かよ。私たちは、地球や大気や水のことを考えなきゃいけないわ。私たちの世代は、現在の問題を引き継ぐことになる。その生きた証拠が私よ。気候変動の中でもっとも深刻な危機にさらされるのは、私たちの世代なの」
環境問題に取り組むセレナは、論争の雄弁な論客となり、ソーシャル メディアのスターとなった。今年スタートしたYouTubeチャンネルは膨大なファンのサポートにつながったが、同時に、パロディのビデオ、ネット上のいじめ、反対論者も現れた。




セレナの父親!身の安全のためにマスコミ報道では仮名を使い、写真も公表していないジム・マーティンは、「気候問題の現実主義者」を自称する。つまり、気候変動に懐疑的であることを婉曲に表明している。かつて平和な家族だったマーティン一家は、気候変動の問題によって対立し、激しい論争が飛び交う場所に変わってしまった。
症状が進行していた年月!セレナの両親ジムとアナは、バブルに至る前触れがあったと話す。子供の頃のセレナは、夏であろうとレインコートを着たがって、身体的な愛情表現に嫌悪を示した。「目まい、痒み、吐き気という症状から始まって、そのうちクローゼットに隠れるようになりました。レインコートを着て、どうしても脱ごうとしませんでした。リモコンを使うときは、自分の手をサランラップで巻いていました」
セレナは世代の代弁者だが、誰も彼女の声を聞くことはできない
気候変動問題に取り組む10代の活動家シューテズカトル(Xiuhtezcatl)は、セレナの苦しい時期を支えた。「シューテズカトルは私のアイドルよ。会ったことはないけど、ツイートするの。彼は、同い年だし、気候変動のために戦う闘士だし、私たち世代の代弁者。健全な環境を持つ権利を侵害してるという理由で、アメリカ政府を訴えてるのよ。ラッパーでもあるわ」
コロンビア大学グローバル メンタル ヘルス研究所の臨床心理学者ケン・スペンサー博士は、セレナは事実アレルギーだと確信している。「一方で、セレナはデマに対する過敏症に悩まされています。何を信じていいのか、分からないのです。子供の頃にテレビを見なかったので、情報から隔離されていました。中途半端な真実や擬似事実からも遮断されていました。そして、気候変動の活動家シューテズカトルに対する不健全な執着の結果、彼女の現実が歪んでしまったのです。世界の気候変動という重荷を内面化し、環境悪化の生きる受け皿となったのです。これは感情が伝染していく、感情移入の疾患です。それによって、徐々に温暖化する地球、迫り来る気候変動戦争など、我々の惑星が直面する状況の重荷を、セレナは身体的に背負うようになったのです」


悲しい生活!スペンサー博士によると、感情移入はミラー ニューロンという特定の神経細胞群によって生じる。セレナのミラー ニューロンは異常に活発で、典型的な心身相関行動を引き起こす。「身体化」によって、精神的もしくは感情的な問題を身体症状として発現する。重要なのは、原因が何であれ、症状は現実に存在することだ。想像ではない。スペンサー博士は、抑圧体験を経験してきたセレナが、ビニール製バブル内での生活を送るに至った経緯に注目しており、それが彼女の悲しい生活を紐解く重要なカギを握っていると考えている。
幸いにもセレナは、親友エロイザを始め、支えとなる友達や家族に囲まれている。「彼女は野蛮なの。ゴーダ チーズが大好きで、ブリー チーズは何とも合わない、っていつも言ってるのよ」
セレナ「これは私の生態系。状況は環境で決まるの。バブルの中にいるとしても、私はバブルに閉じ込められてるわけじゃない。何が起きているのか、私は分かってるわ」
だが、セレナは本当に理解しているのか? 注目されたいだけなのか? 我々が個人化されたニュース フィードに身を隠し続けたときに待ち受ける生活を、セレナのバブルは垣間見せているのか? その可能性もありうる。これは、まだ結末が書かれていない教訓の物語だ。



*この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は全て架空であり、実在のものとは関係ありません。
- 文: Torso
- 制作: Torso
- 制作: (写真監督) Minnie Bennett
- 制作: (現場撮影) Ian Scott Stoner
- ヘア&メイクアップ: Marcelo Gutierrez
- モデル: Sabrina Fuentes、Lily Marotta