ローレン・サイの美しくも歪んだダークな世界
テラスハウス出身のモデル兼アーティストが自身とキャリアについて語る
- インタビュー: Romany Williams
- 写真: Monika Mogi

私は混んだ地下鉄で、雨が降る東京の午後、ローレン・サイ(Lauren Tsai)と一緒に原宿に向かっている。私たちは今しがた、目黒の韓国料理レストランで、ジュージューと音を立てるビビンパのランチを食べたところだ。この時点で、私は彼女が日本でどれほど有名かはよくわかった。Instagramの彼女のフォロワーは49万4000人を超え、今も増え続けている。日本のテレビでカルト的な人気を誇ったリアリティ番組『テラスハウス』出身の人気者であり、モデルとしても引っ張りだこのキャリア、そして素晴らしいアートの才能。いつどの瞬間にファンに声をかけられてもおかしくない。彼女がベースボール キャップで顔の大半を隠しているのも、そういう自体を想定しているからだろう。
サイは電車に掲げられた笑顔の少女のポスターを指差して、その少女が、日本のトップ アイドルのひとりだと教えてくれる。スーパースターの世界は、工場で大量生産される若くて可愛いアイドルで溢れている。電車を降りて出口に向かって歩き出そうとしていたとき、デニムのバギーパンツにプラットフォーム サンダル、Kangolのバケットハットを被った若い女性が近づいてきた。女性はサイの大ファンだと言うと、サイに向かって数分間ペラペラとしゃべり立てた。
20歳のサイはマサチューセッツ州生まれのハワイ育ちで、現在は東京に住んでいる。そして本人はそれほど上手ではないと言うが、彼女は日本語が話せる。だから皆、彼女が実際は中国系のアメリカ人だとわかると驚く。彼女のキャリアは、2016年に『TERRACE HOUSE ALOHA STATE (テラスハウス アロハ ステート)』から始まった。この日本のリアリティ番組で、初対面の6人が4ヶ月間共同生活を送り、それをスタジオで観察する6人のキャストがスタジオからコメントするというものだ。まじめで、扇情的でない『ビッグ・ブラザー』を想像してほしい。番組終了後、彼女は東京に移り、モデルとしてのキャリアを開始した。彼女はここを拠点とし、巨大なファン層を築いた。そして現在、彼女は昔から情熱を傾けてきた、アーティストとしてのキャリアを築くことに力を注いでいる。私はサイと会い、開花しつつあるアートのキャリアや、世間の目にさらされることと折り合いをつけていく過程、大学ではなくテレビのリアリティ番組を選んだ理由について話した。

Lauren Tsai 着用アイテム:タンク トップ(T by Alexander Wang)、ラウンジ パンツ(Acne Studios)、ヒール(Balenciaga) 冒頭の画像 Lauren 着用アイテム:タンク トップ(T by Alexander Wang)
ロマニー・ ウィリアムズ(Romany Williams)
ローレン・サイ(Lauren Tsai)
ロマニー・ ウィリアムズ:まずは『テラスハウス』について聞かせて。大学に行くか、番組に出るかという状況で、どうして番組を選んだの?
ローレン・サイ: それは間違いなく、恐怖のせい。自分の前に掴めるチャンスが広がっていたのに、それを掴まなかった唯一の理由は、怖かったから。大学に行かないという決断をして、番組に出て、東京に来て、ちょっと違う人生を送って、今はこれまで以上に良かったと思ってる。もし私がアートの学校に行くとしたら、それは人に私は良いアートの学校に行くのって言いたいからだと、自分では分かってた。そういうのは、自分が心底やりたいと思ってたこととは、違う気がした。あの当時に手に入れたいと思ってたものを、手に入れなくて、良かったわ。
リアリティ番組に出演してミームにならなくて済むって、すごく稀よね。普通は、番組内の修羅場や恥ずかしいことをネタにした悪評がついてまわるでしょ。その点、『テラスハウス』はすごく好意的で、ファンは純粋にあなたの幸せを気にかけているみたい。
番組には、出演して本当に良かった。自分自身についてたくさん学べたし。今となっては、皆に私が泣くのも、すごく未熟なところも、イライラしているのも、がんばっているのも見られちゃったけど。Netflixとかを観るのって、現実逃避でしょ。でも、私が『テラスハウス』が刺激的だと思うのは、普通の人が人生を送っている様子を見れて、そこに美しさがある点よ。穏やかな瞬間やシンプルなことの中に、美しいものを見られるチャンスがある。
『テラスハウス』のルームメートであなたを好きだった悠介とのエピソードには、すごく共感したわ。誰にでもああいう経験はあるもの!彼にハグしてあげたくなった。
番組に出るまで、私は自分がどれほどロマンチックな状況が苦手で気まずくなるか、まったくわかってなかった。たくさんの人が、私は彼に対してすごく冷たいとか、違う対応をするべきだったと思ってると思うけど、私も同感よ。カメラが回っていて、ロマンチックな雰囲気になると、自分の中で何もかもが萎縮してしまう感じだった。テレビの外で同じ状況になったとしても、穏やかではいられないと思う。自分の感情を人に伝えるという点では、私はまだまだ先が長いんだってわかった。

Lauren Tsai 着用アイテム:タンク トップ(3.1 Phillip Lim)、ショーツ(Opening Ceremony)、ヒール(Balenciaga)、グローブ(Maison Margiela)

Lauren Tsai 着用アイテム:タンク トップ(3.1 Phillip Lim)、グローブ(Maison Margiela)
「アロハステート」はあなたの出身のハワイで撮影されたけど、ハワイで過ごした子供時代はどんな感じだった?
私はオアフ島のホノルルで育った。でも、家は車で15分くらいの少し離れたところよ。正直、自分がアウトドア好きで、ビーチとともにあるような、典型的なハワイの人間だと感じたことがないの。自分の好きなことや、自分がワクワクすることをして、多くの時間を家に閉じこもってた。オンラインのアート コミュニティーばかり見てたの。YouTubeやDeviantArtみたいなウェブサイト。そういう場所に触れて、自分の中で何かが弾けたのね。これこそ私のやりたいことだって思った。
あなたのアートにはファンタジーの要素が色濃く出ているけど、人に作品を見せれば、攻撃も受けやすくなる。その点はどう対処してるの?
私の場合は、すべてがすごく急に起きたのよね。『テラスハウス』の前、私はずっと絵を描いてたけど、作品を人に見せるだけの自信が本当に持てなかった。ずっと皆に非難されるだろうと思ってたから。中学校のときは、皆からずっと、変な絵を描いてるとか、それは私が血や狼やアニメや、ダークでオタクなものにはまってるせいだとか言われてた。人にそれがカッコいいと思ってもらえるなんて考えたことなくて、だから自分がカッコいいとも考えたことがなかった。でも、たとえ人から何を言われようと、私はそれに見切りをつけることもできなかった。夜になると自分の部屋で机の電気以外は全部消して、映画を見てるみたいだったわ。今だってInstagramにアップロードするときは、すごく怖い。でも何かが怖いときっていうのは、それが私にとって大切だからっていうのもわかってる。それはやらなきゃいけないことだって意味なのよ。キャリアを築いて行く上で、恐怖をコンパス代わりに使うのは、いちばん役に立ってると思う。
自分の感情を人に伝えるという点では、私はまだまだ先が長いんだってわかった

Lauren Tsai 着用アイテム:T シャツ(Helmut Lang)
一生その恐怖に対峙しない人も中にはいるのに、自ら向かって行くのはカッコいい。
ソーシャルメディアに熱中して、それぞれが自分でキュレーションした生活にのめり込むことは簡単よ。でも私は、ソーシャルメディアの美点は、「そんなの知るか、これが私だ、これが私の好きなものだ」って表現するのに、すごく適したツールでもあるところだと思ってる。私は人々と直接繋がるためにソーシャルメディアを使える点が大好き。
自分の道を作り上げるのにそれを使うことで、主導権を握ると。
以前、私が日本でモデルをやってたときは、ただアパートに座ってオーディションを待って、仕事がくるのを待ってないとダメだった。それってすごく寂しいのよ。ほんとうに、鬱になってた。自分のキャリアが自分自身のものだと感じられなくて、人から与えられるもののように感じたり、その時に自分がどう見えたかだけで仕事が決まると感じたりしてた。それってすごく虚しい。

Lauren Tsai 着用アイテム:タートルネック(Calvin Klein 205W39NYC)、サングラス(Dries Van Noten)
コメントは読む?
Instagramでは、以前は本当に傷つくメッセージも送られてきてた。「彼女の作品はくらだらない。学生の作品みたい」とかね。 まず第一に、私は二十歳なの。だから私が学生みたいなのは当然でしょ (笑)。でも、多くの人から私のスタイルは退屈で誰かの真似だって批判を受けた。たくさんの人から「ローレンにアーティストとしての仕事がくるのは、彼女の見た目のおかげよ」って言われもした。でもそういうコメントを見ると、私の中で火がつくの。女性が自分に自信を持てるような写真を投稿することに問題なんてないと思う。もし私がセクシーな気分になって、ビキニ写真を投稿しても、それは、私のアートや作品や正当性を損なうことにはならない。どんなキャリアにおいてもよ。人には「どんなコネがあるの? 誰が仕事をくれたの?」とか言われる。そういうのは本当にうんざりなのよ。私はこれからも、ただベストを尽くして、そういう面倒も引き受けていくだけ。
東京で暮らすかアメリカで暮らすかに関しては、人々のコミュニケーションの仕方や、お互いの関わり方で、大きな文化の違いがあるわよね。私は日本に来てそれをすごく感じて、ここでは普段よりずっと真心を持って行動し、丁寧で礼儀正しくしたいって思ってる。ファンに対応するときに、その文化の違いのせいでバランスを取る必要は感じる?
東京は大好きだし、ここで暮らすのはすごく好き。でもこの点に関しては、長い間本当に辛かったわ。私は、すごくハッピーですごくかわいいことを投稿したいと思ってた。だってそれが、ここ東京のファンが求めているものだったから。日本のメディアでは、女の子はハッピーでかわいくてポジティブであることを皆が期待してる。でもそういうのが大嫌いだった。そんなの私らしくないと思ってたし、本当にフラストレーションが溜まったわ。常に自分のどこかを妥協してる気がしていたから、友達を作るのも、仕事をするのもここでは難しかった。でも今は、Instagramとアメリカでやる仕事のおかげで、本来の自分に近いと感じられるパブリック イメージの形成に、役立ってる気がする。とはいえ、絶えず自分は演技してる、これは本当の自分ではないと感じるのは、すごく大変だし、孤独なものよ。常にパーフェクトでなくたっていい。例えば時にドレスアップしたいときもあっていいし、陰気で悲しい気分になってもいいの。ハッピーでいる必要なんてない。

Lauren Tsai 着用アイテム:ボディスーツ(T by Alexander Wang)、トラウザーズ(Rag & Bone)
Romany WilliamsはSSENSEのスタイリスト兼エディターである
- インタビュー: Romany Williams
- 写真: Monika Mogi
- スタイリング: Monika Mogi
- ヘア&メイクアップ: Sakie Miura