メイジー・ウィリアムズの可能性は無限大
今を時めく俳優が、アリア・スターク、犬、『ゲーム オブ スローンズ』のフィナーレについて打ち明ける
- インタビュー: Rosie Prata
- 写真: Aidan Cullen

この記事には一部『ゲーム・オブ・スローンズ』に関するネタバレが含まれます。
「死神に向かって、何と言う? 死ぬのは今日じゃない」
現在世界中で一番人気のテレビ シリーズ『ゲーム オブ スローンズ』で、22歳のメイジー・ウィリアムズが演じるアリア・スタークほど手強いキャラクターは、ちょっと思いつかない。やんちゃで冷酷な戦士、アリア。しかし、実際のメイジー・ウィリアムズはどうだろうか。

Maisie Williams 着用アイテム:ブラウス(Ovelia Transtoto)、ドレス(Rick Owens)、ピアス(Versace)、ヒール(Gucci) 冒頭の画像のアイテム:ブラウス(Acne Studios)、トラウザーズ(Acne Studios)、コルセット(Kiki de Montparnasse)、ヒール(Gianvito Rossi)
アリアと同じく、ウィリアムズものんびりと成長していく暇はなかった。彼女も彼女が演じたキャラクターも、独立心に富み、何があろうと断固自らの信念を守り抜く。それぞれに困難に直面し、克服した。ウィリアムズは10代で容赦のない猛烈なネットいじめにさらされ、アリアは愛する人々の大半を残酷に殺害されて、最後に死の前触れともいうべき夜の王を打ち倒す。ふたりとも、あどけない少女に期待される規範を打ち破る。テレビ史上もっとも期待の高まるフィナーレを間近に控え、メイジー・ウィリアムズはアリア・スタークからの脱皮を模索中だ。
インタビューのために待ち合わせたイースト ロンドンのカフェは、ウィリアムズが2018年に設立した「デイジー」に程近い。「デイジー」は、支援的なコラボレーションを通じてクリエイティブな新人のネットワーク作りを目指す、法人形態の組織だ。興味を感じることややりたいことがたくさんあって、とてもエネルギッシュなウィリアムズは、名声という罠に惑わされる様子はない。外見はというと、これ以上ないくらい、アリアとはかけ離れている。撮影現場での8年を脂じみた髪、すっぴん、ブラウンやベージュ系ばかりの地味なコスチュームで過ごした後、今や髪はパープル、爪にはマニキュア、瞼には少なくとも3種類の色合いのラメ入りシャドーがたっぷり塗られている。
ウィリアムズと話しながら、私の頭には、アリアが通過した転機のひとつが浮かんでくる。シーズン2、3、4を通じて逃亡者として身にまとっていた薄汚い服を、シーズン5で脱ぎ捨て、新しい自分に生まれ変わろうとする瞬間だ。それは、名前を持たず、顔を借りる変装で誰にでもなれる、誰でもない少女への変身―だが、時として芸術が人生を模倣することがあるように、彼女が生まれもった個性は隠し通すことはできない。
新たな規範を作り出している仲間と同じように、ウィリアムズのアイデンティティもひとつに留まらない。俳優になる前はダンサーだったし、現在は、スタートアップのIT実業家、映像プロデューサー、業界の良き指導者だ。『ゲーム オブ スローンズ』が終わりを迎えるシーズン8は現在放映中で、その展開をファンが熱心に追い、記録され、喧伝されている。そんな中で、私はウィリアムズに尋ねたいことを、色々と考えていた。『ゲーム オブ スローンズ』での体験、いちばん最近の彼女のプロジェクト「ロンドン クリエイツ」、マーベルの新しいスーパーヒーロー映画『ニュー ミュータンツ』で演じるウルフスベーン。 ところが、いざ蓋を開けてみれば、犬や人形やDIY毛染めの失敗談にクスクス笑いながら、ほとんどの時間を費やしてしまった。
別れる前、ウィリアムズはイギリスの最高峰に登頂する決意を話してくれた。その後はどこを目指すのか。知りたければウィリアムズの今後を追い続けることだ。
ロージー・プラタ(Rosie Prata)
メイジー・ウィリアムズ(Maisie Williams)
ロージー・プラタ:今日は、これまでどんなことをしたの?
メイジー・ウィリアムズ:何枚か写真をフレームに入れてもらって、その後、犬を連れてホームセンターへ行ったわ。私の犬、今ちょっとお腹の具合が悪いの。だから大変。
まあ、かわいそうに! どんな犬?
名前はソニー。シェルターから引き取ったから、素性ははっきりしないわ。毛が長くて、すごく涙目で、耳が大きくて、しょっちゅうよだれを垂らしてて…とにかく、すごく可愛いの。でも、ちょっと野良犬っぽい。大、大、大好き。
犬の話から始まって、ちょうど良かった。『ゲーム オブ スローンズ』であなたが演じたキャラクターは、すごく一匹狼だったでしょ。シリーズもとうとう終わりが近づいてるけど、どんな気持ち?
とっても妙な気分。私の人生の最後の章と次の章のあいだで、宙ぶらりんになってる感じ。ニューヨークのプレス ウィークでメディアの取材を受けたときは、キャストの雰囲気もすごく暗かったわ。出演者が揃うといつだって賑やかなのに、あの時は、みんなでお葬式してるみたいに、部屋中に悲しいバイブが漂ってた。もう、今までとは違ってしまうのよね。これからも連絡を取り合ったり、お互いの結婚式へ招かれたり、そういうことはできるけど、北アイルランドで撮影してたときみたいには、絶対なれないもの。
あなたの撮影が終わったのはいつ?
去年の7月の中頃。いちばん最後にクランクアップするグループだったから、色々な感情を抱えたままの期間が長かった。今でもまだ消化できてないわ。どんな感じか、みんなが訊きたがるんだけど、私は正直でありたいと思ってるし、物事をすごくすごく深く感じる性格だから、とても一言では答えられないの。
私が想像するに、きっと学校を卒業するときの気持ちに似てるんじゃないかしら...。
そのとおりね。こんな気持ちになったのは、小学校を卒業した時以来よ。でも、6週間後には、結局全員揃って同じ中学に行ったんだから、そんな風に感じたこと自体、変なんだけど。
先へ進むのはむずかしい?
ちょっとね。アリアを演じるのは、私にとって、今まででいちばん決定的な経験だったのに、それが終わってしまった。アリアは、私が演じた最初の役なの。この世界について私が知ってることは、アリアとして知ったことが大きな割合を占めてる。将来、アリアほど大切なものがあるなんて、とても思えない ― いえ、大切だった、と過去形にすべきね。こんなこと言うと、なんだか自分でも気が滅入るわ。これからもずっと、アリアの名残りを私の中で大切に守っていくつもりよ。とにかく、私がアリアとして飛び越えたバーの高さははっきりしてる。これからは、たとえ僅かでも、そのバーを下げる気はないわ。

着用アイテム:ブラウス(Acne Studios)、トラウザーズ(Acne Studios)、コルセット(Kiki de Montparnasse)、ピアス(Versace)、ヒール(Gianvito Rossi)
今後参加するプロジェクトは、とても慎重に選んでる?
ええ、私のエージェントが頭を抱えるくらい慎重。成功って、すごくいろいろな方法で測れると思うの。私にとっての成功は、素晴らしいキャラクターを演じて、自分にできるとは思ってもみなかったことをやれること。今の仕事ができるのはとても幸運だけど、もし惨めな気持ちになるんだったら、そんな仕事をやり続けるのはまったく無意味だわ。私を本当に幸せにしてくれるのは、俳優であることやそれに付随することじゃない。それが、今までこの惑星で生きてきた22年で、私が学んだことよ。自分が心から愛することをして、友達と会う…そういう気持ちのいい日常が、わたしにとっての幸せ。
今後の大きなプロジェクトとして、「ロンドン クリエイツ」を立ち上げたばかりだけど、どんな内容のプロジェクトなの?
クリエイティブな人たちを発掘して、もうキャリアを持ってる人たちと一緒に仕事できる、具体的な機会を提供する活動なの。何年か前、フラットを共同で使ってるビル・ミルナー(Bill Milner)とふたりで制作会社を始めたんだけど、今度、新しい短編映画を作るつもりだし、私たちには駆け出しの新人をサポートできるだけの力もあるからね。台本も音楽も、全部、「ロンドン クリエイツ」で見つけた人たちに提供してもらうの。すごく楽しみ。きっといつか、世界で活躍するようになる人たちよ。そういう人たちがまだ何もしていない今、一緒に仕事できるなんて大変な名誉だわ。「ロンドン クリエイツ」は、映画、音楽、ファッション、写真、デザインの枠を超えたコラボレーションを目指すの。私が作った会社「デイジー」の一環でもあるわ。「デイジー」は、色々な業界の流動的な交流を促進するオンライン プラットフォームよ。
あなたは、最初はダンスから始めたんでしょう?
そう。ダンスの1回目のレッスンへ行ったとき、「私はアッシャー(Usher)みたいなダンサーになりたいです」って言ってね。ヒップホップ、バレエ、タップ、ミュージカル、リリカル、コンテンポラリー、全部やったわ。ずっと続けてたけど、16歳の頃、急に演技の道が開けたの。
踊って、演じて —それ以外にやってることとか、これからやろうと思ってることはある?
人形作り。ものすごくプロポーションが奇妙な、ちっちゃい人形を作りたい。腕が超長くて、頭が超大きくて、顔が超小さいの。Instagramの発見ページでそういう人形の写真を見て、「今、閃いた。私、人形を作るために生まれてきたんだと思う」ってボーイフレンドにテキストしたのよ。とっても小さい手と、とっても小さい指をつけて、体にぴったりしたスキンスーツを着せるの。映画『コララインとボタンの魔女』の冒頭の部分、あの人形を作るシーン、覚えてる? あんな感じ。『コララインとボタンの魔女』は好きな映画だけど、そのなかでもあの部分が、私は好きなんだ。
あなたに似せた人形も出回ってるんじゃないかしら?
あるわよ。でも、そういうのと同じじゃないの。私が作りたいのは、ブライス ドールみたいで、しかもカスタムメイド。先ず顔の型作りから始めて、ストラップかジッパーで開閉する洋服を作る。小さな人みたいになってほしいの。肌がある、本当の人。骨組みを作るワイヤーも赤を選んだのよ。血管みたいでしょ。それからフェルトで体を作るときは、小さな心臓を入れておくの。誰にも見えないけど、私には心臓があることがわかってる。
いかにもあなたらしいわ! あなたの美学と感性をとてもよく表してる。
私、すごく色んなことに興味があるけど、1940年代のフランス、Kポップ、「カワイイ」のバイブがダントツだな。やたらとあれこれ目移りすることもあるし、ちょっと男っぽいことをやることもある。バラエティに富んでいることこそ、人生のスパイスよ!
今の髪の色はパープルだけど、それは役のため? それとも好きで選んだの?
正直言うと、それはとてもイタい話題だから、話したくない。なんて、嘘。長いあいだピンクにしてたし、とても気に入ってたのよ。ピンク、大好き。パープルは無視して。
地毛は何色?
ピンク! 冗談よ。本当はダークブラウン。プロの美容師さんにブリーチしてもらってから、自分でピンクに染めたの。だけどピンクのヘア カラーを全部使い果たして、だけどニューヨークへ飛ばなきゃいけなくて、だからニューヨークで買うことにして、結局失敗したわけ。毛染めに関しては私は素人だから、仕方ないわね。とにかく、ものすごく強烈なホット ピンクに染まっちゃったのよ。それはそれなりにちょっとした見ものだったけど、私には似合わなかった。洗い流そうとしたら、上手くいかなくて、まだら。そこで美容室へ行けばよかったのに、行かずになんとか色を落とそうとしたら、今度は変なグレーっぽいブルー。すごく嫌な色だったから、『ゲーム オブ スローンズ』のプレミアへ行くために、パープルに染めることにしたの。
毛染めに関しては、正直なところ、DIYでやるほど素敵になると思うんだけど。
イースト ロンドンだと、私が自分で染めたヘアで、まったく問題ないわよ。
イースト ロンドンへ越したのはいつ?
2年半前。越してから今まで、ほとんどずっとイースト ロンドンにいるわ。スタジオがあるし、絵もたくさん描くし。毎日2時間半、犬とお散歩よ。自分自身のために、色々と考えたり、ゆっくり時間をかけたいの。本を読んだり、文章を書いてみたり…自分の時間を持つってこと。
外向的に見えて、実は内向的な人がいるけど、あなたもそう?
そうなの! この前の夏くらいまで、自分でも知らなかった。ああ、これで私が抱えてる問題はすべて説明がつく、って思ったわ。
私もまったく同じ。牡羊座のせいね、きっと。もうすぐお誕生日でしょう? どんなことをする予定?
スカーフェル パイクへ登るつもり。21歳になった去年は、盛大なパーティで、いっぱい人が集まって、お開きはなんと朝7時。だけど、そういうのはもういいわ。本当に何かを成し遂げた気持ちを味わいたい。だから考えたの、イギリスで一番高い山ってどこだっけ? スカーフェル パイクだ、じゃあ、スカーフェル パイクを登ろう、って。そういうことが、私の生活ではとても意味がある。将来振り返るのは、本当、そういうことだと思うもの。キャリアとして何をしたか、じゃなくてね。確かに『ゲーム オブ スローンズ』は思い出すわよ。私の人生を根こそぎ変えたんだから。でも、私が誇りに思えて、私が幸せを感じるのは、誰にでもできる些細な事なの。そういう些細な事が、私の場合は、山登りだったり、マラソンだったりする。そういうことで、私が私らしくいられる。だれでもできる小さなこと、それが人生の意味だと思うわ。誰にもできない偉業を成し遂げることじゃない。
ところで、『ゲーム オブ スローンズ』の結末について、教えてもらわなくちゃ。どうなるか、知ってる?
知ってるわ。すごく色々な可能性があるから、結末を推測できる人はいないんじゃないかしら。
驚きの結末?
私はそうは思わなかったけど、どんな結末になると思う? って尋ねてみたら、みんな、まったく見当違いの答えなの。だから、それを聞く限り、予測できない結末ということになるわね。脚本を担当した人たちは、たっぷり楽しんで練ったんじゃないかしら。最後のシーズンで、しかも35人もの中心人物がいるんだし。だから、みんなが予想するような終わり方じゃないわ。
登場人物の中で、一番あなた自身と重なるキャラクターはアリア? それとも、メイジー・ウィリアムズにもっと重なり合うキャラクターは、いる?
サムウェル・ターリー。彼は自尊心は低いのに、それでも素晴らしいことをやってのけて、自分の進むべき道を全うしたわ。ある意味で、ジョン・スノウにも近いものを感じる。みんなが彼に向って「あなたこそ、北の王だ」って言うのに、「私自身が王になりたいと思ったことは、一度もない」って答えるのよね。特に『ゲーム オブ スローンズ』が終わりに近づいた頃は、私もみんなに言われたの。「君は俳優として大きく成功するだろう。演じ続けることだ。君は、そのために生まれてきたんだ」って。だけど、みんな、私がほかのことをやるのを見たことないのよ。もしかしたら、私は、すごくイケてる人形を作る人になるかもしれない。そんなの、誰にもわからないでしょ?
Rosie Prataはロンドンを拠点に活躍するライター兼エディター
- インタビュー: Rosie Prata
- 写真: Aidan Cullen
- スタイリング: Leah Abbott
- 制作: Emily Hillgren
- ヘア: Anna Chapman
- メイクアップ: Mattie White
- 撮影場所: Cliveden House
- 翻訳: Yoriko Inoue