Babylon LA:
チルアウトの聖地

スケート & ストリートを
体現するL.A.ブランドの
受容精神

  • インタビュー: Jeff Weiss
  • 写真: Christian Werner
TrashTalk

リー・スピールマン(Lee Spielman)の今の状況は、普通ならストレスを感じたとしてもおかしくない。数時間後には、ルックブックの写真撮影が控えている。このインタビューにも答えなくてはならない。ギャレット・スティーブンソン(Garrett Stevenson)と共同で手がけるスケート & ストリートウェアのブランド「Babylon LA」の本社兼店舗の裏庭では、大工の一団が大きな木のスケート ボウルをせわしなくハンマーで打ち付けている。その上、およそ12時間後、最近の「Spitfire Wheels」とのコラボレーションを祝してバーベキューが開かれる。そのイベントでは、ランス・マウンテン(Lance Mountain)やエリック・ドレッセン(Eric Dressen)など、伝説のスケーターたちが目を瞠るようなエアー トリックを披露する予定だ。

だが、スピールマンとスティーブンソンにとって、マルチタスクはお手の物。Babylonを立ち上げる前から、ハードコア バンド「Trash Talk」のリード シンガーとギタリストとして「Odd Future Records」と契約を結んでいた。バンドとブランドは基本的に別ものだが、スピールマン曰く「互いに隣り合わせ」。DIY的受容と自分たちに忠実なインスピレーションの追求という、同じ精神で両方に取り組む。

店内は、カリフォルニア神話に謳われる常夏の雰囲気だ。スケートボードが誕生した怪しげなユートピア「ドッグタウン」は、今や6ドルの水出しコーヒーを出すコーヒーショップや「Free People」のオール イン ワンを販売するブティックに乗っ取られたかもしれない。だがその東のハイランド大通りには、いまだにコミューン感覚が漂っている。「Babylon LA」は、新しいロサンゼルスの一部だ。変化の波が止むことなく押し寄せて、手の届かない富が幅を利かせるようになったニューヨークやサンフランシスコから脱出する人々が出現し、それに呼応して生じたクリエイティブなブームと切り離せない。広大で快適な天候に恵まれたL.A.は、肥沃な文化の地を求めてサクラメントから南下してきたスピールマンやスティーブンソンを含め、多くのアーティストを引き寄せた。「Babylon LA」は彼らが耕した庭、人を吸い寄せて歓迎する渦巻だ。そしてInstagramやSnapchatにのって、世界中の人々を魅了する。友好的なメンタリティは、あまりにクールな同業ショップと対照的だ。それこそBabylonがBabylonたる所以、「金じゃ買えないもののひとつさ」とスピールマンは言う。

飾り気のない店内の壁には、逆さのピースサインが掛かっている。ブランドの誕生後わずか30ヶ月で、そのロゴはBabylonの美学と精神を象徴するニッチなアイコンになった。軸はズレているが落ち着きがある、リラックスしているが牙は抜かれていない。棚には、数多いスニーカー ブランドとのコラボレーションのひとつ、Converseのホワイト & ブラック ハイカットが陳列されている。鮮やかなピンクのライトに照らされたスケート デッキにはトップレスの女性が描かれている。他のデッキはただシンプルに「BABYLON」の文字だけ。「American Women」「Hugga Dugga」「Best Wishes」などと題された、手作りジンも販売している。ハイスクールの数学の授業をサボって、願わくば年上の誰かがジョイントを回してくれたり1リットル ボトルのビールを買ってくれるのを期待しながら、日がな1日たむろするには理想の場所だろう。

奥の部屋では、暑さにくたばった6人ほどの仲間が涼んでいる。木のベンチの上に散らばった、テイクアウトのチキン サンドイッチの箱。マリファナの大きな塊の横に、細かく砕く道具と巻き紙。プレイステーションで「Call of Duty」をやっているメンバー、人間と同じくらいボーッとしたモジャモジャの犬を相手にしているメンバー。「隣近所に迷惑をかけないこと」の注意書き。この部屋でエネルギーを使ってるのは、スピールマンだけらしい。Face Timeでスケジュールを連絡して、それを中断してレジに入っている残金を尋ねて、スケートボードで部屋を横断して...。スピールマンによれば、Babylonは「L.A.の悪ガキ クラブ」だ。そして間違いなく、超活動的でどこか気楽なスピールマンがリーダーだ。

キッドたちが寛げる雰囲気を作るのに会議するくらいなら、最初からやるな

ジェフ・バイス(Jeff Weiss)

リー・スピールマン(Lee Spielman)

ジェフ・バイス:いつ来ても、みんなすごく楽しそうですね。リラックスした雰囲気で。こういうのは、スタートしたときからのコンセプトですか?

リー・スピールマン:キッドたちが入りにくい、お高くとまったショプが多いだろ。俺たちは、そういうのをなくそうと思ったんだ。マナーを守って、自然体で、クリエイティブなら、誰でも歓迎。どんなキッドだって、歓迎される場所が欲しいもんだ。次の日起きたとき、もう1回行っていいのか、迷わなくていい場所だよ。俺たちはすごく楽しんでるさ。本当にいいカットソー、メイド イン アメリカの服を作ってるんだから。ただ黒いTシャツにプリントして「ストリートウェアでござい」って言うのとはワケが違う。それと俺たちは、スケートやパンクや、そういうカルチャーとすごく深く関わってる。

DIY、スケート、パンク カルチャーから経済的な収益が見込めるものへ発展して、そういう理想を守り続けるのは、とても筋が通ってますね。

どことは言わないけど、俺たちみたいな若者中心の雰囲気を作るために、大勢でデスクを囲んで、本格的な予算会議をする大企業がたくさんあるんだ。キッドたちが寛げる雰囲気を作るのに会議しなきゃいけないくらいなら、最初からやらないほうがいい。

パンクは本質的に反抗的なアートの形態です。あらゆるものがいとも簡単に吸収される。そこで浮上する疑問は、パンクは何を意味するか? 底なしの穴にはまったような2017年に、あらゆるものは一体何を意味するのか?

ここじゃ、何でもありだ。昨日はいきなりライブが始まった。75%がパンク キッズで、あとはショップに来る奴ら、イカれたガレージロックの連中、ラップ好き、スケート好き。ここは、普通は交わらないキッドたちが集まる場所になったみたいだ。

この店のコンセプトに、信頼がしっかり根付いているような気がします。ここは楽しむ場所だけど、行き過ぎはダメだと。近所の人たちを尊重するように注意した掛け札もありますね。

この店でひとつ気付いたのは、スタッフなしでこの店を留守にしても、キッドたちが代わりにやってくれるだろうってこと。それくらい安心してる。「ここはお前たちの家だ」っていつも言ってるけど、本当にそうなんだ。おかしなことをしてる奴がいたら、俺より先に、キッドたちがが注意する。この前「ショップを掃除しなきゃな」って口にしたら、仕事中のスタッフがひとりいたんだけど、8人のキッドが掃除してくれてた。この店はあいつらの店だ。このショップでチャンスを掴んだキッドもたくさんいるよ。今、日本の雑誌をめくったら、スケートしてるL.A.のキッドたちばっかりだ。そういうキッドたちは皆、ストリート スナップを撮ってて、いろんなブランドのルックブックをやってる。隠すと思うけど、面白いのは、他のブランドがそういうキッドたちを使ってることさ。これはと思うキッドたちを探し出して、声をかけるんだよ。なんせ、ホンモノだからな。会社が、金を払ったモデルに、スケート シューズを履かせたりボードを持たせてるわけじゃない。本物のスケート野郎だ。

そういうことを、はっきり言って最悪の場所のハリウッドやハイランドのすぐ近くでやっているが、面白いですね。

ハリウッドで俺が好きなのは、バカみたいにくだらないところ。外から見たら「ああ、豪華絢爛なハリウッド」なんて思うけど、実際のハリウッドは、コカイン中毒と飲んだくれとクソの塊さ。地球上でいちばん汚らしい場所だ。俺たちは、そのど真ん中にいて、紙一重のバランスを取ってる。そこが俺は気に入ってる。地下鉄のレッドラインがすぐそこだから、コンプトンからでもヴァレーからでも簡単に来られる。ところが、ヨーロッパからの旅行者も、大勢来るんだぜ。スイス人の家族のバケーションでで、子供たちどうしても「Babylon」に来たがるとか。それに、日本人や中国人。みんなハリウッドに来るから。

Trash Talk

ブランドを有名にしたのは、インスタグラムですか?

今じゃ、ブランドのほうがバンドより有名だ。Babylonで買う客の80パーセントは、バンドのことなんて全然知らない。それはそれでいいんだ。ここでスケートをやるキッドたちだって、「何? リーがバンドやってるの? かっこいいじゃん」って感じだ。俺はそれで満足さ。あと何年ステージから客席へダイブできるか知らんけど、スケートとクールなものを作るのは、間違いなく死ぬまでできる。気楽に楽しんでるってわけだ。

インターネットが優勢になって、実店舗の数が減った結果、実店舗の存在がもっと重要になったと感じますか?

もちろん。クールなTシャツをデザインして、オンラインで売るのは、誰だってできる。だけど、Tシャツ以上に、何を提供できる? 服を売る以外に、何ができる? どんな間抜けだって、シャツにイカしたグラフィックを描いて、100万枚売るくらいできる。でも、環境は作れるもんじゃない。金では買えないんだ。俺たちのブランドの原動力は、100%、本物のショップさ。他所から人がたくさんここへやって来て、シャツを買う。実際には、ほとんどの人が、カリフォルニアのキッドたちのスケート カルチャーっていうイメージを買ってるんだ。ハリウッドのど真ん中の、普通の家みたいな建物の裏庭、スケート用の木のボウル? まるで映画の話みたいじゃないか。ところが、現実なんだ。

TrashTalk

カリフォルニアならではのスケートとパンク カルチャーを伝えることが、コンセプトの一部だったんですか?

そう。Black FlagやCircle Jerksなんかのバンドを聞いたら、照りつける太陽やスケートそのものに聞こえるだろ? 俺には、裏庭の木のボウルみたいに聞こえる。

突然盛況なビジネスを手がけることになって、大変でしたか?

いや。ライブやツアーの契約で慣れてたから。仕事っていうと、まるで当たり前以上のことをやることみたいに思ってる奴らがいるけど、気味悪いね。だって床が汚かったら、当然、掃除する。ただそれだけのことだろ? 骨身を惜しまなけりゃ、何とかなるもんさ。

しかし、自分で自分を理解している必要がありますよね。おそらくそれが、あなたのブランドが人気を集めている理由のひとつだと思うんです。とても安定した自覚から生まれている。

俺たちは、完璧に、俺たちのブランドと一体だ。気に入られようとしてるわけじゃない。好きなら結構。好きじゃないなら、他所へ行けばいい。俺には、大したことじゃない。

いちばん大切にしている道徳観は?

「どれだけ金を稼げるか」が大事と考える奴らがたくさんいるけど、俺はそうじゃない。もちろん金は大切だ。生活があるからな。でも俺は、20年後も、このブランドに満足していたい。

服を売る以外に、何ができる?

コラボレーションの誘いを断ったことはありますか?

ああ、しょっちゅう。俺たちは全員、何が良くて何が良くないか、分かってる。すごくいろんな大企業とコラボレーションしてきたよ。けど俺たちは俺たちのやり方でコラボレーションした。絶対、身売りしたわけじゃない。自分たちの持ってるものを使って、それが無駄にならないように、パラディウムの駐車場を借りて、スケート ランプをいくつも作って、クールなストリート イベントにしたんだ。大きな会社からたんまり資金を貰えて、それでクールなことをして還元できたら、もっと俺たちの力になる。

スケート キッドだった頃、好きだったスケートボードの会社やブランドはありましたか?

AntiheroやKrookedが大好きだった。新学期に必要な物を買いにスケート ショップへ行くと、お袋はシャツを3枚選ばせてくれたんだ。俺はいつもAntiheroを選んでた。ジョン・カーディエル(John Cardiel)やアンドリュー・レイノルズ(Andrew Reynolds)の大ファンだったんだ。あいつらのやることは何でもよかった。

Babylonのロゴはどこから生まれたんですか?

俺はグラフィティをやってんだ。まあ、タギングなら、今でもやってるけど...。止められないヤク中みたいなもんさ。とにかく、誰かと揉めたりしたときは、相手が描いたグラフィティの上に馬鹿でかい逆さまのピース サインを描いた。いっつも誰かと揉めてた。だから、それを俺たちのロゴに使って、それがそのまま残ったんだ。いつか、Babylonのロゴと逆さまのピース サインと燃えるヤシの木が、Stüssyや Spitfireのロゴと肩を並べる日が来たらいいけどな。ちょっと、おこがましいか。逆さのピース サインのタトゥーやジャケットの背中にスプレー ペイントしたのをキッドたちに見せられると、やたら嬉しいんだ。あれは皆のものだ。好きに使え、って思ってる。

そのロゴは、あなた自身がキッドだった頃を思い出させますか?

ひどい1日だったり不愉快なことがあったときは、いつもここに来て、キッドたちがスケートしているのを眺めるんだ。そうしてると、世界は思うほど悪いもんじゃないって気がしてくる。ここにいるキッドたちには何の悩みもない。ただ、ありのままでいるだけだ。ありのままでいることに何の問題もない。歳を取るにつれて、どんどんしがらみが増えてくる。間違いなくこのショップのおかげで、俺は足を地につけていられる。俺が世界の終わりだって思ったって、ちっとも本当の終わりじゃないってな。

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