マイケル3世式
趣味の時間
何もすることがないときに、何をするか
- 文: Michael the III

2014年から2015年にかけてのどこかで、作って間もないオレのモンタージュ写真を友人に見せたことがある。「ほら、ここ」とオレは説明した。「シャギーなカーペットの上に寝そべってるだろ。アームチェアに座ってるのもオレだし、見えないかもしれないけど、階段を下りてるのもオレ。後、カクテルを作ってるオレとカクテルを飲んでるオレ。暖炉の上にかかってる肖像画もオレ」。Instagramで拡大機能が使えるようになったのは2016年の中頃だから、友人は携帯をどんどん目に近づけ、最後に溜息をついて、押しつけがましいアドバイスを口にした。「マイケル、趣味を見つけたほうがいいよ」
これは前にも言われたことがある。君たちも言われたことがあるんじゃないか? わかりきったことだが、「退屈だ」としつこく不平を言っていると「趣味を見つけろよ」という言葉が返ってくる。立ち入ったことを尋ねすぎると、「趣味を持つべきだな」。大好きなミュージシャンについてツイートした内容を後悔して、Twitterのアカウントを凍結されるんじゃないかと気を揉んだ挙句、その後3日間捨て垢を乱発したら、「ホント、趣味を持たなきゃダメだよ」
2020年からこっち、ポジティブに言えば、オレは趣味で幾多の成功を収めた。もう2度と作ることはないが、とても写真写りがいいフォカッチャが焼けたし、TikTokの「毛布でわかる自己診断」オーディションに応募したら、メアリー・ケイト・オルセン(Mary-Kate Olsen)が「いいね!」をくれた。いちばん良かったのは、飼い猫や本棚や植物との関係を回復できたこと。だが諸君、本格的な趣味人になるつもりなら、いくつかの点を自問して、もっと長期的な趣味を見つけなくてはならない。まず最初に、自分は何をするのが好きか。バーチャルのグループ活動に興味があるか? それとも、地下へ下りる階段の奥の片隅で、ひとりで打ち込むのが楽しいか? 優劣を争うのが好きか? 競争から逃げる競争で優勝するタイプか? もしあるとすればだが、自分のどんな技能を伸ばしたいか? 体を動かすと、脳内でセロトニンが分泌されるか? 汗臭くなるだけか?
さあ来たまえ、負け犬たちよ。いざ、趣味探しに出発だ。くれぐれもマスクを忘れないように。
さてオレの場合、暇があってもやる気がないのは、極度の忍耐や長時間のチームワークを要するすべての活動、および命知らずのレッテルを貼られることになる一切の活動だ。スカイダイビングやホッケー、柔術や登山といった活動の魅力は、わからないでもない。さほどペシャンコにならずに地上へ降下する、アルコールとは無縁に氷を使う、股裂きができる、世界の最高峰をよじ登る。どれも少なからぬ偉業だし、そういうことを成し遂げた人たちには敬意を表する。が、オレの心はそこにはない。残念ながら、お呼びじゃない。

Michael 着用アイテム:ジャンプスーツ(Issey Miyake)、ブーツ(Ambush)、ベルト(Off-White)、ゴーグル(Moncler Grenoble)、ピアス(Raco Rabanne)、パーコレーター(Snow Peak)、クックウェア セット(Snow Peak)、スキットル(Snow Peak) 冒頭の画像のアイテム:トラベル カップ(Versace)
同じく、ボクシング、急流ラフティング、ラグビー、闘牛も忘れてくれ。フラフープ、バトン トワーリング、芝生の上のボール ゲームならやってもいい。どうしてもと言うなら、ズンバのオンライン レッスンもやろうじゃないか。ともかく、どこかで「ハイタッチ」が出てくるような趣味はウザいんだ。せいぜい「ファンタジー フットボール」が限界だ。あれは予想のゲームだから、耐久力は必要ない。ゲーマーは、開幕前に好きな選手を選んで自分のチームを作ったら、後は座って見てればいい。ルールはいたって簡単。選んだプレーヤーが実際の試合で活躍した度合いに応じて、ゲームのポイント数がもらえる。こういうゲームは、色々に応用できるんじゃないか? 例えば、「ファンタジー リバーダンス」とか、「ファンタジー イギリス料理コンテスト」とか、「ファンタジー ユーチューバー ドラマ」。「ファンタジー フィルム メイキング」はどうだ? ゴールデン グローブ賞の受賞候補になった俳優だけを選んで、映画をプロデュースする。ああ、ファッションもいいね。ファッション ファンは、シーズンを迎えたフットボール選手と同じくらい、熱くなって殺気立つ連中だから。ファンタジー ファッション コングロマリットを構成するブランドを選んで、歯に衣着せぬロビン・ジヴハン(Robin Givhan)のレビューに従って、シーズンのベストとワーストが決まるのを待てばいい。

Michael 着用アイテム:タンク トップ(Versace)、ブリーフ(Versace)、ソックス(Versace)、アイ マスク(Versace)、カップ(Versace)、フットボール(Versace)、コンフォーター(Versace)
どこかで「ハイタッチ」が出てくるような趣味はウザい
だがオレは、「生産的な過去作り」を趣味に選びたい。暇にまかせた作業が確たる成果を上げないなら、せめて将来のパーティで自慢できるものであってほしいじゃないか。だから、バスケット編み、石鹸作り、刺繍、芸術的に美しいペン習字の達人になれたら、オレは非常に嬉しい。破れたハートを象ったいくつもの石鹸と、「君と知り合えて、とてもよかった」と刺繍したリネンのハンカチと、永遠の別れを告げる感動的な言葉を(当然、手漉きの紙に)手書きしたメモを、手作りのバスケットに詰めて残せれば、恋の終わりもどれだけ救われることか。そういうバスケットを早まって渡してしまったときは、フラワー アレンジメントの技能も同じくらい役に立つだろう。人間に過ちは付きものだもの!

Michael 着用アイテム:シャツ(Valentino)、トラウザーズ(Valentino)、ピアス(Marc Jacobs)、フラワー ベース(Bloc Studios)
切手の収集は✕、あらゆる趣味を全部一緒にやってしまうのは〇。つまり、典型的な1日は次のように進行する。先ず朝4時に起床して、アパートに設えた鶏小屋を点検。次はアマチュア バリスタとなって、前の晩に作った吹きガラスのカップにカフェ ラテを注ぎ、美しいデザインのラテ アートを描く。出来上がって間もないガラスはまだ熱を帯びているが、外は寒いから、この前Zoomの編み物マラソン パーティーで仕上げたニットを着こむ。数人の編み物仲間と、集団催眠状態で、編んで、編んで、編みまくって、19時間後に完成させたセーターだ。そうこうしているうちに、そろそろ太陽が顔を出す。日記を書く時間だが、そのうち、明日の夜の飛び入り自由ライブ ショーで披露するジョークの台本書きにすり替わる。頑張らないと、ママが太極拳の仲間を引き連れて出演する気だから。そこからひょんな具合に、長らく謎だった家系図が解明される。ご先祖様の中でも、オレが好感を持ってたのはパートタイムで靴の修理をしてた祖先なんだが、オレはずばりその直系にあたることが判明した。血は水よりも濃い、とはよく言ったものだ。出勤時間になったら、鍛錬を積んだパルクールで職場へ。ランチの時間は、レースを編みながら、次回の女子会キノコ狩りのコースを考えることが多い。午後の15分の休憩時間は、気分次第で、瞑想かカラオケに費やす。仕事が終わると帰宅して夕食の準備だ。料理は腕に覚えがあるが、ナイフ投げに精を出すせいで、料理に欠かせないナイフはすべて引き出しから出払っている。仕方がないから、材料を切る必要がなくて、作りがいがあって、栄養豊かなアスパラガスのクロカンブッシュにする。まだ夕食を食べ終えてないが、早くもアーチェリーの練習、続いて進行中のドキュメンタリー映画を続行する時間だ。このドキュメンタリーは、大好きなガーデニングに関する短編ではなくて、樹木に関する長編になる予定。その後はニードルポイント。放っておいても針が勝手に動くわけじゃないから、オレがやらねば。そこで裁縫室へ行くと、お気に入りセレブのお騒がせ失敗談をアイロン接着するつもりだったクッションが目に入る。本来なら、何時間も前に完成してなきゃいけなかったのだ。目障りでストレスになるから、押し入れに入れてしまおう。手芸材料が詰まった箱の上、いつかやるつもりで忘れたままのビデオゲームの下でいい。一瞬整理整頓を始めそうになるが、自然史の勉強とデイヴィッド・アッテンボロー(David Attenborough)から学んだことがあるとすれば、それは「暮らしのバランスに干渉するのは危険」なこと。だから湧き起った欲求に抵抗したが、思いがけず発見したBottega Venetaのハイヒールの片方を、つい元の場所へ戻してしまう。と、突如、靴のコレクションの全部と、最初の手を打ったチェスの盤と駒が落下する。見下ろせば、足元にはレゴと模型列車が山積みだ。さらに、カヌーとチューバも落ちてくる。乗馬に凝った夏を覚えてるかな? そのときの馬まで落ちてきて、足の小指を直撃する。

画像のアイテム:ヒール(Bottega Veneta)
こういう優柔不断に終止符を打つ手として、バード ウォッチングでデビューを飾り、「北半球でいちばんファッショナブルな新人バード ウォッチャー」を宣言することもできる。だがオレの近所はやたらめったら鳩が多いから、「通りの脇でしゃがみこんで金切り声を上げている、いちばんファッショナブルな新人バード ウォッチャー」が関の山。何を隠そう、細菌恐怖症なんだ。ほとんどの鳥は大好きだが、飛んでいる鳩とはいかなる接触も断固拒否する。遠くから見る限り、鳩だって可愛く見えないことはない。あれは本質的にカジュアルウェアを着た白鳩なんだと、自分に言い聞かせもする。だがそれを言うなら、飛んでる白鳩だってオレはご免だ。招待された結婚式で、白鳩が放たれたときに絶叫することがあっても、許してほしい。鳩だけはどうしてもダメ。

Michael 着用アイテム:シャツ(Balenciaga)、ポーチ(Balenciaga)、ピアス(Balenciaga)、ペン(Dunhill)、ノート(Smythson)

画像のアイテム:フーディ(Balenciaga)、マグカップ セット(Lily Pearmain)、タオル セット(Tekla)、ローブ(Kiki de Montparnasse)、ピアス(Sophie Buhai)、ネックレス(Sophie Buhai)、ヘッドバンド(Gucci)、シャンパン グラス(Tom Dixon)
ちなみに、趣味が屈辱の原因になってはならない。グループ チャットで、自分のキルトがいちばんみっともなかったら、どんな気がする? オレはリスクを好まないから、嫉妬も避けたい。オレがリスクを心配しないで賭けに出るのは、「僕たち二人で食べるピザだけど、君の好きなトッピングでいいよ」と言うときくらいだ。だから理想の趣味は、オレ自身が考えついたもので、成功する公算が非常に高いものに限られる。例えばビンテージもののショッピングとゴースト ハントの組み合わせなんかどう? 着ている服のポケットに誰が棲みついているか、前から興味があったしね。マジック ポーカーなんかもいいな。ポーカーの最強の手札と誰にも見抜けない魔術のトリックを組み合わせたら、完璧じゃないか? ま、君たちには無理だろうが。
かつて社会の敵だったパリス・ヒルトン(Paris Hilton)は、その後アマチュアの両生類愛好家に変身して、カエルを捕まえては水の中に放しているらしい。それを聞いて閃いた。ホログラフで爬虫両生類を飼おう! 水ガメでも陸ガメでも、トカゲでも、両生類でも、罪悪感を感じなくていい。デジタルの爬虫両生類が好きなのは、暖かいランプ、ボサノバ、ルイボス ティー、Balenciaga、Telusのコマーシャル、良識的なロックだし、何より便利なのは、バイナリー コードの飼育箱で飼えることだ。

Michael 着用アイテム:スイム ショーツ(Burberry)、帽子(Burberry)、サンダル(Burberry)、チェア(Lateral Objects)
趣味とは従来、仕事と余暇の中間で、リスクの少ない楽しみと仕事に要求される熱心さが組み合わさったものだ。だけど、その代わりに、テレビや映画を延々と見続けるとか日光浴をするみたいな、怠惰な行為を選んだらどうなんだろう? 恩恵や利益と呼べるものはまったくなくて、「これはもう観たことがあるんじゃないか」とか「日光で肌に取り返しのつかないダメージがあるんじゃないか」しか頭をよぎらない活動だ。ただ座って、何もせず、なにも成し遂げない。無になる。オレは趣味を見つけられなかったが、どうやら趣味のほうでオレを見つけたようだ。

Michael 着用アイテム:シャツ(Gucci)、帽子(Y's)、鉛筆セット(Thom Browne)
Michael the IIIは、フォトグラファー、ライター、モデル、フルタイムの趣味人。『THEFINEPRINT』、『Gayletter』、『Document Journal』、『SSENSE』など多数に執筆を行う
- 文: Michael the III
- 写真: Michael the III
- モデル: Michael the III、Araya Guanipa
- スタイリング: Michael the III
- ヘア & メイク: Michael the III
- セット デザイン: Michael the III
- 翻訳: Yoriko Inoue
- Date: February 5, 2021