21年目を迎えるMoMA PS1のWarm Up
時代の先端を行く音楽フェスのキュレーターたちが語る
- インタビュー: Durga Chew Bowse
- 写真: Eric Chakeen

もうすぐ学校に夏がやってくる。廃校になったロマネスク リバイバル様式の公立学校の建物は1971年に現代美術センターに姿を変えた。この敷地内で、MoMA PS1の野外音楽祭Warm Upは開催される。Warm Upは、そのプログラム内容からアーティストの登竜門として、または単に「土曜日」のイベントとして知られており、今年で21シーズン目を迎える。先月公開されたこの夏のラインナップには、ディスクウーマン(Discwoman)、ティエラ・ワック(Tierra Whack)、オマール・アポロ(Omar Apollo)、ケルシー・ルー(Kelsey Lu)、DJ ジョージー・レベル(DJ Josey Rebelle)、アンバー・マーク(Amber Mark)、ギャング・ギャング・ダンス(Gang Gang Dance)など多数が並ぶ。ロングアイランド シティでは、6月から9月までの毎週土曜日、ジャンルを超えた国内外の有名アーティストおよび新進アーティストが集まる、配慮の行き届いた運営の、心地よい野外ダンスパーティーが約束されている。
「私たちは良い主催者であれるよう努めてる」と、プログラムのオーガナイザーのひとりで、MoMA PS1のキュレーション委員も務めるナオミ・ゼイシュナー(Naomi Zeichner)は言う。「私はWarm Upをホスピタリティの体験のひとつと考えてるわ。私たちは上の立場の人にも、ブッキング エージェントにも、政治にも、誰の世話にもなってない。独自の許可を得て、自分たちが好きな人や、面白いと思う人、上手い人たちでプログラムを組むよう委託されているの」。ゼイシュナーは、Warm Upのオアシスのような雰囲気を、愛情を込めて「安上がりなバカンス」と呼ぶ。10年前にニューヨークに越してきて以来、彼女はステージ横のスロープの「決して特等席とは言えない場所」で音楽を楽しんできた。彼女は、Warm Upがこれほど長く続いてきた理由の大部分は、イベントがコミュニティの構築に焦点を当て、ただ無情に流行だけを追いかけるような、よくある音楽フェスとしてブランディングするのを断固拒否してきたからだと考えている。「Warm Upは過剰に感覚に訴える、日常からの逃避するようなイベントじゃないの。ステージが3つもあったり、会場が駐車場や島だったりするわけでもない。フードトラックもないしね」
ゼイシュナーと共にWarm Upを運営するのは、長年にわたりWarm Upの運営とキュレーションを行ってきたエリザ・ライアン(Eliza Ryan)と、MoMA PS1のタジャ・チーク(Taja Cheek)だ。キュレーション委員会には他に、前回に続きキュレーターとして参加するディーン・ベイン(Dean Bein)、ヴィーナスX(Venus X)、マット・ワース(Matt Werth)、および新メンバーのジョナス・レオン(Jonas Leon)とイサベリア・エレーラ(Isabelia Herrera)がいる。この7人が、過去と現在、未来のプログラムについて語った。
ドゥルガー・チュウ=ボース:作業のプロセスについて教えてください。どのくらいの頻度で会い、どうやってブッキングする人を選ぶんですか。
エリザ・ライアン:Warm Upは本来、ひとりかふたりのキュレーターのビジョンで動いていたの。MoMAを経て2010年にMoMA PS1に参加することになったとき、私の目標のひとつは、出演者の範囲を広げて、新たなオーディエンスを獲得することだった。それなら美術館の外部からリーダー グループを連れてくるのがいちばん理にかなっていると考えたの。異なるジャンルの音楽の人を集めて議論する。だから今は、キュレーター委員会での話し合いで出演者が決まるわ。電話もたくさんするし、メールもメッセージも何百とやり取りして、すごく楽しい。
タジャ・チーク:私たちは常に連絡を取り合ってるわ。最初の段階では、集まるのは週に1回ね。
ナオミ・ゼイシュナー:放課後の部活みたいな感じ。
マット・ワース:集まり方は様々だね。ラインナップがそれぞれ良いものになるかは、どれくらい多様なラインナップを揃えられるかで決まる。だからキュレーターはそれぞれ、思い切ってより良い答えを求めようとするんだ。
ディーン・ベイン:僕たちはそれぞれのイベントを、ジャンルやヘッドライナーじゃなくて、フィーリングやムードでまとめるようにしてる。ある意味、抽象的な作業だよ。面白そうで、かつ最初から最後まで一貫性があるようなアイデアを煮詰めて、それに合うアーティストの一覧を作って、次はそれを逆から考える。
イサベリア・エレーラ:あるジャンルのパイオニアが、そのジャンルで今頑張っている人と一緒にブッキングされることもある。特に私は、普段はこういう場で発表することができないラテンアメリカ系アーティストに機会を提供することを重視してるわ。ラテンアメリカ系アーティストは、ニッチやキッチュに見られることが多いの。だから私の目標はこの区別を取り払うこと。最終的には、委員会全員の合意がなければどのアーティストもブッキングされないし、ひとりのキュレーターが出演者のラインナップを独断で決めることもないけど。
Warm Upと他のフェスの違いはどこにあるのでしょう?
ディーン・ベイン:僕たちがプロモーターじゃないところ。僕たちは音楽ファンなんだ。
タジャ・チーク:企業としてのブランディングを行わない点が違うわね。あと、私たちがキュレーションのプロセスに深く関わっている点。私たちにはその日のプログラムの流れをキュレーションの実践として考える自由がある。ただどれほど人気かを見せるだけじゃない。Warm Upでは、有名だからといってイベントの最後に演奏するとは限らないし、若い家族連れが早い時間にノイズセットを楽しんでもいい。カーディ・B(Cardi B)の後にトータル・フリーダム(Total Freedom)がメイン アクトをやってもいいのよ。
イサベリア・エレーラ:私たちの選択は失敗する可能性だってあるの。異なる観客を同じ空間に入れようとしているわけだから。
Warm Upが21年間も続くイベントになった決め手は何だと思いますか。
ディーン・ベイン:音楽ファンが参加できて、自然体でいられて、踊れて、場合によっては何か新しいものを発見できるような場所にすることを、常に優先してきたことかな。このミッションにおけるシンプルさのおかげで、Warm Upは流行にあまり左右されることなくやって来れてる。
マット・ワース:夏ごとに新しい参加者がいるし、何シーズンも前に来た人がまた戻ってくる。立ち上げ当時から来てる人はそれほど多くはないけど、一定の間隔をおいて来る人はいる。ほとんど同窓会みたいな感じだよ。
タジャ・チーク:拡大傾向にある主要なフェスに比べて私たちの予算は限られているから、融通を利かせるようになって、順応できるようにもなったのよ。私たちの決断に信頼を寄せてくれる観客もいるし。それに、イベント当日は一日中、「Young Architects Program」や美術館の展覧会も一般向けにオープンしてることもあるわ。

左よりIsabelia Herrera、Jonas Leon、Eliza Ryan、Naomi Zeichner、Taja Cheek、Matt Werth
Warm UpのDNAとはどういうものでしょうか?
タジャ・チーク:発足当時から常に、MoMA PS1にはコミュニティを育て、アヴァンギャルドを取り上げていくという目標があった。ナイトクラブがやるみたいに、選りすぐりのアーティストと並んで、雰囲気や観客も作り上げるのが目標だった。中には、より多くの若い世代や白人以外の人たちを呼び込む手段として、音楽の中身を吟味せずにイメージのために使っている施設もある。でも、Warm UpはずっとMoMA PS1のスケジュールの中でも重要な一部だったし、そのように扱われてきた。
Warm Upはキュレーターによって違いがありますか。
マット・ワース:大幅に変わる。自分がどれほど音楽について知ってると思っていても、グループを通して目を見開かされることが本当に多くて驚くよ。
イサベリア・エレーラ:ここ数年のWarm Upの委員会は、 男女間の公正さを目指すジェンダー エクイティや、人種や民族の多様性を念頭にキュレーションを行うことで、音楽フェスにありがちな、似たような人ばかりが出演する有害なラインナップの問題に取り組もうと努めてきたの。今年は今まで以上にライブ パフォーマンスの数も増えて、多くのラッパーやラテン系アーティストが出演するわ。

これらの多様な視点によって、ラインナップはどのように強化されるんでしょうか。どんな風にお互いに意見を戦わせるのですか。
タジャ・チーク:一般向けのプログラムを作るというのは、特に野外スペースでのイベントの場合は、本質的に政治的なものよ。委員会は全員、概して進歩主義的で問題意識も高いけれど、出演者や観客、私たちチームのために、いかに公正さやアクセシビリティという共通の目標を達成するかについては、皆が異なるアイデアを持ってるの。同時に、より量的な面でも、つまり集客数や収益面でも、イベントを成功させる必要がある。だから必ずしも常に同意見というわけじゃない。でも同意見になるはずとか、そうあるべきという期待もないと思うわ。
イサベリア・エレーラ:自己批判的な音楽プログラムに関われるのはワクワクするわ。それが完全に利益を上げることに焦点を当てたものじゃない場合は特に。ブッキングやキュレーションに関するこの自己批判的な傾向は、 最近では、大抵アンダーグラウンドな音楽シーンでしか見られないしね。
エリザ・ライアン:この話は激しい議論になるわ。一部のメンバーにとっては、これは8年越しの議題なのよ。この議論の過程で、私にはニューヨークでの親友ができたくらい。
ナオミ・ゼイシュナー:自分が何を知らないかを知ることが極めて重要ね。私にはどのテクノセットが最高で、どれがただ良いのか、確信が持てない。全員の電話番号を知ってるわけでもない。このグループにおける理想的なの状態は、何か重要なことについて、自分より他のメンバーが詳しいとメンバーそれぞれが信頼できて、各メンバーがゲストに対して心から関心を持っている状態ね。
ディーン・ベイン:僕は時々、自分たちをニューヨークの5つの行政区みたいに考えることがある。僕たちそれぞれに雰囲気や関心や歴史があるけど、ひとつにまとまることで様々なアイデアの寄せ集めができて、それが合わさって僕たちの町全体としてのアイデンティティになってるんだ。
どういうところが人々はWarm Upについて誤解していると思いますか。
ディーン・ベイン:イベントを企画するためのお金がたくさんあると思ってるところ。実際のところ、アーティストが演奏しにくるのは、大体の場合、彼らが来たいと思ってるからなんだ。
ジョナス・レオン:演奏するには有名なエージェントと契約してなきゃダメだと思ってるところ。
タジャ・チーク:内輪イベントだと思ってるところ。
マット・ワース: 毎土曜日が満員になると思ってるところ。有名なアーティストが出演する日は確かにいっぱいになるけど、だからこそ、あまり有名でない人が出る日をチェックするべきなんだ。そよ風が吹く、ゆったりとした土曜日に、のびのびと踊れる空間で楽しむWarm Upには、何ものにも代えがたい雰囲気があるよ。
この夏のラインナップの見所は? 注目のアーティストと、その理由を聞かせてください。
ジョナス・レオン:ジョン・バップ(Jon Bap)。数千人の人が彼を好きになるのが見られたら、何も文句はないよ。
イサベリア・エレーラ:DJプラジェロ(DJ Playero)とオマール・アポロ(Omar Apollo)。この出演者たちを見れば、今年Warm Upに出演するラテンアメリカ系のアーティストの幅の広さや、一般的にどれほど多様なアーティストがいるか分かるわ。プラジェロはプエルトリコ出身のレゲトンの創始者のひとりだし、オマール・アポロはインディアナ出身の20歳そこらのR&Bシンガーよ。それからヴァリー(Valee)。これは私がシカゴ出身だから。マナラ(Manara)は、私たちにはもっと完璧で才能のある有色人種の女性DJが必要だから。ソウル サミット(Soul Summit)は、彼ら以上に野外パーティーを楽しくできる人たちはいないから。
ナオミ・ゼイシュナー:スロータイ(Slowthai)。それからワシントンD.C.のゴーゴーのバンド、ニュー・インプレッションズ(New Impressionz)。ティエラ・ワック(Tierra Whack)や、SOB x RBE、マクソ・クリーム(Maxo Kream)、キューバン・ドール(Cuban Doll)ら、2019年のベストラッパーたち。フッドセレブリティー(HoodCelebrityy)は2017年のサプライズゲストで、今年はラジオでヒットした曲を携えて戻ってくる。
マット・ワース: いちばん難しい質問だけど、僕はティエラ・ワック(Tierra Whack)が7月7日に何をやるのか楽しみで仕方ないよ。
ディーン・ベイン:DJプラジェロ。それから、他にもまだ話せないけど、すごく楽しみなサプライズゲストが何人かいる。
Warm Upの雰囲気を言葉で表すとどんな感じですか。
タジャ・チーク:日によって違うけど、僕がこれまで体験したのは、祝祭的で、共同体的で、内省的だった。
イサベリア・エレーラ:私には、Warm Upはいつでもコミュニティを感じさせるものだったわ。いつでも顔見知りがいて、まさに他のファンと空間をシェアしてるって感じ。夏だもの。誰もがいつもよりちょっと気を抜いて、親しみやすくなって、自由で、気が大きくなるの。
マット・ワース: 魔法みたいに毎年夏になるとニューヨークに現れる、よくわからない感覚に似てる。Warm Upは燦々と輝いてるんだ。
Durga Chew-BoseはSSENSEのシニア エディターである
- インタビュー: Durga Chew Bowse
- 写真: Eric Chakeen