Natasha Staggは、ほとんど有名ではない
作家兼雑誌編集者が、インターネット時代におけるセレブリティと信ぴょう性について単刀直入に語る
- インタビュー: Bianca Heuser
- 写真: Brianna Capozzi

あなたが自分自身へと成長していくにつれて、物事はより複雑になっていく。「物事」と書いたが、複雑になっていくのは、つまりあなた自身だ。欲望は、まるで狂牛病にかかった雄牛のように、容赦なく快楽と苦痛の隔たりに突入してくる。そして、若き日の理想によって白と黒にはっきり見分けることが出来た世界も、とうとうチアシード入りのプリンのようにドロドロとしたものに見えてくる。もともと、20代前半は濁った水そのものだ。10代の自己が作り出した抽象的な理想主義だけを武器に、まさに発達途上の大人は、「何」に対して変わらずに「真実で」あり「続ける」べきかを決めることに、持てる時間のほとんどを費やす。そもそも、これはどういう意味なのか?

成長の物語を描いた小説では、主題の泥沼加減が本としての魅力を生む。愛やアイデンティティ、そして憧れといったテーマは根本的に変わることはない。しかし、人がどんなふうに成熟するかは、適応すべき新しい状況や環境要素と共にで変化する。シャーロット・ブロンテの小説『ジェーン・エア』は、そのロマンティシズムにおいて、いまだに共感を呼ぶ作品かもしれない。しかし、登場人物は誰もインターネットを知らなかった! 片思いに溺れるだけではなく、好きな人やその母親までソーシャルメディアでストーキングできるこの時代に、ロマンティックな関係はずっと多くの可変要素を含む。Natasha Stagg(ナターシャ・スタッグ)のデビュー小説『Surveys』は、これらの要素だけを丹念に調べ上げた本である。アリゾナ州ツーソンで育ったスタッグは、現在ニューヨークに在住。女性ファッション誌『V Magazine』とメンズ版『V MAN』のシニアエディター、さらにオンラインカルチャーサイト 『DIS Magazine』で読者の悩み相談に答えるコラムニストを務めている。アメリカで最も影響力のあるインディペンデント出版社Semiotext(e)/Native Agentsから今年出版されたこの本は、主人公のColleen(コリーン)が、まるでNatasha自身のように、ツーソンのとある調査センターで死ぬほど退屈しているところから始まる。そして、23歳の彼女はインターネットを介してちょっとした有名人の男性と知り合い、半ば彼と一緒になるために、ロサンゼルスへ引っ越すことを決意する。カップルになるや、あっという間に評判が広まり、コリーンとジムはスポンサー付きのイベントを主催しながらアメリカ国内を巡り、彼らのロマンスにまつわる人々の熱狂を利用して稼ぎまくる。
コリーンの嫉妬深い性格が次第に本格的な強迫観念へと変化するにつれ、著者の語り口は、優しく、同時に距離感を持ち始める。デジタルとアナログの世界が交錯する場所を健全にナビゲートしようとし、そのプロセスで解離を経験した人なら、分かりすぎるほど分かる。Staggが紡ぐ物語は、テクノロジーがわたしたちの感情にもたらす影響を病的に捉えるのではなく、成長過程で同時に進行する諸要素を繋ぎ合わせる。主人公のコリーンは自分自身へと成長していく。同時に有名人になる。同時にインターネット上で活動する。『Surveys』は、誠実と不信が溶解して悪意に満ちた水たまりとなった時代における自己形成、喪失、そして若き恋の物語である。レタッチ加工された画像の背後にある現実、注意深く編集された文章の行間で展開する出来事のファンタジーである。
ビアンカ・ハウザー(Bianca Heuser)が、セレブリティの魅力、信用性という概念、出版社Semiotext(e)、ネット用語について、ナターシャ・スタッグに話を聞いた。


ビアンカ・ハウザー(Bianca Heuser)
ナターシャ・スタッグ(Natasha Stagg)
ビアンカ・ハウザー:『V Magazine』でのあなたの仕事には、たくさんのセレブリティのプロフィールが出てきますね。小説『Surveys』でも、セレブリティという概念が登場します。
ナターシャ・スタッグ:今となってはおかしな感じね。なぜって、自分にとって、セレブリティは仕事の上で毎日考えなくちゃいけないものだから。でも、普段でもよく考えてしまうんだけどね。『V』で働き始めてから、セレブリティやセレブリティの宣伝メカニズムについてすごく多くのことを知ったから、今本を書いたとしたら、全く別物になると思う。ただし、必ずしも良くなるとは限らないけれど。だって、これってすごくBret Easton Ellis (ブレット・イーストン・エリス:アメリカのX世代を代表する小説家)的な分野だと思わない? わたしは無邪気な小説のままにしておくわ。
セレブリティに興味を持ったきっかけは何だったんでしょうか?
ずっと興味はあったわ。わたしは、ずっと、主流じゃないセレブリティをフォローしてるの。誰もが腹を立ててしまうようなセレブたちに興味がある。いわゆるソーシャライト。セレビュタントと呼ばれていたような、有名だという理由だけで有名な人たち。言うまでもないけれど、こういう名声は、何よりもその人のカリスマ性を物語るものだわ。何もしないで、ただ自分であるだけで有名になる人に対して、人々がものすごく腹を立てるのが面白いなって、いつも思ってた。わたしにとっては、そういうセレブたちの方がよっぽど正直に見える。でも、職業を持っているわけではないから、メディア上では偽物っぽく描かれる。だけど、職業って、上辺だけのことであったり、名声自体の偽体だったりする。だって、有名かどうかの本当の理由って、その人のイメージだったり、そのイメージにまつわることが関係してるんだもの。そんなことは誰でも知ってる。だから、歌手でも俳優でもない人が有名になることの方が、わたしにとっては興味深いの。その人物がどんな風に世に出てきたのか、その内部構造がもっとはっきり見えるのよ。
その話は『Surveys』の主人公コリーンと彼女の名声に、どう関わってくるんでしょうか?
『Surveys』を書き始めたとき、人が有名になるってどういうことかを考えたかったの。さっき言ったような何の理由もなく有名になるというケースに限らず、誰かが名声を得ていくというテーマは、主人公の成長を描くのに、すごく格好の材料に思えたの。公共の場に出ていくことは、別の意味で、大人になることだと思うから。成長していく間に有名になるとしたら、それは二つの意味で大人になることだと思う。単純に、書いたら面白そうなテーマだなって思ったし。若い人の物語を書きたかったから。わたしの好きな本は、みんな主人公が大人へと成長していく物語だから、自分もそのひとつになるような作品を書きたかったし、それを現代の設定で書いてみたかったの。映画スターやロックスターの話にはしたくなかった。そこまで限定してしまうと、すごく孤立したものになってしまったと思わう。で、わたしがどういうトリックを使ったかというと、先ず最初に、この人物がどんな風に見られるか、どんな環境で見られているのかを説明しないことを前提にしたわ。すごく曖昧にして、読者が空白を埋められるようにしたかったの。レビューを読むと、昨今のインターネット サクセス ストーリーでその空白を埋めているみたい。必ずしもわたし自身が意図したものとは違うけど。



それはすごく面白いですね!
とても単純な成り行きだわ。別にいいけど、わたしとしてはそんなに狭い話にはしたくなかったのよ。
わたし自身、そういう結論に飛びついてました。そして、プラットフォームについて一切触れていないのが驚きでした。作品の中で頻繁にフェイスブックとかインスタグラムを出していたら、見苦しい内容になっていたと思います。作品の成熟を妨げるだろうと思います。
作品が良い歳を重ねるんだとしたら、それはほとんど偶然の産物みたいなものだわ(笑)。大学院のワークショップで小説の中間部のほとんどを書き上げたんだけど、なんらかのプラットフォームの名前を言及してしまうとすぐに時代遅れに感じてしまう、ってみんな同意していたわ。純文学界では、古典や不朽の名作とネットの言葉遣いは切り離すべきだということが重要視されていいて、わたしはそれには賛同できないけどね。こういうネット用語はすべてこの先も残り続けるし、物語の中でテレビについて言及するのと同じぐらい意味のあることなんだ、って理解できないらしいの。変な話だわ。とにかく、何か特定のプラットフォームや数字には触れるべきではないというプレッシャーはすごく感じていた。そういうものがあることで、品がなくなってしまうから。そういう情報で驚かせるようなことはしたくなかったし、それよりきちんと下地を作りたかったの。彼らは、あなたが有名だと思う分だけ有名なの。彼らはあなたがこうだろうと思う美学をリサーチをしているし、あなたが惹きつける考える人たちを惹きつけるの。
あなたが説明するコリーンのスタイル、つまり肌色を多用してグレーっぽいネイルというのは、 Kardashians(カーダシアン一家)を彷彿とさせました。
え、本当?


すごくキム・カーダシアンぽい色使いだなと思いました。
それはそうね。わたしがこの本を執筆していた5年前、彼女はそんなファッションじゃなかったと思うけど、でも今となってはすごく面白いわね。あの主人公からカーダシアン一家を想像する人がいるというのは、何かで読んだことがある。他には、アーティストみたいな、もっとアバンギャルドな人を頭に思い浮かべる人もいるみたいよ。いつもベッドルームにいて、インスタグラムにドラッグでストーンしてるような写真をポストして、超有名人になるような人。ドラッグについては特に文章で触れてはいないし、写真についても語っていないけど、読者は自分の人生で何が起こってることをキャラクターに投影できるの。それがすごくいいと思う。
『Surveys』は、世代小説のように感じます。でも、例えば同じようなテーマを扱っているドラマ『GIRLS/ガールズ』(ニューヨークを舞台にした20代女性のラブコメディドラマ)なんかに比べると、ものの見方がとても寛容です。それは、ネットのプラットフォームや人物、コリーンが1日に撮るセルフィーの数が書かれていないことにある程度関係してくるのかなと思います。ミレニアル世代についての会話は、どうしてもつまらなくなる。大人ぶっているように感じる。
そうね。雑誌社で働く場合、全ての情報が正確か、時代に合っているか、個人的になりすぎていないか、雑誌全体のイメージが反映されているかを確認しなくちゃいけないの。でもその一方で、あるひとつの存在、一個人をテーマにした人気出版物もある。ただ自分たちにとっての普通のやり方で生活をしているだけで、それがインパクトになる。だから、ミレニアル世代についての批評を読んでみると、批評を書いている人たちはちょっと羨ましいと思っている、少なくとも懐疑的だってことがわかるわ。わたしはそんな生真面目な本は書いたことがないし、これからもまず書かないわね。わたしの本がミレニアル世代に対して懐疑的だと思われないといいけど。こういうトピックで、新しいものの見方を学べるのはすごく嬉しいことよ。だからこそ、彼らについての文章を読むの。でも、どちらの立場も理解できるわ。


『Surveys』を出版したSemiotext(e)は、Bernadette Corporation(バーナデッド・コーポレーション)の小説『Reena Spaulings』も出版していますね。10年ほど前のニューヨークの世代とアートシーンを描いた共同執筆の成長物語でした。Semiotext(e)のブランドであるNative Agentsの創設者Chris Kraus(クリス・クラウス)と、雑誌「Dazed & Confused」のインタビューで出会ったそうですね。どうして、この本を出版するという話になったのでしょうか?
こんなことになるなんて、自分でも思ってもいなかったわ。Semiotext(e)から何かを出すなんて、ずっとわたしの夢だったからね。初めてベルリンに行って、友達に教えもらってからずっと。そんな出版社がこの世にあったなんて、心底びっくりしたのを覚えている。歴史が興味深いし、そこに集う人たちの顔ぶれが、知っている中でいちばんクールな集団だと思ったわ。だから、クリス・クラウスにインタビューしたときは、出版について聞く必要があったのよ。わたしの本を送って、6ヶ月後にやっと読む時間を見つけてくれて、それで気に入ってくれた。「Semiotext(e)で、ぜひ出版したい」と言ってくれたわ。ほんの短いメールでね。「こんなことって、あり?」って感じだった。ほんとにスムーズで素晴らしい経験だったわ。『Reena Spaulings』は、Semiotext(e)の本の中でわたしが初めて読んだ本よ。何が書かれているかなんて見当もつかなかったけど、ずっと永遠に読んでいたかった。
あなたとクリス・クラウスのフェミニニティーには、似ているところがいくつかあると思います。クリス・クラウスの小説『I Love Dick』の主人公が強迫観念に身を投じるプロセスと、コリーンが彼女の強迫観念に溺れるプロセス。そして、どちらの本の中でも、彼女たちの持つ強迫観念が病的だとは考えられてない、その描き方です。
たぶん多くの人がそう言うだろうけど、わたしがクリス・クラウスの作品を読んだとき、すっかり驚いてしまったの。だって、わたしがずっと持っていた考えを彼女が代弁しているみたいだったから。『Surveys』を書く前には、彼女の作品は読んでないと思う。読んだとき、Chrisがわたしの作品にかなり加筆したり編集したに違いないって、沢山の人が考えるだろうと思ったわ。類似点がいっぱいあるから。セックスの面でも。コリーンとクリスのセックスについての考えは、とても似通ってる。どちらも、セックスから剥離したと感じているし、でもセックスが必要なの。セックスはパワープレイなの。ふたつを切り離すことができない。まるでセックスが闘いみたいにね。
- インタビュー: Bianca Heuser
- 写真: Brianna Capozzi
- スタイリング: Delphine Danhier