ニコ・ヒラガはシャツが嫌い

数学の計算をしながら人気上昇を目指す、サンフランシスコ出身の俳優兼スケーター

  • 文: Erika Houle
  • 写真: Sam Muller

スイムパンツ姿になってプールサイドでくつろぎ、ティキのマグカップに入ったアイスティーをちびちび飲みながら、フェリス・ビューラーは「今日は休む」と宣言する。その30年後、学校をさぼることと自分の恋愛を全うすることに全力を注ぐ非凡な怠け者、この映画史上最も愛すべきトラブルメーカーの高校生に、魅力的なライバルが現れた。21歳、スケーター兼モデル、そして「ハイになってるサーファー少年」、ニコ・ヒラガ(Nico Hiraga)だ。ビューラー的な主役の座を手に入れるなど、あまりに突拍子がなく現実離れしているため、彼はまだ、すでに起きつつある事態に気づいていない。

ロサンゼルスでのある月曜の朝、ヒラガは撮影の準備万端で、晴れやかにセットに現れた。子犬のような目は大きく開き、緩いカールの髪にはつやがある。サンフランシスコで生まれ育ったヒラガは、そのカリフォルニアに典型的な輝きを纏っており、その光が割れた腹筋をさらに強調していた。「いつもシャツを着てないことで知られてるんだ」と彼は言う。「いいクロップ丈のトップスは大好きだよ。『エルム街の悪夢』のジョニー・デップ(Johnny Depp)は、あの馬鹿っぽさがかっこ良かった。タンクトップは大好き。ボタンアップは、ボタンをはずしたままにする。みんな、『こいつは体を見せびらかそうとしてるな』とか、『この野郎は日焼けしてるな、はいはい、わかった』って思ってるんだろうけど、俺はただシャツが嫌いなだけ!」ヒラガはファッション全体に対する嫌悪感についてオープンに話す。「近頃のソーシャルメディアでのみんなの服装ときたら、クレイジーな髪形でカモフラージュしてるみたいだ」。けれど、ロサンゼルスに短期滞在するために持ってきたダッフルバッグの中身は、別のことを示唆している。スウェードのキャスケットやベビーブルーのGOLF le FLEUR*のニットベスト、彼自身がデザインしたLakai Newport×Nicoチェリー ブロッサム スニーカーが入った所持品の山をあさり、彼はその日にぴったりのスタイルを探すのだ。服を着替えては、自然とカメラの方を向き、芝居がかった表情を次々と披露する。両手で顔を隠し、口をとがらせて退屈な表情をしたかと思えば、次は、ハワイアン プリントのボタンダウンをはずして、海辺の窓で揺れるカーテンのようにひらひらさせる。ヒラガは生まれながらのパフォーマーだ。彼が、周りまで思わずつられてしまうような笑い声をあげ、奇抜なダンスの動きをすると、にわかにスタジオが活気づく。そして「最高」や「イイ感じ」といった言葉と同じくらい頻繁に、彼は「ダチに感謝」や、達成してきたことすべてに対する心からの感謝を口にする。

子どもの頃から、ヒラガは夢を叶える場所を作り上げてきた。子ども部屋の壁は、ブルース・リー(Bruce Lee)や『ジャスティス・リーグ』のポスター、大きな日本の国旗、ポラロイドで埋め尽くされ、そのうちのひとつは、お気に入りの古いスケートボード専用の壁だった。そして、いつの日か、そこにプロのスケートボードを飾り、故郷を大々的に有名にしたいと語る。サンフランシスコで育った彼が、サッカーを辞めてスケートボードを始めるようになったのは自然な流れだった。以来、ヒラガにとってスポーツは、「ストレス発散」とプロへの道の両方に使える最高の分野となった。「俺はいつもちょっと浮いている存在だった」とヒラガは言う。「超リッチな私立校に通ってたんだ。いつもパンツを腰で穿いてた。親たちは俺のことが好きじゃなかったね。母さんは怒りまくり! だから俺は『もういいよ、スケボー始めるから』ってなった」。気の合う仲間と出会った今、彼はプライドを持って「汚いスケート馬鹿」を自称している。汗まみれになり、ひじが傷だらけになったときこそ最も自分らしく感じると、ヒラガは言う。それは、取材が終わってスタジオを後にするとき、親しい仲間たちと一緒にいくつかのトリックをキメている彼の姿を見ても、明らかだった。

みんな、「あ、こいつは体を見せびらかそうとしてるな」とか「この野郎は日焼けしてるんだな、はいはい、わかったよ」って思うんだ。でもシャツは大嫌いだね!

ヒラガは、新しい人気者となる状況を自分のものにする準備を着々と整えている。Nike所有のサーフィンの会社、Hurleyのスポンサーを獲得した。これによって彼のデザイン経験はスイムウェアにまで拡大するはずだ。エイミー・ポーラー(Amy Poehler)の未公開の最新作である、Netflix作品のオーディションを勝ち残り、タイラー・ザ・クリエイター(Tyler, the Creator)や、ロサンゼルスを拠点とする起業家のマイキー・アルフレッド(Mikey Alfred)のような業界通と何年も親しくしている。最近も、ヒラガにとって3度目の出演作となる、アルフレッドの監督デビュー作、『North Hollywood』の撮影を終えたばかりだ。この映画の役にはいくつか難しい点があったと言う。「超シリアスというか、腹を立てて険しい態度でなくちゃいけないシーンが2カ所あったんだけど、それがどうも俺っぽくなくてさ」。だが、アルフレッドの励ましと、役になりきるためのヒラガ独自のアプローチのおかげで、今では、演技の新しい境地を切り開くのが楽しみになっていると言う。どんな準備をしたのか尋ねると、ヒラガはこう即答する。「怒ったんだ! ダチが女のせいで俺との約束をドタキャンしやがった、絶対に問い詰めてやるって感じで」。次の映画では、もっと別の、自分の個人的な側面を掘り起こしたいと思っている。「理想の役は、失恋して感傷的になるような、超ロマンチックで繊細な男の役」だと言う。「カメラの前で泣けるなんて最高じゃん?」

ヒラガは決して模範的な生徒ではなかったと言う。というより、クラスのお調子者だった。そんな彼だが、今でも長除法の練習をしている。数学の問題を解くことが、自らのライフスタイルの狂騒から外れ、仕事で各地を回る合間にも心を育むために、欠くことのできない手段となっていた。最近は、スケートボード集団Illegal Civilizationと回っているツアーや、クリスタル・モーゼル(Crystal Moselle)監督の『スケート・キッチン』やオリヴィア・ワイルド(Olivia Wilde)監督の『Booksmart』といった人気の青春映画の制作のため、ホテル生活が多くなっている。まだ数字を征服することはできておらず、ほとんどの式は「曇りがかってしまう」と言うが、これがハリウッドのあこがれの的になるという短期集中コースならば、ヒラガに回答は必要ないどころか、寝ながら教科書を書くことだってできるはずだ。

夕方前の照り付ける太陽の下、ヒラガは何度かの挑戦ののち、歩道の狭い木の股でオーリーを成功させた。たゆみない職業倫理は両親のおかげかもしれない。父親について話していると、ヒラガは「子どもの頃にいつも『七転び八起き』って言われて育ったんだ。7回転んだら8回起き上がるって意味だよ」と言い、その言葉を日本語で彫った腕のタトゥーを見せてくれる。また、自分のことを「100%マザコン」とも言い、その関係を説明するために、彼がはっきりとした目的意識を持つきっかけとなった、母親との会話の思い出を話してくれた。「ちょっとキツかった時期があったんだ。自分が何をやってるのか、わからなかった。20歳になっても両親と同居してた。ふたりにストレスを感じて欲しくないから、もう家を出ていくべきだと思ってた。それについて、しばらく母さんに話してたんだけど、その時に母さんが言ったんだ。『あなたはいつまでも成長し続けるのよ。止まっちゃだめ、絶対』って。そのとき、俺たちは階段に座ってたんだ。だから俺は携帯のリマインダーに『階段での会話』と書き込んだ。そして太陽の絵文字を加えた。母さんは、俺のことを輝いている太陽みたいって言うからね。俺はそれを毎日思い出して、その輝く太陽になるんだ」

Erika Houleはモントリオール在住のSSENSEのエディターである

  • 文: Erika Houle
  • 写真: Sam Muller
  • Date: October 18, 2019