ケイト・ザンブレノについてのノート

多作な作家が服とキャンプ、最新作『Screen Tests』を語る

  • インタビュー: Claire Marie Healy
  • 写真: Heather Sten

ケイト・ザンブレノ(Kate Zambreno)は、メトロポリタン美術館で開催中の「キャンプ:ファッションについてのノート」展の出口で、楽しげにTシャツを見ている。Tシャツには「CAMP COUNSELLOR(キャンプ リーダー)」と書いたピンクのパーカーを着て、SUSANという文字をかたどったバレットを髪につけたスーザン・ソンタグ(Susan Sontag)のイラストが入っている。ソンタグは絶対に身につけないだろうが、もしかすると、「そこがむしろキャンプなのかも」という点で、私たちの意見は一致した。それでもこの作家は、宝石を散りばめた鉛筆セットや、明るい色のキッチンのタイルのようなミニチュア サイズのMolly Goddardのバッグなど、「キャンプ:ファッションについてのノート」展のグッズに囲まれて上機嫌である。こうしたアイテムは、常に彼女の念頭にあった、ある種の「意図的にバカっぽくしている女性さらしさ」を象徴しているようなのだ。

ザンブレノの新著『Screen Tests』はジョークにあふれている。その中で彼女は、あのゴージャスで悲劇的で物悲しいまでに皮肉な時代に、ひねった解釈を加える。アイオワ州で毎年開かれるジーン・セバーグ国際映画フェスティバルへの招待、父親が彼女の赤ん坊を、あの死に際の言葉が「コデイン…バーボン」だった女優にちなんで「タルーラ・バンクヘッド」というあだ名にするのだと言い張るときの言い方、パティ・ハースト(Patty Hearst)が晩年にウェストミンスター ドッグショーで優勝しているという事実。ザンブレノの本を読むことは、他の作家に比べ、ずっと親密な行為だと常々感じていた。『Screen Tests』では、これまで以上に読者をからかってくる。なぜなら、ジョーク以上に親密なものなどないからだ。

冒頭の画像 Kate Zambreno 着用アイテム:タートルネック(MM6 Maison Margiela)ブーツ(Maison Margiela)

現在、ザンブレノは小説を執筆中だ。(小説2本、ノンフィクション3本が控えていることからもわかるように、どう見ても彼女は多作である。) 2011年に出版された、カルト的人気を誇るザンブレノのノンフィクション デビュー作、『ヒロインズ』が彼女の人生における、ある特定の時間を表しているのだとすれば、最近の彼女の作品は、現在進行形に思える。母親について思い出しながら書いた『Book of Mutter』は執筆に10年を要したが、その中で交わされた1年間にわたる一連の会話から、『Appendix Project』が生まれた。

『Screen Tests』は、作家や映画のスターを愛でる。アニー・リーボヴィッツ(Annie Leibovitz)が撮影した、ハロウィンに熊の着ぐるみを着たソンタグの写真を愛でる。そして、多くの人物の人生とアートを愛でる。中でも特に、デイヴィッド・ヴォイナロヴィッチ(David Wojnarowicz)、クッキー・ミューラー(Cookie Mueller)、ピーター・ハジャ(Peter Hujar)、キャシー・アッカー(Kathy Acker)、ヴァレリー・ソラナス(Valerie Solanas)という、90年代より前の世代がお気に入りだ。ウォーホルのファクトリーと、そのきらびやかな亡霊たちが至るところに浮上する。こうした人物らと同様に、『Screen Tests』もまた、加齢や外見の問題に取りつれている。ある意味、虚栄心がやや強めだと言える。ザンブレノは素晴らしく服装に配慮する作家である。ヴァレリー・ソラナスの銀のラメ入りのドレスや、ルイーズ・ブルックス(Louise Brooks)のミントグリーンの部屋着の描写を見るに、「キャンプ」展が描くソンタグのファッションへの関心度に比べれば、彼女の方が服に関心があるのは明白だ。ザンブレノはこのテーマに疑問を投げかける。ソンタグの感性、魂をマネキンの間に見出そうとしているのだ。途中、ガラス越しにレッドカーペットのデザインに向けて冷たいし視線を浴びせながら、ザンブレノは「でも『キャンプ』は醜いものでもあるべきなのよ!」と叫ぶ。先ほど彼女は、ソンタグがアンディ・ウォーホル(Andy Warhol)のために実際に行なったスクリーン テスト動画が映されたスクリーンの前で、長い間止まっていた。当時のソンタグは30代であったにも関わらず、10代と見まごうばかりに若々しく見える点について、私たちは議論した。

インタビューの後、ザンブレノと別れた私は、ロバート・メイプルソープ(Robert Mapplethorpe)の展覧会を見るため、数ブロック離れたグッゲンハイム美術館に向かった。入り口で、ギャラリー巡りの定番、アスレジャーのフリースに斜めがけのバッグという出で立ちの女性ふたりが、ライフルを抱えてポーズをとる写真家のセルフ ポートレートの前に立っている。「パティー・ハーストよ!」と、ひとりが言うと、もうひとりがククっと笑う。ザンブレノは彼女たちのことが気に入るだろうな、と私は考える。

クレア・マリー・ヒーリー(Claire Marie Healy)

ケイト・ザンブレノ(Kate Zambreno)

クレア・マリー・ヒーリー:服の話がしたいの。『Screen Tests』に素晴らしいくだりがあって、そこであなたは、以前は「スリで、お金のために誰とでも寝るような、かわいい男の子のように」見えたかったと書いているわね。

ケイト・ザンブレノ:しばらくの間、ファッションについて書くのがためらわれたの。『ヒロインズ』のレビューに、私の華美な世界に対する執着が「格好ばかりで中身がない」と書かれてた。その人は、私がシミのついたカーディガンに愛着があると書いたことを、すごく怒ってた。私は、ここに引っ越してきて、ニューヨークの女性たちのタフな鎧に本当に魅力を感じていたのよ。お金のために誰とでも寝るようなビッチに、すごく惹きつけられていた。でも、今考えると、私はもう少し変で、脆く見られたいのね。

親近感の持てるビッチ?

違う、親近感は持てないビッチよ! 親しみは持たれたくない。

文章は、家で部屋から部屋へとウロウロ歩き回っているようになりえるか、あるいはアーサー・ラッセル(Arthur Russell)の音楽を聴くような感じになりえるか、とあなたが書くとき、そこには癒やしがある気がするのだけど。

私は読者を癒したいなんて考えたことは、一度もないと思う。興味があるのは、ある程度の親密さを読者と持つことよ。読書というのは、ものすごく個人的なものなの。そこでは一緒になって存在しているわけだから、ある程度のコミュニケーションが望める。私はドラマの『フリーバッグ』を6回くらい観たのだけど、あれは私たちの時代にぴったりの作品だと思うわ。脚本がすばらしい、姉妹愛とは何たるかについての完璧な悲喜劇よ。すごくエロティックで、それも人生では役に立つ。しかも、この作品は真面目くさってない。私は優しくて、エッチで、思慮に富んだ作品が好きなの。

あなたは常に、別のものになるというか、別のものみたいに振る舞う文章を書くという考えに関心があるのよね。『Book of Mutter』では、部屋をいくつも通り抜けていくような感じの本であってほしいと表現していた。その点、『Screen Tests』のテンポは、ずいぶんと違う気がする。

面白いのが、ソンタグは「キャンプについてのノート」の中で、キャンプをアイデアではなく、感性として語っているの。『Appendix Project』も『Screen Tests』も、トーンや、ある種の風変わりな感性から着想を得ている。『Screen Tests』は、私にとっては感情そのもので、そこには、ある種の陽気さと軽さがある。『Appendix Project』の文章の方は違って、アン・カーソン(Anne Carson)のレクチャーの影響を強く受けていて、そこにはある種の時差ボケのような性質がある。『Screen Tests』の方は、文学作品ではない文章というか、メモやスケッチだと考えてる。ジョークなのよ。しかも多くは内輪のジョーク。自分がすごく真面目に考えてきたことを茶化したものなの。それがすべて本になるなんて、そんなつもりなかったんだけどね。

アーティストであることの素晴らしさや喜びから着想を得ているけど、大抵の場合、このことが意味するのは、人の目に止まらないということよ

『Screen Tests』は、展開がすごく早く感じるのだけど、同時に、アーティストやその作品も数多く引用していて、それが「間合い」になってるわね。読者には読むのを一旦止まってほしいと思う? ビジュアルを描写している箇所では、本を置いて調べてみてほしい?

変ね、私ったら「キャンプについてのノート」を持ち出してばかりよ。この点は長い間しっかりと考えてなかったんだけど、ソンタグの文章でも、特に、あのとりとめのなさに私はすごく惹かれるの。彼女はとても頭の回転が早いから…、『Screen Tests』において、私が書きたいと思っていたことのひとつが、そのとりとめのなさだった。で、これってインターネットなのよ。オンラインで何でも調べていると、演説家とか、語り部的な感じがするというか—自分だけど自分じゃないみたいな。文字通り、オンライン上、スクリーン上に存在する語り部よ。それが今の私たちのあり方なの。さまざまなことがオープンになっていて、さまざまな妄想を私たちは検索している。物事を調べる人がいても私は構わないけど、私は、ビジュアルについて書くことや、アートについて書くことの意味にも興味がある。

あなたは個人的な関係についても議論してるわね。亡くなった人とか…。あと有名な人についてもたくさん。この人たちもすでに亡くなっているわね。このように人の人生を記録するとき、倫理面で、どんな課題に直面しているの?

自殺した友人について書くときは、そのことが、自分がライターであるための促進剤みたいになってる。もう20年になるわ。それが持つ倫理的な問題については、以前ほど悩まされなくなったと思う。逆に、現在の友好関係について書くのは、難しいと思う。多くの人が友情について書くことについて悩んでるわ。友情は、ややもするとこぼれ落ちてしまい、美しく、腹立たしく、矛盾に満ちている。それは書く価値が十分にあるものよ。友人について書くときは、優しさという精神を通して書くことが多い。[でも]20年前に失礼なことをされた人に対しては、恩に着る必要を感じないわ。それに保証していいけど、そういう人たちが私の本を読むことなんてないから(笑)。『Screen Tests』は、実は失敗について書いた作品なのよ。

失敗は、今まさに流行りのテーマよね。あたかも失敗は人に力を与えるものだと言わんばかりに、次から次にうまく失敗する方法についての本が出ている。でも、人生って時にはぐちゃぐちゃになることがあるし、失敗がただの失敗に終わることだってある。そういう失敗は、良い経験になりはしない。

作家になりたての頃、私は何年間もルイーズ・ブルックスとヴェロニカ・レイク(Veronica Lake)の一連の独白に取り組んでいたの。確か、20代後半の頃。本当にひどい出来だった。だから『Screen Tests』は、私が(当時)書けなかった失敗の精神についての作品だと考えてるわ。書こうとしたけど、結果としてわかったのは、自分がそれについては書けないということだけだった。ルイーズ・ブルックスは繰り返し浮上していて、作家として、私はずっと彼女のことを考えていた。世捨て人という人物像と、こうした女性の世捨て人が社会から追放されることがどれほど多いか、グロテスクや狂人のように見られてきたか、すごく興味がある。

バーバラ・ローデン(Barbara Loden)の人生と映画『ワンダ』についての文章も素晴らしかったけど、自分で書きたいと思っていた『ワンダ』について、他の人がどのように書いたかについて書かれた文章も良かった。

ナタリー・レジェ(NathalieLéger)の本ね。すばらしい作品よ。それなのに、私は同じバーバラ・ローデンについての本を書いていた。作家であるというのは、不条理で滑稽なのよ。ある意味、それほど有意義なことでもない。『Appendix Project』と『Screen Tests』、そして来年出版予定の小説も、こういう不可思議な瞬間というか、不気味な反響を中心に据えた作品よ。ここで取り上げたアーティストたちが、80代やその死後になって再評価され、ひとつでも作品を残せたのは良かった。でも、もし彼女たちが今も生きていたらどう? 社会においてアーティストであることの素晴らしさや喜びから、私はたくさんの着想を得ているんだけど、大抵の場合、このことが意味するのは、人の目に止まらないということよ。(ローデン)は、ニューヨークで1度上映会をやって、そのあと、自分は誰からも相手にされないと考えながら、ひどい夫に看取られて、ひどい死に方をした。そういう微妙なところが、私の頭から離れないの。あの人生における疼くような痛みが。生きているうちに高い評価を得ることのなかった、こうした作家たちの匿名性が。ケヴィン・キリアン(Kevin Killian)が最近亡くなったけど、彼はクィアな「ニュー ナラティブ」の流れを汲む、もっとも重要な作家のひとりで、この世代のフランク・オハラ(Frank O’Hara)と言って間違いない。彼はドディー・ベラミー(Dodie Bellamy)と結婚していた。おそらく、今から20年もすれば、人はケヴィン・キリアンを読むようになるでしょう。でも、言葉を紡ぐのがこの詩人の人生で、人々に影響を与えたとして有名になるのとは無縁だった。私に言わせれば、それこそが、このアーティストの実際の人生よ。

着用アイテム:ブーツ(Maison Margiela)

Claire Marie Healyはロンドンを拠点とするライター兼エディター。現在、『Dazed & Confused』のエディターを務める

  • インタビュー: Claire Marie Healy
  • 写真: Heather Sten
  • スタイリング: Ronald Burton III
  • 写真アシスタント: Pablo Calderon-Santiago
  • メイクアップ: Justine Sweetman
  • ヘア: Dana Boyer
  • 翻訳: Kanako Noda
  • Date: July 29, 2019