ピエール=アンジュ・
カルロッティの二日酔い
完璧な独身男の写真家カルロッティと、ベルリンでランデヴー
- インタビュー: Thom Bettridge
- 写真: Lukas Gansterer
- 画像提供: Pierre-Ange Carlotti写真集「Bachelor」より

午後5時。ピエール=アンジュ・カルロッティ(Pierre-Ange Carlotti)と私は、ベルリンはミッテ区にある古い建物のキッチンで、1瓶のコカコーラを分け合っている。僕たちが別れたのは、今朝の5時。昨日は032cワークショップで彼の出版記念サイン会が催されたが、その後に続いたどんちゃん騒ぎから帰宅するときだった。カルロッティは携帯電話を取り出して、夜のあいだに撮った私の写真を見せる。クローズアップにされた私は、目を閉じて、心の中のむず痒さを煙で掻こうと、思い切り煙草を吸っているように見える。無様でみすぼらしい。「俺のせいでキャリアが台無しになるやつが、いっぱいいるな」。ファッション業界の著名人たちが隙を見せる深夜の顔を無数に撮ってきたカルロッティは、そんな冗談を言って笑う。

カルロッティのキャリアは、友達付き合いをしているVetementsメンバーたちの記録写真からスタートした。以来、彼の名前と仕事は、ナイトライフ写真という不正確なカテゴリーと一括りにされている。だが、実際のところ、「パーティー」という背景は、カルロッティが画像で表現する心象風景、エクスタシーやセックス、そしてしばしば哀愁に満ちた世界へ通じる、数多くの入り口のひとつに過ぎない。故郷のコルシカで夜遊びをして、初めて写真を撮って、次の日に現像を待っていた頃の経験を、カルロッティは懐かしそうに回想する。パーティーではなく二日酔いの時間こそ、彼の写真が生まれる時だ。そんな時間には、曖昧になった精神の状態で、美と全くの陳腐を隔てる崖っぷちに記憶がぶら下がる。

トマス・ベトリッジ(Thomas Bettridge)
ピエール=アンジュ カルロッティ(Pierre-Ange Carlotti)
トマス・ベトリッジ:普段はどんな1日を過ごしていますか?
ピエール=アンジュ カルロッティ:日によるよ。仕事をする日もあるし、しない日もある。仕事をしなきゃいけないのに、しない日もある(笑)。なるべく9時か10時には起きる。今はピラティスにはまってるんだ。起き抜けにマリファナを吸うこともあるけど、あれはやめるべきだな。
ハイでピラティスをやると、どうなるんですか?
実際、すごくいいんだ。音楽があったらいいんだけどな。リアーナを聞きながらピラティスできたら、3時間はマシンを続けられると思うよ。俺はかなりリラックスしてるんだ、特にパリにいる時は。みんな同じエリアに住んでるし、何でも20分以内の距離にある。よく行くのは「La Perle」。古くからあるバーで、昔はすごくファッショナブルだったけど、今はもうそうじゃない。みんな常連さ。夕方の6時に入って、完全に酔っ払って午前2時に出る。ウェイター連中もフレンドリーで、俺たちと一緒になって酔っ払っちまう。パリでそういう知り合いがいるのは貴重なんだぜ。すぐ隣は「Le Connetable」ってバーで、朝の6時までやってる。オーナーは55歳の女性とその旦那だから、客がけっこう奇妙なんだ。レストランのくせにすごく悪趣味なディスコ ミュージックを流してて、閑古鳥が鳴いてる。
あなたの新刊は「Bachelor」というタイトルですね。「バチェラー」、つまり独身男性でいることは、あなたにとってどんな意味がありますか?
28歳。良い学校の出身。ハンサム。最高にセクシーってわけじゃないけど、まあまあ。俺にとってはそういうこと。

ストレスでくたくた。
そう、その通り! 少なくとも、いろいろと迷いが多いってところ。
何がストレスなんですか?
分からない(笑)。自分で自分にはかなり満足してるんだけど、どうしても誰かといっしょにいたいと感じることがある。そういう欲求がある。
愛を信じますか?
もちろん。
今までに恋をしたことは?
3回。
パーティーで写真を撮っているとき、どうやって惹かれる対象を見付けるんですか?
俺は人を見るのが好きなんだ。人全般にすごく惹かれる。いろんな違うタイプが好きだ。可愛い顔をした16歳の男の子や女の子ばかりを撮るわけじゃない。なんでも撮る。若いのも、年寄りも、なんでも。

Image courtesy of Pierre-Ange Carlotti (Excerpt from “Bachelor”)

Image courtesy of Pierre-Ange Carlotti (Excerpt from “Bachelor”)
それも、独身男性の要素ではないですか? あらゆるものにアンテナを張り巡らす。
俺は、何に対してもオープンさ! もし誰かと付き合ってたら、今と同じ写真を撮るかなと考えることがあるんだ。だって、すごくセクシャルな表現が多いし、少なくとも背後に卑猥な意図があるのは明らかだろ。だから、そういう写真を撮ってるときは、浮気してることになるのかな?
写真を始めたきっかけは?
ママからもらったカメラをいつもオモチャ代わりに持ち歩いてたし、コルシカで俺が13歳の頃一緒に夜遊びするようになった18歳前後の女の子たちが、使い捨てのカメラを持ってて、一晩中写真を撮ってたんだ。次の日、1時間で現像してくれるところへ持って行くと、アイスクリームを食べてる間に前の晩の写真が出来上がる。それがすごくクールだと思ったから、僕も同じことを始めたんだ。
写真を始めたきっかけは?
ママからもらったカメラをいつもオモチャ代わりに持ち歩いてたし、コルシカで俺が13歳の頃一緒に夜遊びするようになった18歳前後の女の子たちが、使い捨てのカメラを持ってて、一晩中写真を撮ってたんだ。次の日、1時間で現像してくれるところへ持って行くと、アイスクリームを食べてる間に前の晩の写真が出来上がる。それがすごくクールだと思ったから、僕も同じことを始めたんだ。

あなたの仕事は誤解されていると思いますか?
すごく誤解されてると思う。本のデザインの担当してくれた人たちだって、話してるのはパーティーのことだった。俺は内心「俺たちが抱えているような問題は、彼らには関係ない。出掛けたとしても、月に1度くらいで、ほんの少しリラックスするだけなんだろうな」と思ってたね。そういうとき、人がちょっと悲哀を出してくれるのが、俺は好きだな。楽しそうな悲しさ。酔っ払いやクラブにいる人を撮ってるだけじゃない。
そういう悲哀は、特に部屋が暗いと、とても強烈になることがありますね。たったひとりで座っている人とか、煙草を吸いながらそういう緊張のすべてに浸っている人。あなたはそういう人たちに視線を向けて、それが身体から抜けるのを見守る。
俺はいつも言ってるんだ、ダンスフロアは自己中な奴らばかりだって。4時間ダンスをするとして、そのうちどれくらい、自分だけで、自分を相手にして踊ってると思う?

自分の写真を送ってくる人はいますか?
時々、男が送ってくる。俺は知らないやつをフォローすることもあるんだ。そうすると向こうも俺をフォローして、インスタグラムの関係が始まる。
ナンパみたいに...。
長距離のスピード デートさ。相手のことを色々空想して、向こうでも少しは空想してて欲しいと思ってるけど、やるのは「いいね」をクリックするだけ。人が「いいね」をクリックしてくれたら、「オッケー、これで任務完了」って気分になる。アンディ・ウォーホル(Andy Warhol)の『ぼくの哲学』(原題:The Philosophy of Andy Warhol From A to B and Back Again)を読んでいたんだけど、そのことが書いてあった。その他に、当時は、パーティーで誰かに一目惚れしたら、その人が行くパーティーを見つけるのに2週間くらいかかった、って書いてあったよ。あの頃は、セルフィーを投稿したり、インスタグラムで好きになった相手をフォローして、「いいね」をもらったりできなかったからな。ウォーホルによると、好きな人に再会したときは、最初に言う言葉が分かってたんだって。現実に再会できるまで2週間、心の中でその言葉を繰り返してるから。あらゆるものがすごく貴重だったんだ。今の僕たちは「オッケー、じゃあまた明日」で済ましてしまう。人間関係は、みんなポケットの携帯に収まってるんだから。


ある意味で、これほど自分の写真を持ってる世代はありませんね。歳を取ったとき、一体どうなるんでしょう。記録が膨大な量になりますよね。
俺たちが死んでも、インスタグラムのアカウントはそのままだ。よく知らないけど、閉鎖されるのかな。俺、携帯に入っているアプリを消したんだ。パソコンも、パスワードを忘れたから使わない。もう2ヶ月になるな。
でも、写真を撮る側にとっては、それらの瞬間が自分の手を通して存在するのですから、素晴らしいことですよね。
出掛ける時間も無駄じゃないってことだな。その通りだ。

昨晩は、ベルリンのみんなとねんごろになれましたか?
ダメ。誰にもキスしなかった。いまだに独身さ! でも「Bachelor」ツアーをやって、ありとあらゆる都市へ言って、デートすりゃいいんだろうな。楽しそうじゃないか。俺にハズバンドを見つけてよ。
- インタビュー: Thom Bettridge
- 写真: Lukas Gansterer
- 画像提供: Pierre-Ange Carlotti写真集「Bachelor」より