ヘティ・ダグラス:クール系女子の肖像

Hanging with the Mixed Media Artist and Supreme Muse in London

  • インタビュー: Zainab Jama
  • 写真: Alec McLeish

イギリスはノッティンガム生まれのヘティ・ダグラス(Hetty Douglas)が描く絵は、グッチゴースト(Gucci Ghost)の名で知られる不遜なストリート アーティストや殴り書きのような作風で有名なサイ・トゥオンブリー(Cy Twombly)の作品に、極めて近い。あらゆるものの上に、あらゆる媒体を使って、グラフィティと抽象画を混ぜ合わせたアートを作り出す。クリエイティブな家族の中で成長したダグラスの関心は今、媒体へ向かい、キャンバスにスプレー ペイント、油絵具、アクリル絵具、最近ではコンクリートを使う。この若きアーティストは、ファッション イラストレーションを学ぶためにロンドン芸術大学へ入学したが、すぐにサボるようになった。「何かを学んだとしたら、私が何をやりたくないかを学んだわ」。屈託のないアティチュードと本物の才能を備えたダグラスは、目覚ましい新人として、イギリスのアート界で急速に地歩を獲得しつつある。多彩な色遣いと繊細なフォルムの作品には、詩のような言葉や言い回しが添えられている。中には卑語や卑猥な文章もあるが...。

ダグラスは先頃、世界的なオンライン アート ギャラリー「Saatchi」と契約したばかりの画家仲間であり友人でもあるアルフィー・クング(Alfie Kungu)と、合同展示「GOOD LUCK」を開いた。場所は、ロンドン ノースエンドにある「Cob Gallery」。彼女の多彩な履歴書に記載される最新事項だ。ふたりのアーティストが制作した力強い12点の作品は仲良く隣り合わせに展示され、「多くを要求する世界で、成熟と未成熟を対峙させる現代美学への挑戦と疑問の提示」を追求する。

Supremeのロンドン店で働き、Supremeのエディトリアルでモデルを務めるダグラスには、Dazed+Calvin Kleinと組む香水プロジェクトも控えているが、それについては口を閉ざす。アート、スタイル、今後の計画について、ザイナブ・ジャマー(Zainab Jama)がダグラスと対話した。

アーティストになること

私の母は正統派のアーティストだったから、私もずっとクリエイティブだったわ。叔母もアーティストよ。従兄弟はグラフィティ アーティスト。兄もアーティスト。周りにずっとクリエイティブな人たちがいたわけ。すごく小さい頃から母のスタジオで過ごしたり、大学やカレッジについて行っていったわ。母が社会人学生としてアートを勉強してたとき、私は10歳ぐらいだった。大きくなってからは大学でファッション イラストレーションを専攻したけど、散々だった。自分が全然やりたくないことを勉強しなきゃいけないんだから。

制作プロセス

ちょっと説明しにくいわ。作品を作り始めると、その後は、自分でも知らないうちに作品が勝手に進化していくから。何でもそうだけど、自分が成長してるとき、同時に物事も変わっていくでしょ。成長を自覚できるのは、現在の作品と過去の作品を比べたときだけ。例えば「GOOD LUCK」を、2016年にジョー・クラーク(Joe Clarke)とやった「Screw」とかパディ・ジョーンズ(Paddy Jones)とやった「Finger」と比べたとき。すると「わあ、作品がこんなに違う」って思う。でも、実際に作ってるときは、単なる進行の過程。

母のアート

コンテンポラリーな描画みたいな感じだけど、ファウンド オブジェクトをたくさん使う。今はそんな作風ね。なんて言うか、とっても素朴なんだけど、嫌な感じじゃない。こんなこと言ったらすごく嫌がると思うけど、とても素朴!

ロンドンだと、画家は画家。それだけ

展覧会

故郷のノッティンガムで、母と叔母と兄と合同で「Kin」って展覧会をやったの。文字通り、内輪の控えめな展覧会。地元に戻って少しばかり親密なことをするのは、とっても楽しかったわ。グループ展はニューヨークで2回やった。「GOOD LUCK」を別にしたら、たぶん「Finger」が私のお気に入りね。とても色々なことを学んだし、パディの作品と私の作品が並んで、すごく嬉しかったから。でも、最高に興奮したのは「GOOD LUCK」。オープニングで2回も泣いたのよ。普段は全然泣いたりしないのに。きっと生理中か何かだったんだわ。

多彩な活動

ロンドン以外の場所でも、喜んで活動するわ。ニューヨークかな。ロスかもしれない。ニューヨークやロスはもっとオープンな気がする。ロンドンだと、画家は画家。それだけ。他のことに手を着けると、もう画家として真面目に取り合ってもらえない。美術なら美術だけ。グラフィック デザインならグラフィックデザインだけ。アーティストが服も作ってDJもやることはできないの。それだと、もうアーティストじゃなくなる。そういう点で、ロンドンはとても閉鎖的。

同年代の仲間

今好きだと思うのは、エディ・マルティネス(Eddie Martinez)。ものすごく素晴らしい画家よ。インスタレーションが中心だけど、ティムール・ス・チン(Timur Si-Qin)もすごいわ。ニューヨークのトルーディ・ベンソン(Trudy Benson)は、とってもクールなアーティスト。私は、インスタレーションやグラフィティをやっているアーティストに刺激を受けるの。そう言うと、「アーバン アート」に分類されるから嫌なんだけど、全然そういう意味じゃない。関心があるのは、インスタレーションやグラフィティのテクニックだから。

グラフィティ好き

永遠じゃないところが好き。すごく時間をかけて、一生懸命に描いても、まったくそのことに敬意を払わない人に上書きされちゃうこともある。そこがすごく面白い。他のアートとは違うもの。

グラフィティは、
すごく時間をかけて一生懸命に描いても、
まったくそのことに敬意を払わない人に
上書きされちゃうこともある

メンズウェア好き

メンズウェアが好き。どうしてそうなったのか知らないけど、アートに惹かれたのと同じなんじゃないかな。私の母はとてもスタイリッシュでカッコいいから、育った環境や家族の影響だと思う。みんな、私よりはるかにクールよ。ふたりの兄はバギーなLevi’sや古臭いStussyを着てて、それが最高にクールだと思った。だから私もいつもメンズウェアを着てたし、その方がカッコいいと思ってたわ。

好きなブランド

Gucci! とにかくカッコいいと思わない? Gucciならスーツよ。仕立てが最高。派手で気障なスーツを作ってるブランドをずっと探してたけど、Gucciがそれをやってるの。8年ぐらい前かな。Tom Fordを別にしたら、他にそんなことやってるブランドは見かけないわ。いつも思うの。「私が結婚する頃には、このスーツはもう手に入らなくなってる。今買って、しまっておくべきかしら?」って。多分ガールフレンドはびっくりしたと思うけど。それからSupreme。Supremeの服は好きだわ。私、とにかくレーヨンのシャツが大好きなんだけど、Supremeのは最高よ。Stone Island、STORY mfg、Ariesも好き。

将来

絵画に集中するわ。「GOOD LUCK」を準備してた最後の頃は「ダメ、こんなんじゃ誰にも評価されない」って感じで、自己批判的になってた。でも展示をやってみると、自分がどうして高揚したり落ち込んだりするのか、そもそもどうして描くことが好きなのか、理由をひとつ残らず思い出すの。だから今は、山ほど描きたいっていうのが正直な気持ちよ。たくさん描き溜めたい。個展を開けるほどたくさん。

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  • 写真: Alec McLeish