サラ・ラモスと蘇る名場面

20年後の今も覚えている『チアーズ!』の決め台詞

  • 文: Haley Mlotek
  • 監督: Sarah Ramos
  • モデル: Laura Harrier, Vanessa Chester, Meagan Holder, Sarah Ramos

21世紀の幕開けには元気がよくて風刺の効いた映画がたくさん作られたが、『チアーズ!』もまた、「不気味の谷」と呼ぶにぴったりの舞台に置かれた10代の少女たちの映画だ。郊外で暮らす彼女たちは、ベビー ブルーのフォルクスワーゲン ビートルで通学し、1年中陽光が降り注ぐ土地柄にもかかわらず、今更のように日焼けする。だがこれらのティーンたちは、2000年当時でさえ、殊に異質な印象を与えた。パステル カラーで、肩先が隠れる程度のキャップ スリープのTシャツを着るファッションは、誇張された別世界みたいだった。彼女たちの使うスラングは、最高に頭の回転が速いティーンエージャーの切り返しを、さらに詩的にしたバージョンのようだった。頭には普通より3倍多いヘアクリップが留めてある。ハイパーリアルとまったくのシュルレアルの狭間を思わせたあの独特の感覚のせいか、その後ミュージカルを含めてさまざまな続編が作られた。とりわけ第1作目は、20年たった今、あらゆるジャンルへと続く正道となった。スポーツ映画、ダンス映画、ロマンス、ライバルとの競争。『チアーズ!』のキャストのせいで、すべての場面が不朽の名画のように、すべての会話は詠唱のように感じられる。

サラ・ラモス(Sarah Ramos)は、Instagramの動画で、数々の懐かしい名場面を辿っている。映画の中からいちばん強く記憶に刻まれたシーンを取り出し、ほぼオリジナルどおりに蘇らせて、単なる記憶よりもっといいものにしてくれる。自分の言葉みたいな気がするほど台詞まで知り尽くしている映画、その感覚を再体験させてくれる。

90年代映画界のゴールデン ガール、キルスティン・ダンスト(Kirsten Dunst)が演じるトーランスは、チャンピオンの座に輝くランチョ カルネ ハイスクールのチアリーディング チーム「トロス」のキャプテンだ。彼女は、別のチームの間で自分が悪役として話題になっていることを知る。一方、ガブリエル・ユニオン(Gabrielle Union)が演じるアイシスは、イースト コンプトン「クローヴァーズ」のキャプテン。それまで振り付けを盗用されていたチームのために、是が非でも優勝を勝ち取ろうと奮闘する。当時のスタッフとキャストがそれぞれの思い出を語った公開15周年記念で、ユニオンは、アイシスに対する一般的な解釈や受け取り方と彼女自身の演技はまったく正反対だったと語っている。「私の場面が再演されると、パロディに変えられてしまう。それは私たちがやりたくなかったことなのよ。首を揺らして人差し指を振りながらまくし立てる、どうしようもなくクレージーなキャラクターに変えてしまうなんて、一体どういうこと? って感じ。白人女性に『ノー』と最後通牒を突きつける馬鹿な黒人女、っていう想像上のステレオタイプそのものね」

第1作に続いた続編や別バージョンは、繰り返し、模倣、流用といったテーマの筋から離れ、コメディというより風刺の感が強まった。もっと最近になると、チアリーディングからの連想は、強い精神力を謳うリアリズムの方向へ向かう。Netflixのドキュメンタリー シリーズ『チアの女王』は全米チャンピオンを目指すチームの姿を追ったが、その語り口はトラウマと身体の関係を解説した『The Body Keeps The Score』の延長みたいだった。一方で、チアリーディングを題材にしたミーガン・アボット(Megan Abbott)のミステリー小説『Dare Me』を脚色したテレビ シリーズは、チアリーダーたちをフィルム ノワールに登場する「魔性の女」的ファンタジーに作り変えた。サラ・ラモスの再現を観る前に『チアーズ!』を一度ならず二度観返した私の頭には、『チアの女王』でコーチのモニカがマントラのように繰り返した言葉が浮かんだ。「正確にできるようになるまで練習すること」と、モニカはテクニックを指導する。「正確にできるようになったら、絶対に間違えないようになるまで練習すること」

『チアーズ!』は決して無難な映画ではない。ただ観客は、揺れ動く展開を、マットの上で見事に立ち上がる人間ピラミッドや脚を跳躍板代りにして回転しながらマットへ着地するアスリートを見るのと同じように、楽観的に体験する。この「ほぼ」リアルな映画も最後にはあるべき姿に落ち着くのだが、キャスト全員が役になりきった対立シーンは、緊張感に満ちて秀逸だ。サラのバージョンでは、サラ自身とローラ・ハリアー(Laura Harrier)、ヴァネッサ・チェスター(Vanessa Chester)、ミーガン・ホルダー(Meagan Holder)が、歯に衣着せぬ喧嘩腰の雰囲気を正確に再現している。技の盗用が明らかにされる場面で、私たちみんなが空で覚えた言葉の応酬が蘇る。「誓って言うけど、全然知らなかったのよ」とトラーレス。「そう、でも今はわかったでしょ」とアイシス。堪忍袋の尾が切れたときの決め台詞は、これしかない。

  • 文: Haley Mlotek
  • 監督: Sarah Ramos
  • モデル: Laura Harrier, Vanessa Chester, Meagan Holder, Sarah Ramos
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: August 24, 2020