上海へ降りたら
世界で一番 人が多い都市を、イエティ アウトと歩く
- 文: Arthur Bray
- 写真: Carol Tam

中国は万里の長城で、ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)と一緒にDJを終えたばかりのイエティ アウト(YETI OUT)は、規則正しい通常のスケジュールに戻った。イギリスで注目のアーティストとアジアの新人プロデューサーが構成するイエティ アウトは、上海、香港、ロンドンを活動拠点に、アンダーグラウンドなダンス パーティー、アート ショー、ラジオ セッションを企画して東洋と西洋の隔たりを埋める音楽集団だ。パーティーとは別に、アーティスト エージェンシーとしても活動し、エイサップ・モブ(A$AP Mob)所属のコージー ボーイズ(Cozy Boys)、ヴィーナス X(Venus X)、ノベリスト(Novelist)、イライジャ & スキリアム(Elijah & Skilliam)、ジェイ・プリンス(Jay Prince)などのアジア ツアーを請け負っている。Warp Records、adidas Originals、HYPEBEAST、Nike、W Hotelをはじめとする企業と提携した経歴もある。そんなイエティ アウトのメンバーが、上海で人気のスポットと素敵な穴場を案内してくれた。


ゲットー アーケード // 2038 Huashan Lu, Guangyuan Lu
ラブホテルや油じみた食堂が入ってて、地下にボーリング場があるくたびれた商業ビルの最上階。「ゲットー アーケード」の名の通り、「豪華」とは無縁だけど、ストレスを発散したい人や子供時代の思い出に浸りたい人にお薦めだ。「タイム クライシス」「エア ホッケー」「太鼓の達人」なんてゲームで遊べるし、遊び仲間とアルコールを持ち込んで、街へ繰り出す前に熱い雰囲気を盛り上げるプレ パーティーにも使える。控えめに言っても少々怪しげな場所だけど、仲間さえ間違えなければ、ちょっとした愉快な酒盛りを楽しめる。50人民元でコイン80枚はお得だ。
亚太新阳服饰礼品市场 // APプラザ // 2002 Century Ave, Pudong Xinqu
フラミンゴ ピンクのNike / Yeezy ハイブリッドとiPhone 9.5を隣合わせで売ってるコピー天国「APプラザ」を挙げずして、上海のショッピング体験を語ることはできない。まさに、かの悪名高きオンライン ショッピング モール「タオバオ」の現実版。1,000軒のショップがひしめいてるが、価格が表示されてることは先ずない。つまり、値切るのが前提。ほとんどの店員は英語を使えるけど、現地語を話せる人と一緒に行ってもらうか、必要を満たせる程度の会話用語を勉強しておくのがベスト。


DOE // 78 Tong Ren Lu
ストリート ファッションをチェックするなら、NikeLabとJuice Shanghaiの他に、忘れてならないのがDOE。クールなスタイルを求める渇きを必ず癒してくれる。新作のadidas NMDからパリのスケート ブランドまで、品揃えも非常に充実してる。シューズを陳列した壁面の隣りにカフェがあるから、淹れたてのコロンビア コーヒーを味わいながら、地元の雑誌やファッション誌をめくるのもいい。夏のあいだは、ロビー部分で様々なイベントが行なわれる。イエティ アウトも、Converseとコラボとして、毎年サマー パーティーを開催してるんだ。ドイツから「アインフンデルト」(Einhundert) や「ビーイングハンテッド」(Beinghunted)の仲間も、陽気なパーティーを楽しみにやって来る。
ル・バロン上海 // 20 Donghu Lu
カーペット敷きのル・バロン上海は、さながら居心地のいいリビング ルームだな。感傷的なフレンチ キス、辛口のフェルネットの酔いにまかせたダンス、そしてドレイクからブロンディーまであらゆるシンガーのヒット曲が仲良く共存するスペースだ。 グラフィティ アートで名を成した アンドレ・サレヴァ(Andre Saraiva)はパリ、ニューヨーク、東京でル・バロンをオープンしてるけど、中国版にも従来のコンセプトが忠実に反映されてる。店内に入って先ず目に付くのは、地元出身のウー・ユエ(Wu Yue)に依頼した特注絵画。ちなみに、ウー・ユエはパーティーでプレイしたことがある。木曜日の夜はイエティ アウトがDJデッキを仕切るんだ。僕たちが酔い心地でここの連中と一緒に過ごす夜は、決して少なくない。




ハブ ア グッド タイム // 318 Julu Lu
素晴らしきヒロさんが陣頭指揮をとる「ハブ ア グッド タイム上海」は、東京に本店がある。最高の日本風オムカレーと美味しい豆腐アボカドサラダに舌鼓を打ちながら、東京でグラフィティ集団246を作ったWANTOのジンを見ることができるレストラン&ショップなんだ。ドリンクは強いウィスキー ハイボールからテキーラ ソーダまで各種。どれにもスタッフの名前が付いてて、いかにもプロらしく、ちょっと強面の笑顔を浮かべたヒロさんが自らサーブしてくれる。上海店では、バーの壁にスティッカーやビラを貼りまくったり、グラフィティを描いたりする習慣はないけど、ここでは地元のクリエイティブ集団を告知するスラップが壁いっぱいに貼られてる。
长脚面 // ロング レッグ ヌードルズ // 166 Zhaozhou Lu
肇周路を外れて古くからの家が軒を連ねる路地を歩いていくと、物干し綱に洗濯物がぶら下がる中に、夫婦がやっている「长脚面」がある。ここで食べられるのは牛肉入りの汁麺だけ。だから当然、メニューはない。飲み物さえ置いてない。ただし、辛さは選べる。路地横の小屋で調理された麺は、彼らの店舗件家の中で食べられるけど、腰を下ろせる唯一の場所はマンガのスティッカーを貼った小ぢんまりした子供の寝室しかないから、場合によっては、その子が寝ている横に座って食べる羽目になるかもしれない。営業は午後9時30分から未明まで。正真正銘のダイニング体験を味わってもらうために、ツアーで上海に来たDJをよく連れていく場所。


襄阳北路17号2楼、近长乐路 // オール クラブ // 2F, 17 Xiangyang Bei Lu
階段と狭い通路の先の、元は地下防空壕だった場所を利用した伝説のダンスフロア「Shelter」は、今年の始め、営業許可証の問題から閉店に追い込まれた。だけど、オーナーのガズ・ウィリアムズ(Gaz Williams)は嘆いて時間を浪費する代わりに、無骨な工場を見つけて、すぐにクラブ「ALL」をオープンした。会場は鏡張りの壁で隔てたバーとクラブに分かれてる。客は地元のオルタナ クラブ キッドや早朝まで陽気に騒ぎ続ける連中。 僕たちが行った夜は、ニューヨークからやって来たプロデューサーLSDXOXOが大音響でボールルームとヴォーグを流した後、ガズのレコード レーベルSVBKVLTに所属しているオシェヤック(Osheyack)がゲットーテックらしきものを30分プレイして、観客を熱狂させていた。
近南京东路 // ザ バンド // Zhongshan East 1st Lu, WaiTan, Huangpu Qu
(少しばかりこじつけのような気もするが)上海でロンドンのテームズ川に相当するのは、黄浦江。その川岸に沿っておよそ1.6キロ続く遊歩道「ザ バンド」の両側には、目を見張るような大都市の景観が広がる。上海の歴史は、色々な様式の建築群として今に残っている。DJたちに上海を案内するときには、ここがインスタグラムに最適。バロック様式、ゴシック様式、新古典主義から、ラミネート加工の現代的な外観まで、まさに「建造物の博物館」と呼ばれる通り、上海の多文化な過去と現在の集大成だ。朝の「ザ バンド」には、体操するおばあちゃんたちも集まってくる。一糸乱れぬシンクロナイズした動きは、ちょっとした見もの。早起きできれば、の話だが。


1933老场坊 // 1933 スローターハウス // 10 Shajing Lu, Hongkou Qu
「1933 スローターハウス」は、adidas Originalsとルックブック キャンペーンをやったとき、偶然見つけた。構造が変わってる。共産主義になる前の1933年に建てられた4階建てのビルで、かつては東洋で最大規模の屠殺場だったらしい。設計したのはイギリスの建築家グループで、建設を請け負ったのは中国の開発業者。ゴッサム シティじゃないかと思うような不気味で巨大な姿が、中国の昔ながらの家屋の横に聳えてる。何層にも重なってる通路からすごくいい絵が撮れるんだけど、鳴き声をあげる牛がひしめいているときは、なかなかそうはいかないかも。
- 文: Arthur Bray
- 写真: Carol Tam