オーバーコートはサスペンスを暗示する。まさに、典型的な悪のユニフォーム。ゆっくりとターゲットの後ろに迫る襲撃者がいつも着ているもの。それがコートだ。背後に隠れるため、あるいは中に隠れるため、そして当然、人目を避けるためのコート。今回、「シネフィル」シリーズ第2弾として、SSENSE エディトリアル チームはホラー映画の世界に斬り込み、このホラー映画の中で最もおどろおどろしいオーバーコートを探し出す。

『ハロウィン』(2018年)

1978年に公開されたオリジナルの映画『ハロウィン』の冒頭で、マイケル・マイヤーズは、自分の姉を殺して以来15年間収容されていたウォーレン郡のスミス・グローブ精神病院から脱走する。そして故郷であるイリノイ州ハドンフィールドに向かう道すがら、彼は整備士を殺害。その後の映画シリーズでは、彼はずっとこの青の作業つなぎを着ている。ストリートウェアとしてのワークウェアが人気真っ盛りの今、2018年版としてシリーズ続編が公開されるのは、タイムリーと言うほかない。マイケルといえば、この殺人にうってつけの作業つなぎだが、ファッション業界が70年代後半の労働者スタイルをお手本にしている今、これがオシャレに欠かせないアイテムとなっている。Childsは、このジャンプスーツの 上質なコート バージョンも出しており、マイケルのスタイルに、伝統的なメンズウェアのテーラリングという捻りを加えている。

『キャンディマン』(1992年)

鏡を見ているときにはこれを声に出して読んで欲しくないのだが、「キャンディマン、キャンディマン、キャンディマン、キャンディマン、キャンディマン」という言葉が「あの人」を召喚する鍵となる。この1992年のスラッシャー映画は、カルト的人気を誇る古典的名作だ。最近では、映画『ゲット・アウト』の監督ジョーダン・ピール(Jordan Peele)によるリメイクの噂も囁かれている。キャンディマンは、確かに恐ろしい。だが、彼には柔和な雰囲気もある。あまりに穏やかな雰囲気なので、彼は好意的で親しみが持てる人物にさえ思える。多分、これはあのファー付きのコートが敵を欺き、自分は無害だと思わせてしまうせいだろう。そして、サミー・デイヴィスJr.(Sammy Davis Jr.)の言葉を借りれば、「朝日をとって、雫を振りかけるなんて、誰ができるだろう? キャンディマンならできる」というわけだ。彼ならこのコートに身を包み、確かにやってのけるはずだ。

『サスペリア』(1977年)

ハーバード大学の研究によると、薄暗い赤色の夜用ライトをつけて寝ると、睡眠の質が改善できるそうだ。だとすると、この研究は高い確率で、ダリオ・アルジェント(Dario Argento)の1977年のスリラー、『サスペリア』を最近見た人を考慮に入れていなかっということだ。この映画の集中豪雨のシーンでは、赤いライトが、悪事を企む魔女たちや大量に湧く蛆虫、木の椅子で叩かれて血しぶきをあげるコウモリといった、悪夢の背景を演出している。とはいえ、ここで基調となる赤色は、ベルベットのカーテンや布張りの家具、スージーのバレエ学校の友人の赤く塗られた唇から爪の色など、『サスペリア』の美しい映像の各所にも散りばめられている。Simone Rocha赤いクリンクル加工の生地を使ったダブルブレスト ドレスもまた、同じような脅威と魅力の二項対立を思わせる。このコーティング加工がベタつくような肌触りの服に袖を通し、ルカ・グァダニーノ(Luca Guadagnino)監督の2018年版『サスペリア』主演ダコタ・ジョンソン(Dakota Johnson)にならい、愛らしく恐ろしい、赤に包まれた夢のような女性になろう。

『ヴェノム』(2018年)

批評家からは酷評されているにもかかわらず、『ヴェノム』はすでに5億ドル近くの興行収入をあげている。これこそ化け物の真価といえるのかもしれないが、この化け物は宇宙生命体シンビオートが地球人である宿主に影響を与えているのだ。11月1日が過ぎれば、あっという間に街がクリスマスのデコレーションに切り替わるように、ショッピングでいえば公式に冬の到来だ。つまり、氷点下の気温を耐え忍ぶには仕事用のちゃんとしたコートが必要になるということだ。ただヴェノムのような見た目になりたいだけだとしても、ダウンの詰まった黒曜石の鎧にも見える、スタイリッシュで、大きなChen Pengの黒のBananaダウン ジャケットなら、輝きながらも、暖かく、強くいられるはずだ。

『HOUSE ハウス』(1977年)

『HOUSE ハウス』は、純粋なホラー映画というよりはホラーとコメディーのハイブリッドといった感じだが、笑える要素自体が怖い要素でもあり、サイケデリックで予想がつかず、他の映画と一線を画している。監督の大林宣彦は、この映画が当時10歳だった娘の考える恐怖体験からインスピレーションを得て、退屈で精彩に欠ける映画産業に、子どものような遊び感覚を吹き込む試みであったと話している。この映画はどこまでも奇妙かつシュールで、70年代の色彩が炸裂しており、その意味では、えてして色彩にとぼしく、インスピレーションにかけるコート界に、鮮やかな急襲をしかけたChristopher Kaneに通じるものがあるだろう。

『アメリカン・サイコ』(2000年)

クリスチャン・ベイル(Christian Bale)演じるパトリック・ベイトマンは、ジャレッド・レト(Jared Leto)演じるポール・アレンに対して「ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース(Huey Lewis and the News)は好きかい?」と尋ねる。そして、ふいにオシャレなタイル張りのバスルームに入ると、誰もが知るあのレインコートをさっと身につけ、斧を手にして戻ってくる。ウィスキーを片手に酔っ払ったポールは、シーツで覆われたソファーの上で、自分が今にも首を切り落とされるところだとは考えにも及ばない。メアリー・ハロン(Mary Harron)監督『アメリカン・サイコ』に関しては、今さら取り立てて語る点はないのだが、パトリック・ベイトマンのPVCのコートは、今、不気味なほどに旬である。これはひょっとして、ランウェイで80年代のビジネスマンのシルエットが再び登場するということなのか、あるいは現代社会で同じように権力の座に就く有害な人たちが腹わたをえぐられるということなのだろうか。今シーズン、おそらく自宅のリビングで殺人に耽ることはないだろうが、スプラッター抜きでも、血のように赤いレインコートで格好良くキメることはできる。斧がなくたって「Manic Soul Machine」になれるのだ。つまるところ、今は生真面目こそがクールなのだから。

  • 文: SSENSE Editors
  • 3Dアーティスト: Nathan Levasseur