地に足をつけて

主張するラグが閉じこもり生活に活を入れる

  • 文: Ariel LeBeau
  • アートワーク: Sierra Datri

外の世界が閉じられ、人命の尊重という社会の契約を守ることが求められている。それ以外にひとつ私たちに求められていることがあるとすれば、それは文字通り、内なる世界に深く身を潜めることだ。このような生活の変化によって、感情を内省し、建設的なあり方を志向し、居住空間に対する意識を高めた人も少なくない。

多分野で活躍するアーティストのショーン・ブラウン(Sean Brown)は、昨年の4月、ジェイ・Z(Jay-Z)、シャーデー(Sade)、コールドプレイ(Coldplay)のヒット アルバムCDを驚くほど忠実に再現した、ハンドメイドのラグを発売した。最初のシリーズは瞬く間に完売し、続いて、リル・キム(Lil Kim)の『ハード コア』、アウトキャスト(OutKast)の『ザ ラヴ ビロウ』、ビートルズ(The Beatles)の『イエロー サブマリン』などを記念した商品をドロップしたが、同様に好調な売れ行きだ。ほぼ時を同じくして、ストリートウェア ブランドのCactus Plant Flea Marketがプロデュースしたお馴染みスマイリー フェイスのラグが、引く手あまたの人気を博した。続いて夏には、Marc Jacobsとコラボレーションしたカプセルの一環として、もうひとつのラグを登場させた。こうしたデザインの成功は、北米を含む世界各国で「ステイ ホーム」が発令された時期と相まって、インパクトと存在感のあるラグがウィルスのように増殖する環境を作り出し、パンデミックが2年目を迎えた今も衰えを見せる気配は微塵もない。

活況を呈するラグ市場はInstagramでも急速に成長し、床に彩りを添えたいと考える何千人ものフォロワーに向けて、玄人のテキスタイル デザイナーと素人のDIY愛好者がそれぞれにユニークなラグの共有と販売に勤しんでいる。これらのラグは、ブラウンのラグと同じく、ノスタルジーが主たる魅力だ。デザインで言えば、文化的な意味合いがすでに織り込み済みのシンボルを復活できるか否かで、成功が決まる。バート・シンプソンスポンジ ボブパワーパフ ガールズ、さまざまなポケモンなど、アニメのキャラクターに敬意を表したラグは無数にある。JordanBaby Phatといった人気ブランドのロゴ、村上隆KAWSの有名な作品を使ったラグも、同様に目につく。それらのグラフィックはすでに商品化しているから、コピーであることは問題にならないのだ。

グラフィックが存在感を発揮する点で、当然、引き合いに出されるのはTシャツだ。しかし、ラグとTシャツでは、機能が異なる。Tシャツは着られることで実用性を帯びる。つまり毎日、消費者が着るか着ないかの選択にかかっているわけだ。一方、ラグの実用性は空間全体に溶け込むことにあり、そのまま消費者の日常生活の一部であり続ける。また、ケトルやシャワー カーテンなどの日用品は、たとえ装飾の要素があっても、最終的には機械的な動作が目的だが、ラグはただそこにあるだけで目的を果たす。

独立系ベンダーがラグによって90年代の映画スポーツ選手を不滅の存在にしているのと同様、トレンド最前線のブランドは自分たちが作り出したイメージの神話化を図っている。名を成したストリートウェア ブランドならではの発想であるし、この種のラグに見られるカルト的な魅力と遊び心は、特にスケート ブランド本来の持ち味でもある。ストリートウェアのパイオニアとも言うべきStüssyは、大多数のストリートウェア ブランドに先駆けて、ブランド家庭雑貨の可能性を見抜いた。特徴的なフォントの玄関マットやお馴染みの8-ball ロゴ ラグはすっかり定番商品の座を獲得し、すでに何年も売れ続けている。Stüssyの影響を受けたSupremeは、付属的な家庭用品のブランド化に悪名高い前例を作ってほぼ30年になる。消火器、自転車用空気ポンプ、プール用浮き台のほか、想像しうる限りの小間物にロゴを配したSupremeは、過去10年でもっとも印象的なラグもプロデュースしてきた。例えば、2011年に東京のギャラリー 1950と共同制作したロバート・インディアナ(Robert Indiana) パロディ ラグUndercoverおよびPublic Enemyとコラボした2018年の『Fear of a Black Planet』ラグ、など。

Brain Dead、Girls Don’t Cryを始めとするその他の現代ストリートウェア ブランドも、それぞれにシグネチャのシンボルを押し出したラグで、大きな人気を集めている。転売サイトに出せばすぐに買い手がつくし、たとえ法外な高値がつかなくても、百ドル単位の値段はざらだ。ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)は、2019年、家具量販店IKEAとのカプセル コレクションで、ラグにIKEAのレシートを複写して意表を突いた。空山基Marc Jacobsは、ファイン アートの視点から、限定版ラグを発売した。McDonald’sさえ、トラビス・スコット(Travis Scott)とコラボレーションした大量のグッズに複数のラグを含めた。

年2回発行されるデザイン誌『MacGuffin』の最近号でアレッサンドラ・コヴィーニ(Alessandra Covini)が書いたように、ラグは、「それが縁取る内部に独自の排他性をもたらし、その場に存在する人と物を外部から分離し、明確な聖域を設定する」。この概念に従えば、スヌーピーのように普遍性を獲得した文化のシンボルを安置するには、ラグは明らかに理想の媒体だ。家庭を神聖な場所にしたい今という時期に、私たちがラグに引き寄せられる理由も理解できる。ラグは聖なる空間を定め、コヴィーニが指摘したとおり、習慣的な動作を内包する枠組みになる。スピリチュアルな目的を担う祈祷用のラグも然り。通路に敷かれた細長いラグも然り。一方で、NikeのスウッシュやBrain Deadのロゴをあしらったラグは、自分をドレスアップする代わりの代償行動だ。

いつ着る機会があるかを予想できないとき、贅沢なウェアへの投資ははるかにハードルが高くなる。失業、病気、無能な体制によって数多くの人々が蒙っている財政危機を目の当たりにするにつけ、そんなものは喜劇的に些細な悩みに過ぎないからだ。翻って居住空間に意識を向けるとき、私たちは、内面生活の在り方と価値感を表現する方法を考え始める。荒涼たる外界に対抗して屋内環境の整備を目指すとき、私たちはどのような意識で暮らしに必要不可欠なものを選び取るだろうか? ラグは、一片の安全で家庭を飾り、生活を形成する日常の繰り返しと習慣をひとつに織り込む。同時に、優しく足を受け止めて、肩の力を抜ける場になる。私たちが未来への新たな視線を定めようとする今、存在を主張するラグは、足下を見て、地に足をつけ、静けさのなかに喜びを見出す方向を指し示す。

Ariel LeBeauは、ロサンゼルスを拠点とするライター、プロデューサー、映像作家

  • 文: Ariel LeBeau
  • アートワーク: Sierra Datri
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: February 19, 2021