ティナ・バーニー:家族が舞台

アメリカ上流階級をフレームに収める

  • 文: Adam Wray
  • 画像提供: the Artist and Paul Kasmin Gallery

写真家ティナ・バーニー(Tina Barney)は、スタジオの外ではパフォーマンス アーティストになる。一旦スタジオの外に足を踏み出せば、被写体が、通りすがりの人たちが、そしてスマートフォン時代においては、プロとアマチュアの写真家が、撮影している彼女の姿を絶え間なくとらえるのだ。だから、彼女は常に、見ることと見られることのバランスに折り合いを付けている。彼女がシャッターを切る瞬間は、そんな押し引きの力関係の記録である。アーティストと被写体の複雑な関係を探求するなかで、アメリカ人写真家ティナ・バーニーの作品は、情緒的で社会的に曖昧性のあるシーンを切り取り、そして時には作り出している。

The Children's Party

1945年にニューヨークで生まれたティナ・バーニーは、東海岸の上流階級である自身の家族を撮影した大型フォーマットのキャンディッド フォトでもっとも知られている。彼女の作品にとって、サイズは極めて重要だ。1.2メートル×1.5メートルのサイズになることも珍しくない巨大なクロモジェニック プリントは、細部に至るまで鑑賞を促し、深さとディテールで見る者を優しく圧倒する。活気が収まった後の静けさに漂う微細な振動が感じられる「The Children’s Party」は、ルネサンス絵画のような広がりを見せる。

American Flag

ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)がスペイン発の高級ブランドLoeweの再生に着手したとき、10年以上前にスティーブン・マイゼル(Steven Meisel)が撮った写真を土台にして、最初のキャンペーンのひとつを構成した。完全に現代的な行為である。Lacosteが、バーニーの「American Flag」を使用して、同様の目的を果たしても驚くにはあたらない。初老の紳士のブルーのポロシャツについている小さな緑色のワニは、この作品の焦点ではない。にもかかわらず、作品中の位置のせいで、否が応でも目に入る。後方で風に翻る星条旗と同じくらい、存在感のあるシンボルだ。バーニーの写真に存在する豊かな影と陽気な色は、ハイパーリアルな要素をもたらす。時間が記憶を和らげるのと同じように。バーニーに、商業的な仕事のお呼びがなぜもっとかからないのか、まったく不思議だ。

Jill and the TV

明示的か暗示的かは別にして、バーニーのすべての写真に登場するのが姉妹のジル(Jill)。この奇妙な構図の作品の中心は、お気に入りの被写体ジルだ。着物を着たジルは腕を組み、防犯カメラと思しき映像に合わせたテレビ画面の枠に囲まれている。ジルの背後の画面に見える暗く不定形な塊は、大判カメラに被せた布の下で作業しているバーニーの存在を暗示している。「Jill and the TV」の中に幽霊のように存在するこの手法は、他の作品にも共通して見られる特徴だ。意図的であったにせよないにせよ、その結果は圧倒的な濃密さで描いた愉快な家族の風景として結晶し、画家アレックス・コルヴィル(Alex Colville)の絵を彷彿とさせる。

Father and Sons

バーニーの2冊目のモノグラフ「The Europeans」は、イタリアとフランスでの長期滞在中に制作した作品の集大成である。旅行中も、家族の関係に対する強い関心は健在で、必然的に焦点は自分の家族から他人の家族へと移動した。バーニーには「Fathers and Sons」と題した作品がいくつかあるが、この1枚は、どこかバロック調の背景とは不釣合いな舞台裏的な場面だ。バーニーは、表情と表情のあいだを捉えて緊張感を生み出す。

Caddies

バーニーの焦点は年月をかけて広がり、家族の世界を超えていった。2007年の中国旅行では、成長著しい上流中産階級によって急速に変貌する文化を記録しようと試みた。この作品は、ゴルフコースに訪れた静寂の瞬間。バーニー自身の視線を正面から受け止める女性の凝視に貫かれた、あるいは息吹を吹き込まれた一瞬。

The Boys and Boys on Bikes Recording

社会の倫理観を記録することはバーニーの表現意図ではなかったが、日常生活で習慣的行動を反復する大衆を撮影すれば、避けがたい必然である。期せずして、作品は人類学的な役割も果たす。バーニーの作品は、優美な形式だけでなく、そのような能力においても評価されるだろう。ほぼ20年の歳月を隔てて撮影された「The Boys」と「Boys on Bikes」は、ほとんど別世界を写したように見える。いろいろな意味で、まさにそのとおりだ。

  • 文: Adam Wray
  • 画像提供: the Artist and Paul Kasmin Gallery