今シーズン、そしてこれからのアイテムのためのガイド

SSENSEによる2016年秋冬メンズウェアレポート

  • 文: Emily Friedman and Mary Tramdack
  • 画像提供: SSENSE バイヤー チーム

Loewe

99年のウッドストック

私たちは、99年に開催されたウッドストックフェスティバルを、オリジナルのウッドストックを見るようなノスタルジアに満ちた目線で振り返ることはない。1969年はサマー・オブ・ラブであり、99年はサマー・オブ・ショッピングモールのカウンターカルチャーであった。フェスティバルには、ゴスやグランジキッズ、ヘビーメタルのファンたちが好き勝手に衝突していた。ひとつの種族の一部にならずともサブカルチャー同士が入り混じることができる、デジタルによるポリアモリー(複数愛)の黎明期がそこで始まったのだ。モッシュされ、リミックスされた今日のランウェイのスタイルに、その瞬間が反映されている。共存の時代が来たのだ。


Haider Ackermann

首をガードする

タートルネックは限界を知らない。ほぼ全てのシャツが鎖骨でとどまる中で、タートルネックはJames Bond(ジェームス・ボンド)ばりの大胆さをもって、上へ上へと忍び寄る。「オレを止めてみるがいい」と、まるで人々がタートルネックに期待する境界線を探るかのように言う。これこそ、タートルネックがアクションヒーローや革新的な哲学者たちに愛されてきた所以である。


Dolce & Gabbana

手仕事

フランスはリヨン出身のシルク織工、Joseph Marie Jacquard(ジョゼフ・マリー・ジャカール)が1801年に「jacquard(ジャカード)」の名前を冠した最初の自動織機を開発したとき、彼は自分自身のポートレートという、最も私的なデザインを織り込むことによって、その革命的な能力をはっきりと示して見せた。200年の月日が経った現在、大量生産に慣れ親しんで育ったわたしたちは、むしろ手仕事の独特な風合いに飢えていると言える。この欲求は、現代に抗うといった類のものではなく、私たちが自由や親密さを求めているということなのだ。どんどん触り、そして触られようではないか。


Hood by Air

マトリックスを脱する

完全なるヴァーチャルな存在への達成に近づけば近づくほど、私たちの身体は今までにないほど超越的でエキサイティングなものとなった。ボンデージ、支配趣味、そしてサディズム、マゾヒズムの世界は、サイバーファッションの最新世代にダークなエロティシズムを用意し。人間は、ブラックレザーやジッパー、透明の合成繊維のそばにいるとき、今までにないほどに人間らしく見える。未来は官能的なのだ。


Y-3

サイバー ハイキング

公共交通機関での移動はつまらない。だから、靴ひもを締めて自らがオフロードカーになることが重要なのだ。Y-3のハイカットスニーカー、Kyujo Highは、SF小説の旗手であるWilliam Gibson(ウィリアム・ギブスン)の世界観と、フランス発のストリート・アクロバット・スポーツ、パルクールの息吹を感じさせるスニーカーであり、オフロードに必要となる滑らかな動作に対応してくれる。今年の通勤は、ぜひサイバーハイキングで。


Raf Simons

ラディカル プレップ スタイル

1960年代の東京では、プレッピーな服装に身を包んだ若者たちの集団、みゆき族なるグループが銀座のストリートにたむろしていた。彼らは国から非行集団のレッテルを貼られ、64年のオリンピックの前には強制排除されたわけだが、彼らのスタイルはプレップとパンクが必ずしも水と油の関係だと限らないことを教えてくれる。ゴルフ場のドレスコードは、あなたのアナーキストな側面を密かに暗躍させるのに最適だ。あなたは、ブレザージャケットとローファーを身につけていれば、たくさんのトラブルを起こすことができるのだ。


Belstaff

世界終末のプレップ スタイル

終末は、必ずしもうんざりするものになるとは限らない。実際のところ、乱世に生きるからこそ、わたしたちは完全な新しい世界の必要性や可能性を想像することができるのだ。不測の事態に備えるとき、私たちは本当に必要なものだけを所有する、その快楽に目覚める。すなわちそれは、ミリタリーに着想を得た洗練されたテーラリング、そして一生ものの耐久性なのだ。私たちは、最大限の幸福をもって、不確かな未来へと立ち向かう。


T by Alexander Wang

ホワイトTシャツの道

1950年代に現代美術家、Robert Rauschenberg(ロバート・ラウシェンバーグ)の白い絵画シリーズを初めて見たとき、音楽家のJohn Cage(ジョン・ケージ)は「粉塵のための滑走路」のようだと述べた。ミニマリズム黎明期から語り継がれるこの逸話や、いつの時代も象徴的なホワイトTシャツが私たちに思い起こさせるのは、空白は虚無とは程遠いものだということだ。それはむしろ、すべてを含みこむ容れ物なのだ。白のTシャツを着て動き回り、そこに世界を吸収させるのだ。


Salomon

内なる炎

暖かさとは何か? それは最先端の素材によって保護された体の熱のことだが、同時にその体の中から発する喜びのことでもある。暖かさは、社会的であり、精神的であり、原始的なものなのだ。自然から身を守ることは、人類の歴史が始まったころからの任務だ。実際、それ自体が人類の歴史と言うことができる。


Dolce & Gabanna

ジーンズ

わたしたちは普段、破れたジーンズのことを極めて90年代的なアイテムだと考えている。しかし、実は1490年代のスタイルなのだ。500年前、ヨーロッパのしゃれ男たちにとって、シルクの召しものを破って切り込みを入れて、自身の気高さを誇示したり、剣による戦いで虚勢を張ることはごく当たり前の習慣だった。破壊への強い志向は、性的な魅力を演出するための究極の方法なのだ。そしてこの、「かかって来い」という挑発的な姿勢は、今の時代のデニムにも生き続けているのだ。


Junn.J

ワイドパンツを履いたグローバリスト

わたしたちの間にある様々な境界線が、活発な議論を生み出している。必需品である流動性がなかなか手に入らない時代に、ワイドパンツは頑として堅苦しい制約を拒絶する。動きやすさ、伸びる生地、移動性の良さ。ベルボトムが、今だかつてこれほどまでにユートピアな魅力を放ち必要不可欠なアイテムになったことはない。


Y-3

ジム−自宅−オフィスの複合スタイル

スウェットパンツがメンズウェアの独自言語の中に蔓延してきたということは、「仕事と私生活のバランス」という考えが時代遅れとなった証拠である。ジム−自宅−オフィスという複合的なスタイルとは、汗、問題、そして喜びが全て詰まった領域のことなのだ。それは、規律も余暇が、クリエイティビティという一点に収束する場所である。仕事に相応しい洋服を持っているか、今一度確認してみよう。


Dolce & Gabanna

ウィンターガーデン

灰色に包まれる都会の寒さの中ではウールに身を包むことが増えるために、わたしたちの性的関心はもっぱら液晶スクリーンの中に閉じ込められてしまう。建築家たちがウィンターガーデンを作り出したのは、そのためである。満開の花が作り出すロマンティックな空気と、われわれが年中接していられるようにするためなのだ。ふんだんにあしらわれた花柄のプリントで、官能的な雰囲気を身にまとってはどうだろうか? 日に日に寒さが増すにつれ、自然の衝動的欲求に身を委ねることが大切になってくる。


Thom Browne

財布革命

携帯電話があれば大抵の支払いができる世の中において、自由の身になった財布はロマンスの空間になったのだ。例えば、象徴的なトリコロールを細部にあしらったThom Browneのアイテム。凛とした佇まいの財布を、所持品の持ち運びが可能なライブラリーとして捉えることも可能なわけだ。今や財布は、恋人の写真を保管しておくことだって、未来の自分へ向けた手紙を忍ばせておくことだってできる場所なのである。


Raf Simons

パファージャケットが作り出す極楽の境地

ストリートでも、山の頂においても、変わらぬ輝きを放つパファージャケット。その普遍的な魅力は、日常にある魔法の産物としか形容しようがない。軽量でありながら、とにかく暖かい。そして、男性的で印象的なシルエットを演出しつつも、いつまでも抱きしめていたいような心地良さ。しかし、パファージャケットの最大の魅力は、何と言ってもジップを閉めれば世界中どこにいても、ベッドで寝転ぶあの快適さを手に入れることができることだ。

  • 文: Emily Friedman and Mary Tramdack
  • 画像提供: SSENSE バイヤー チーム