Loewe SS21
服の住処
マルセロ・ゴメスとジア・トレンティーノが綴るショート ストーリー『デコイ』
- 文: Jia Tolentino
- 写真: Marcelo Gomes

ジア・トレンティーノ(Jia Tolentino)は、マルセロ・ゴメス(Marcelo Gomes)の写真を見て、SSENSEのために『デコイ』を書き下ろした。ひとりの女性の喪失にとりつかれたグループの、切ない想いを綴るショート ストーリーだ。
ゴメスの写真は柔らかな浪漫に溢れ、部屋の雰囲気を変えてしまう光や、私的なノスタルジーを呼び起こす色彩をとらえようとする。
そのなかで、LOEWEのクリエイティブ ディレクター、ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)が創り出した2021年春夏コレクションの緻密と造詣が露わになる。大きさと形の要素に注目した今シーズン、LOEWEは量感でドラマを語る。セーターは体を形取り、寸分の隙もない仕立ては過激に美しいフォルムを作り出す。
彫刻、インスタレーション作品やパフォーマンス作品を制作するアーティスト、アンセア・ハミルトン(Anthea Hamilton)は、これまでも頻繁にLOEWEとコラボレーションを行なってきた。今回は、意外性と非現実がぶつかり合うフォルムと素材から、壁紙とテキスタイル デザインが生まれた。ハミルトンの創作に繰り返し現れるブーツと花のモチーフをコラージュした「Sr Jeanne Wavy Boots w. Gazanias and Snails」(2020年)は、LOEWEの今シーズンに欠かせない要素だ。


私たちは彼女が恋しくて、迷信じみた儀式のように行動し始めた。彼女が帰ってきたがるような場所へセーターを置いたのは、彼女をおびき寄せるための仕掛けだった。彼女を歓迎する熱意が十分に表れていないかもしれないと気を揉んだが、それでも、私たちに招かれていることはわかるはずだと信じた。ほら、これを忘れてるよ、と私たちは囁いた。この光が射す、この時間の、この部屋が好きじゃないかな。あれこれ尋ねてあなたを煩わせる者は、誰もいないから、ひとりだけで静かにしていられるよ。卵みたいにね。
私たちの行動には勘違いされる部分があったかもしれないと、私たちは今になって後悔している。あんなにしょっちゅう、クスクス笑いながら彼女を待ち伏せするべきではなかったかもしれない。私たちがたじろいだのは、本当はあなたに見つけられて驚いたからなのに、苦々しい表情を浮かべた自分の顔を見たせいだと、彼女は思ったかもしれない。あれ以来、何もかもがすっかり変わってしまった。それを、私たちはセーターで伝えようとしている。優しく洗って、お日様にあてて、公園で彼女が見とれていた花を刺繍して。
彼女がいなくなった場所で、私たちは彼女が喜びそうな習慣を守り続けている。時折り小包を持ち込み、キッチン シンクをレモンの香りの泡で溢れさせる。彼女がもっと気軽に私たちの仲間に入れるように、必ず戸外で過ごす時間を作る。水辺まで歩いた日は、彼女が見えた気がして、悲しくて、よく見ようと目をこすった。彼女が消えてしまったときは、姿を呼び戻そうとして、もっと強く目をこすった。束の間、私たちは互いを恥じた。お願いだから泣かないでよ、誰にも愛されない子供みたいじゃないの。それから、私たちが心穏やかに手を握り合っていることに彼女が気づいてくれるのを望みながら、歩いて家へ帰った。家に戻ってからは、開いた窓を通して、砂利を押し潰すタイヤの音と扉の前で立ち止まる足音に耳を澄ませながら、何時間もじっとしていた。
時として私たちは、なかなかうまくいかないことを認め合う。これはただ誤解のせいなんだという信念が揺らがないよう、夜にだけ、しかもセーターが目に入らない場所に限って。そうして自然に、一連の危惧と疑念へ舞い戻る。私たちは彼女を最高に高価な宝石のように扱わなかったのではないか、信頼できないと思わせる兆候を見せたのではないか、私たちの目の奥には忌まわしい何かが大きく口を広げているのではないか、私たちの体内には時計があって、時を刻む音が日増しに大きくなっているのではないか。彼女がいなくなってから私たちがしてきたことを、彼女に見てほしかった。私たちは彼女を大事にしたい。それが、私たちが送り続けているメッセージだ。風は薄く軽く柔らかく、沈黙は混じり気なく純粋で眩い。私たちは明日、水辺まで歩いて、もう一度信号を送るつもりだ。私たちには何ひとつ要求するつもりがなく、天使のように空中に溶け去って、彼女の傍らですべてを静かに受け容れる準備ができていることを、彼女が分かってくれるといいのだけれど。


画像のアイテム:カーディガン(Loewe)
Jia Tolentinoは『New Yorker』の常勤ライター。エッセイ集『Trick Mirror』が出版されている
- 文: Jia Tolentino
- 写真: Marcelo Gomes
- 翻訳: Yoriko Inoue
- Date: March 5, 2021