スニーカーの女王、アレイリ・メイ

憧れのスタイリスト兼スニーカー デザイナーが、ロサンゼルスの子ども時代とネット上で正直な自分でいることについて語る

  • 文: Romany Williams
  • 写真: Emman Montalvan

スニーカーマニアのステータスを保証するものとして、Jordanとの限定コラボレーション以上のものはないだろう。Nikeブランドのためにデザインを行なったふたりの女性のうちのひとり、アレイリ・メイ(Aleali May)は、2色のオリジナル カラーのJordan 1を作り、さらに3作目となるJordan 6の「Millennial Pink」を発売したところだ。これはたったの4分で売り切れてしまった。26歳のメイは、90年代にロサンゼルスのサウスセントラルで育った。自分はシャイなおてんばで、子どもの頃からスニーカーが好きでたまらなかったと言う。メイはマーケティングを学ぶためにシカゴに引っ越し、Louis Vuittonのショップでアルバイトをするようになる。このとき初めて、メイはストリートウェアとラグジュアリー ファッションが共生できることに気づいた。ちなみに、後にこの経験が、2009年にヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)とドン C(Don C)が始めた時代の一歩先を行くリテール空間、RSVP Galleryでの仕事に繋がっている。ファッション業界でのキャリアを積むため、ロサンゼルスに戻るやいなや、彼女は自分のRSVPで培ったコネクションを最初の重要な仕事へと変えた。ケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)がジミー・キンメル(Jimmy Kimmel)の番組で「B*tch, Don’t Kill My Vibe」のライブを行なった際、ミュージシャンのために、番組にふさわしいカジュアルなスタイリングを行なったのだ。

それからニューヨークにある一流タレント事務所、ザ・ソサエティ・マネジメント社と契約したメイは、以来、スタイリスト兼モデル兼スニーカー デザイナーとして世界中を飛び回ることを本業として、キャリアを築いている。彼女はブランドの顔として、Louis VuittonやBalmainOff-White、Chanel、MargielaSies Marjanのファッションショーのフロント ロウに頻繁に姿を見せ、Instagramと彼女個人のサイトで公開されている、代名詞ともいえる試着写真では、ブルータリズム建築のコンクリートを背景に、完璧なライティングで、Carhartt WIPのカーペンター パンツとフィービー時代のCelineのブーツを合わせたり、Jordan 6のスニーカーをChanelと合わせたりする。空港スタイルの際も、彼女はLouis Vuittonのトラックスーツに、彼女オリジナルのJordan 1とVuittonの旅行カバンを合わせている。これこそが33万3千人のInstagramファンから愛される、「アレイリ スタイル」なのだ。電話インタビューを行なったとき、メイはちょうどパリの2019年秋冬メンズ コレクションから戻ったところだった。まだ時差ボケが完全に治ってはいないが、それでもファッションについて話すことに彼女が疲れることは決してない。彼女が特に気に入った、DiorやLouis Vuitton、1017 Alyx 9SMのショーについて、熱心に自分の考えを話してくれた。2019年秋冬ウィメンズ コレクションに出発する前に、彼女から、膨大なスニーカーのコレクションやスタイリングのアプローチ、ストーリとウェアにおける女性の存在の大きさについて話を聞いた。

ロマニー・ ウィリアムズ(Romany Williams)

アレイリ・メイ(Aleali May)

ロマニー・ ウィリアムズ:まず最初に、靴派? それともバッグ派?

アレイリ・メイ:私が特にこだわりがあるのはスニーカーとジャケットね。スニーカーは300足くらい持ってる。スニーカーマニアになるつもりなんて全然なかったのに、私が個人的に知ってる人たちが、超カッコいい靴を作ったのが大きな理由。だから、将来のために、このすばらしいアイテムを取っておこうって感じかな。

今やスニーカーは投資の対象だものね。転売市場は現在60億ドル規模と言われてる

クレイジーよね。私の祖母だって、お父さんとおじさんのために新しく出たJordanの新作を購入するのに、行列に並ばなきゃならなかったと話してたくらいだもの。このトレンドは、Instagramもインターネットもなかったような時代から、長い間ずっと続いてる。

スニーカーの保管状況について聞きたいわ。300足ものスニーカーをどこに置いているの?

クローゼットがあって、そこを全部細かく区切ってるの。Jordanはすべて番号別に並べてるわ。それから、アパートの外に取り付けた、スニーカーだけを入れた収納もある。それからもうひとつ、ジャケットだけを入れてるクローゼットがある。

いつも商品が家に送られてくるの?

ぶっ飛んだアイテムがたくさん送られてくるわよ。でも、ハイファッションと、FITに通っているデザイナーの卵が作ったみたいなブランドが混ざってるところが、すごくいいのよ。私の持ち物の大部分は、妹にあげる。彼女はとても恵まれてるわ。弟もね。あの子たちには誰よりもイケてる格好で学校に行ってほしいの。だから私は、「いい? 誰もあなたたちが何を着てるかわからないだろうけど、はるばる日本から来たファッションだってことを自分がわかっていればいいの」って言ってる[笑]。

子どもの頃からファッションに興味が?

私は高校まで制服だったの。だから、あんまりファッションには詳しくなくて、ただ自分の持ってるものが好きだっただけ。竹のハート型イヤリングが好きだったし、M&M'sのレーシング ジャケットも、Air ForceやJordanのスニーカーも好きだった。アリーヤ(Aaliyah)が私のアイドルで、[部屋の]壁中にアリーヤとアリシア・キーズ(Alicia Keys)を貼ってた。私は自分が真似できて、大人になってなりたいような、自分に似た見た目の女の子を探してた。中学のとき、義理のお母さんが『ティーン ヴォーグ』を買ってくれるようになって、そこで初めてシャネル・イマン(Chanel Iman)とジャーダン・ダン(Jourdan Dunn)を見たの。本当にファッションのことばかり考えるようになったのは、そのときからだと思う。あの頃、ヒップホップのビデオに登場するようなセクシーな女の子が溢れていて、私は背も低くてガリガリだったから、どうすればあんな服で人前に出られるのかわからなかった。祖母は私に女の子らしいドレスを作ろうとしてくれたけど、私には全然似合わなかったのよ。そんな中で、おじさんは、いつも私にJordanを買ってくれてたの。私はこのおじさんとお父さんのことをすごく尊敬してたから、彼らの服装にしろ、彼らのやっていることにしろ、私もやってみようって感じだったの。私の家族はかなりオシャレだったと思うし、自分のファッション センスを作り上げる大きな助けになったわ。ひとりゴス系の叔母もいるのよ。今だって、私なりの着こなしを考えるとき、家族からインスピレーションを受けてるわ。

自分が真似できて、大人になってなりたいような、自分に似た見た目の女の子を探してた

RSVPには、半分店舗で半分がクラブという、ストリートウェアの代名詞のようなカルチャーで有名だったけれど、リテール空間には、今も同じようなエネルギーがあると思う?

ストリートウェアがすごい大きなスケールになっているのは明らかだし、さらに大きく成長する気はしてる。重要なのは若い人たちの育成よ。私たちがLouis Vuittonで働いているとき、職場はアートに囲まれていた。村上隆を実際に見たのも、あのときが初めてだったし、Goyardのトランクに入ったルーペ・フィアスコ(Lupe Fiasco)のTシャツ ブランドを見たのも初めてだった。それまで世界を旅したことが全くなかったけど、これらのものが、世界中のちょっとしたモノを自分の元まで届けてくれていた。小さい頃、私はいつも旅行番組が大好きで、私もお父さんもいつも夢中になって見たものよ。高校の頃、ファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)やN.E.R.D、カニエ・ウェスト(Kanye West)を知ったんだけど、これは、ストリートを混ぜ合わせたハイファッションという、私がそれまで一度も見たことのない新しいものだった。Louis Vuittonのポロを着たカニエや、日本でファレルがニゴー(NIGO®)やA Bathing Apeからたくさんのお土産を貰ってる姿を見たわ。RSVPで初めてGivenchyとの取引を始めることになったとき、このふたつの世界を混ぜられることがはっきりした。そこで交わされていた対話から、インスピレーションを得たのは確か。今もそういうのは存在するとは思うけど、最近はもっと企業中心ね。トレンドの成長過程に、その場にいられたことは本当に良かったと思ってる。

最近では、誰もが自分ブランドを育てようとしているけれど、あなたのプロセスはどういうものだったの?

それほど意図的なものではなかったわ。私が自分の服をTumblrに投稿し始めたときは、ただ「ねえ、みんな、私の服いいでしょ」って感じだったから。スタイリングとなると、私はすごくうるさいのよ。課題となるのは何か、どうすればその人の思考を、その人らしいスタイルに発展させることができるか、自問するの。こうやって私はクライアントを獲得してきた。ひとりひとりの個性に焦点を当てることでね。

コーデ写真を撮る気分になれないことはある? 写真を撮らない日はどうするの?

今ちょうど、私の携帯には49,670枚の写真が入ってるんだけど、私はその瞬間を楽しみたいの。だから写真を撮る気にならないときは、サングラスをかけるわ[笑]。それだけで、すべてが50%はマシに見えるから。

ストリートウェア業界は男性中心の傾向があるけれど、そのせいで気が引けたことは?

その点は恵まれていたと思う。私は、自分がやりたいことを生かせるように後押ししてくれる男の人たちがいつも周りにいたから。おじさんにしろ、お父さんにしろ、ドンにしろ、ヴァージルにしろ、私にもこんなことができるってことを私に示して、いつだって「君がどんなことをやるとしても、とにかく僕たちがサポートするから」って言ってくれた。彼らのそばにいると、いつでも幸せだし、その点に疑いを持ったことはまったくないわ。それに、自分が今いる空間を評価すること、つまり、その場所が自分を幸せにしてくれるか、自分のチームメイトから支えられていると感じるかってことも、とても大切なことだと思う。初めてドンに会ったとき、彼は自分たちのパワーレンジャーのチームを作ろうとしてるんだと言ってたわ。それを聞いて、最高じゃん、って思った。私はずっとピンク レンジャーになりたかったから。

この先はどんなことを?

今は、ストリートウェアにおいて、女性たちの声がもっと反映されるよう頑張っているの。たくさんの女性から、初めてJordanのスニーカーを買いましたっていうメッセージを貰ったの。私のスニーカーを見た女の子が、それに共感してお金を払ってくれたことに、すごく恐縮したし、光栄にも感じたわ。この世界に女性は確かに存在してるし、これまでも存在していたのよ。

Romany WilliamsはSSENSEのスタイリスト兼エディターである

  • 文: Romany Williams
  • 写真: Emman Montalvan
  • スタイリング: Rita Zebdi
  • ヘア&メイクアップ: Karo Kangas
  • 制作: Rebecca Hearn
  • 制作アシスタント: Jess Druey
  • 翻訳: Kanako Noda