すべてをゴールドに: Sophie Hulmeとの会話
Susanne Madsenがイギリス人アクセサリー・デザイナーのアトリエを訪れ、インスピレーションとアンチ「イット バッグ」の創作について訊いた
- インタビュー: Susanne Madsen
- 画像提供: Sophie Hulme and SSENSE

Sohie Hulmeのイズリントン(ロンドン北部の地区)にあるスタジオは、かつて近くの子供たちが忍び込んでは弓矢を盗んでいたであろうおもちゃ工場だった建物の中だ。物を組み立てることに熱中し、お菓子のガチャガチャを作って過ごした子供時代が、現在のバッグ作りへのこだわりの起源だと考えるデザイナーにとって、ここはうってつけの場所だ。恐竜、獣、フライドポテトを食べるための金のチップフォーク。シーズンごとにリリースされる、そのような一風変わったチャームで自分のブランドを飾り付けるデザイナーにも最適な場所なのだ。壁には額装されたチップフォークのコレクション。それぞれのフォークにフライドポテトショップの名前が記されている。「これは、あるパーティーのために作った物なの。このコレクションのために、みんなとんでもない額のお金を出すって言ってたわ」とHulmeは教えてくれた。

自称、レザーマニアの彼女は、キングストン大学を卒業したあと、2011年に自分のアクセサリーブランドを設立した。その1年後、24カラットゴールドの金具を備えた彼女のバッグはそこかしこで目にすることになった。つまり、歳月とともに深い味わいが出る、飾り気も無駄もない職人の技を支持する彼女の姿勢が、長年にわたって待ち望まれていたということだ。威厳がありながらも遊び心満載なHulmeの美的センスは、紛れもなくイギリス独特のものだと言える。その最たる例は、昨年、イギリスのすべてのブランドの中から、Samantha Cameron(イギリスのDavid Cameron首相夫人)が中国のファーストレイディー、彭麗媛にプレゼントとして選んだのが、Hulmeの四角いチャコールグレーのAlbionだった。Hulmeの次のステップは、7月に立ち上げる予定のジュエリーである。「人は、『チャームのブレスレットをやるの?』って聞くけど違うわ。チャームのコンセプトをもっと抽象化してジュエリーにするの」と彼女は打ち明けてくれた。
建築家のフィアンセとともに、中庭を挟んでスタジオの向かいに住むHulmeは、まもなくに迫った彼女のハネムーンのためにあくせく働く32人のチームを監督している。「覚えてる限り、最長の休日だわ。2週間よ。本当に、もうここには戻って来ないから」。われわれは洗練された明るいオフィスにいる。ミッドセンチュリーの家具で統一され、窓枠にはレトロなゴールドのロボットが並んでいる。その横には、Hulmeが母親から譲り受けたというニットで編まれたQueen Elizabeth IIと彼女のコーギーのポートレートがある。また、2016年秋冬でデビューする、イブニングバッグも並べられている。ビンテージからインスパイアを受けたプレキシガラスの封筒の形だ。「少し男っぽさがあるわね」とHulmeは言う。「今は、いかにも女の子っぽい夜の装いにぴったりなバッグを作りたいっていう気分じゃないの」

Susanne Madsen
Sophie Hulme
Susanne Madsen: リサーチやデザインに費やすプロセスを教えてください。
Sophie Hulme: あれこれ遊べる物で仕事をするのが好きね。わたしたちはよくフリーマーケットやヴィンテージショップに行くの。そこで、山積みになったガラクタの下からお気に入りを見つけるの。ミリタリー関連の衣類やネジなんかから、いつもかなりの刺激を受けてるわ。特定の目的があってデザインされていて、いちばんシンプルな方法で作られているわけでしょ。そういうところに惹かれるの。控えめだし、面倒な鍵も付いてないし、けっきょくこういう素晴らしい物に行き着くのよね。ビンテージの商品には、兵士が自分たちで施したお守りやちょっとした機能的な物が付けられているんだけど、ミリタリーだと装飾が多すぎる物には惹かれないわ。だから、最前線で活躍する新兵の物に限るわね。同じような感じの物だと、馬具類や乗馬グッズがあるわ。革がとてもきれいに使われているの。わたしの曽祖父は、バーミンガムで鞍職人をやっていたので、彼が革を被せて作った小さなベルを譲り受けたわ。半永久的に存在する美しい物を作るのって素晴らしいことだと思う。ファストファッションとは真逆で。革のクオリティが高いのには理由があるのよね。
それが、実用的なレザーバッグと一風変わったチャームとの間にある関係でもあるわけですね?
チャームはわたしの祖母なの。わたしが若いころに、チャームブレスレットをくれたの。チャームを足していって自分だけのコレクションを作っていくのがチャームブレスレット。わたしたちが作るチャームには、それぞれにストーリーがあるの。今の時代の思い出が詰まっていて、木製のチップフォークとか、人にはほとんど価値のない物なんだけど。そんな物でもゴールドで作れば、突然みんな「わお!」って。わたしは、たとえチップフォークやマドラーでも大切にしたいのよね。
チップフォークやマドラーなんて、まさにイギリスらしい小物ですね。
チップフォークは見事なデザインだわ。その誠実的なところが好き。特別であろうとか希少性を持たせようとする物は好きではないから。だから、わしたはSophie Hulmeが似合う女性なんて規定しようとはしないの。自分たちのやり方で楽しんで欲しい。チャームは、わたしたちが共通して持っている集団の記憶を賛美したいから作っているんだと思うわ。
日常にありふれている物を洗練させていく、という手法は面白いですね。
わたしは「これはゴールドで作れるかしら?」とずっと考えてるの。おもちゃ屋さんへ行って、プラスティックのおもちゃを見つけてきたりして。来シーズンは、すべてのチャームをチェーンと分けて販売し始めるの。あなたにとって価値のあるチャームのチェーンは自分たちで作れるようになるわ。これからは、動かしたり開けたりできるチャームをもっと作るつもりよ。昔から、何かを収納できる物が好きだったの。だからハンドバッグを始めたんだと思う。18歳の誕生日に、母親から何が欲しいか聞かれたから、物が入れられるジュエリーが欲しいって言ったの。そして、いっしょにアルフィーズ・アンティーク・マーケット(ロンドンで最大規模の屋内アンティークマーケット)に行って、小さなシルバーの箱を見つけたの。それは身につけることができる物だったのよね。いつもその中にメモを入れていたわ。今はわたしたちのチャームも、それにどんどん近付いて来ているわね。いつか、わたしたちの作ったチャームがどこへ行ったのか知りたいわ。知り合いの知り合いのご主人が、わたしたちが作った笛のチャームを、お子さんのサッカーの試合で審判として毎週使っているの。そうやって、すべてのチャームのその後を見ることができれば、どんなに素晴らしいでしょうね。
バッグに関しては、何か古い思い出はありますか?
初めてのハンドバッグと言えば、わたしのおばあちゃんね。彼女はとても魅力的な女性で、いつもちょっとしたインスピレーションを与えてくれたの。きれいなレザーの素敵なハンドバッグを持っていて、子供のころをいくつかもらったわ。

バッグのデザインは、どこから始めるんですか?
いつもボール紙で模型を作ってから始める。アイデアを忘れないためにスケッチはするけど、それでデザインはしないわね。立体であることはバッグにとってとても大切なことだから。バッグはボリュームと機能がすべて。今や2階にはボール紙で作ったいろんな形の模型がわんさかあるわ。
SSENSEのために、ギョロ目の付いたとても素敵なチューブ型のパステルカラーのポーチ「Miami Vice」を作ってくれましたね。あのアイデアはどのように生まれたんですか?
えーっと、「Miami Vice」というのはSSENSEからの提案だったんだけど、すぐに「いいよ!」という感じだった。ちょうどわたしたちがやっていたことと合っていたの。わたしたちの春夏コレクションはDavid Hockneyのプールとオペラの舞台装置をテーマにしていたから。メインラインでは、何年も小さなファスナーポーチを作っていて、それは子供のころに首に掛けてた小銭入れをもとにしていたの。ギョロ目は、とてもシンプルで好きだから。それをゴールドで作ったの。
ギョロ目のように「悪趣味」を取り入れるのが、イギリスのファッションの大きな特徴だと思います。Christopher Kaneなどのデザイナーにも、そうした部分がありますね。
そうね。人が目を向けない物や自分の弱点を称賛するのって、とてもイギリスらしいことだと思うわ。自虐的な国民なの。あらゆることに誠実なのよ。偉大な写真家にイギリス人は多いし、それはわたしがいつも興味を持っている現実の生活を扱っているよね。
とくに気になる写真家はいますか?
Martin ParrやTom Woodのような人たちは面白いと思うわ。われわれのブランドと同じく、イギリスらしさ、日々の生活、飾らない物、そういう物を愛おしく思うの。わたしたちの心に響くのよね。
他に気になるアーティストはいますか?
Donald Judd、Josef Albers、そしてEamesesの作品の中にあるシンプルさが大好き。何かの問題にEamesesが取りかかるとき、そのやり方は素晴らしいわ。すべてが信じられないほど美しく、誰にでもわかる象徴性もあるし、それでいてまったく複雑になっていない。入手しやすし、価格も抑えられているしね。
どのブランドにとっても、いわゆる「ブランドの顔となるバッグ」を作ることは至高の目標であるわけですが、あなたはブランドをスタートしてすぐにそれを実現しましたよね。
あ、そうね。ラッキーなことにね。当時は、既製服を作っていたんだけど、それは作りたいバッグのアイデアがあったからなの。もし他のことをやっていて、それからバッグを作ろうと思うと、デザインを後から考え出さないといけないから、それはちょっと難しいわね。だから、バッグを作ることがビジネスを始めるための本当の動機だったの。
爆発的なヒットをものにしたんだと、いつ気付きましたか?
え! そんなのわからないわ、ヒットに気づいた時なんて。インタビューでこういう質問を受けた時とか?そうね、売り上げがとんでもない数字になったときかしら。そして中国のファーストレイディー。あれはすごかったわ。Samantha Cameronがわたしたちの商品を信頼して、母国のために親善の証として使ってくれたことは名誉なことだわ。

シグネチャ バッグのデザインにたどり着くまでに、時間はかかりましたか?
そんなにはかからなかったわ。夜、紙の上に万年筆でスケッチを描いたの。そのスケッチは、まだどこかにあるわ。時間がかかっていたのは、鞍に使われるレザーのせいね。こういう堅くて頑丈なレザーが、ベルトや馬具やミリタリーでどうやって使われているのかってことをアシスタントと話していたの。でも、そのときはまだ女性用のバッグにはほとんど使われていなかったから。デザイン自体は、機能性を存分に発揮することと素材を楽しむというコンセプトだったから、簡単だったわ。レザーを楽しむなら、外側に縫い目を持って来て裏打ちなんてしないから。プレートと7つのリベットは、持ち手の負荷を分散させるためにあって、かなりの強度で持ち手を補強しているの。だから、ほんとに機能的なデザインなの。もっともシンプルな方法を採用していて、加工したり折り曲げたり複雑なことは何もしてないの。美しさって、こんな風にして作られた物の中にあるのよね。
「イット バッグ」という言葉について、どう思いますか?
わたしがブランドをスタートさせたとき、成功した理由のひとつが「イット バッグ」がピークだったおかげなの。あの当時、誰もが同じバッグを持っていたわ。ちょうどいいタイミングに巡りあったのね。誰もが、バッグに書かれたブランド名に辟易していて、他人が持っていないバッグを欲しがっていたの。わたしが期待している大きな変化があるの。それは、ほんとにわたしたちにとって興味深いものになるでしょうね。というのは、イットがさらに進んで、自分自身の製品になるの。もしくは個人がカスタマイズする、もしくは何かの自分バージョンを作る。そうなったらチャームがとても意味深い物になるわ。なんせ、シーズンとか関係なくなっちゃうんだからね。
バッグはいまでもステイタスのシンボルだと思いますか?
変な話だけど、そうでないことを願うわ。「イット バッグ」の場合、誰もがその価格を知っているけれど、それはあなた個人の魅力とは関係ない。わたしは、自分らしさのために消費をして、自分のスタイルを持つという考えが好きなの。願わくば、われわれの顧客も、自分を表現していることが大切だと感じて欲しいわ。
バッグは、また今どんどん小さくなって来てもいますよね。
奇妙なことに、ナノ バッグ現象は携帯電話の動向と一致していないわね。何シーズンかごとにナノ バッグのサイズを5ミリ変更しないといけないの。Appleが新しい電話を作るからね。この前、Appleが電話をまた小さくすると発表したときは、オフィスでお祝いだったわ。

- インタビュー: Susanne Madsen
- 画像提供: Sophie Hulme and SSENSE