高度の病
全天候型のカルトな混交性を体現するOff–Whiteのハイキング シューズ
- 文: Gary Warnett
- 写真: Kenta Cobayashi

ありきたりな中間を嫌うヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)のOff-Whiteは、ここ数シーズンで急速に、踏み均された道を敢えて外れてきた。2015年1月のパリ モードでは、見上げるほど高い頂を目指す若々しいコレクションの一部として、強烈な存在感を放つハイキング ブーツがデビューを飾った。「下を見るな」をモットーに掲げた同コレクションでは、留め具や肩まわりのスタイリングにザイルを使うなど、登山のテーマが繰り返し登場している。しかし、コレクションという全体から分離しても、このハイキング ブーツはスタイルと機能性を強く主張する。
ストリート カルチャーに対する再評価的かつ合理的解釈からすれば、頑丈な靴の第一選択はTimberlandを象徴するイエロー ブーツだろう。しかし、東海岸(そしてアブローの出身地である中西部)の内陸における現実は、はるかに多様だ。1990年代初頭のグランジ愛好家であれば、軍放出店で手に入るコンバット ブーツで満足したかもしれない。一方、「通」は登山に相応しい靴を選んだ。それら消費者の前に聳え立つ頂とは、おそらく、自然現象であるより人工的であった可能性が高いにせよ、身を切るように寒く、強風で、湿度の高い天候には本格的な防護が必要だった。
World Hikerに代表される1990年代初頭のTimberland最上級モデルは、イタリアで設計され、息の長い人気製品となった。AKUやVasqueを始めとする他ブランドが倣ったベストセラー商品も、北イタリアのモンテベルーナのような町で手作りされ、優れた職人技で高い評価を得るなど、決して安価ではなかった。Vibram社やRubbermac社といったトラクション業者のソールさえプレミア価格だった。
近年、ハイキング ブーツは、いくつか記憶に残るハイエンド仕様を通過してきた。Raf Simonsが2008年に発表したDe Stilブーツはベーシックを原色で再構築し、Bernard WilhelmのCamperはまるで一足飛びの垂直ジャンプで山頂へ到着するように見えた。Louis VuittonのAlpinistはハイテクかつラグジュアリーな魅力があったし、ユニークなALYXのバージョンはイタリアのメーカーROAと共同で1990年代後半の雰囲気を体現している。
Off–Whiteのアプローチは、様々な試みがなされてきたフォーマットへ、さらに個性を持ち込んだ。高級レザー、Dリング、ラバーのトウ ラップなどは昔ながらの装備だが、シルバートーンの折り畳み式ハードウェアは全くもって珍しい。ヒンジによって地面をしっかりグリップする劇的ソリューションは、雪や氷に対処するアグレッシブなアイゼンを想起させる。カルト ファンを魅了する超ニッチな雪国ウェスタン映画のサブ ジャンル(タランティーノに聞いてみよう!)と同類の、クラシック ブーツから派生したハイブリット スタイルと位置付けることもできる。
この靴は、シルエットの面でも、誇張が重要な役割を担っている。長過ぎる靴紐に対しては、従来、余分を巻き付ける措置を講じる。垂れ下がったナイロン紐の輪に躓けば、命を落としかねないから。この靴の紐は異常に長く、ぐるぐると巻きつけるスタイルが見所のひとつである。
強い影響力を持つアトランタのラッパー、フューチャー(Future)がこの靴を履いているのを目撃されている。一方、ニューヨーク アンダーグラウンドの新人スター、ウェストサイド ガン(Westside Gunn)は、デビュー アルバムに先行して発売されたシングル「Mr.T」で「俺のクルーは全員Off–Whiteのブーツ」と豪語している。リリカルな人種も同意するほどの主張がありながら、控えめな所有レパートリーに入れないほどハイ コンセプトでもない。これは、ハイエンドに生まれ変わったアイテムが基盤を維持している領域への、手強い参入である。
- 文: Gary Warnett
- 写真: Kenta Cobayashi
- モデル: Sac
- スタイリング: Tatsuya Shimada