アミナ・ブルー:イット ガールの日記

モンスター トラック ラリーで、23歳のモデルが瞬く間に得た有名人の座、孤独、ペットのピットブルについて語る

  • 文: Natasha Stagg
  • 写真: Hannah Sider
Although Blue isn’t the child of a modern-day stage mom growing up in California, it’s hard to find a surface-level factoid about her that couldn’t also be said of a Kardashian or a Jenner.

「カーダシアン一家に関して言えば、私たちは似てるところより、違ってるところのほうがはるかに多いと思うわ」。ブルックリン生まれの23歳、アミナ・ブルー(Amina Blue)は言う。いくつかの理由から、カーダシアン家との比較はよく彼女の耳に入る。ブルーはカリフォルニアでステージ ママに育てられたわけではないが、表面的には、カーダシアン家やジェンナー家の子供たちに共通する擬似事実があることは否めない。「私はビーガンだけど、あの人たちは毛皮や動物から作った製品が大好きだし」。ブルーは指摘する。「ただ一緒に仕事をしてるだけよ。とってもいい仕事仲間。きちんと仕事をするわ」。ちょっと間を置いて、付け加える。「完全にあの人たちの立場になってみないと、本当は何も言えないんじゃないかな。あの人たちも色々と大変なのよ」

「イット ガール」は時代を定義できる存在だ。現在20代の「イット ガール」たちは、 プライバシーとプライバシーを守ろうとする態度で定義されうるところがある。90年代の「イット ガール」たちは、キャリアよりも、パーソナリティで評価されていると思われる部分があった。つまり、仕事の実績が、私生活やマスコミとの関係の影に隠れてしまうような人たちを指していた。しかし実際は、彼女たちは先ず仕事をしたうえで、プロジェクトがメディアから注目され、人気者になっていったのだ。リアリティ テレビでそれが一変した。その後、ソーシャル メディアによって再度それが変わった。現在の「イット ガール」という名称は、もっと適切な言葉が誕生するまでの代用に過ぎない。新たに必要なのは、漫然と「先ず有名」(あるいは「カーダシアン家のお騒がせセレブライフ」 が放映された最初の頃に流行った「有名であるという点で有名」)を指す名称。現在「イット」と形容されるガールたちは、共有すべきプロジェクトなど、なにも持っていないだろう。格別メディアと親しいわけでもなく、その代わりに、ファンと直接コミュニケートする。何で有名になりたいか、おそらく自分でもはっきりと分からないうちに「イット」になる。

ソーシャル メディアをもっとも賑わす家族のおかげで、ブルーは、誰も予測できないほどのスピードで有名になった。今や、ミュージック ビデオのスターである。カイリー・ジェンナー(Kylie Jenner)と別れていた時期、ラッパーのタイガ(Tyga)が撮影した「1 to 1」をご覧になった方もいるだろう。最悪な環境の中で行われたYeezy Season 4ファッション ショーで、スティレット ミュールを脱ぎ捨てた瞬間、事実上、ブルーはランウェーの崇拝を集める偶像になり、そこから全てが始まった。カニエ・ウェストがスタイリスト兼雑誌編集者カリーヌ・ロワトフェルド(Carine Roitfeld)に紹介し、ロワトフェルドがすぐさま「CR ファッション ブック」に載せ、ニューヨーク ファッション ウィークにハーパーズ バザーが主催するパーティ「アイコンズ」へ招待した。先頃も、話題のプロジェクトにキャスティングされたばかり。撮影は「ヴォーグ」誌と「W」誌で有名なファッション写真家デュオのマート & マーカス、アート ディレクターはウェスト、撮影場所はカリフォルニア州カラバサスにあるウェストの自宅、その他の出演者はウェストの妻キム、キムの妹クロエ、セレブリティ数名。ふたりのカーダシアンの横に並んでも、ブルーの曲線は超現実的に見える。ドイツの雑誌032cがウェストの記事を掲載した際、カーダシアン家の誰かを表紙に使うこともできたが、代わりに選んだのはブルーの見事なヌードだった。

人との出会いは例外なく何かを学ぶ機会だと、ブルーは考える。「何をすべきか、何をすべきでないか」、ウェストの姻戚からはたっぷり教訓を学べる。ブルーによれば、リアリティ テレビは「すべきでないこと」ではない。事実、彼女とその他の「影響力がある人たち(ブルーが好む表現)」を追う、ケーブルテレビ チャンネルのパイロット版はすでに撮影済みだ。バスタ・ライムス(Busta Rhymes)のビデオでは、ウェストがゲスト出演、ブルーはエキストラだった。以来、ウェストはブルーにご執心で、Yeezy のプロジェクトには必ずブルーを登用している。ブルーはウェストをよき先輩であり友人だと言う。それだけでなく、彼女の世代にウェスト以上の影響を与える人はいない、と付け加える。

「みんなが彼に夢中になるのを、見てきたわ。彼のフォロワーって、すごく熱心だし、すごく正直なのよ。カニエって、いろんな駆け引きをする人ではないと思う。彼が言うことは、大抵、彼が考えてること。だから、彼の言葉を本気で聞いて、それに対処するしかないわ。トランプの件で、腹を立てた人が沢山いるのは知ってる。私だって、一体何でトランプなんかと関わるの? って思ったもの。だけど、彼の言い分を聞いたら、別に私が同じ意見だと言ってるわけじゃないけど、だって、みんなそれぞれだから。もしかしたら、アメリカの大統領と会うのはいいことなのかも知れない。負かすことができないなら、一層のこと、そっち側にくっつくこともありなんじゃないかしら」

セレブリティの世界は日毎に変化する。90年代を思い出してみよう。芸能界専門チャンネル「ページ シックス」のレポーターが、パーティでイケてる娘と知り合いになる。面白いストーリーになるようだったら、便宜を図ろうと約束する。当時、比較的小ぶりのお尻がファッション界で好まれ、差別や偏見に基づいた表現は政治的に公正なものに是正すべきという概念やインターネットが世に出始めたばかりだった。名声は、現在ほど不名誉ではなかったし、現在ほど手に入りやすくもなかった。「イット ガール」は、外へ出て、人の目に触れて、魅力的であることが条件だった。それにひきかえ、現在の「イット ガール」は、インスタグラムを通じて見出される公算がもっとも高い。他の何にもまして、アート ディレクションが外への扉を開ける。出不精、さらには非社交的を自認する「イット ガール」も多い。現在のイケてる娘は、iPhoneを使ってベッドルームで撮影する状態から、プロのスタジオへとおびき出される。一夜にして影響力を持つようになったその他多数と同じく、ブルーも自分自身を「結構退屈」と表現する。

おそらく一番重要なことは、ブルーが露出は厭わないがプレッシャーを苦手とする人間を象徴していることだ。ブルーは4頭のピットブルと暮らしている。13頭生まれた仔犬のうち、3頭の引き取り手がなかったから。最近、祖母の住むノースカロライナに家を購入して改築中。都会暮らしに「変化」が欲しくなったときのため。「外へ出ないですむんだったら、出ないわ」。ブルーは言う。「パーティ人間じゃないの。クラブにもそんなに行かない。すごく胃が弱くて、どこでも吐いちゃうし。ワインをグラス1杯なら大丈夫だけど、強いお酒はダメ」。アルコール嫌いだから、ラップのビデオ撮影には気が進まない。それで、今はもうあまり引き受けていない。「ストリップ クラブでお客さんにボトルを入れさせる仕事をやったことがあるんだけど、正直言って、あれでもう十分。クレージーな部分のある仕事だったわ。面白かったし、稼ぎも良かったけど、ちょっと間やっただけで、もうご免よ」

現在20代のイット ガールは、
プライバシーとプライバシーを守ろうとする態度で定義されうる

ブルーの自信に満ちた気楽さは、曖昧と誤解されることもあるが、フォロワーたちの情熱を掻き立てるようでもある。Yeezyの最初のファッション ショーで驚異的容姿が世界中に知れ渡ってからというもの、 ブルーは声なきミームに仕立てられた。同じショーでモデルを務めたカイリー・ジェンナーは、ウィッグ キャップとオーバーサイズなブレザーというスタイルで、ほとんど誰だか分からなかった。一方ブルーは、透明ボディスーツより少し多めに隠したスタイル。さながら、マーク・ライデン(Mark Ryden)が描いたマーベル コミックのキャラクター「ストーム」と往年のキャラクター「ベティ・ブープ」を掛け合わせたようなスタイル。以来、ブルーの一挙手一投足に論争がつきまとう。「カイリーのファン ページの人たちから投稿されるの。すごく脅迫的で、侮辱的で、不愉快なコメント。それで、私のファンの人たちと口論するのよ。でも、コメントの大半はポジティブで、食生活の改善とかビーガンについて質問されるわ」

ネガティブなコメントが投稿されるようになったのは、タイガが「1 to 1」ビデオの舞台裏スナップをSnapchatに投稿してからだ。カメラがブルーの体を上から下までゆっくり映した後、ブルーが恥ずかしそうに白いローブを開いてヒップのタトゥーを見せる動画。火に油を注いだのは、ドイツとパキスタンの血を引く銀髪碧眼のブルーが、(ジャマイカ風の三つ編みへアだけでなく、ふたりの対話から明らかなように)ジャマイカ娘を演じたことだ。

図らずして、無名の政治差別的な理想像

ニューヨークのルーズベルト島に設置された戸外ランウェイで、ぎこちなく歩を運んでいたブルーがついにYeezy Season 4の汗にまみれたヒールを脱ぎ捨てる動画は、大量に出回った。どの動画にも必ず、ブルーもその他のモデルたちも「本当のモデル」ではないというコメントがついている。そもそもブルーがヒールを脱ぎ捨てる前から、Season 4が「複数民族の混血女性のみ」を公募したことで、黒人であることを貶め、黒人らしさを希薄化することをめぐり、ネット上で論争が勃発していた。ブルーが同世代の暗黙の憧れを体言しているひとつの指標は、白い肌なのに、普通の白人女性より豊かな唇とヒップだろう。図らずして、無名の政治差別的な理想像なのだ。注入による整形とヘア エクステンションを自ら認めた19歳のジェンナーも、人種を利用したという同様の非難の的になってきた。だがブルーは言う。「 カイリーと話すことは殆どないわ。カーダシアン家の人とは仲良くしているけど、彼女はその中には含まれていないの」

インターネット時代の「イット ガール」たちがブルーのように外に出たがらない理由は、おそらく、急激な関心が集まることによって、トラウマを負う恐れかもしれない。ブルーの場合、過剰な攻撃を向けられて内面が乱されているようには見えないが、感情を覆い隠すことが上手なだけかもしれない。モデル志望だったにもかかわらず、18歳になったときからタトゥーを入れてきた。大きな図柄が太ももを這い上がり、一方の肩を覆っている。胸に彫った「ホルスの目」は、少なくともカニエ嫌いのひとりに「悟者」の象徴と揶揄された。「女性がタトゥーを入れることに、必ずしも同意しない人が沢山いる。特に私みたいに、たくさん入れてるとね。でも…正解だったわ。あまり焦らずやっていけばいいだけよ。私、小柄だから」。155センチ足らず。「あまり仕事ができないかもって、心配してたの」と、タトゥー ショップへ足を運び始めた頃を思い出す。が、こう付け足す。「私、怖がりだから」

いちばん成功してる人たちって、
誰とでも、何についてでも、会話できる人。
そういうところが人と違う

ブルーが大きな影響を受けたのは、女優でありモデルであり同じくビーガンのシューズ デザイナーであるパメラ・アンダーソンだ(ブルー自身のシューズ ラインも4月にスタートする)。「パメラって、すごく生き生きしてる」。ストリップ クラブで仕事をしたとき、ダンサーたちのように商売上手になれないことを自覚したブルーにとって、称賛に値する個性だ。「フレンドリーにはなれるんだけど、ストリップ クラブでフレンドリーになるってのは難しいわ」。どんな環境でもフレンドリーになれることが、ブルーの目標だ。「いちばん成功してる人たちって、 誰とでも、何についてでも、会話できる人なのよ。そういうところが人と違うんだわ」。言い換えるならブルーがなりたいのは、外出するのが本当に好きなように見える種類の人間だ。「I AM THE INFLUENCE(私自身が影響力)」と書かれた彼女の人気インスタグラム アカウントのプロフィール。インスタグラムや、いくつかの不慮のスキャンダルのおかげで彼女は一歩先を行く存在になれた。ブルーは、早い時期に学んだ教訓(そして、近年大きな意味で立証された教訓)を、笑いながら引用する。結局のところ「どんな形であろうと、話題になれば何でもいいのよ」

  • 文: Natasha Stagg
  • 写真: Hannah Sider