ベーシックへの回帰

New Icons: Repettoのブラック サンドリヨン バレリーナ フラットで
シンプルを再認識する

  • 文: Zoma Crum-Tesfa
  • 写真: Kenta Cobayashi

新たに登場したアイコンが語る、
今シーズンとりわけ注目すべきアイテムの誕生秘話

Repettoが誕生したのは1947年。設立したのはローズ・レペット(Rose Repetto)、 息子のためにダンス シューズを作っていたひとりの母親だった。そんな背景から、彼女が作る靴は羨望の的になった。間もなく、女優ブリジット・バルドー(Brigitte Bardot)が、バレリーナ スリッパのように柔らかくしなやかで、毎日履ける靴を注文した。完成した靴はまさに期待通り! 時代の雰囲気は、永久に、サンドリヨンの中に捕らえられた。

さて、時は進んで現代。携帯でキム・カーダシアンのRSSフィードに登録していたときもあったけど、あまりに痛々しくなったので解除した。親愛なるキムが、レースアップやサイハイのプラットフォーム シューズやら何やらを履いて空港のセキュリティに現れたニュースが配信される度、私は叫びたかった。「もう沢山!」

私たちが演じているこのカフカ的ゲームは、一体何だろう?

しばしば残酷になるこの世界でもっとも残酷な行為は、私たちが私たち自身に対して、いわゆる「ベーシック」の選択を許せないことかもしれない。ベーシックはあらゆる人間に内在する。セキュリティ チェックとか、最終試験の週とか、黒い服しか着てはいけない仕事といった、官僚的な制度が押し付ける諸々の侮辱を切り抜けるときに呼び起こす、一種の「くだらないことはお断り」的な態度である。こういう場合、人によってはローファーかオックスフォード、あるいは 2.5センチ高のウッドブロック ヒールに手を伸ばすかもしれない。しかし、完璧な平然を表現するのに、バレー フラットに勝る靴はない。シンプルかつ本質的なバレー フラットは、私たちの時代と共振する真のアイコンだ。駆け出し女優からファースト レディーまで、カレッジの女子学生から世慣れたクラブの女性経営者まで、あらゆる女性に愛用される。夜が終わるまで彼女たちのバッグに身を潜めて、バレリーナ スリッパは囁く。「シーッ...もう沢山」

素晴らしく儚げな風情のバレリーナ フラットは、プロコフィエフのバレーとあまりに有名な童話の主人公にちなんで「サンドリヨン」と名付けられ、映画「素直な悪女」でバルドーと共にデビューを飾った。同時に、現代女性のセクシュアリティとアティチュードを主張するステートメントが表明された。私たち現代の女性はひとり残らず、その流れに連なっている。今もあのアティチュードは忘れられていないが、何となく軽んじられている。様々なブランドが、「サンドリヨン」の名を汚してきた。十分に考え抜かれていないのに、センシュアルなスタイルのシンプルさを利用しようとした。しかし、カフカの短編小説「断食芸人」で主人公が最後に告げた言葉ではないが、口にあう食べものを見つけることができなかったから、という理由で餓死するのはよそう! ブラックのエナメルにグログランのトリムをほどこしたサンドリヨン バレリーナ フラットは、「もう沢山」を宣言するだけではない。あえて物事を複雑にする必要はないと考える女性も時として存在することを、傍観者に認識させる。

  • 文: Zoma Crum-Tesfa
  • 写真: Kenta Cobayashi