Baja East:庶民的なセレブのワードローブ
著名人がプライベートに着る気楽なラグジュアリーという新しいスタイル
- 文: Lauren Norling

高級ジム、エクィノックスでの週半ばの腹筋トレーニングのクラスは、 親友でありブランドのパートナーとなるべき人に出会うのに、最もありがちな場所とは言えないだろう。だが、これがブランド、Baja East設立のきっかけだと考えると、完全に辻褄が合う。贅沢感がありながらもゆったりしたコレクションを作るため、ふたりはタッグを組む。とっぴでありながら正確に的を絞ったこのコンセプトこそ、伝統的なブランド出身のふたりの男が、ジムで見出したデザインにおける共通点だった。ジョン・ターゴン(John Targon)と スコット・スチュデンバーグ(Scott Studenberg)は、ともにニューヨークでファッションを学んだ。ジョンはパーソンズ美術大学で、スコットはファッション工科大の出身である。そして、ジョンはCélineとBurberry、スコットはLanvinと、ともに大手のファッション ブランドで働いていていた。にも関わらず、どちらにもデザインの経験はなかった。ふたりはまずラグジュアリー商品の市場に関する情報を集めた。だが、もっと気楽な商品を作るため、その情報はすべて放棄してしまった。「実際、既存の体制のなかで出世したところで、本当にやりたい仕事はできないって話したんだ。あと、ラグジュアリー市場にどれほど喪失感があるかについても。それで当時の仕事を続けながら、約1年かけてBaja Eastを計画したんだ」とスコットは話す。

Baja East、 春コレクション、2018
すべてが始まった、あの火曜日のマンハッタンでのミーティングから早15年。ふたりの計画は、かつてKitsonやJuicy Couture Athleisureが占めていたポジションを獲得し、セレブリティから密かに最も愛されるブランドのひとつへと成長した。 アメリカの東西両海岸でブランドが公式に展開を始めて2ヶ月が経過した。今はジョンが東海岸を担当し、ロサンゼルスは引き続きスコットが守っている。乱雑な仕事場について、ジョンは、新しいオフィスの前に自分の新しいアパートの内装を終わらせることにしたのだと、申し訳なさそうに説明する。発足時からこの移転のときまで、ふたりはずっと事務所で寝起きしていた。食事をするのも、休息とるのも事務所においてだった。彼らはチェルシーにあるアパートの2つの寝室を拠点に、全てを運営していたのだ。仲間たちのブランドに囲まれた数年間の共同生活を経て、今回、東海岸と西海岸に別れて展開するようになったのは、ある意味、分割統治の戦略であり、ブランドがどれほど大きく成長したかを表している。



根底にあるDNAを失うことなく、いかに進化していくか。これは、ブランドが常に直面する難題だ。だがBaja Eastは、スウェットやシャワーサンダルから、レッドカーペットにもふさわしいアイテムまで、性別を問わないスタイルをごく自然な形で展開してきた。カシミアのクロップドセーターに、贅沢なニット、スウェットパンツ、イカットTシャツ。これらが、ごく初期のコレクションから互いに喧嘩することなく共存していた。スコットとジョンにとって、エレガンスと快適さと多目的性が混合していることは、必須の条件なのだ。「僕たちの最初のコレクションは、メンズとウィメンズの間を行きつ戻りつする、25個のアイテムだった。そのうちに、僕たちの考えるカクテルドレスのアイデアがどんなものか、女性たちが関心を寄せているという話を聞いたんだ。それで手を広げることにした」。そこから、ゴム製のシャワーサンダルはシアリングで作り直され、 リラックスしたイブニングトップスや体の線を強調したラウンジパンツに、サテン地が取り入れられた。ブランドの愛用者には、ひっきりなしにパパラッチされているベラ・ハディッド(Bella Hadid)やレディー・ガガ(Lady Gaga)、ジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)などがいる。彼らのおかげで、多忙なセレブリティの「お金持ちで、毎日忙しい」スタイルを真似したい人々の間で、さらにブランドのファンは増えている。ジャスティン・ビーバーはブランドの「THRIVING」Tシャツを着て寝室でセルフィーを撮り、セリーヌ・ディオン(Celine Dion)は、「Bye Felicia」フーディでスタジオを訪れる。Baja Eastはただ服を売っているのではない。彼らのラグジュアリー ブランドは、生地やシルエット以上のものだ。ハイエンドに対する彼らのカジュアルなアプローチは、ライフスタイルの記号表現のひとつであり、庶民らしさを演出する有名人に端を発する、現代的な自己の構築の仕方を示している。



Baja East、 春コレクション、2018
パラダイムシフトが続く中、ラグジュアリーに含まれる領域は拡大し続けている。Baja Eastは、非常にアメリカ的な、ドレスダウンの形式という自らのマーケットを見つけ出した。「ゆるいラグジュアリー」という土台となるコンセプトを通して、高級ファッションを捉え直す。これがブランドの根幹となった。スコットは「ゆるいラグジュアリーというのは、ラグジュアリーのもつ意味の新しい解釈だ」と説明する。ジョンは言う。「このアイデアは、ジェンダーの壁を取り払うものであると同時に、ラグジュアリーは気負ったものである必要はないという表明なんだ。ラグジュアリーが快適でいつでも着たくなるようなものでもいいはずだ」。彼らの人気は、くつろぎながら豪華さを感じようという、ドレスアップに対する現代的なアプローチを物語っている。

Scott StudenbergおよびJohn Targon
- 文: Lauren Norling