ボンサイバッグの彼方

ロサンゼルスを拠点にするブランドSimon Millerのクリエイティブ・ディレクターが真にアメリカ的なビジョンを語る

  • インタビュー: Erika Houle
  • 写真: Sam Muller

Simon Millerのクリエイティブ・ディレクター、チェルシー・ハンスフォード(Chelsea Hansford)と、ダニエル・コリガン(Daniel Corrigan)が知り合ったのは、8年前のリル・ウェイン(Lil Wayne)のコンサートだった。ふたりともデニム業界でキャリアを積む中、ラスベガスの同じトレードショーに出席していた。その後のことは周知の通りだ。「誰かがリムジンで来てて、どういうわけかそこにダニエルが乗ってきたのよ」とハンスフォードが言う。「ずっと連絡を取り合っていて、数年後に一緒に働き始めることになったの」

当時、Simon Millerには小さなメンズ コレクションしかなかった。コリガンは、ウィメンズの立ち上げに際して、ブランドにハンスフォードを迎えると言って譲らなかった。そして最終的にハンスフォードがそれを了承した。だが、ブランドのアクセサリー生産の陣頭に立ったのは、彼女の夫、グレッグ(Greg)だった。彼はMarc Jacobs、Louis Vuitton、Goyardなどのブランドで仕事をしてきた革職人だった。完璧な構成で、ゆえに複製を作るのも難しい、バケツ型のバッグのデザインにより、この南カリフォルニアのブランドは、予想外に熱烈なカルト的人気を獲得した。

昨年11月、ハンスフォードとコリガンは生産規模を拡大し、ニューヨークとロサンゼルスという遠距離での共同事業に終止符を打った。 「ソーホーの私たちのロフトのコンセプトは楽しかったけど、ダニエルはロサンゼルスにこの拠点を持っていて、既製服のほとんどはここで生産されていたの」とハンスフォードは言う。「すべてをひとつの場所にまとめる必要を感じていた。それでグレッグと私がニューヨークから越してきて、私たちのビジネスの責任者もいっしょに連れてきたの。みんな家族よ」。この結束の強いチームは、のんびりしたロサンゼルスのライフスタイルに単にうまく適応したどころではないようだ。特にハンスフォードの飼っているブルドッグ、マルセルは、ムードボードに留められたレザーの切れ端や植物の溢れるダウンタウンのアトリエのカウチに定位置を確保している。

今年の春先、SSENSEはこのアトリエに立ち寄り、次のコレクションに向けて動き出したコリガンとハンスフォードに話を聞いた。

エリカ・フウル(Erika Houle)

チェルシー・ハンスフォード (Chelsea Hansford) & ダニエル・コリガン(Daniel Corrigan)

エリカ・フウル:Bonsaiバッグが初めて登場したときの『T Magazine』の古い記事を読んでいたんですが、そこで、あなたはこれがイット バッグになったらいいなと語っていましたね。

ダニエル・コリガン (D):(笑) それっていつの年?

2015年です。

チェルシー・ハンスフォード (C):クレイジーね。

確かに。その時の希望が現実になるというのは、どういう感じでしたか。

D:僕たちは、その年の終わりに初めてBonsaiバッグをウェブで公開したんだ。それが公開されたときオフィスにいたんだけど、その日のうちに15個か20個くらい売れたんだよね。僕たちはただただ「ええ!」って感じだった。こんなことになるとは想定してなかったけど、時間が経つにつれ反響は大きくなる一方だった。グレッグがデザインしたんだ。彼がいてくれて本当にラッキーだと思ってる。何しろ彼はこの世界のことは何でも知ってるから。彼がいなかったら、このバッグはちょっと流行って、すぐに消えてしまってたと思う。

C:「次」はどうするっていうプレッシャーがすごかったわ。大きなブランドの多くは300種類くらいバッグを開発して、売るのは4つくらいよね。私たちのコンセプトは違うの。ひとつだけ開発して、それを売るのよ。だからそれがイット バッグでなければならない。この世界では、立ち止まって成功を楽しむ時間なんて全然ない。誰もが次にくるものを求めているから。特にバイヤーはそう。ある意味では疲れるけれど、このポジションは楽しくもある。ひたすらクリエイティブでいなくちゃならないの。

メンズのデニムだけで始めた頃に比べると、ブランドは何度も大きな転換期を経験していますが、今日のSimon Millerをどのように定義しますか。

C:現代のアメリカのブランドね。私たちはここで始まり、ここを拠点にしている。私たちはそれを誇りにしているの。アメリカで生まれたスタイルがとても面白い時代よ。

D:デニムは僕たちのコレクションのとても重要な部分なんだ。僕たちのブランドは、ビンテージでも歴史的ブランドでも決してないと思うけど、デニムの要素には、実際、僕たちが基盤にしているアメリカ西部の景色に共鳴するものがある。

C:Simon Millerはライフスタイル ブランドだとも考えているわ。私たちは、商品だけじゃなくて、もっと色々と探求しているから。例えばインテリアとかね。私たちはアーティストのレナード・ウルソ(Leonard Urso)と提携していて、彼が私たちのビジュアルを担当しているの。彼には私たちのカラーパレットに合った大型の近代彫刻の素晴らしいアーカイブがある。彼はジュエリーも手がけてるのよ。これは私たちの変化の中でも特に大きかった。私たちは家具との様々なコラボレーションをやっていて、最近は陶器との組み合わせを探り始めたところよ。最近の市場にはかなり多くの商品があるから、ライフスタイル全体からインスピレーションを得る必要があるのよ。それが私たちのミッションね。

どのようなもので構成されているんでしょうか。

C:各シーズンに合わせてショールームのために作るプレイリストがあるし、シェフもいる。2018年の春夏コレクションのテーマは、このコンゴの熱帯雨林で、ミュージック ビデオと素晴らしい70年代のレゲエのプレイリストを用意して、シェフがココナッツ フレンチトーストとロブスターロールを作った。今回のシーズンは60年代と70年代のフレンチ ポップスのプレイリストに、シェフはタラバガニの足とステーク オ ポワーヴル(胡椒ソースのステーキ)を作った。すごくいい感じだったわ。

それにフラワー アレンジメントもあるんですよね

C:すっかりハマってる!Isa Isaというフラワーショップのソフィア・モレノ=バンジ(Sophia Moreno-Bunge)が2018年の秋冬コレクションのイベントのために作ってくれたんだけど、自分の買う花をミニマリストな美意識で見る方法を教えてくれた。そこがポイント。私、大きな花束みたいなのは全然好きじゃないの。

D:大きなバラの花束が君には合わないってこと?

C:(笑)バラなんて見るのも無理。

他にはどんなコツを彼女から教わりましたか。

C:ポピーを切り花にすると、水の中で花が毒でやられてしまうの。でも茎の先を焼くと1週間は持つのよ。これで私の人生は変わったわ。

最新のコレクションで60年代のフレンチ ポップスの時代に関心を持ったきっかけは何ですか。

C:個人的なことなんだけど、私の母は、テーマで揃えること取り憑かれてたの。私のは星柄で、彼女は壁中にスタンプで模様をつけていた。はまるものは変わっていって、その次がヒョウ柄。私の持ち物は何もかもアニマル プリントだったわ。それから、私の部屋にコルクの床が張られて、妹なんて貝殻の床だったのよ! だから、「60年代のポップスはどう次のコレクションに関係するだろう?」っていうより、「私たちのつながりや一貫性というのはどこにあるんだろう?」って感じね。

D:僕たちは常に新しい形を開発しているけど、それはあくまでSimon Millerの世界の中でのことなんだ。

特定のペルソナを思い描いてデザインしますか。それとも、自分の周囲の人のためにデザインするのでしょうか。

D:たぶん僕たちが思い描く女性ほど実験的ではないにしろ、男性のために、ただのジーンズとTシャツでなく、もうちょっと面白い物を提供したいと思ってる。ベーシックな生地だけど、今までにないシルエットみたいなね。

バラなんて見るのも無理

生地はどこから仕入れるのですか。

D:ごく一部をイタリアから、でもほとんどは日本から。アメリカのコットンもたくさん使っていて、僕たちの生地を開発している工場から直接取り寄せてる。

C:レザーはすべてフランスのものよ。私たちはすべてのバッグをフランスで生産しているの。私たちの革職人がフランス人だからね。(笑) フランス人の男をフランスから引き離すことはできないのよ。単純に不可能なの!

メンズとウィメンズのラインはこのまま別々で続けていく予定ですか。

C:シルエットについてはこの先も別々になるだろうけど、今、メンズとウィメンズの大々的な統合を進めているの。ニューヨークとパリでは、一緒にひとつのショーを行う予定よ。これは私たちにとって大きな変化ね。このショーが過渡期になる。

D:多くのブランドがユニセックスなものを作るようになってるのは、すごくいいと思う。でも僕たちは全くそうじゃないんだ。僕たちの思う男の子はそういうのじゃないし、女の子もそうじゃない。でもそれらが共存するコレクションというのはすばらしい空間になると思う。

最近このアトリエを作り直したんですよね。この空間で何を変えたかったんですか。

D:開放性だね。全員がコミュニケーションをとれるようにしたかった。空間に入って行き、理解するという体験なんだ。

C:何もかもが私たちを表している。家も、家具も、花も、私たちが作る料理も。ただ服をデザインするだけじゃない。どう進化するのか見たいと思うものについて、ビジョンを持つことね。

Erika HouleはモントリオールにあるSSENSEのエディターである

  • インタビュー: Erika Houle
  • 写真: Sam Muller