Miu Miu

キャンプ

SSENSEに初登場のMiu Miuが2016年秋冬コレクションを発表する舞台に選んだのは、Antonioniがサルデーニャ島に建築したブルータリズムのビーチハウス

  • インタビュー: Maxime Ballesteros
  • キャスティング アシスタント: Jen Gilpin

1960年代、映画監督の Michelangelo Antonioni(ミケランジェロ・アントニオーニ)は、当時最も美しいとされた映画女優 Monica Vitti(モニカ・ヴィッティ)と恋愛関係にあった。「欲望」や「砂丘」で称賛を浴びたラディカルなイタリア人映画作家は、サルデーニャ島のコスタ・パラディーゾに、彼と恋人の家を建てることを決意した。Vittiが主演した1960年の伝説的な作品「情事」は、火山島でひとりの女性が失踪するという内容で、サルデーニャ島はその舞台にぴったりだった。ビーチに建てる隠れ家は、奇抜で、ひときわモダンでなくてはならなかった。美しく、神秘的で、飼いならされることを拒絶するユニコーンのような彼のガールフレンドにふさわしく。そこで、Antonioniは、建築家のDante Bini(ダンテ・ビニ)にコンクリートのドームの建設を依頼した。しかし、その完成を待たずして、AntonioniとVittiの関係には終止符が打たれた。この建物は、ほぼ無人の島にポツンと取り残されてしまったのだ。

SSENCEに初めて登場するMiu Miuの2016年秋冬コレクションのため、写真家Maxime Ballesteros(マキシム・バレステロス)は、廃墟となったAntonioniのビニシェル(Dante Biniが開発した鉄筋コンクリートによるシェル構造の建物)を訪れた。そこで3人のシティガールとテントを張り、ハシゴと好奇心を駆使して、フューチャリスティックな恋の廃墟に浸った。そして、胸を刺すようなコスタ・パラディーゾの孤独な美しさを振り返って、こう語る。

「シーズンオフのコスタ・パラディーゾを形容するのは難しい。観光客のために作られたゲートのあるちっぽけな村。車は細い道の真ん中を走るんだ。美しい紺碧の海とピンクや茶色の彫刻のような岩が、霞みがかった青葉に覆われて、見渡す限りどこまでも続く。風が強くて、聞こえてくるのは押し寄せる波の音、そして、荷物を満載した僕たちの小さな車の窓から溢れる大音量のフラメンコとラップミュージック。

村やそのまわりの道を走ってみると、同じような美しい景色が延々と続く。暖かく乾燥した空気。島のあらゆる場所に充満する微妙だけれど執拗な寂寥と孤立の感覚。ほとんど倦怠のようなそんな空気が、華麗な景色の中に深く息づいている。まるでAntonioniの「情事」の世界に迷い込んだみたいだった。

打ち捨てられたAntonioniのドームの家は、彼の亡霊をはらんだまま、今も村はずれに佇んでいる。テラスから見える華麗な海の眺めは変わってないし、水晶のように透明な海へ続く長い階段と小道には今も神秘的な雰囲気が色濃く漂っている。

カーブした窓から見えたのは、空っぽの朽ちたリビングルーム、Monica Vittiの部屋へのぼる美しい石の階段。朝の光の中、素足で降りてくる彼女の姿を眺めるためにデザインされたという。

あまりに多くの観光客が訪れるようになると、Antonioniはこの家を去った。窓とドアは板で塞がれ、今は、太陽の光も興味本位の侵入者も入れない。

私たちは住民よりもイノシシや野良猫に遭遇することの方が多かった。夜になると、野良猫のために戸口に置いた餌を、イノシシが食べに来るようになった。そのうち、暗い夜の静寂の中から唸り声をあげて私たちを怖がらせることもなくなった。でも、夕暮れ時、人気のない曲がりくねった道を飛ばしていると、急カーブを曲がるたびにイノシシの姿が脳裏に浮かんだ。

キャンプに参加した全員が、絶え間ない風が運んでくる塩と土の匂い、夜の静寂に包まれた深い眠りを懐かしんでいるだろう。原始のままの自然の囁きに満足するシンプルさが、そこにはあった」

  • インタビュー: Maxime Ballesteros
  • キャスティング アシスタント: Jen Gilpin