クレイグ・グリーン:魂の鍛錬
ロンドン メンズウェア界の寵児が制服の美とその独創的な世界を語る
- 文: Charlie Porter
- 写真: Matthew Tammaro

クレイグ・グリーン(Craig Green)が制服について話している。冬の朝、私たちはイースト ロンドンのショーディッチにあるHoi Polloiのボックス席に陣取り、すでにコーヒーのポットのお替りを頼んだところだ。
多くの人にとって制服は富や権力の象徴だが、グリーンにとって、制服は低賃金労働者にも等しく与えられるものという意味を持つ。「学校に制服を着て行かなくていい日のことを、よく覚えているよ」と彼は言う。「貧しい家庭の子は、他人の目がすごく気になったものだ。金持ちの子がカッコいいNikeのトレーナーを着てるのに、自分は急に普通の服を着なくてはならないんだからね。母さんは、制服というのは、自分が何を持っているかや、どのくらいお金を持っているかという考えを捨てて、みんなが一つになれるものだと言っていた。制服は、表現に反するものだから、ネガティブに見られることもあるんだと思うけど、同時に精神的に守ってくれるものと見ることもできる。

モデル着用アイテム:ブーツ(Maison Margiela)、ジャケット(Craig Green)、ショーツ(Craig Green) 冒頭の画像:ジャケット(Craig Green)
こうした考えは、彼のブランドの中核をなしている。ロンドン北部のコリンデールで生まれ育った31歳のグリーンは、その最初のコレクションから、ワークジャケットのシルエットを軸として、服を作ってきた。そうすることで、ステータスに対するあからさまな憧れよりも、コミュニティや庶民という概念をハイ ファッションの文脈に持ち込むことに重点を置いている。彼のショーの多くは、普段、個性の犠牲のもとに隠され、抑えられているような、声には出しにくい感情を表現しているような気がする。 だからこそ、彼の作品は非常に野心的でありながらも謙虚でいられるのだ。
ここで、私の見方には偏りがあることを打ち明けねばならない。私のワードローブはグリーンがデザインしたもので溢れている。私の最初のCraig Greenの服は、そのデビュー発表会のものだ。これは、2012年1月にルル・ケネディ(Lulu Kennedy)のファッション・イーストの企画の一部として行われた。当時、彼は セントラル・セント・マーチンズ大学で修士課程を修了したばかりだった。購入したのは2着のシンプルなカットオフのアイテムで、1枚は白いベルトがプリントされたコットンキャンバスのTシャツで、もう1枚は、白くペイントされた包帯のストライプが付いた、ガーゼ地の長袖のトップだ。それ以降、多くのアイテムが私のお気に入りとなった。色の斑点が徐々に色褪せるようデニムが糸に編み込まれたネイビーのパッチワーク セーター、渦を巻いたタイダイのコットン セーター、ウォッシュド シルクの2枚のキルティング ジャケット、2015年の秋冬コレクションの、腹の部分に円形の穴が空いた分厚いニット セーター。どの服にも、デザインにおける野心と、仕立てや着心地といった実用性の両方を実現させようという意図が見える。さらに、それぞれ異なるシーズンのものでも、背後に関連性があるのは明らかだ。
最近、グリーンは制服というアイデアを、コア コレクションという形式で導入した。ランウェイで発表する服と並行して公開されるコレクションだ。このコア コレクションはシーズンをまたいで続き、そのデザインは常に一定である。「これは僕が服を買う方法や、僕の知っている多くの男性が服を買う方法に基づいているんだ」と彼は言う。「好きなものを見つけると、そればかり買う。彼らは習慣の生き物だからね。理由はわからないけれど。僕は同じジーンズを20回買っても構わない」
このアプローチのメリットは多岐にわたる。ひとつには、木やプラスチックを多用した装飾的で彫刻的なスタイルなど、その独自性で知られるグリーンのショーで、さらに探求の余地が生まれることだ。「これがあれば、メイン ラインでもっと自由に実験的なことができる」と彼は言う。「普通のズボンやジャケットにしなきゃいけないと心配せずに、ああいう純粋な表現をするためだ」。コア コレクションには、「ノーマル」を極めたアイテムが並ぶ。縦のキルティングが入ったボクシーなジャケットや、ブークレのセーター、ワイドなテーラー パンツ、後ろについたカットアウトの丸いポケットにゴールドのステッチを施したルースカットのデニムなどが並ぶ。当初のアイデアは、コア コレクションをメイン ラインから分離することだったが、このデニムについては、2018年の春夏コレクションにうまく収めることができた。これをショーの最初に登場させることで、後に続く実験的なアイテムとの釣り合いを取ったのだ。伝統的なワークウェアから着想を得た、制服のようなスタイルが、効果的にベースキャンプの役割を果たし、そこを起点に、かつてない大胆な冒険が可能となった。
またこの2つのラインは、実質的な面でも双方が互いの役に立っていると、グリーンは言う。「コアをやることで、メインの方のフィット感を改良することができてる。今はブランドのサイジングを体系化しているところだよ。例えば、XLは完売するサイズなんだ。今、僕のサイズはLだから、つまりは、僕より大きい人が買っているってことだよね。だけど、多くのブランドは、メンズウェアでそのサイズを出してないと思う。大抵は、お父さんたちはGantで買い物するしかないみたいな感じだ。大きい男の人は、ファッション ジャケットや着てみたいと思う服を買うことができないんだよ」
以前話したとき、グリーンは自分の仕事はファッションでありラグジュアリーではないと定義していた。これは極めて重大な区別である。彼の服は、身体を飾り、権力を見せるための服ではなく、身体のために作られ、それを着て何かをするための服なのだ。「どのショーでも、僕がうまくいったなと思うのは、ほぼ100%コットンかコットンとの混紡なんだ。決して意図的ではないんだけどね。他の生地や豪華なものや、ラグジュアリーな男性が身に付けたらすごくいいと考えるようなものも買うよ。でもプロセスが進むにつれ、それらは除外されていって、結局、ショーを見てみると『なんだ、どれもコットンじゃないか』ってことになるんだ」
ファッション・イーストの合同ショーMANの一部として実施された、彼のいちばん始めのランウェイのコレクションから、ずっとそうだった。モデルの多くが、顔の前に何枚もの木の破片をつけてランウェイを歩いたが、それはあたかも、めちゃくちゃになった脳が溢れ出してきたかのようだった。グリーンはこれを「顔フェンス」と呼んでいる。「思い返すと、あれがいちばん気に入っているショーだと思う。だって、色や生地、構造の点から見て、ベーシックでありながら気取ってる感じが、すごくいい」


モデル着用アイテム:スニカー(Salomon)、ジーンズ(Craig Green)、ジャケット(Craig Green)
「今じゃ、あれはできないよ」と彼は言う。「内部でネジがそのままになってて、それにちょっと緩衝材を被せて、色を塗っただけだったんだ。もしモデルの誰かがこけて顔から倒れたとしたら、考えるのも恐ろしいね」。あのショーの服やカラーは、彼のコレクションで何度も繰り返し登場しており、以降の彼のコレクションの見せ方のテンプレートになったといえる。「ショーを作るプロセスの初期段階でも、既にカラー ブロックが壁に並んで配置されているような状態なんだ。とても統一され、プログラム化されたショーの組み立て方だ。ほとんど、何かのグループかカルト教団のセットを作っているみたいだったよ」と彼は言う。
この統一性と反復への執着こそが、グリーンのブランドにシーズンを超えた連続性をもたせている。「ずっとファッション ブランドには2種類あるような気がしている」と彼は言う。「『流行の』ファッションブランドというのがあって、彼らは、あるシーズンはこれをやって、次のシーズンには真逆のことをやっている。それから、明確なストーリーを持つブランドがある。そういうブランドには明確な美学と視点があって、そのスタイルが自分たちのものだという責任意識があるんだ」
彼は、自分がどちらの側にいたいかをきちんとわかっている。「『流行の』ファッション ブランドでなければならないというプレッシャーに負けたこともあった」と彼は言う。「でも、振り返ってみると、本当に気に入っているショーは、焦点を絞り込んだものなんだ」
だがそこで、まだブランドを開始して5年しか経たないグリーンは、自分自身に問いかける。「昨今、新興ブランドだからといって、『流行の』ファッション ブランドでなければならないのだろうか。どのくらいの時間をかけて独自の美学を築くべきなのか。どのくらいの時間が自分にはあるのか。その美学を鍛えるとき、どのくらいなら繰り返しても大丈夫なのか」。その答えはまだ出ていない。

モデル着用アイテム:ジャケット(Craig Green)、ジーンズ(Craig Green)
ここで再び、コア コレクションのジーンズの話に戻る。「あの穴のアイデアは中国の人民服からきてるんだ」とグリーンは話す。だが同時に、彼の過去の作品にも言及する。例の、2015年秋冬コレクションの厚手のセーターだ。腹の部分に、彼のお気に入りの映画『エイリアン』のタイトルになっている怪物が出て来るのにちょうどいいような、穴が空いている。「ただ円が好きなんだ。理由はわからないけど。人々の輪のようでもあるし、空気孔のようでもあるし、奇妙な具合に性的でもあるし。象徴のようなものだね。円のそういうスピリチュアルな側面が好きなんだ」
この円の話を聞いて色々と腑に落ちる。グリーンが探し求めているのは、バランスなのだ。彼は自分のコレクションを周期のように考えているのだろうか。「以前は、2つのコレクションの周期で考えていた。でも前回のショーの前によく振り返ってみたら、実は3つの周期だとわかったんだ。2018年の春夏コレクションで、また新たな3つのコレクションの周期が始まる。前回の3つは、ほとんどノスタルジックといってもいいものだった。ウォッシュド シルクやタオル地、洗いざらしの色味やブロック プリントを使って、なんとなくロマンチックだった。2018年の春夏コレクションは、過去にひねりを加えるのではなく、現実や現在にひねりを加えた感じだね。ノスタルジックなロマン主義ではなくて、もっとモダンになった」

モデル着用アイテム:サンダル(Dr. Martens)、フーディ(Craig Green).
このショーはまた、英国ファッション協議会が長きに渡り実施している、才能ある若手デザイナーを支援するNEWGENの制度を卒業して以来、初のショーでもあった。つまり、この先、グリーンは完全に自分の足で立ち、独立した自分だけのビジネスに拠って立つことを意味する。「自分たちの力で、外に出るのは初めてだった」と彼は続ける。「ある意味では、新しいスタートだ。ちょっとだけね」
Charlie Porterは『Financial Times』のメンズファッション批評家 であり、『Luncheon』、『i-D』、『Love』、『Fantastic Man』においても執筆を行っている
- 文: Charlie Porter
- 写真: Matthew Tammaro
- 写真アシスタント: Alexis Belhumeur-Coupal, Devon Corman
- スタイリング: Romany Williams
- メイクアップ: Ronnie Tremblay / Teamm Management
- モデル: La Timpa / Lorde Inc.
- 制作: Alexandra Zbikowski
- 制作アシスタント: Erika Robichaud-Martel