マイケル3世式 ラグジュアリー クッキング

魅惑のシェフによるハイクラスな家庭料理の手引き

  • Date: August 23, 2019

新たな美しい1日に向けて、果樹園の向こうに日が沈む頃、オレは家路につく。我が家のキッチンには、もう猫たちがジワジワと集まってきており、家主が帰宅する瞬間にとっておくために、ニャアニャア鳴きだすのをグッとこらえてる。だが、それほど長く待つ必要もない。パパはすでに角の道を曲がり、家の前のレモンの並木道に入ったのだから。

オレはロビンズ エッグ ブルーの上下にGucciのピンクの帽子という格好だ。両腕はふさがっていて、ちょっと猫の手も借りたいくらいだ。なので、玄関をPradaのブーツの拍車で開ける。左手には、パンと今晩作るコンセプチュアルな料理に必要なあらゆる野菜と豆類を抱えている。トマト、エンダイブ、豆、ピーマン、ラディッシュ、きゅうり、キャベツ、そしてCalvin Kleinがひとつ。右手には、桃、サクランボ、ラズベリー、小ぶりのメロン。これが今夜の魅惑のデザートになる。すべてオーガニックで、新鮮な地元産だ。近所の家の庭から盗んできたものなのだが、それは秘密だ。

ところで、オレが心意気はセミプロの、本格シェフだということは知っていた? テキサス州のパリにあるソルボンヌ大学でゲイ オーレを勉強したことは、もう話したっけ? オレの五感に訴える夏のディナーに君を招待してなかった? まあ、招待してなかったとしても、それは、オレがいっぱいいっぱいだったせいに違いないので仕方ない。誰だってそうだろ? とはいえ、たったひとりで食材を家庭料理という芸術に変えるのは、決して簡単なことではないのだ。

見ての通り、過去の料理本は時代遅れ。これは動かぬ事実だ! 昨今は、家庭のシェフだって、産地直送のトレンディな食材に、ふんだんに自己表現を加える必要がある。2000年代に入って20年が経とうという今、ソーシャルメディアの勢いが緩まる気配はまったくない。もはや食べ物は、味がいいだけではダメなのだ。センスが「いい感じ」ではなくてはならない。栄養なんかクソ食らえだ。

今回ここで紹介するコツやレシピは、豪華な料理には単にその食材を合わせたもの以上の価値があると分かっている、賢い人々のためのものだ。大きなお皿にちょこんと乗った豆ひと粒、微かに味のついたスープ、7割は飾りで1割は食べるための道具からなる前菜、何か上にひと振りしない限り完成と見なされない食材の数々、1本90ドルのワインと合わせるひと口サイズのタンパク質、ピューレあるいは錠剤の形で供されるアントレ、その日の「土の状態」によって変わるメニュー。このタイプの気取りが生まれもって身についており、中身だけでなく、スタイルにもこだわるラッキーな人々たちにこそ、オレのこの料理を堪能してほしい。


キッチン用品について

君の家のキッチンに、フランスのおしゃれキッチンにある、言葉ではうまくいえないあの雰囲気が足りないなら、必要なものをオレが教えてあげよう。まずはRick Owensのトースター。これは真っ黒なトーストを作るのに最適だ。「デムナ・ヴァザリアのスタンド ミキサー」の限定エディションも必要だろう。これをキレイに片付いたカウンター テーブルの上に置けば、悠々とアイロニー溢れるフワフワなドリンクを作ることができる。Stella McCartneyの野菜ピーラー、ひだのついたMolly Gollardのマフィン型、透明のMaison Margielaの貯蔵容器におそろいの製氷皿、焼いたケーキがいかにもどっしりと美味しそうに見える、Thom Browneのバント型からも目が離せない。あらゆる道具を持っているシェフは、人参1本や、車のキーを温めるのにちょうどいい大きさが揃った、Jacquemusのミニチュア サイズのソースパンをお忘れなく。これにはセットでリネンの布巾もついている。ただし、お手入れはドライクリーニングのみ。(注:写真に写っているカウンター トップの傷には、もうお気づきだろう。実はこれはMarc Jacobsによるものだ。)


「思索のための食べ物」

ひと息ついたら、心と身体と魂にしみわたる、現代的な料理を作り始めるといい。夕食に招待したゲストの間でいちばん人気のオレの料理は、エレガントな「思索のマリネと一手間加えたフィーリングの澄ましたエクスキューズ添え」だ。このレシピは、オレのクラシックな伝統食材に対するリスペクトと、絶対に諦めないしつこさ、そしてどんな問題も人生のイベントとして演出してしまう才能を反映したものだ。かつての友人とのディナー、謝罪のためのパーティー、元カレの誕生日会、そしてとりわけ、キャンドルを灯してひとりきりの夜にぴったりだ。ちなみに、このレシピは、猫たちも大好物だ。

今挙げた料理のように、いくつかのレシピは、準備に何日も、場合によっては何年もかかるので、食料棚には、常に「新鮮で、慎重に練った言葉に的外れな批判をひと振りしたもの」を作るのに必要な食材を揃えておく必要がある。このように手軽に作れるレシピは、不意の来客がある場合に、極めて重要になる。イスに腰掛け、口いっぱいに「わあ、そのセーターいいね。自分で作ったの?」といった会話を繰り広げる。そしてすかさず、「色がすごく『ユニーク』だよね」、さらに「あえて未完成に見せてるんでしょ?」といった言葉を乾いた食材の間に挟み込んでいく。最後の仕上げに、「君には、似合ってる」をたっぷりと注ぎ、沸騰寸前の我慢の限界に達したら、火から下ろす。彼らが出たあと、ドアに鍵をかけるのを忘れずに。

Michael the III 着用アイテム:セーター(Eckhaus Latta)帽子(Loewe)


家族全員のための、コンセプチュアルな時短レシピ

ほろりと崩れる、あてにならないバターミルク ビスケット:このビスケットは1分もあればできる場合もあれば、1時間かかる場合もある。テーブルに食べ物が出ていようが、いまいが、関係ない場合にもってこい。ぬるくなったガスパチョによく合う。

Casperのマットレスに乗せて出すフェンネルの球根のロースト、「ポッドキャスト」風:食事に広告を入れることで、食費を削減しよう。

スーパーフルーツだけで作るアンブロシア サラダ:_抗酸化成分たっぷりの果物をマヨネーズで和える。絶品。

パーティー サイズの水槽セビーチェ:魚を除き、全員が楽しめる。

マイケル3世風、屈辱のハンブル パイ:自分で言うのもなんだが、これに勝るレシピはない。

パセリ香るヤギ ミルク:ヤギにパセリを食べさせる。24時間寝かせ、乳をしぼる。

「マメもそれもやり尽くした」、二度揚げした豆のエンチラーダ:「デジャヴ」な夜に理想的なメニュー。

メットガラ ミートローフ:宴のために作られたオート キュイジーヌ。様々な機会に使えるテーマごとの料理。「天国のボディ」には、パン粉を散らし、その上に赤ワイン ソースをかける。「キャンプ」には、オーブンで焼いたキノコをひき肉に加え、溶かしたHershey’sのチョコレートをふりかけ、砕いたグラハム クラッカーを乗せる。といった具合に、バリエーションはいくらでもある。ミートローフは、5月の第1日曜日の前にあらかじめ作っておくことができる。

マイケル3世風スパイシー ソース:トマト、タマネギ、ニンニク、アンチョビのフィレ、赤トウガラシの3カップを丁寧に混ぜる。刺激物なので気をつけて。

Michael the III 着用アイテム:シャツ(Sies Marjan)サンバイザー(Gucci)

Michael the III 着用アイテム:シャツ(Sies Marjan)サンバイザー(Gucci)

論争を呼ぶサラダ:サラダのドレスであるドレッシングはつけず、生のまま出す。

君のテリーヌに入っているのはナスビなのか、それともオレに会えて嬉しいだけ?:ナスビを皿に盛り、焼いたもの。

「レッドベリー or ブルーベリー パイ」:赤のベリーか青のベリーか、選ぶのはゲスト自身。ベリーは森で採れたものを使うこと。片方のパイを食べると過酷な現実が明らかになり、もう片方はぬくぬくとした自己満足を与えくれる。どちらのパイも、溶けかかったバニラ アイスクリームを添えて。


芸術的盛りつけ法

君の作る「ブルゴーニュ風牛肉煮込み」が、ミケランジェロの絵画に劣らぬ濃厚さを誇り、アーサー・キット(Eartha Kitt)の甘い熱情でジュージューと音を立て、火にかけたその様子がミース・ファン・デル・ローエ(Mies Van der Rohe)の建築のように堂々たる風格があるとしても、家族の芸術に対する期待を考慮せずに盛りつけたなら、すべてが無駄になってしまう。以前、「お母さん、美味しいよ!」と言った後で、子どもがこう囁くのを聞いたことがある。「でも情熱が盛りつけに感じられないや。やり直し」。その子どもが成長して、ゴードン・ラムゼイ(Gordon Ramsey)になったのは言うまでもない。
ここに、いくつか盛りつけ技術を紹介するので、試してみてほしい。

ミニマリズム風

豚の肉汁に一晩浸したニワトコの実1粒を、木ノ実の紫と揃いの色の皿の中心からやや左に置き、コーシャの塩をひとふりする。

ブルータリズム風

薄いコンクリートの板の上に盛り、あちこちが直角になるように並べる。

キュビスム風

食べ物をキューブ状にして出す。爪楊枝を使いたくなるが、その誘惑に負けないこと。

アブストラクション風

きちんと盛られた皿にソースをぶちまけ、タイムの小枝丸1本を、いちばん邪魔になるところに置く。

ハイパーリアリズム風

料理を脱構築する。ぐちゃぐちゃの部分と色素の部分に分けた後で、最初の見た目と同じになるよう、それぞれ再び集めてまとめ、「なぜわざわざこんな方法を選んだのか」という疑問を呈する。


誰を招待するかについて

ペンを持って、いよいよ手書きの招待状に取り掛かろう。これをあとで写真にとってInstagramのDMで送信する。技術がどれほど発展しても、高級感が必要だ。所在なげに天井にちらりと見て、それから窓の方に目をやる。可能性は膨大だが、友達は少ない。では誰を招待する?

ワインを選ぶのと同様、ゲスト選びは極めて重要だ。オレ自身は、フルーティーで口当たりが良く、控えめなボディをした人が好み。それぞれのゲストが、少なくとも1人は知り合いがいるようにすること。ただし、周りがどれほど「ステキ」と言っても、決して元カレは呼ばないこと。雰囲気をぶち壊すのは目に見えている。


デザイナー フーズは体に良いのか

毎日デザイナーのものを食べるのは、健康にはあまり良くないかもしれない。なので、食べるときは食べた回数を数えておこう。そのシーズンにあった新鮮な材料のみ使うようにし、地元で購入しよう。あちこち買い物に回るのはプライドが許さない場合は、オンラインで買えばいい。市場には模造品、というかむしろ代用品が無数に出回っているが、(試してもらえばわかると思うが) 粉末状のコリアンダーは決してクミンの代用にならないことを覚えておこう。それに見た目も安っぽくなる。

[下の写真:「マイケル3世 デザイナー ソーセージ ピザ」


美食家特有の言葉遣いについて

ひとたびオシャレな料理の基本をマスターしたら、最後のステップは、その料理について説明するための魅力的な言葉遣いに慣れることだ。まっとうな考えを持った人なら誰だって、いちどは料理番組のホストの真似をしたことがあるはずだ。ファッションにおいては「ヤギの毛」とは言わずに「モヘア」というのと同じく、料理では「卵黄のソース」ではなく「ベアルネーズ ソース」と言う。

「ボンジュール、ゲストの皆さん。ボブ、キャロライン、アナ・ウィンター、お母さん。本日のメニューでは、繊細なハーブを煮詰めたもののフォーム仕立てと、自家製スパイスに二度漬けした手摘みのシャントレルを、理想の夫婦のように絶妙にマッチしたアーティチョークとガーリックの上にあしらってみました。アーティチョークとガーリックのこの『結婚式』は、夕食の少し前、中火にかけた小鍋で、蓋をせずオープンに済ませたばかり。落ち着いた緑色のアーティチョークがタイミングよく現れないと、失恋したガーリックは形が崩れてしまうところでしたが、無事、アーティチョークは投入され、伝統的な花嫁のような純白のソースで丸ごと和えられました。レモンとオリーブオイルの立ち会いのもとシャンパンでフランベの炎を上げ、塩コショウのコンフェッティが舞う中、この幸せなカップルがスキレットに退場し、完成です」

ボナペティ! さあ、召し上がれ。


最後に

このレシピやヒントのどれか、あるいはひとつとして好みに合わなかったが、オシャレ料理のレボリューションについてもっと知りたい人は、ぜひ近々発売されるオレの『マイケル3世の3人のための料理』を手にとってほしい (ただし無料ではない)。料理本を扱う店であればどこでも手に入る。(たまたま探した書店では見つからなかったせいで)、評論家は「非現実的」で「ただの妄想」と言っているが。

Michael the IIIはライター、フォトグラファー、モデル、シェフ。『Gayletter』、『Document Journal』、『THEFINEPRINT』、『SSENSE』など多数に執筆を行う。2018年にテキサス州パリのソルボンヌ大学を卒業

  • 文: Michael the III
  • 写真: Michael the III
  • スタイリング: Michael the III
  • フードスタイリング: Michael the III
  • 写真編集: Michael the III
  • ヘア & メイク: Michael the III
  • Date: August 23, 2019