デザイナーという職業は消滅するのか
ロビー・バラットの思い描く、人工知能がBalenciagaのクリエイティブ ディレクターになる日
- インタビュー: Arabelle Sicardi
- 画像提供: Robbie Barrat

どのようにロボットに創造することを教えるのか。ロボットは美をデザインすることができるのか。この19歳は、新時代のファストファッション、もはや人間の手をまったく必要としないファッション業界のあり方を発見してしまったのだろうか。
@DrBeef_ことロビー・バラット(Robbie Barrat)は天才だ。こんな風に紹介するのは彼を矮小化するようで不本意なのだが、少なくとも、彼が天才であることには間違いない。19歳にしてスタンフォード大学の研究所に勤めている時点で、天才と呼ぶに値するはずだ。カニエ・ウェスト(Kanye West)を模倣するニューラルネットワーク という、カニエの全アルバムに基づき自らラップを書くAIを公開したことで、彼はNVIDIAの重役の目に留まった。そして、ウェストバージニア州の高校を出て、サンフランシスコのNVIDIAで働くことになった。彼は現在もまだ学生として大学に通っているのだが、同時に、スタンフォード大学のバイオメディカル インフォマティクス リサーチ センターで研究を行い、生涯教育コースでは、ゲスト講師として、人工知能についてのレクチャーを行なっている。ついでに言えば、彼は独学だ。


彼はただ賢いだけではない。今、人口知能を使った作品を制作する人の中では、最も面白いアーティストのひとりでもある。彼のスキルはアートの分野全般にわたり、カニエ・ウェストのAIの他には、ジェネレーティブ アート作成に植物の発する電気信号を利用する方法のガイドや、バッハを真似たピアノのメロディーを生み出すAIなどを制作している。AIによって制作された絵画がクリスティーズのオークションで40万ドル以上の値をつけて落札された件はどうかって? あれは、アーティスト集団が、バラットのコードを借りて使っていた。彼はまた、「原始的Balenciaga」といえるデザインを作り出すAIのコードを書いている。訴えられるといけないので一応説明しておくと、これは海賊版などではなく、これまでブランドのファンが作成した中では最もオタクな、ファンレターの一種と考えるべきものだ。
ディストピアと化す未来を憂うサバイバリストも、心配には及ばない。バラットのBalenciaga AIは、会話や実験、キュレーションからなる連続した作業を行うのだが、これはアナログなデザインの過程でもよく行われていることだ。シルエットは正真正銘Balenciagaだが、勾配は不自然で断片化され、それが描くイメージには、どこまで「人間」のモデルで、どこから衣服が始まるのかの境界がない。現実のランウェイで発表されたデザインに、不気味なほど近い変型バージョンが出来ることもあれば、非常にうまく行った場合には、奇妙奇天烈で楽しい、現実離れしたサプライズが出来上がることもある。AIの生み出すものはどれも奇怪で、美しい。そして、これらのデザインは確かにBalenciagaだ。ブランドの全コレクションを、原子レベルにまで還元するタイムマシンに放り込み、もう一方では宇宙人に依頼して、そのゴチャゴチャに混ざった残骸からオリジナルを再構成してもらったら出てくるような。並行世界のBalenciagaと言ってもいい。あるいは、未来のBalenciagaかもしれない。ねえデムナ、聞いてる?
アラベル・シカルディ(Arabelle Siccardi)
ロビー・バラット(Robbie Barrat)
アラベル・シカルディ:これほどたくさんデザイナーがいる中で君はBalenciagaを選んだわけだけど、Balenciagaが好きなの?
もちろん。Balenciagaのデザインを突き詰めると、スピード トレーナーは、ただソックスに靴底をつけたものと言えるし、ダブル シャツは2枚のシャツでしかない。こう言うとバカみたいに聞こえるだろ。こんなアイデアありえないはずだったんだ。でも彼らはそういうアイデアを取り上げて、洗練させ、薄めることなく、そのままデザインとして成立させた。1000ドルもする、奇妙なダダイズムの作品だよ。価格は、僕がBalenciagaに惹かれる大きな理由のひとつだね。高額に見合う価値がないって言ってるわけじゃないよ。思うに、この価格設定自体が現にブランドの魅力のひとつになっている。そこに興味をそそられるんだ。僕は本当にAIが好きで、AIを使ってアートもやってる。だから、AIとBalenciagaで遊んだらどうなるか、やってみない手はないと思って。
初期のデータ セットにどのくらいのBalenciagaのイメージを入れて、その調整はどのように? ランウェイの動画も作ってるよね?
あれは気に入ってるけど、ファッションとして価値があるものや、人が着られる服というのではなくて、どちらかといえば技術的なトリックみたいなものだと思ってる。ディテールがあまりはっきりしてないし。だから動画は切り離して考えていて、静止画像に使っているのとは、完全に違うデータ セットを使ってるんだ。そこから抽出された、人がポーズを取ってる画像は見たことある?
展開させているプロセスの中でも、最初のバージョンだったやつね。
そう。Facebookが作ったネットワークがあって、これは画像中のどこに人々がいるのかを識別できるよう、あらかじめ学習させてあるんだ。そこから緑の棒みたいな指の画像は生まれた。DensePoseと呼ばれるものだよ。僕はこれを使ってポーズを抽出して、ニューラルネットワークにそのポーズからBalenciagaに戻ることを学習させようとしてるんだ。ただし、ネットワークは障害に直面し、完全な再構成は望めない。さらに情報も欠落してる。つまり、不可能なタスクをネットワークに学習させようとしてるんだね。面白いのは、そのタスクを達成しようと試みる中で、あの奇妙なBalenciagaの中間生成物ができるってことだ。

"Maybe a designer could hit a button, and it would generate a new outfit."
仮にChirperという名前にしておくけど、某ソーシャルメディアの会社で、私はAIによる学習とパターン認識に関する仕事をしていたの。そこで、川がどういうときに川なのかみたいなことを、AIに認識させる訓練をしてた。でも、君のやっていることは、単純な認識やカテゴリー化よりさらに踏み込んだものよね。君はAIに、AI独自のバージョンを作らせようとしているのだから。
うん。同じ問題に取り組んではいるけど、やり方が逆だ。
それだと、パターン認識ソフトウェアでいつも感じていたジレンマも避けられる。隅に追いやられた人々を調査するためにAIに何かを学習させるのではなく、ただ面白い物を作ってるだけという。ジェネレーティブ ソフトで作られるモデルにはちゃんとした顔がないけど、これは顔を学習しているのではなく、顔認識ソフトに私たちが典型的にコード化しているようなバイアスを前提にしているのでもないってことね。
国防総省はいつもGoogleのような巨大企業と協力して、政府の既存のマシンを使ってソフトを走らせ、おぞましいドローンみたいなもののために使ってる。でも、AIやジェネレーティブ アートの良いところは、そのソフトやその成果物を人々が誤用できないことだ。その点は、僕も完全に同意だよ。
とはいえ、僕の作品に対して不安を感じた人の数人からメッセージはもらったけどね。彼らは、このせいでアーティストが自動的に排除されると考えてる。でも、そんなことは起きないよ。AIはアーティストの味方になる。自動化でアーティストが排除されるどころか、僕たちは、機械学習とAIを備えたすごくカッコいいアーティストのツールをたくさん手にするようになると思う。それはアーティストの創造性を高めるものだ。もしかすると、デザイナーがそのスイッチを押すことで、新しい服が生み出されるかもしれない。AIが作ったものに目を通し、そこから得たアイデアを自分のデザインで使うことも可能かもしれない。
現在の作業の大部分は自己言及的なところがあって、ある意味では、すでにアルゴリズムのようになってる気がする。そこで実際にそのアルゴリズムを自分で決めて、強制的に、複数のバージョンやその派生物を作らせる。すると、そこには自分自身を抑制する原因となる文脈が存在しないから、自分では考えもしなかった結論が導かれる。それがプロセスの促進に役立つことはあっても、その価値を下げることはない。もしかすると、これは完全に異なるタイプのファスト ファッションなのかもしれないね。
シュルレアルのような、無限のファッションだよ。AIモデルが作り出せる服の数には限りがない。ほとんどのものはかなり似通っているだろうけど、数的には無限に生み出すことができる。「無限に広がる」ファスト ファッションになる可能性があるんだ。とはいえ、僕はファスト ファッションが嫌いだから、そんなもの欲しくないけどね。
それに現時点では、そういうデザインのいずれも、現実世界で再現するのは不可能よね。このAIでカッコいいのは、それが描き出す、奇妙で、変わった質感のディテールだから。
それが残念なとこだよね。プロトタイプを作りたくて、セーターの例を選んだときに思った。テキスタイル技術はまだそこに達してない。あるいは、少なくとも僕はそこにアクセスできない。



他のAIの試みの中には、すでに他の方法で人間によって実行されていたものもあったわね。あの変な赤い血が出ているみたいなのを見て、他の[Balenciaga以外の]作品を思い出したの。例えば、ラフ・シモンズ(Raf Simons)が Diorでスターリング・ルビー(Sterling Ruby)の作品を取り入れたコレクションとか。銀河のようなプリントのいくつかは、Christopher Kaneの名残よね。既存のデザインやBalenciagaではないデザインを思わせるようなものってある?
どうかな。僕がファッションについて読んだり見たりしたのはBalenciagaだけだから、それに答えるのは難しいよ。
[笑]そこが本当に面白いところなのよ。これを作るのに、ファッションの専門家である必要なんてない。まったく異なる視点から、君はここに到達してる。
このマシンとのコラボレーションの大部分における僕の役割は、実際、キュレーター的なものなんだ。というのも、マシンにインプットするデータや、ネットワークからのアウトプットを選別し、どの結果をキープしてどれを捨てるかを選んでいるのは僕だから。どの結果もかなり面白い。その多くは普通のBalenciagaのように見えるけど、僕は、それをあまり重要だとは考えてない。ポイントは、ネットワークにBalenciagaを学習させることで、何か違うものが作り出されるか、Balenciagaを間違って解釈することがあるかを見ることなんだ。
完全に異なる何か別のものだと誤解するかとか。
その通り。超かっこいい例があるんだけど、それが例えばこの「足バッグ」だ。Balenciagaにいる人間は普通のバッグをデザインしたよね?そして人間は、そのバッグを右手に持ってランウェイを歩いた。ネットワークはそれを見て、間違った解釈をしたんだ。バッグが何のためのものか知らないせいだ。人間がバッグに物を入れて運ぶということを知らないんだ。だからバッグを持つにはハンドルが必要だということも知らない。そして、常にバッグがパンツのすぐ横にあるのを見たせいで、バッグとパンツが別個のものだということも理解していなかった。ここで起きているのは、ネットワークがBalenciagaのやったことを間違って解釈し、人がそれをスネのあたりに巻きつけるタイプのバッグだと誤解した結果だ。ここでは複数のレベルにおける、間違った解釈が起きてる。
そのせいで、完全に違った対話が生まれていると。この例は、特に興味をそそられるわ。このパンツの脚は、結合部分というか、体の熱が伝わる場所が赤くなっている。つまりこれは、ただのバッグとしてあるのではなく、結びつきのポイントを強調しているということでもあるわね。
おお、そうだね。

この結果すべてを手に入れて、そこから特別に何かを選ぶわけだけど、君にとっての成功は、どんな結果が出たとき?
これまでに投稿してきた結果を僕が成功と考えてるのか、と言われるとわからないけど、僕の目に留まるのは、真新しさや、逸脱、実際のBalenciagaのコレクションからの遠さがあるときだね。
答えはわかりきってるようなものだけど、最後の質問を。もしBalenciagaが君のところに来て、コラボレーションしてほしいと頼んだら、どう答える?
もちろん、イエス。当たり前だよ。やるしかない。ノーなんて言えるわけないよ。
Arabelle Sicardiは美容とファッションのライター。『i-D』、『Allure』、『TeenVOGUE』などで活躍
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- 画像提供: Robbie Barrat