ヴェロニカ・ハイルブルンナーと一緒にドレスアップ
ベルリンのファッションエディターがいくつかのSSENSEルックを試し、今人気のないアイテムが必ず流行になって戻って来る理由を説明する
- インタビュー: Zoma Crum-Tesfa
- 撮影: Veronika Heilbrunner


「面白いことって、いつもリミックスがある時に起こるものよ」。Veronika Heilbrunner(ヴェロニカ・ハイルブルンナー)は、ベルリンでコーヒーを飲みながら説明する。「人って、いつも、少し目障りなものを必要としているから」。レディース ウェアへの独自なアプローチで知られる、ヨーロッパ・ストリートスタイル界の常連。彼女はモデルとして活躍した後、ドイツ版「Harper’s Bazaar」誌のファッションエディターを務め、現在はオンラインのファッション プラットフォームhey woman!を立ち上げている。SSESEのために撮り下ろしたセルフィー・ストーリーで、ヴェロニカ・ハイルブルンナーはMiu Miu、Thom Browne、Wales Bonnerを試着し、ベルリンのスタイル、クジラやゴシック様式の教会への執着について、Zoma Crum-Tesfa(ゾマ・クラム-テスファ)と語り合った。
ゾマ・クラム-テスファ(Zoma Crum-Tesfa)
ヴェロニカ・ハイルブルンナー(Veronika Heilbrunner)
ゾマ・クラム-テスファ: モデルをやって、その後「Harper’s Bazaar」のようなメジャーな雑誌のエディターになるなんて、まるで夢が叶ったようですね。そして、今は自分のプラットフォームをオンラインで運営している。あなたの旅がどうやって始まったのか教えてもらえますか?
ヴェロニカ・ハイルブルンナー: 最初はモデルだったけど、ファッション業界で仕事を始めたのは、洋服に興味があったからよ。13歳の時にスーパーマーケットとか花屋で働き始めて、自分が欲しい洋服を買うお金を貯めるためには、それこそ何でもしたわ。私にとっては、自分のことを説明しないというのがとても大切だったから、親にお金をねだる気はなかったわ。
ファッションに興味があることに、いつ気付きましたか?
いつ頃って(笑)! 子供の頃から。ずっとずっと。私は、いつも着飾ること、洋服を着ることに夢中だった。とても物静かで夢見心地の子供だったの。空想の世界に住ん、頭の中で勝手にストーリーを作ってね。その話の中心はいつも「何を着ようかしら?」から始まるの。
全ては遊びだったんですね。
そうね。いつも母親のファッション雑誌を片っ端から読んでいたわ。わかるでしょ。典型的な話よね。

モデルの仕事は、やってみてどうでしたか?
刺激だった。学校を出てから、丸1年、モデルの仕事をしたの。南アフリカからミラノまで、いろんな所にいったわ。気の合う人たちと仕事をして、世界を知ることができて、そういったことは全て楽しかった。でも、それほど熱中していたわけでもないの。私は背が高すぎたし、自信もなかったから。
冗談でしょう!
いえ、ほんとなの。でも、モデルの仕事を通じて、ファッション エディターという仕事があることを知ったわ。エディターをつかまえては、質問攻めにした。どうやってこの仕事に就いたの?私も同じようになるには、どうすればいい? 毎日どんなことやっているの?って。それからインターンに応募して、初めに返事をもらった所で働き始めたの。成長したかったから。
クローゼットの掃除をやらされましたか?
もちろんよ!大好きだったわよ。働いて働いて、上のポジションに行けるまでずっと頑張り続けたの。

hey woman!を始めたきっかけを教えてください。
そのときには、もう8年間ぐらい働いていたかな。アシスタントエディターから始めて、エディターになって、オンラインショップのMy Theresaでウェブサイトのプロダクションをやって。そこで初めて小売と接点を持ったのが、大きな変化だったわ。エディターは夢を作ることが仕事だから、実際に洋服を売る必要はないからね。同時に、オンラインがとてもエキサイティングだったわ。自分のやったことが、2〜3日後には全部アップされるんだから。その後、Bazaarがスタイルエディターにならないかって誘われたの。それがクールな仕事だってことは知ってるけど、新しい職場に移った時にもう、「本当に私はまた月刊誌をやりたいの?」って感じていたの。新聞は偉大よ。「032c」誌のように、年に2回発行されて、確かな意見や方向性を持ってる雑誌も素晴らしいわ。けど、従来からある月刊のショッピング マガジンはちょっと微妙だと思うの。Bazaarは夢の仕事だったけど、私の気持ちはもうそれとは別の世界にあったから。金曜日に辞めて、次の日の土曜日に、友達に招かれたディナーの席で、パートナーになるJulia(ジュリア)と会ったの。
あなたのウェブサイトで印象的なのは、カテゴリーがとても流動的なことです。まるで、従来のファッション雑誌のリミックスのようですね。
それがファッションの好きなところ。面白いことって、必ず、リミックスがある時とか、違った要素がぶつかる時に起こるものよ。それとか、最初に見た時はなんだか気に入らなくても、次に見た瞬間に「あれ、これってけっこうクールじゃない」ってなる時。私は、完璧じゃないものの中に美があると思うわ。
本当にそうですね。混じり気のない純粋なカテゴリー分けが、現状を維持しているわけです。だから、新しい何かを生み出そうとするなら、こういうカテゴリーの純粋性みたいな物を常に破壊していく必要がある。
そのとおりよ! だって、もう何でもあるんだから。ファッションの世界で、何か新しいものを作り出すなんてできないわ。 新しい素材を使うことはできるけど、すでに美しいものがいっぱいあって、それらに今までにない方向性とかアイデアを与えないといけない。それができるのは、すでにある美しいものを何らかの形で破壊して、完璧なレプリカを作ろうとはしないとき。

今までそんなリミックスを試みて、どうしても復活しないものはありますか? 例えば、LAでUggのブーツを履いてスーパーマーケットに行ける時代がありましたね。でも今では、そんなことありえないでしょう。
でも、いつかまたそれもクールになるって断言するわ。おかしいわよ。私は12歳から25歳ぐらいまで、本当にスニーカー一辺倒だったの。他の靴なんて持ってなかった。ドレスの時でもスニーカーで、そればっかり履いてた。で、25歳ぐらいの時に「スニーカーなんてもうイヤだ!スニーカーなんて、一体誰が履くの?」って。それなのに、今また、スニーカーを履いているわ。何かを好きになると、それに囲まれた生活になって、そのうち飽きてしまうのよね。ところが、嫌になったはずのものが、どういうわけか、また魅力を持ち始める。人って、いつも少し目障りな物を必要としているから。どうしてそうなのか、本当に知りたいもんだわ。

嫌いなものの中に、ある種の魅力を感じ始めるんだと思います。
ベルリンが良い例だわ! 50〜60年代の、あのみっともないNeubau(ノイバウ)ビルを知ってる?ブルータリスト建築だけど、クールな方じゃなくて、醜い方の。
知っています。私の住んでいる所がそれです。
みんな、昔はあれが嫌いだったの。なのに今はクールになってる。

だから、どのビルもリノベーションされているんですね。でも、何の価値も無いというのがあのビルの魅力でした。
例えば、Vetements。あのブランドは、基本的に人々が嫌いなものをとりあげて、それをとんでもなくクールにしている。もっとおかしいのは、それに対する反応ね。ある人たちは大好きになるし、ある人たちは大嫌いになる。混乱している人たちもいる。みんながどれだけ真剣かって考えると、おかしいわね。
確かに、あなたがインスタグラムで見せる着こなしには、遊び的な雰囲気がありますね。特に、ボーイフレンドのJustin O’Shea(ジャスティン・オシェイ)と一緒の写真。彼は、今Brioniのクリエイティブ ダイレクターでしょう。メンズウェアがあなたの洋服のチョイスに影響を与えていると思いますか?
うーん、私はどちらかと言うといつもお転婆だったの。もちろんクールなジャケットやコートやパンツなんかを持っているボーイフレンドが横にいれば、借りて着ることもあるわよね。そういうのは大好きよ。私は特別女性らしいわけじゃないけど、それでも、上から下までメンズを着るってことはないわ。とくにボーイフレンドと一緒の時はね。双子みたいに見られたくないもの!
Brioniには、素晴らしいカシミアのセーターがありますね。女性用もあればいいなと思うんですが。
彼の初めてのショーでは実際にレディースのスタイルが8点あって、全てクチュールでオーダーメイドだったの。でも、メンズのセーターを買わざるを得ないというのも、なんか素敵じゃないかしら?

おふたりともベルリンにお住まいですね。ファッション界のカップルの拠点としては珍しいですね。あなたにとって、ベルリンはインスピレーションの源なんでしょうか?
ベルリンには、言うなれば、みんなが探しているものがある。古くて美しいものがある。新しくて醜いものもある。若さもたくさんある。ここで撮影されたGucciのキャンペーンが公開された時には、たくさんインタビューを受けたわ。特に、ベルリンのスタイルを知りたい英語系の雑誌に。「分からないわ」というのが私の答えだったけどね。私の好きな本のひとつに「We Children from Bahnhof Zoo(かなしみのクリスチアーネ)」があるの。70年代のベルリンのヘロイン中毒者の話で、後に映画化されてDavid Bowie(デヴィッド・ボウイ)がサウンドトラックを提供している。話はかなり恐ろしい内容なんだけど、全体的なスタイルのセンスは、言ってしまえばSaint Laurentのショーなのよ。Gucciはこの映画の撮影現場を使って、それを華やかな広告に仕立てた。ベルリンで少しだけ残念なのは、アートや音楽やパーティがとても盛り上がっているのに、それを反映しているファッション ブランドがないことね。それか、まだ今はないことね、たぶん。Vetementsがパリを拠点にしているのは、ちょっと残念だわ。あれが、基本的にベルリンのスタイルだから。
他に何度も訪れたい場所というと、どこになりますか?
ロンドンとかLAとか、いつも他の大都市に出かけるのが好きよ。スカンジナビアの街は本当に大好き。明日、オスロに行くの。で、来週はコペンハーゲン、そしてストックホルム、それからまたオスロ。だいたいは、教会やお城に行くのよ。それが私の趣味なの。いつも教会の前を通ると、中に入ってみないと気が済まない。
どの時代の教会が好きですか?
ゴシックね。

私は東方正教会がとても好きなんです。心を奪われているんです。
そうよね。ロシアにある東方正教の教会は美しいわ。
SSENSEから選んだ洋服について、教えてください。いちばん胸が高鳴ったのはどれでしょうか?
このMiu Miuのベルベットのバレリーナシューズよ。同じシューズで普通のレザーのは持ってるんだけど、ベルベットが出た時に「うわー、ベルベットのも欲しい!」と思ったの。トラックスーツはGrace Wales Bonner、クジラのジャンパーはThom Browneよ。クジラが好きなの。私のお気に入りの動物。
いちばん好きなクジラは? 私はオルカが好きです。
いちばん大きなクジラが好き。シロナガスクジラ。
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- 撮影: Veronika Heilbrunner