ルカ・サバトに寄せる多大な期待

ミレニアル世代の
ルネッサンス マンと、
モントリオールで過ごした
ひととき

  • インタビュー: Adam Wray
  • 写真: Rebecca Storm

「10段階として、首はどれくらい痛かった?」。写真撮影の後半に備えて準備中のルカ・サバト(Luka Sabbat)が、ヘアとメイクアップ担当にタトゥーのことを尋ねている。すでに全身あらゆる所にタトゥーを入れて、パリとニューヨークとインターネットで育った19歳のモデル/インフルエンサーは、時間があったら首にもタトゥーを入れるつもりだ。が、実現するのは、口で言うほど簡単ではないだろう。

モデル業に加えて、コラボレーターであるノア・ディロン(Noah Dillon)と「Hot Mess」(メチャクチャの意)と名付けた不定形プロジェクトに取り組み、世界を飛び回るサバトにとって、自由な時間はほとんどない。そのサバトが、24時間に満たないながらもモントリオールに滞在し、SSENSE主催のパネル ディスカッションに参加してくれた。テーマは「hypeの本質」。まさにサバトが精通しているコンセプトである。前日の夜がかなり遅かったことを考えると、サバトは感心するほど快活だ。とはいえ、睡眠不足はお馴染みのこと。パーティーだって仕事。若者中心のファッション マニアが集うインターネットの一角にサバトが遍在するに至った、「撮影しては共有」するライフ スタイルのエッセンスだから。

前夜に夕食を共にしたルカの父クラークによると、決して夢の範囲を制限するなとルカには言い続けてきたそうだ。多くの親が子に授けるメッセージではあるが、すべての子がルカほど、その教えを完全に吸収しているわけではない。すでにHot Messプロジェクトの活動には、写真の展示やアパレルのラインがあり、今後は家具のコレクションや短編映像も予定している。「もう筋書きはできてるんだ」とサバトは言う。サバトは、ハイパーコネクト世代ならではの境界なき創造性を体現している。彼にとって、頭に浮かぶものは何であれ、認められるだけでなく、実現可能だ。

撮影の最中、若い女性のグループがサバトに近づいて、一緒に写真を撮らせてほしいと言う。そういう依頼に慣れ始めているかを尋ねると、しょっちゅう頼まれるわけじゃないよ、と答える。そうでなくなる日も近いかもしれない。

グーグル マップでチャーミングかつ正しく「有名なオレンジ色の巨大な球体」として紹介されているモントリオールの名物レストラン「ジボー オレンジ ジュレップ」で、フレンチ トーストとオレンジ ジュレップの朝食を食べながら、ビデオ ゲーム、川久保玲の才能、愛する家具についてサバトと対話した。

Luka着用アイテム:ジャケット(Saint Laurent)

クリエイティブな目標

ずっとビデオ ゲームを作りたかったんだ。コレクションは服を作れるけれど、ビデオ ゲームは宇宙を作れる。それって最高だ。今じゃ、ブランドがビデオ ゲームで自分たちの服を見せるんだ。ヴィヴィアン・ウェストウッド(Vivienne Westwood)は「ファイナル ファンタジー」、Acronymは「デウス エクス」。ビデオ ゲームのキャラクターは最高にかっこいいしね。僕は、ゲームのキャラクターになったつもりで服を着るんだ。これは「ストリートファイターIV」のダッドリーにインスパイアされたコーディネート。Balenciagaのレッド ストライプ パンツに、Wales Bonnerのシャツ。「鉄拳」には最高にクールなコーディネートがある。完璧だ。吉光みたいな格好はできないけど、僕のムード ボードにはちゃんと入ってるんだ。

ファッションのいちばん古い記憶

ファッション ショーで泣いたのを覚えてる。スーパー モデルのカトゥーシャ・ニアヌ(Katouche Niane)に抱っこされてたんだ。それから、多分 Raf Simonsの「Virginia Creeper」コレクション。今までの人生で見た中で、あれは最高にかっこいいファッションの部類に入るな。マンハッタンのトライベッカに住んでた頃は、もの凄く沢山ファッション関係の本があったから、目に入った本を捲っては、色々リサーチしてたよ。

住んでみたい場所

東京、かな。もちろんファッションが目当て。それから食べ物も。でもやっぱり、ファッションのせいだな。スタイルが最高にかっこいいし、カルチャーも最高にかっこいい。できれば、すぐにでも東京で暮らしたい。ニューヨークだと、思わず唸るようなスタイルには滅多に出会えない。僕が感動するのは、お洒落なファッション人間じゃなくて、おかしなスーツを着た年寄りなんだ。妙なスーツなのに、すごくかっこ良く見える。日本には、クールな着こなしをしてるヤツらが、いっぱいいるよね。

家具

家具は環境の一部さ。部屋に入ったとき、雰囲気を作ってるのは家具なんだ。空気感。その部屋の印象を一瞬で決める。自分の家の家具をデザインしたいと思うのは、家に入った瞬間、自分みたいに、自分のエネルギーみたいに感じるだろ。自分の家、って感じがする。家具は、絶対に、服よりはるかにクールさ。服なんてクソ食らえだ。家具は、テクスチャにすごく細かくこだわれる。大きくても小さくても、自分の好きなサイズに作れる。機能的でもいいし、実用的じゃないけどかっこいい外見にしてもいい。布地で遊べるし、木材で遊べるし、コンクリートで遊べるし、金属で遊べる。数え切れないくらい、色んなことができる。大理石でもいいね。大理石でズボンは作れないもんな。いや、極小の大理石のブロックを使ったら作れるかも、鎧みたいな感じに。

川久保玲

彼女は、史上最高にかっこいい人間のひとりだ。間違いなく5本の指に入る。これまでのキャリアを通じて、誰か他のデザイナーを参考にしたことなんてないはずだ。一体どこからインスピレーションが湧くんだろうな? もしかして、フランク・ゲイリー(Frank Gehry)の風変わりな建築とか? ムードボードがどうなってるのか、想像もできないよ。本当は、そんなもの、ないのかも。バスキア(Basquiat)にランウェイを歩かせたデザイナーなんて、他にはいないだろ? そんな人間、いないよ。あれは、ファッション史上、最高の出来事のひとつだったと思う。

スニーカー本来の目的

このスニーカーはもう汚れているけど、べつに売るつもりじゃないからいいんだ。箱には「履く」って書いてあるしね。履かないんだったら、ただの気取り屋さ。これはスニーカー。履くものなんだ。

インフルエンサーであること

考えてもいなかった。でも僕がインフルエンサーだなんて、すごくクレージーだな。僕の考え方って、服でもそうだけど、「これがキッズたちにピッタリ」なんて感じじゃ全然ないから。それより、ただ「僕はこのパンツが大好きだ」って感じだから。僕の影響でみんな色々やってるけど、自分の手柄にする気なんかないよ。「インターネットに出てるアイツ」になるなんて嫌だし、そんなこと、どうだっていいし。ただ、みんながやるってことが、かっこいいと思うんだ。誰の手柄とか、誰が最初にやったとかじゃないけど、自分が最初にやったって分かってるのはいい気分さ。それで十分。そんなにあくせくしてないよ。

季節

L.A.は好きなんだけど、年中同じ。ニューヨークの冬は最悪だけど、冬のあいだ、僕はすごくクリエイティブになるんだ。どんどんアイデアが生まれる。

ガールフレンド

ベスト。エネルギーが最高。自分の意見があって、すごくオープンで。くだらないことだったら、僕が大好きなことでも、はっきりくだらないって言うんだ。とってもクリエイティブで、本当に見る目があるし、何に対してもすごく趣味がいい。ファッションとは無関係なコスタリカ育ちだけど、今は、自分の好きなスタイルが分かってる。誠意があるし、最高に思いやりがある。Hot Messのコレクションは全部、彼女が着たところを見たいと思うアイテムばっかりさ。僕がやってることは、彼女に刺激されたことが多いよ。それか、彼女が土台になってる。僕のミューズだと思う。

Hot Messの今後

もっとコンテンツを作る、もっとショーをやる、もっと服を作って、もっと本を出す。それから映画。できれば、2年以内に家具。

  • インタビュー: Adam Wray
  • 写真: Rebecca Storm