AmbushのYoonと探す、東京の気取らない宝物たち
ジュエリーデザイナーが明かす行きつけの場所と、「Bad Boy」に影響を受けた最新コレクションの秘密

AmbushのYoonやVerbalのようなスーパースターが、パリ3区のはずれにあるショールームに毎日滞在し、今シーズンのジュエリーやアパレルコレクションについて一人ひとりに説明をしてくれるなんて、にわかには信じ難い話かもしれない。しかし、それは紛れもなく、パリのメンズファッションウィークの最中に起きていたことなのだ。期間中、音楽やファッション業界のセレブリティたちがYoonやVerbalにこぞって会いに来ては、彼らの紡ぐネクストステップの物語「Halbstarke」を楽しんでいた。そして彼らが去ると、ショールームは静寂に包まれていた。
「Karlheinz Weinbergerの、この美しい写真集には偶然出合ったの」とYoonは言う。「Weinbergerはこの本の中で、不良のキッズたちを写真に収めているんだけど、私は写真に写るこのキッズたちや彼らのアティチュードに一気に心を奪われてしまったの。そこには手つかずのものがある気がして。だって、彼らは自分たちがどれだけクールかってことを全然意識していないように思えるから。」
文字通り訳せば、ドイツ語で「half strong」を意味する「Halbstarke」は、不良少年を言い表わす 言葉だ。「彼らはただ着飾ってElvis PresleyやJames Deanのようなアイコンをコピーしたかっただけなんだと思うわ」Yoonはそう付け加えると、スイス人のアーティストであり写真家のWeinbergerが、この写真を1950年代後半のチューリッヒで撮影したことを教えてくれた。


「写真の中のキッズたちは、どう見ても労働者階級出身だし、高価なアイテムを買うことができるほど経済的な余裕はなかったはず。だからガラクタのような、適当に見つけたものを使ってオリジナルのアクセサリーやジュエリーを作っていて、そこにわたしはとても刺激を受けたの。そして自分の中に彼らとのつながりを感じたわ。だって、それこそわたしがジュエリーを見る視点そのものだったから。わたしにとってジュエリーは、ステータスを誇示するようなものではなくて、むしろ自分のアイデンティティの延長線のようなものなの。」
それはまた、「Halbstarke」がAmbushにとって初めて純銀のコレクションになった理由でもある。そこにはきらびやかさもなければ、グラマラスな雰囲気もない。有刺鉄線はネックレスやブレスレットへと、釘をかたどったイヤリング、指輪、アームカフ、そしてチェーンのベルトと、詩情たっぷりにアレンジされている。すべて日本製だ。
Yoonによれば、Weinbergerの写真に収められたスイスの不良少年たちのように、日本にはいまだ1950年代のアメリカのアイコンたちを遥か遠くから崇拝している若者が多くいるということだ。「James DeanやElvis Presleyが、今も絶対的なアイドルであり続けるということ自体、すごく興味深いことだと思うわ」と彼女は言う。「世界一のアメリカンヴィンテージのショップが東京にあるのを知ってた? 日本人はハードコアなコレクターなのよ。」
しかし、彼女が引き合いに出すのは現在拠点とする街、東京だけではない。韓国で生まれたYoonは、アメリカで育った。そういう意味で、彼女は事実上アメリカ人である。「私は韓国人に見えるだろうし、ある意味で韓国人よ。だけど韓国出身ではない。1977年にソウルで生まれたあと、すぐに引っ越したの。父はアメリカの陸軍に所属していて、まず韓国で働いてからアメリカの市民権を得た。私たち家族全員あちこち移住したわ。父は基地で働いていて、前線には一度も出なかった。私たちはハワイにも住んだし、カリフォルニアにも行った。その後、今も両親が住んでいるシアトルに移住したのよ。」


Ambushのファッション解釈には、何か新しいもの、先駆的なものがある。2008年に実験的な、というよりむしろDIYのジュエリープロジェクトとしてスタートしたこのブランドは、やがてデニム、既製服を扱うようになり、そしてSacaiなどのブランドとのコラボレーションを果たすまで大きくなった。
しかし、シアトル出身の1人の女の子が、いかにしてスーパーグループTeriyaki Boyzの一員で、ラップスターであり、音楽プロデューサーでもあるVerbalと結婚するに至ったのだろうか。そして、彼らが2人揃ってパリのショールームに座り、楽しそうに自らのブランドのプロモーションをするのには、一体どんな理由があるのだろう。
Yoonは、ファッションに目覚めたときのことをこんな風に振り返る。彼女は当時まだシアトルに住んでいて、高校生だった。そしてよく公立図書館に通い、本を手当たり次第に読み漁っていた。「当時シアトルは魅力的な街ではなかったの。だからよくファッション雑誌を手に取っては、『へえ、東海岸の人は華やかなんだな』なんて考えながら、私も東海岸に行くべきかな、なんて思っていた。」高校を卒業したあと、彼女はいくつかの大学に出願し、結果的にボストン・カレッジからグラフィックデザインを学ぶために全額免除の奨学金を得た。そしてボストンでVerbalと出会った。彼はボストン大学でマーケティングと哲学を学んでいたのだ。
「私たちは、かれこれ20年ぐらいの仲になるわ。」Yoonは言う。「まず遠距離恋愛から始まったの。大学を卒業して、わたしはボストンでグラフィックデザイナーとして働いていた。一方のVerbalは東京に戻って、ミュージシャンとしてのキャリアをスタートさせたの。私が、ニューヨークに移り住むことを考えていたある日、Verbalから東京に来てくれないかってお願いされたのよ。それで私は東京に引っ越したの。」13年前のことだ。


「ラッパーのVerbalにとって、大きなチェーンやヘビーなゴールドアクセサリーを身につけるのはごく自然なことだった。だから私たちはまず、彼のアクセサリーを自分たちで作り始めたの。そのころ東京に来ていた人たち、例えばKanye WestやPharrell Williams、そしてAmigoたちなんかは、 Verbalに会ってはそのアクセサリーを褒めていたわ。当時、特に人気だったのはゴールドで作った大きなペンダントに、100カラットのダイヤを2つあしらったアイテム 。博物館で飾られても良いような代物だったと思う。Verbalはそれがお気に入りでよく身につけていたわ。」そう言ったYoonは、続けて意外なことを教えてくれた。「変な話、私は女の子だけど全然派手なアクセサリーに興味がないの。ダイアモンドを身に付けるのも好きじゃない。もっとシンプルなアイテムに惹かれるわ。」
確かに、彼女のスタイルを一目見てみれば、それが嘘ではないことがわかる。 Célineのフォックスファーコートにジーンズ、そしてVetementsのシューズというコーディネートながら、彼女が身につけているジュエリーはシルバーに統一されてシンプルで、ギラギラとしたものは何ひとつない。実際に会ってみた彼女は、インスタグラムに登場する彼女とは全く別物のように見える。なんと言ってもインスタグラム上の彼女は、アンディ・ウォーホルもびっくりのポップなオーラをまとっているのだから。
「大きなダイアモンドペンダントで成功を収めてから、方向性ははっきりしたわ。私たちは、ビジネスをプロフェッショナルなものにしたかった」とYoonは言う。それは2008年ぐらいのことだった。需要が増すにつれ、それまでランダムに作っていたアイテムは、やがてれっきとしたコレクションとなった。そして今では、YoonとVerbalにとってこのブランドは非常に大きな存在である。だからこそ、これほどまでに情熱を傾け、労力を費やしているのだ。
“Halbstarke”は、純銀を用いた初のコレクションであるばかりでなく、初めて アパレルラインと一揃えになったコレクションでもある。「あくまで自分たちのやり方で物事を進めるのが好きなんだと思う」とYoonは言う。「Ambushはそれ自体で、ひとつの世界観を持つブランドになってきたから、そのコレクションやストーリーを完成させるために、洋服も作ることを決めたの。」普通のブランドなら、その逆の道筋を通る。つまりアパレルブランドが、コレクションを補完するためにアクセサリーを作る。が、Ambushは、ジュエリーの背景を表現するために洋服を作るというわけだ。


スタイリッシュなだけでなく、優しく気前の良いYoonは、私たちが次に東京に訪れる時のためにお気に入りスポットベスト10を挙げてくれた。
1)名曲喫茶ライオン
渋谷区道玄坂2-19-13
名曲喫茶ライオンの第一のルールは、私語が禁止されているということ。1923年に道玄坂の中心に建てられて(赤線地区の中)、第二次世界大戦の東京空襲によって焼け堕ちてしまい、50年代に再建されたらしいわ。一度お店に足を踏み入れたら、時間が逆戻りしたような錯覚を味わうことができる場所ね。座席はすべて、大きな木製のスピーカーに向けて一方向に並べられていて、スピーカーから流れてくるのはクラシック音楽のみ。とても穏やかな店内は、まるで教会のような空気が漂っているの。このカフェは騒がしい渋谷の中の解毒剤のような役目をしてくれる場所だと思うわ。
2)東京都現代美術館
江東区三好4—1—1
3)Bar Piano
抑制のきいた赤い照明の中に、シャンデリア、うず高く積まれたキッチュなアイテム、不揃いな絵画が所狭しと並べられていて、ラスベガスの古い売春宿を思い出したわ。店内は、オーナーの松村さん本人が、フリーマーケットで集めたものを使ってデコレーションしているの。Bar Piano から5分の場所に、松村さんが所有するクラブThe Trump Roomもあって、そこは日本の若者にとって新しいクラブシーンの発祥の地でもあるのよ。どちらも一晩のうちに訪れたい素晴らしい場所ね
4)ホテルパール
中目黒、東京
5)八月の鯨
渋谷区宇田川町28—13
トラディショナルな木製のバーカウンターが目を引くパブ。カクテルはすべて映画に関係していて、流れる音楽は映画のサウンドトラックというこだわりぶり。
6)中野ブロードウェイ
中野区中野5—52—15
この屋内のショッピングアーケードは、オタクたちがこぞって集う場所。数階あるフロアは、アニメやマンガのヒーロー、そしてレア物の古いおもちゃで埋め尽くされているわ。
7)JBS渋谷
渋谷区道玄坂1—17—10
1万1千枚以上のレコードが山積みになった、すごく小さなカフェ/バー。オーナーの小林さんの、ブルース、ゴスペル、R&B、ソウル、ヒップホップに対する知識には驚かされるわ。美味しいお酒を飲みながら、良い音楽を聴いて、のんびりしたい人にはうってつけの場所ね。
8)代官山蔦屋書店
渋谷区猿楽町17—5
もしも世界に完璧な本屋が存在するとしたら、それはここのことだと思うわ。
9)World Breakfast Allday
渋谷区神宮前3—1—23
ここは、月毎のテーマに沿って、いろいろな国の朝食メニューだけを提供するお店。世界中を旅することなく世界の朝ごはんを食べられるなんて、朝に訪れるには最高の場所ね。ちょっとばたばたしてる時や、単に時間に関係なく朝ごはんを食べたい時にもオススメの場所。
10)茶亭 羽當
渋谷区渋谷 1—15—19
私はコーヒーなしでは生きられないんだけど、このお店が出すコーヒーはこの界隈では一番ね。抽出に20分以上もかかるけど、絶対に待つ価値のある味だと思う。

- 文: Jina Khayyer
- 画像提供: Yoon / Ambush