大自然のABC:新鮮な空気とスマホの時間
地球上の素晴らしいモノが大集合
- 文: SSENSE エディトリアル チーム

今週は「壮大なるアウトドア」に注目し、私たちと「外」の世界の相互作用をテーマにしたストーリーを連載します
現代ほどに、自然の世界を体験し、自然に感謝する方法について再考しようという時代はない。というか、いまだかつてそんな時代はなかった。eスポーツやバーチャル リアリティーはもちろん、花冠やアヒル口、そしてスーパームーンをもたらした10年が幕を閉じようとする今、従来の「アウトドア」環境の探索方法が、これまでとは異なる新たな意味合いを持つようになってきている。今回、SSENSEエディトリアル チームが、バードウォッチングからハリー・スタイルズ(Harry Styles)のSuicokeまで、壮大なるアウトドアの世界をABCで紐解いていく。

Antarctica - 南極大陸
本気で人里を離れたいと思っているのならば、おすすめは南極大陸だ。南極点があり、約2000万匹のペンギンがおり、定住する人間はゼロ。鮮やかな色のウィンター ジャケット(通常もっとも好まれるのは赤色だ)、ひざ丈の防水ブーツ、慎重に選択したベースレイヤーとたくさんの温かいソックスを忘れずに持っていこう。
Birdwatching – バード ウォッチング
従来的な意味でのバード ウォッチングは、裕福な中年男性だけが楽しむもの、しかもユーティリティ ベストに双眼鏡、ティリーハットという辟易するような恰好で楽しむ趣味、という烙印を押されてしまったように思える。そんななか、ジェニー・オーデル(Jenny O’Dell)は、著書『How to do Nothing』のなかで、今この瞬間を生きるという自身の生き方を通じてこのイメージを覆す。より豊かで有意義な生活を送るために、周囲の自然環境に再び注意を払うことの重要性を唱え、その実践として、「バード ノーティシング」を活用しようというのだ。私たちのほとんどは、同じ都市空間に住むアメリカコガラ、ムクドリ、ハト、カラス、カモメといった鳥を、さして注意をひかないものとして見る傾向があり、まったく気づかないこともある。それが、再び鳥に注目し、気づき、認識することで、私たちと同じ状況を生きるものに対し、より深い理解とそれに続く共感を養えるのだ。かつては取るに足らないと思われていた、パタパタと風景の中に飛び去っていたものが、独自のリズムとつながりを持つ、非常に豊かな世界へと姿を変える。野外のリアリティーに対する認識も変わる。こうして、私たちの神経構造、社会化のパターン、周囲への適応方法に対しても疑問を抱けるようになる。受動的に観察したり聞いたりする代わりに、鳥のさえずりの複雑さに注目し、携帯に気を取られるのではなく、今この瞬間を生きることができるのだ。バード ウォッチング、あるいはバード ノーティシングは、私たちが自らの現実にどのように向かい合うかを完全に変える役割を果たすのである。
(The) Cactus Store - サボテン ショップ
2年前、エコーパークにある、多肉植物ならなんでも揃う大好きなお店、The Cactus Storeが、西海岸だけでなく東海岸にも店舗をオープンした。今では、ニューヨークとロサンゼルスの両方で、どこよりも見事に、ひとつひとつ厳選されたサボテンのコレクションが見つかる。店は、いかにもクラブ ハウスといった雰囲気だが心地よく、サボテンは個性豊かで、さまざまな背景を持ち、まるで奇妙な彫刻のようだ。イケアでとりあえずショッピングカートに放り込んでおくような、ただ可愛いだけのサボテンとは違う。
David Suzuki – デヴィッド・スズキ
環境活動家として知られるデヴィッド・スズキは、科学番組でホストを務めるカナダの学者でもある。ブリティッシュ コロンビア大学の遺伝学科で40年近く教鞭を執った。
Earthship Living - アースシップの暮らし
1970年代初め、アメリカの建築家マイケル・レイノルズ(Michael Reynolds)は、レンガの代わりに再利用されたビール缶など、リサイクル素材でできた家を初めて設計した。そして生涯にわたり、ソーラーパネル、地熱冷却、嫌気性消化に取り組む道を歩んだ。宝石を彷彿とさせるガラス瓶の壁や、冬でも緑溢れる部屋など、レイノルズの革新的な設計は、30年以上もの間、従来の住宅に替わるソリューションをアートへと変容させ続けている。アースシップのInstagramの公式アカウントのプロフィールには、「自給自足は真の自由」と書かれている。それ以上に、アースシップとは、何十年も続いてきた地球を破壊する生活水準を捨て、よりサステナブルなライフスタイルを追求しようという決意の表れだ。現在、電気やガスを使わない生活に対する憧れはピークに達している。薪の火で部屋を温めるような、Wi-Fiとは無関係の場所。今、私たちが過ごしたいのは、そういう場所なのだ。
Fungi – 菌類
酵母、カビ、キノコ。菌類は常に私たちの身近にある。私たちの体に、空気中に、私たちが触れる表面に、そして食べ物に存在する。多くの種類の菌類は顕微鏡でしか見えないほど小さく、良くも悪くも食べ物を発酵させる原因となる。体質レベルで菌類が役立つ無数の方法はこちらから。

Gone Camping – キャンプへ
ゾーイ・シュランガー(Zoe Schlanger)のエッセイには、キャンプをテーマにした大流行中のスニーカー、Patagoniaの教え、野心的なアウトドア志向、もちろん「ゴープコア」、Merrellのモック シューズ、フリースと白のハイキング ブーツの基本的な問題など、私たちが知っておくべきことがすべて書かれている。いくつか喫急の課題のなかで、特に人新世と美学について語ったこのエッセイは、単に必読なだけではなく、必ず読み返し、また繰り返し読むべき記事だ。
Horse Racing - 競馬
人間が生み出したこの古い競技は、荒野を駆けまわるよりパフォーマンス性が高いように思われるが、実際には、なおも母なる自然の土台、土砂に左右されるところが大きい。コースの土壌は、石灰石、砂、土の層が正確な比率で作られなれければならない。
Ienki Ienki
アウトドア ブランド人気の高まりは、実際にアウトドア志向になるという流行とリンクしているわけではなく、どちらかと言うと、その逆だ。これらのブランドが閉鎖的な都会人に提供しているのはノームコアの延長だ。つまり、徹底的に簡素であるという目に見える神秘性であり、流行など歯牙にも掛けない超然とした姿勢で、高潔ぶって純粋な実用性を選択することだ。要は、気にも留めていないと偽る傾向である。ところが、ウクライナのブランドlenki lenkiは、そんな落とし穴にはまらない。Ienki Ienkiは、防寒ファッションに対して、アバンギャルドなアプローチで臨み、高価な物は、少なくとも適度に非実用的であるべきだと信じているのだ。
Jellyfish - クラゲ
世界には、知られているだけでも2,000を超えるクラゲの種がある。「海のエイリアン」と呼ばれ、科学者たちは、まだ発見されていないクラゲが何百種類も何千種類もいると信じている。2020年春夏シーズンの「Eco-Sexual」コレクションで、Christopher Kaneは、さらに数十種類のクラゲの存在を教えてくれた。モデルたちは、ぐにゃぐにゃのゴム製のスニーカーを履き、触角を思わせるラッフル スリーブを着て、透明のバッグと色鮮やかなジェルで覆われたジュエリーを身に着けてランウェイに舞い降りた。心臓も脳も骨もないのに内部から光を発するクラゲの能力には匹敵しないかもしれないが、服を少しばかり明るくすることは常に可能だ。
Kiko Kostadinov
自身の名を冠したブランドでは、AsicsやCamperのような機能性を重視したブランドとコラボレーションを行い、同時に、防水ラバーのアウターウェアで知られる英国の老舗ブランドMackintoshでもクリエイティブ ディレクターを務めるキコ・コスタディノフ(Kiko Kostadinov)は、アウトドア アドベンチャーのためのファッションに関する知識が豊富だ。デザイナーのインタビュー全文はこちらから。
Lava - 溶岩
溶けるとネオン カラーのオレンジになり、冷却すると華麗なメタリック カラーになる。ラバライトや Fenty Beautyの Body Lavaルミナイザーのように、雄大な自然の驚異が商業的成功に拍車をかけたことには何の驚きもない。

Moncler
1952年に創業したMonclerはイタリアの老舗ブランドであり、今日にいたるまで高級アウターウェアの巨星の地位を欲しいままにしている。長年、アスペンやアルプスを頻繁に訪れる雪山好きたちの定番だったが、2015年にドレイク(Drake)が、大量のミームを生み出したミュージックビデオ「Hotline Bling」内で、赤いMoncler のパーカーを着用したことで、新世代の若者の間で人気が急上昇した。そして2019年、ブランドはGeniusの見事なコラボレーションにより再び息を吹き返した。リチャード・クイン(Richard Quinn)からシモーネ・ロシャ(Simone Rocha)、クレイグ・グリーン(Craig Green)まで、あらゆるデザイナーがMonclerに独自の持ち味を加えている。
Nirmal Purja - ニルマル・プルジャ
インフルエンサーと言うとFilaのDisruptor、Facetune、そしてフィラーなどが思い浮かぶかもしれない。だが2019年は、世界記録を達成したネパールの登山家ニルマル・プルジャ(Nirmal Purja)をはじめ、あらゆるタイプのインフルエンサーがいた。下着のモデルで元軍人ならではの鍛え上げられた腹筋を持ち、1年以内に世界最高峰の山14座に登るなど、彼のおかげで、エクストリーム アウトドアはかなり魅力的に見えるようになった。
Overlanding – オーバーランディング
オーバーランディングとは、できればToyotaなどのトラックを、移動式の家に変えて旅にでることだ。かつては超お金持ちのハイテク オタクで探検家という人のための、究極にニッチなトレンドだったが、今では一巡してアウトドアの初心者たちの間で、屋外に出るための意欲的な手段となっている。Instagramでは、2500ドルのルーフテントを付けて完璧に修復したランドクルーザーや、Snow Peak の日本のアルミ製キャンプ用品のカタログに載っているありとあらゆるもので埋め尽くした車内の写真が急増している。目の肥えたファッション ファン向けのワゴン車生活を想像してほしい。オーバーランディングを実際に始めるには高い壁が立ちはだかるが、それでも多忙な生活から逃れることに必死な世代の間では、インスタで気晴らしができるファンタジーとして広まり続けるだろう。
Pacific Northwest – パシフィック ノースウエスト
パシフィック ノースウエスト (太平洋岸北西部) は、東はロッキー山脈、西は太平洋に面した米国北部とカナダ南部の地域を指す。その地下にある沈み込み帯の名前から、カスカディアとも呼ばれていて、やがてこの沈み込み帯がずれ動くことで、地元の人々が「ザ ビッグ ワン」と呼ぶ巨大地震を引き起こすと予想されている。
Quartz – クオーツ
クオーツに関してよく言われるのは、すべてのクリスタルの中で最も癒しの力があり、心が発散する負のエネルギーを抑止する力があるということだ。その点、自然と彫刻芸術にインスパイアされた、ドイツのジュエリー デザイナー、アン・マンズ(Anne Manns)によるクオーツをあしらったジュエリーなら一石二鳥だ。耳のためのアートひとつで、ポジティブな雰囲気を作り出し、おまけに装飾にもなってくれる。
Rainforest - 雨林
雨林を特徴づける指標となるのは年間降雨量だ。雨林ではたくさんの雨が降る。熱帯雨林は大量の自然薬品が発見されていることから「世界最大の薬局」と呼ばれ、カナダ北西部の一部の北方寒帯雨林は、大気の質が地球上でもっとも綺麗な場所のひとつである。熱帯雨林は、累積的に見て、地球全体の酸素循環の28%を担っている。皆伐は森林の寿命の観点から持続不可能だが、近ごろの森林火災の急増は、この計り知れない天然資源をもっと短期間で破壊してしまう脅威となっている。

Salomon、Stutterheim、Suicoke、Stone Island
ファッションが大好きなハリー・スタイルズは、先月『サタデー・ナイト・ライブ』に司会で出演したとき、(他のスタイルのチョイスも完璧だったが、) Suicokeのmotoサンダルを履いていた。このサンダルは、世も末なこの時代のパフォーマンス ギアとして、夏の間確かに流行っていたが、秋の終わりに、こうしてスタイルズが支持したことで、心地よく、カラフルで、整形外科風エレガンスを体現する東京発のフットウェア ブランドの天下が継続することが確定した。だが、それで終わりではない。ファッションには、トレイルラン用ではなく、都市生活のために、パフォーマンス ギアを選んできた長い歴史がある。例えば、Salomon。流行がオフィスの定番に姿を変えた、とりわけ愛用者の多いアウトドア シューズだ。Stone Islandの方位磁石のロゴはどうだろう? ソーホー地区を探検する観光客の多くが身につけている。最後にStutterheim。これは都会で土砂降りにあったときに着るためのレインコートであり、タクシーに飛び乗るのに最適な作りになっている。
Termites – シロアリ
地球上で最も成功を収めた昆虫のグループの中でも、シロアリは南極大陸を除くほぼすべての大陸の植民地化を成し遂げた。デトリタス食生のシロアリは腐敗する植物とセルロースを餌とし、人間が作った構造物を食べるという嫌な性質がある。シロアリの種の中には、雌だけで無性生殖するものもある。シロアリの女王は、昆虫の中で最も寿命が長く、50年も生きる。
Undercover Puffers – Undercoverのパファー
『2001年宇宙の旅』からカルト的人気を誇る70年代の古典『時計じかけのオレンジ』まで、高橋盾が私たちのお気に入りの映画を取り入れたジャケットをデザインしてくれたおかげで、長い冬の退屈も瞬く間に紛れるというものだ。
(The) Very Warm
思いやりの心を持つ、アウターウェアの新進ブランドThe Very Warmが目指すのは、すべてのパファーとパーカーで温かい抱擁のような感覚を提供することだ。このニューヨーク発のブランドは、スタイルに妥協することなく厳しい自然と闘うことに長けており、これをニュートラルでありながら個性的な、人気のオールシーズン向けジャケットにまとめあげた。しかも、どれも手頃な価格だ。肌と肌が触れ合うことが少ない寒い季節には、次善策としてThe Very Warmに身を包むのが良いだろう。
(Carhartt) WIP
汚れているとより一層良く見えるギアを探しているのなら、間違いなく、Carharttがそのブランドだ。この品質と価格の比に勝るものはない。活動的で、外で働くことが中心の人にとって長年の定番であるこの服は、職業に関係なく、仕事の場でも生活の場でも着られるように作られている。もう少しオーダーメイド感を追求したいのならば、よりファッションにフォーカスした姉妹ブランドWIPもある。
Xeriscaping - ゼリスケープ
世界がよく知るように、ミレニアル世代は観葉植物が大好きだ。それならば、愛情のこもった、手入れが簡単な多肉植物で、家全体をひとつの巨大なテラリウムに変えてみてはどうだろうか。退屈な芝生の代わりに、石、腐葉土、サボテン、ラベンダーなどからなる景観を作ることで、毎日約450リットルの水を節約できる。さあ、庭の土を掘り起こそう!
Yellow – 黄色
最初に発明された漁師のコートはキャンバス地でできており、亜麻仁油を使用して防水加工を施していたため、時間が経つと布が黄変した。それから化学者チャールズ・マッキントッシュ(Charles Macintosh)によって加硫ゴム技術が登場し、油まみれのコートはファッション界から姿を消した。しかし、黄色は海の上でもよく見えるという理由でそのまま残り、現代でもグレタ・トゥーンベリ(Greta Thurnberg)をはじめ、風雨に勇敢に立ち向かう人たちが着用している。では、黄色は人間の介入によって生まれた副産物でしかないかというと、そうでもない。キイロアメリカムシクイ、アルビノパイソン、そして最近有名になったピカチュウにそっくりのポッサムなど、黄色は動物の世界にも幅広く見られるのだ。
Zip Lining – ジップライン
ジップラインと聞くと、夏休み中に死の境界に軽く触れようとする大学生を思い浮かべるかもしれないが、意外にも、その発祥は近代以前に遡る。レクリエーション活動として最初に記録されたジップラインの使用は1700年代で、初期の登山家たちのチロル横断から生まれた起業家精神あふれるアイデアだったようだ。
- 文: SSENSE エディトリアル チーム
- Date: December 9, 2019