Eckhaus Lattaの原動力は
「友達になりたい」衝動

ブランドのミューズであるマイケル・ベイリー・ゲイツが、
マイク・エコーズとゾーイ・ラッタの仲間をカメラに収める

  • インタビュー: Thom Bettridge
  • 写真: Michael Bailey

ニューヨークとロサンゼルスを拠点にマイク・エコーズ(Mike Eckhaus)とゾーイ・ラッタ(Zoe Latta)がブランドを始動して以来、「ダウンタウン」美学とそれに伴う政治的価値観の救世主が到来したと、スタイル マガジンは大いに歓迎している。確かに、その表現の多くは真実だ。Eckhaus Lattaは、今やお馴染みとなった「素人モデル」をランウェイに起用した草分けである。これまでのコレクションは、ほとんどがユニセックスであり、ジェンダーの流動性を支援する。ブランドのビデオやビジュアルは、大学卒業後、永久にフリーランス状態のプロレタリアートを描く。それは、右翼政治の世界的な台頭によって、以前にも増して不安定な労働者階級である。だが、たとえそうであるにせよ、ありきたりな理屈っぽい批評を基にした見出しでEckhaus Latteを語るのは、見当違いのように思われる。ふたりに直接会って話してみると、もっと直感的かつ私的な好みから服作りにアプローチしている。その一例として、身体の「性的な魅力」やネットワーク上のイメージを売りにするファッション業界で、エコーズとラッタは何よりも「友達になりたい」衝動に動かされるようだ。その結果、人間らしく曖昧な魅力ある雰囲気の中で、服が作られ、発表される。

Eckhaus Lattaのミューズであるマイケル・ベイリー・ゲイツ(Michael Bailey Gates)が、彼自身、そしてEckhaus Lattaを囲むニューヨークとロサンゼルスの人々を写真に収めた。

トム・ベットリッジ(Thom Bettridge)

Zoe Latta (ゾーイ・ラッタ: ZL)、Mike Eckhaus (マイク・エコーズ: ME)

トム・ベットリッジ:いつも私があなたたちの作品に魅力を感じるのは、友達を登場させる手法です。友達をランウェイ ショーのモデルに起用したり、自分の映画に出演させたり。あれは、たいていの場合、外の世界に向けてあなたたちを表現する方法の一環なのでしょうか? それとも、制作過程で自然に生まれた要素ですか?

ゾーイ・ラッタ:その両方よ。最初は、いつも必要に迫られてそうなった。Eckhaus Lattaの服を着てみて欲しいと思った人に、着てもらったわ。みんな親しい友達か、パーティーで会って意気投合した人たち。

マイク・エコーズ:物事が一周回って元に戻った感じだな。確かに、多くは必要性から生まれるし、最近はレイチェル・チャンドラー(Rachel Chandler)やモデル事務所のミッドランド エイジェンシーの記事が高級雑誌に載るようになった。そういう記事にEckhaus Lattaのことも書いてある。レイチェルとは去年から仕事をするようになったんだ。友達や、僕たちが知ってるかも知れない人や、知り合いを起用する手法が今ではさほど珍しくなくなってきてるんだ。そういうのを目の当たりにするのは、面白いよ。

僕たちの仲間では、ひとりの男とひとりの女という核家族の考え方を、必ずしも好きじゃない人が多い

一緒に仕事をする人というのは、どんなところに引き付けられるんですか? 単なる直感ですか? そして、あなたにインスピレーションを与える人が、必ずしもあなたの服を買える人ではないことに、葛藤はありますか?

ZL:完全に直感よ。たまに、私たちのひとりだけが直感を感じて、もうひとりは感じないこともあるわ。「え、本当に?」って感じ。でも、直感が間違ってることはないわね。最近撮影したビデオに出てるアレクサ・カロリンスキ(Alexa Karolinski)は、私がファーマーズ マーケットで見つけたの。素晴らしい人よ。直感的に、彼女とコラボレーションしたいと感じたわ。40代で、オペラ歌手なの。私たちがずっと考えてるのは、本質的に、私たちの服が着る人を定義するんじゃなくて、自分を表現するために私たちの服を買って欲しい、ってこと。そのシナリオから、誰も除外する気はないわ。すべての条件を一人で完璧に満たす人はいないし、そういう考え方が私たちのブランドの価値だもの。

ME:いつもすごく自然なんだ。実生活で実際に人と出会って、友情や絆が生まれる。Eckhaus Lattaのビジュアルに出た人たち全員が親友ってわけじゃなくて、僕たちの世界で興味深いことをやっている人の知り合いや友達も多いよ。人を引きつける魅力のある人たちばっかり。

それが独自の効果を生んでいると思います。今は、セクシュアリティや、セックス アピールを強調するファッションがとても多いですからね。あなたたちのキャスティングは、セクシーかどうかより、「友達になりたい衝動」で動いているように思います。

ME:「友達になりたい衝動」というのは、すごく上手い言い方だね。いろんなことは、そういうふうに生まれると思うよ。率直に、友達になりたい気持ちに正直に、そこから物事がどう発展していくか、見守るんだ。

ZL:私たちのキャスティングに来てくれるプロのモデルとも、そういうことは起こるのよ。この前のシーズンだけど、パペットを持った女の子がやって来たわ。「モデル事務所のFordから来ました」って言うんだけど、彼女は人形師でもあったの。それで、人形の話が始まってね。もちろん、ショーに出てもらった。すごく面白い人。そういうのって、絶対に、波長というか、「友達になりたい衝動」よ。

それは、人を表現する上で、セックスに結び付いた考え方より、もっと深みのある要素を生み出すと思いますか?

ME:僕たちは今までに色々なプロジェクトをやってきたけど、それに参加した色々な人たちのエネルギーもある。ある種の人たちのエネルギーには、憧れという感覚があるんだ。僕たちがブランドを始めた当初、僕は6人以上といっしょに倉庫に住んでた。20代始めで、ナイーブだったし、コミュニティに対してもオープンだったしね。Eckhaus Lattaは、そういうコミュニティの要素を持ち続けるのが上手なんだ。何年も一緒に仕事をしてきた人たちを見て、僕たちみんなのキャリアが育って、お互いに影響を与えてきたのが分かるのはすごく面白いよ。Eckhaus Lattaの焦点はファッション周辺だし、ファッション界と重なってる部分もすごく多い。それはそれで本当に素晴らしいことさ。だけど同時に、アートでも音楽でもデザインでも、とにかく刺激的なことをやっている友達がいる、同じような道を辿ってる人たちと出会える、それも最高の気分だよ。

ジェンダーで遊べる自由を考える

あなたのキャスティングについては、これまで多くのことが語られてきました。外部からは、コンセプチュアルなやり方だと判断されることも、少なくありません。でも、あなたたちと話してみて、あなたたちが関係する人たちとは、とても直感的な原動力が働いているように感じます。仕事の中で、他の点でも同じですか? 例えば、ユニセックスの服に力を入れていますが、あれは、ジェンダー別にデザインしなくてすむという、現実的な必要性から生まれたのですか?

ZL:いえ違うの。始めはそれほどジェンダーのことは考えてなかった。マイクと私が友達になったのは、リサイクル ショップでの買い物が縁なの。たぶん、マイクが持ってたのは女性用の服が多かったし、私は男性用の服が多かった。でも、ファッション界の専門的なこととかファッション ショーでは、フィットが大きな問題だから、私たちもジェンダーの問題にぶつかるようになってきたわ。だけど、そうじゃなくても、メンズ用のお店とウィメンズ用のお店を持ったり、別々のコレクションを発表することは絶対なかったと思うわ。

ME:まだ変動的だよ。結局は、大部分はスタイリングの問題だと思う。僕たちは素晴らしい仲間をキャスティングしたり、いっしょに仕事をするけど、女性用の服が入るほど、それもすごく似合うほど、ほんとに細身の男性がたくさんいるんだ。そういう身体が存在するんだから、それにみあう自由があるのはいいことだよ。必ずしも男性を女性のイメージに仕立てようとすることじゃない。たまに、ジェンダーが流動的な人やトランスジェンダーの人が来ると、その人のジェンダーや自己表現の方法に合わせて服を選ぶんだ。そうやって、ありのままを受け入れて肯定することに参加できるのは、素晴らしいことだよ。男性はこうあるべきとか、女性はこうあるべきとか、そういうものはないんだ。僕たちは、そんなことに興味はない。興味があるのは、ジェンダーで遊べる自由を考えることだ。

男らしいとか女らしいとか...。そういうことを、確固たるアイデンティティと捉えるのではなく、反対に、仮面だと考えるほうが楽しいですよね。

ME:それに、僕たちの仲間では、ひとりの男とひとりの女という核家族の考え方を、必ずしも好きじゃない人が多いしね。服を通して自分のジェンダーを表現できる自由は大いにあるし、その方が僕たちに訴える。

あなたたちの仕立ては、曖昧さで遊ぶことが多いですね。「これはセーター? カフタン? それとも両方?」って疑問に思うことがあります。

ZL:マイクと私は、ものを買う立場に立った場合、理解できないものへ真っ先に向かう人間なの。奇妙なパズルみたいなもの。でも、結局のところ、曖昧なものを作ると、仕事でも何でも、未完成の印象を与える場合もあるわ。だけど、ジェンダーであろうとサイズであろうと、その曖昧さや分類が、今も私たちのブランドのアイデンティティの一部だと思うの。

複雑過ぎて、商業的には再現できないようなアイテムはありますか? 生産に関しては、そういうことも検討しますか?

ZL:いいえ。大切だと思ったら、作れる方法を見つけるわ。 私たちの服に現在の値段がついてる大きな理由は、製造する方法や製造してくれる人たちのことをすごく考慮するから。だから、ひとつのアイテムを15着しか作らなかったりする。そういう場合には、サンプル並みのコストになるわ。全部、アメリカ製。製造業者や自分たちのチームと、毎日、コミュニケーションをとってるわ。

この前のシーズン、パペットを持った女の子がやって来た。モデル事務所から来たんだけど、人形師でもあったの  

あなたたちがお互いに「友達になりたい衝動」を感じた、最初の出会いについて聞きかせてください。どうやって知り合ったんですか? なぜ、いっしょに仕事をしようと思ったんですか?

ZL:最初は、お互いに嫌いだったの。その後も、こんな人には会ったことないわ。とんでもない変わり者だったのよ。そういう私も変わり者だったから、大学時代、一緒にいるとキャンパスの見世物みたいだった。でも、ちゃんと話をしたのは3年生だったかな。どちらもファッション専攻じゃなかったけど、自分たちなりにファッションが大好きだったから、会話とも言えないような会話を始めたの。私たちが気楽な友達だったことなんて、一度もなかったわ。

何の勉強をしてたんですか?

ME:僕は彫刻、ゾーイはテキスタイル。

まだ在学中に、いっしょにブランドをやろうと決めたんですか?

ZL:そうじゃないの。ふたりとも卒業後にニューヨークへ移って、デザインの仕事をしたわ。そういう仕事で協力することもあった。その後、誰かのために働くことにあんまり満足できなくなって、自分たちで小さなスタジオを作ったの。ブランドを始めるなんて、話にも出なかった。ところが、南フランスでコンペがあって、ひとつのスタイルを作って、それに写真か説明をつけなきゃいけなかったの。それから、それ以外に8点のスタイル画。締め切りが感謝祭の後の月曜日で、その年は感謝祭どころじゃなかったわ。週末ずっと、寝ないで取りかかってたもの。最後にようやく病的なコレクションを完成して、送って、その後よ。「デザインしたんだから、作ってみてもいいんじゃない?」ってことになってね。

ME:それで、「もう1回やった方がいいよ」って思って、もう1回やってみたんだ。

ZL:最初の作品は手元に戻って来なかったわ。私たちがデザインした、最初のコレクション。フランスのどこかのガレージの中にあるはずよ。

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