シティ ガール
デザイナーのサラ・シュタウディンガーが、トランプ後のロサンゼルスにおけるマイクロ ルネッサンスとeコマースの現状を語る
- インタビュー: Zoma Crum-Tesfa
- 写真: Sarah Staudinger

次第にファッションの中心地へと変身しつつある西海岸、そしてロサンゼルスに鳴り響く反トランプ抗議について言及しながら、デザイナーのサラ・シュタウディンガー(Sarah Staudinger)は「ロサンゼルスに住むにはいい時期だと思う」と言う。 彼女はあらゆる面で流れを先取りする。西海岸と東海岸の間を2度も引っ越した。ファッション テクノロジーのプラットフォーム作りからスタートした職歴は、Reformationでのデザイン、さらには自身のブランドStaudの立ち上げへと展開した。シュタウディンによれば、「簡単な方向転換だったわ。すでにそこにあったから。私たちはメガ ブランドの時代に生きてる。でも、私にとっては、顧客の声に耳を傾けながら、その時々に自分の頭の中にあるものを発表するほうが、もっと本物だという気がしたの」。SSENSEのために制作したセルフィー ストーリーではSaint Laurent、Courreges、Lemaireに身を包み、テクノロジー後、ドナルド・トランプ後、西海岸認知後の時代における世界やファッションの現状について、ゾーマ・クルム–テスファ(Zoma Crum-Tesfa)とビデオ会議した。



ゾーマ・クルム–テスファ(Zoma Crum-Tesfa)
サラ・シュタウディンガー(Sarah Staudinger)
ゾーマ・クルム–テスファ:あなたがニューヨークにいるなんて、ちっとも知りませんでした! そこで何をしてるんですか?
サラ・シュタウディンガー:そうでしょ? リゾート コレクションのためにちょっとやることがあるし、4月に立ち上げるコラボレーションもあるから。実を言うと、今日はちょっと疲れてるの。こうやってニューヨークにいて、自分の家にいるときの毎日のサイクルと違うと、ちょっと調子が狂うわ。どこかでひと汗流したほうがいいみたい。
ニューヨークに韓国スパはないのかしら? 私はいいスパに巡り合ったことがないけど、耳にしたことはあります。
イーストビレッジに「ハイヤー ドーズ」っていう所があるわ。聞いたことある? コリアンじゃないけど、たぶんそこに行くと思う。そう言えば、昨日、雑誌の撮影があったの。選挙に関してだったんだけど…。
それはそれは! 例の選挙ね。かなり…狂ってますね。
完全に狂ってるわ。正気じゃないわ、本当に。
ニューヨークの雰囲気はどうですか?
クレイジーよ。街ですれ違う人はみんな、選挙のことを話してるわ。そして、ものすごく沢山の人が完璧に落胆してる。でも、今の時点では、抗議行動とか暴動とか、ロサンゼルスの方がはるかに強烈に反応してるみたい。とにかく驚きだわ! 私は今でも、何か上の力が動いたって思ってるの。単にアメリカの選挙だって考えたいけど。実際、アメリカ人がこんなに閉鎖的になれるって考えるほうが、はるかに悲しいわ。
みんな、そう言ってますね。アメリカ人があんなに邪悪な存在に投票して支持するなんて、とても納得できません。だから、私も、何らかの力がこういう結果になるように企てたんだと想像してます。でも、スノーデンのような人が登場した後では、絶対そういう共謀が可能だと思えます。
うん、水面下で何かがあった可能性は確実にあると思うわ。CBSの「60ミニッツ」のインタビューは見た?
私は、まだニュースをシャットダウンしてるんです。待って、それはヒラリーのインタビューですか?
いいえ、トランプのインタビュー。でも正直に言って、あのインタビューは見ない方がいいかも(笑)。だって、トランプをもっともっと嫌いになるだけだもの。先ず最初に、トランプは英語を話さない。何をするつもりかっていう質問に、「勝つんだ。ずっと勝ち続けるんだ」。聞いてる方は「何それ? まるで答になってないじゃない? 」って感じよ。
それだから、私は彼の名前を声に出すのも、目にするのも嫌なんです。彼の名前を出す時はいつでも、オレンジ色の赤ちゃんの絵文字を使ってます。
どちらにせよ、そういう現実なんだから、お互いに助け合うことが必要な時だと思うわ。
それにしても、最近のロサンゼルスからのニュースはエキサイティングですね。あなたや私が育った時代よりも、ずっとダミナミックな街に思えます。
そうでしょ? ロサンゼルスは、はっきり、変わりつつあるわ。前はロサンゼルス出身って言うと、みんながあの街の悪口を言ってきたわ。それに、ロサンゼルスの人間は教養がないとか。
まさにそうでしたね!
あの街では、今、マイクロなルネッサンスが起きてるの。それって、すごく当然のことなのよ。ロサンゼルスはずっと白いキャンバスだったわ。誰もが仕事や生活を始めたり、クリエイティブに暮らせる場所だった。まだ発掘されていない素晴らしい人たちがたくさんいるの。評価されないで埋もれたままの人たち。もちろん今でもトップはニューヨークよ。でも、どうかしら、みんなの話を聞いてると、ニューヨークにあまり元気がないのは確かね。

お互いに助け合うことが必要な時だと思う
西海岸に引っ越すというトレンドを、あなたはいち早く実行しましたね。
私にとって、ロサンゼルスはいつもすごく刺激的だったわ。気候も、実験やコラボレーションに積極的な姿勢も。でも、それだけじゃなくて、ニューヨークで起こっていたことと自分を切り離すことが大切だったの。ロサンゼルスでは自分を守る傘を作ることがもっと簡単だから。それに、何か新しいことに挑戦するときは、そういう要素が絶対必要だし。
早過ぎるんじゃないか、という危惧はありましたか? ロサンゼルスがファッションの中心地になるまでの間に、たくさんのフライングがありました。
全然。当時のロサンゼルスには、クールなブランドはあまりなかったから。でも、少しはあったのよ。私はそのひとつになりたかった。今は、完全に状況が変わってるわ。私のスタジオの目の前に、Hauser & Wirthなんていう信じられないほどの大御所のギャラリーがオープンしたのよ。信じられない!
あなたのショールームは、ロサンゼルスのアート地区にありますね
そう。ファースト ストリートとサンタフェ アベニュー。
ベニスにショールームをオープンしようと思わなかったんですか?
いやだ、ちょうどベニスから引っ越したばかりなのよ。ハリウッド デルに引っ越したところ。全然雰囲気が違うの。ベニスの借家はアボット キニー大通からちょっと入った平屋のちっぽけな家だったけど、今の倍の家賃を払ってのよ。ニューヨークでは歩くことが多ったから、その感覚が懐かしくなるかと思ったけど、ここ3年の間にベニスで起こったことを考えるとね。まるでRag and Boneみたいに、とても企業っぽくなってしまったわ。魅力がなくなってしまった。バーのRooster Fishも、もうないのよ。
ウソ!
本当。あれが最後の一撃だったわ。
ロサンゼルス発のブランドは、レトロ色が強いと私は思うのですが。
美的な観点からすると、本質的にもっとレトロだと思うわ。驚くような要素もあるのよ。ジャンプスーツとか。ジャンプスーツってすごくレトロだし、今、私は夢中。
ははは。なぜですか?
四六時中着ていられるジャンプスーツがあるって、すごく大きな意味があるわ! 上から下までカバーして、色んな実験ができる。アクセサリーとか、アウターとか、バッグとか、クルマとか。ロサンゼルスなら、ジャンプスーツでどんな姿にも変身できるのよ。


柔軟であり続けることは美しい
Staudがスタートした時の話を聞かせてください。
デザインに対する私の興味は、いつも試験的だったの。この業界に入りたいと思っていたけど、学校を卒業した頃は、雑誌やブランドがどんどん店仕舞いしてた時期だった。本当に何もかも。一方で、メディアやテクノロジーにもとても興味があって、市場のギャップに気付いたの。2000年代の前半は、eコマースやファースト ファッションのブランドがインターネットを牛耳っていた。変なショッピング サイトが大量にあったわ。あえて名前は言わないけど、本当に出鱈目だったのよ! テクノロジーとeコマースを名乗るものの間に、かなりの混乱があった。「いったいファッションはどこにあるの?」って感じ。消費者に直接販売しながらだって本物のファッションブランドにもなることもできるし、実験することもできるのよ。なのに、自分で選ぶって考えや、人とは違うことをするって考えが、完全に失われてしまっていたわ。
すると、あなた自身がテクノロジーとファッションの結び付きに今も惹かれるのは、矛盾しているように思えますが、違いますか?
全然! その結び付きにとっても意味があるのよ。例えば、ニューヨークのような街にいて、わざわざショッピングのために外出したくないとき、オンラインで女性がもっと選択肢を持つことが重要なことなの。それにファッション業界にはイノベーションが必要だったわ。ファッションは、予測に基づいた、時代遅れの、ムダの多い生産モデルだった。ファッションの魅力を高めるためには、もっと参入を促して、ニッチな要素を回復する必要があった。で、今、私たちがいる状況を見てよ。SSENSEも含めて、素晴らしい例がいっぱいあるわ。業界全体にとても多様な風が吹き込んでる。ソーシャル メディアのテクノロジーがなかったら、私の会社は成功できなかったわ。
どうしてですか?
ファッション業界のカレンダーは時代遅れなの。私は卸し売りの希望を受けるんだけど、本当に残念だわ。だって、卸し売りのカレンダー通りにデザインしないから、対応できないの。一方で、去年の冬はなかなか寒くならなかったから、服は全部、値引きしなきゃいけなかった。大量の服が廃棄されたのよ。そんなに大量に関することをサイコロを振って決めるなんて、時代遅れだと思うわ。

Staudの初期には、カスタマイズできるという特色を打ち出していましたね。
完璧な世界だったら、ずっと飽きのこない服がきちんと宅配されて、それがピッタリ体に合うはずでしょ? だから、Staudはそれを全部やるべきだ、って私は意気込んでたの。でも立ち上げてすぐに、私たちの顧客はカスタマイズに興味がないってことがはっきりしたの(笑)。
失敗だったと思いますか?
いいえ。私はそういうふうに物事を考えないわ。私が考えていた方程式からある要素が消去された、でも、今でもまだ全体の一部、って言えばいいかな。分かる? 今は長く愛されるものを作ることに興味が移ってるわ。
柔軟性と生産力は、あなたから切り離せないようですね。
柔軟であり続けることは美しいわ。自分の顧客に対応できるということ。そして、私の多動性障害的なアプローチは顧客と共鳴していると思う。良きにつけ悪しきにつけ、これが私の考え方なの。先ずは小さく始めて、自分を売り込んで、ひとつひとつやっていくべきだって、みんなが言ったわ。でも、私の場合、そうはならなかったの。大きくいくか、やめてしまうか。いつもそういう感じ。
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